迷宮に果てを求めて   作:ジャッキー007

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とりあえず、想像が膨らんだ部分まで



ヘスティア・ファミリア

青年…殤・富嶽(フガク)が女神ヘスティアと出会ってから、1週間が過ぎた。

 

フガクは、あの日以来ダンジョンに侵入しようとする事はなく、日雇いのバイトと旅の中で得た貯蓄を使って宿屋で過ごし、空いた時間は鍛錬に費やし、偶にヘスティアのバイト先であるジャガ丸くんの屋台を訪れる日々を送っている。

 

 

「でね、今日もベル君が…」

 

「あぁ…またその話か」

 

フガクは決まって屋台の客足が落ち着いた頃にヘスティアの元を訪れ、ヘスティアもその頃合いで休憩をとりつつ、フガクの話し相手になってくれている…と言っても、ここ最近は聞き役に徹することが殆どであるが。

 

ヘスティアの言うベル、とはフガクと別れた後で出会い…と言うより、見かけて後をつけ、勧誘の結果眷族となった少年である。

 

正直に言うと耳にタコができる程にベルという少年の話は聞いたが、初めての眷族が出来た嬉しさから笑顔を浮かべるヘスティアの姿を見て毒気を抜かれたフガクは、苦笑いを浮かべながら、ヘスティアの話に付き合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時が過ぎ、夜の帳が降りた頃。ヘスティアは友神の1人であるミアハと共に酒場で呑んでいた。

 

事の発端は、ベルのステイタスを更新していた頃まで遡る。

 

ベルにスキルが発現して以降、彼の成長スピードは異常とも言えた。

 

その最たる要因が自分ではない事に嫉妬し、更に街で出会った少女に自身が務める店での食事まで誘われたと言われればヘスティアの気分は下がりに下がって、こうしてミアハに愚痴に付き合って貰っているという状況。

 

 

こうして自分の話に付き合ってくれる友神を見た時、丁度ベルを勧誘したあの日に出会った、もう1人の人間を思い出した。

 

「そういえば…」

 

 

酩酊して若干呂律が回らない口で、ヘスティアは語り出した。

 

始めはベルの話かと思っていたミアハだったが、話の内容からして全く違う人間の事だと気づいたミアハは、ゆっくりと話すヘスティアの言葉に耳を傾ける。

 

 

「その子はさ…強くなりたいからダンジョンのあるオラリオに来たけど、冒険者やファミリアには興味がなくって…恩恵のシステムが嫌いみたいなんだ」

 

「彼の成長を見てみたい…でも、あの子が。殤君がダンジョンに挑む為にはファミリアに入って、恩恵を授からなきゃいけない…」

 

「殤君の願いの為には、信念を曲げさせなきゃいけないのかな…」

 

 

 

ヘスティアの話を聞き終え、ミアハは考える。

 

殤・フガクという人間の事を、ミアハは知らない…まだ、彼に出会った事がないのだから。

 

だが、ヘスティアがこうも気に入った様子を見せる事から少なくとも悪人でない事は確かだろう。

 

そんな青年のために、自分にできる事はないかと悩む友神を無碍にする事が出来るほど、ミアハという神は薄情では無かった。

 

 

「…ない事はない。が、その殤という子が今後、ダンジョンでより下へ向かうというのなら、この方法は勧められない。それでも良いか?」

 

そう切り出し、ミアハはある方法を語り出した。

 

其れは、今後を考えるとリスクしかない方法。

だが、殤・フガクが己の信念を曲げずにダンジョンに挑むためにはこれ以上の方法は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、美味い飯と酒にもありつけたし…後はゆっくり休むか」

 

時を同じくして、殤・フガクはオラリオの街中を歩いていた。

 

 

辺りを見回せば、明かりのついた酒場や飲食店から1日の健闘を労う冒険者達の声が聞こえてくる。

 

其れを背に悠々と宿屋へと足を運んでいたその時だった。

 

 

「っ!」

 

「っと…オイ!」

 

 

向かい側から1人の少年がすれ違いざまにぶつかる。

 

思わず蹈鞴を踏むが、少年はぶつかった事に謝りもせず、脇目も振らずに人混みの中へと消えていった。

 

「ちゃんと前を見やがれってんだ…ん?」

 

軽く舌打ちをしながら少年の後ろ姿を見送り、宿屋へ向かおうと足を進めようとしたフガクは、再び足を止めて少年の姿を思い出す。

 

 

(白い髪に…一瞬だけ見えたが、見間違いじゃなきゃ…赤い目)

 

その特徴から思い出すのは、ここ1週間で知り合った女神。

 

彼女が毎度会う度に話していた眷族の特徴と、先程ぶつかった少年は、あまりにも似通っていた。

 

「……」

 

改めて、少年が走り去った方向へと姿勢を向ける。

 

 

 

その先には、夜でもその存在を強く主張する塔…バベルが聳えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベル・クラネルは怒っていた。

 

街で出会った少女…シル・フローヴァに誘われ、彼女がウェイトレスとして働く店「豊穣の女主人」で食事をしていた時のことだった。

 

店にロキ・ファミリアの団体が訪れ、一目惚れした相手…アイズ・ヴァレンシュタインを見かけたまでは良かった。

 

 

 

だが、その中で、1人の狼人が5階層での事を語りだしたのだ。

 

酒の席という雰囲気もあってか、面白おかしく話すその話と、狼人の言った一言

 

『雑魚じゃ吊り合わねぇんだ。アイズ・ヴァレンシュタインにはなっ!』

 

 

その言葉が、深く胸に突き刺さった。

 

何もせず、何かを期待していた自分に憤りを感じた。

 

ただ、言われるしかなかった事が悔しかった。

 

憧れに辿り着きたい…その一心だけで、碌に装備もない着の身着のままで、気づけばダンジョンに潜っていた。

 

がむしゃらにモンスターと戦い、6階層へ降り、ウォーシャドウと激戦を繰り広げる。

 

 

 

 

この階層に来るまでに連戦を繰り広げていたベルの体力は、自身も知らないうちに限界を迎えようとしていた。

 

 

「しまっ…ぐッ!?」

 

攻撃をかわそうとしたものの、バランスを崩してしまい地面に倒れ込む。

 

其れを好機と感じたのか、一体のウォーシャドウがベルに近づき鋭い右腕を振り上げた。

 

 

 

動かそうにも、疲労とダメージの蓄積から思うように動かない身体にベルは歯噛みする。

 

(クソ…動け、動けっ!僕は、まだあの背中に近づけてすらいないのに!)

 

しかし、そんな心情を踏み躙るように、ウォーシャドウは腕を振り下ろした。

 

(神様…!)

 

思わず閉じた瞼の裏に浮かぶのは、家族になってくれた女神の笑顔。

 

彼女に何も返せず、憧れに辿り着けずに終わるのか…と、諦めかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…?」

 

しかし、いつまで経っても、ウォーシャドウの腕が自分を貫く衝撃が襲って来ない。その事に疑問を抱いたベルは、力無く瞼を開いた。

 

視界に映るのは、先程自分にトドメを刺そうとしたウォーシャドウの姿。

 

しかし、明らかに違う点があった。

ウォーシャドウの頭部から、あるはずのない刃が生えていた。

 

 

 

「間一髪、ってところか」

 

背後から刃で頭部を貫かれたウォーシャドウが灰になるなか、誰かの声が聞こえる。

 

視線を彷徨わせた先に居たのは、1人の青年。

 

 

極東の衣服を纏い、悠々と此方へ歩いてくる青年と自分達の距離は10M程度離れている。

 

(まさか、あの距離から剣を…投げた…?)

 

 

ベルの頭は、未だに現状を深く理解出来ていない。

 

しかし、そんなベルを他所に、仲間をやられたウォーシャドウ達は青年へ標的を変えて襲いかかった。

 

 

「っ、ダメだ…逃げて!」

 

自分を助けたばかりに、今度は青年が危険に晒される。

其れを許容できなかった。

 

 

「そいつは出来ない相談だな…俺は、借りを返すって約束したんでね!」

 

 

人の身体を貫く事など容易いであろうウォーシャドウの腕を紙一重にかわしながら、青年…殤・フガクはベルに言葉を返す。

 

フガクの動きに、ベルは大きく目を見開いた。

 

攻撃をギリギリまで引きつけ、危なげもなく避ける洞察力と度胸。

 

巧みな足捌きでウォーシャドウの背後に回り込むや、鋭く重い拳打を以て吹き飛ばす。

 

背後から襲い掛かられても、後ろにも目があると言わんばかりに、いつの間にか抜いていた鞘で攻撃を受け止め、胴体や頭部へ打撃を叩き込む。

 

どれもが、一朝一夕で身につくようなものでは無かった。

 

 

目まぐるしく攻防を繰り広げながらも、遂にベルの下へ歩み寄ったフガクは落ちていた剣を拾い上げ、水平に構える。

 

「悔しさをバネに立ち上がるのは結構。だがな…それで自分を待ってる奴を悲しませるんじゃあ、まだまだだな」

 

「先ずは何がなんでも生き残れ…じゃなきゃ、強くなることも叶わねぇぞ」

 

そう自分に語りかけた青年は、地面を陥没させる程の強い踏み込みでウォーシャドウに肉薄し、一太刀で切り伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、すみません…助けてくれただけじゃなくて、ホームまで送ってもらうなんて…」

 

「気にすんな、これもヘスティアに借りを返す為だからな」

 

 

夜が明け、日が昇り始めた頃。

 

ダンジョンに侵入したフガクは、助け出したベルを背負ってヘスティア・ファミリアのホームへと歩みを進めていた。

 

 

ベルの誘導に従って歩いて行くうち町から外れていき、たどり着いたのは古びた教会。

 

廃墟と言っても差し支えない見た目に驚くが、ヘスティアがバイトをする程なので零細はこんなものか、と納得していた時。

 

「ベル君!」

 

聞き覚えのある声に視線を動かすと、フガクに…と言うよりもベルに気づいたヘスティアが駆けてくる姿が見えた。

 

「よぅ、ちゃんと借りは返したぜ?」

 

「殤君…ありがとう。約束を守ってくれたんだね」

 

「象面に見つからねぇように入るのには苦労したがな」

 

 

自分の下へと駆け寄って来たヘスティアにベルを託し、踵を返したフガクはその場を後にしようとした。

 

 

「殤君…ボクのファミリアに入ってくれ」

 

「…そいつは、恩恵を嫌ってるのを解ってての事か?」

 

背後に居るヘスティアが掛けてきた言葉に、鋭い視線を向ける。

 

抜き身の刃を突きつけられたような錯覚を覚えながらも、ヘスティアは意を決して言葉を続ける。

 

 

 

「…ボクとしても、オススメ出来ない。けど、君が今のまま、ダンジョンに入れる方法が1つだけあるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…其れをすりゃ、俺は今のまま、正規の手順でダンジョンに潜れるんだな?」

 

 

ヘスティアの話を聞き終えたフガクは考える。

 

ダンジョンに潜れる条件は、ファミリアに入団し、神から恩恵を授かってギルドで冒険者登録すること。

 

この方法ならば全ての条件をクリア出来るが、どれだけ戦おうとステイタスが上がる事はない。

 

レベルはずっと1のまま、力の底上げの一切ない地力でモンスターに立ち向かわなければならない。

 

だが…それこそ、殤・フガクの望んだ状況に最も近い条件だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして、殤・フガクは晴れてヘスティア・ファミリアの一員となり、冒険者としての第一歩を踏み出した。




オリジナルキャラクター紹介
殤・フガク(富嶽)
cv.諏訪部順一
19歳
極東の衣服を纏い、簡素で装飾のない剣を使う。
幼い頃、夢に見た剣士達に憧れ鍛練を重ね、武者修行を行った結果、若くして卓越した剣の腕前を持つに至るが実は…
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