迷宮に果てを求めて   作:ジャッキー007

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また新規感染者数が急増して大変ですが、頑張っていきましょう


腕試し

時は、殤・フガクがヘスティア・ファミリアに入団するより前。

 

 

「ステイタスの封印?」

 

ヘスティアの告げた言葉をフガクは反復した。

 

 

ダンジョンでモンスターを倒すなどして、経験を積み重ねる事で冒険者のステイタスは上昇し、力はより強く、体はより頑強となる。

 

そして、神々から認められるほどの偉業を成し遂げることで冒険者はランクアップをし、器を昇華させていく。

 

 

 

 

 

 

しかし、ステイタスを封印すれば、これまでに得た能力やスキルの一切を失い、ただの人に成り下がる。

 

それは本来、重罰を犯した罪人に下される罰である事が多い。

 

 

「この方法なら、君はファミリアに名を連ね、ダンジョンに潜れる。但し…今後、ボクが封印を解かない限り、君はどれだけの偉業を重ねてもレベルは1のままだ」

 

「だが…其れをすりゃ、俺は今のまま、正規の手順でダンジョンに潜れるんだな?」

 

恩恵に頼らず、己の力で強くなる事を望むフガクにとって、ヘスティアから提案された内容はこれ以上ないものだ。

 

しかし、この方法にはステイタスの上昇がない事以外にも、デメリットが多く存在する。

 

どれだけダンジョンに潜ろうがステイタスの変動がない事や、レベルに見合わない実力はレベルの詐称を疑われるどころか、最低条件をクリアしようともダンジョンに潜る事を認められない可能性も出てくる。

 

 

故に、フガクがギルドへ冒険者として登録に行く際はヘスティアも同行する事が決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイナ・チュールはギルドに務める受付嬢である。

 

冒険者のアドバイザーとして相談に乗る事もあり、本人の真面目で面倒見の良い性格からもギルドの職員や他の冒険者からの信頼も篤い。

 

過去に起きた出来事から、自身が担当する冒険者達を死なせない事を信念とするエイナにとって、最近担当となった少年の主神が連れて来た青年の事を、許容する事など出来なかった。

 

 

 

 

「…たしかに、ギルドの定める条件をクリアしています。しかし…ステイタスの恩恵のない人をダンジョンに潜らせるなど、ギルドとして認める訳にはいきません」

 

ヘスティアから渡されたステイタスの写しを読み、更に話を聞き終えたエイナの声が応接室に響く。

 

 

殤・フガクという、新たにヘスティア・ファミリアに加わった青年を見た当初は、ベルに仲間が出来たと喜んだ。

 

しかし、内密に話がしたいとヘスティアに言われ、応接室に場所を移してから聞いた話は、自身の耳を疑うものだった。

 

 

「あ〜…何というか、予想通りの反応だな」

 

「当たり前です!ダンジョンは何が起きるか分からない場所。第1級冒険者でも油断をすれば死ぬかもしれない場所に、レベル1で尚且つ、ステイタスが封印されている人が向かうなんて自殺志願者ですか貴方は?!」

 

 

ヘスティアや自身の考えていた通りの反応を見せる姿に頬を掻くフガクに対して声を荒げると、エイナはその矛先をヘスティアへ向けた。

 

「神ヘスティアも、何をお考えなのですか…まだ恩恵を刻んだばかりの彼のステイタスを封印するだなんて…」

 

ベルから聞いた限り、ヘスティアという神は間違いなく善神…そんな神が、何故このような真似をするのか。

 

エイナの胸中には、困惑と疑念が渦を巻いていた。

 

 

 

「そいつは俺の意志だ。何処に行ってもやれステイタスだのと、俺にとって何の価値もねぇよ」

 

「なっ…」

 

フガクの言葉にエイナは絶句した。

ステイタスが如何に大きな意味を持ち、その差がどれだけの違いがあるかなど、オラリオを訪れた者や冒険者だけでなく、下界の人々が知らないわけがない。

 

それをあろう事かこの男、価値が無いと言い放った。

 

 

「本来、ファミリアにも入る気は無かったんだがな…ギルドの規定じゃ、ファミリアに入ってなきゃダンジョンに潜れねぇときた。最悪、忍び込む事も考えたが、ヘスティアの誘いは渡りに船だった」

 

「お陰で俺は、ファミリアに名を連ねるって条件はクリアした。だが、アンタは恩恵を封じられた俺をダンジョンに入れたくない…何方も引く気がないってんなら、やる事は一つだけだよな」

 

 

 

こうなる事を予想していたフガクは、驚愕するエイナを他所につらつらと言葉を並べていくと、スッと視線を鋭くして一瞥した。

 

「百聞は一見に如かず…自分(テメェ)の力を示して納得させるしかなかろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は、ギルドから移動してオラリオ内に作られた闘技場。

 

ガネーシャ・ファミリアが衆人の目の前でモンスターの調教(テイム)を行う催し…怪物祭の会場としても利用される其処の場内に、2人の人物が相対していた。

 

 

1人は言わずもがな、殤・フガク…対するのは、怜悧な顔立ちをした長身の女性。

 

互いに模造の得物を手に佇む姿を、観客席からヘスティアとエイナの他、肥満体型のエルフと象面を被った男神が眺めていた。

 

 

 

「まったく、無駄な事に時間を使わせおって…」

 

不機嫌な様子を隠すつもりもなく、観客席で踏ん反り返る肥満体型のエルフ…ロイマン・マルディールはフガクの姿を忌々しげに見る。

 

 

エイナから話を聞いた当初、ロイマンは問答無用でフガクがダンジョンに立ち入る事を禁じるつもりでいた。

 

しかし、ギルドの長よりフガクを見極めるよう言われたからには、仕方なく従うほか無かった。

 

 

 

「まさか、ウラノスが乗るなんて…」

 

「俺も意外だった。つまり、それだけあの子供に何かあるのだろう!」

 

ロイマンから離れた場所では、ヘスティアは男神…ガネーシャと言葉を交える。

 

 

ヘスティア自身も、こうなる事はフガクとともに予想していたが、それにウラノスが一枚噛む事までは予想外だった。

 

それだけでなく、ガネーシャに協力を仰ぎ、こうして場所まで整えた…そこまでする程の何かがあるのかと、二柱の会話を横で聞いていたエイナは疑問を感じずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いな、時間を割いてもらってよ」

 

「全くだ…その気概は買うが、ダンジョンはお前が思うよりも甘くは無い」

 

 

刃を潰した刀を軽く振り回し具合を確かめるフガクを見て麗人…シャクティ・ヴァルマは溜息を吐く。

 

 

ガネーシャから話を聞いた当初、何の冗談だと思った。

 

ダンジョンを訪れ、冒険者となった者は数知れず居る。

しかし、ステイタスを不要という者は、過去出会ってきた中で誰一人として居なかった。

 

それほどまでに腕に自信があるのか、はたまた単なる自惚れた莫迦か。

 

 

「見極めさせてもらうぞ、新参者(ニュービー)

 

「上級冒険者のお手並、拝見させて貰おうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

槍の刺突を危なげなく避け、その勢いで右回りに体を回転させ刃を振るう。

 

力強い踏み込みを以て一足で肉薄してからの切り込みを穂で払い、体の回転と槍を振り回した事によって発生した遠心力を上乗せした薙ぎ払いで足元を狙う。

 

足払いを避け駆けるも、其処から繋げるように払われる槍を、地を滑り体を反らして避け、互いに距離をとり仕切り直す。

 

熟練した者同士による刃の応酬は、激しい金属のぶつかり合う音と風切音を奏で、見る者を圧倒した。

 

 

「凄い…」

 

「まさか、ここまでとは…」

 

フガクとシャクティの戦闘を観戦していたヘスティアとエイナが、それぞれ感嘆の言葉を漏らす。

 

それほどまでに、殤・フガクの剣は洗練された動きだった。

 

無駄な動きを省いた足の運びと体捌き、冷静に相手の動きを見極める洞察力、猪のように勢いのまま突っ込むのではなく、緩急をつけた攻撃。

 

 

いずれも付け焼き刃ではなく、長い研鑽によって体に染み込ませた動きである事は、武術に疎い身でも明確に理解できるものだった。

 

「うぅむ…」

 

 

しかし、その戦いを見ながら、ガネーシャは釈然としない様子で唸る。

 

 

「ガネーシャ、どうかしたのかい?」

 

「確かに…レベル1であれだけの動き、そう易々と出来たものではない。だが、あの子供…まだ、本気では無いな」

 

その言葉を聞き、ヘスティアとエイナは目を見開く。

 

手を抜いているとはいえ、レベル5の冒険者…【象神の杖】の二つ名を与えられたシャクティと渡り合えている事だけでも十分だと言えるのに、まだ本気を出していない?

 

何の冗談かと言おうとした次の瞬間…闘技場を揺さぶる程の衝撃がヘスティア達を襲った。

 

 

 

 

 

 

幾度目かの打合いを終え、互いに構える中、シャクティは冷静にフガクの事を分析していた。

 

(成る程、大口を叩く程の事はある。剣の腕前だけで見れば、レベル1とは言えない…剣姫といい勝負だろう。それに、この男…底が見えん)

 

 

「で?いつまで小手調べ…いや、それ以下のままごとを続けるつもりだ?」

 

「…そうだな。ここからは、本気で見極めるとしよう」

 

フガクの軽口に短く返した瞬間、シャクティの姿が掻き消える。

 

瞬きをする間も無く姿が消えた事に呆気に取られるも、突如背後から襲い掛かってきた殺気に飛び退いた直後、背後に回り込んでいたシャクティの槍がフガクのいた場所に叩き付けられた。

 

 

濛々と立ち込める土煙が晴れると、先程までフガクの立っていた場所の地面が陥没している。

 

「今のを避けるか。だが、次はどうだ?」

 

 

 

 

 

フガクに休む暇を与えんとばかりに、シャクティは猛攻を続ける。

 

これまでの比べ物とはならない速さと威力の攻撃をフガクに繰り出し、縦横無尽に駆け翻弄する姿にヘスティアとエイナの2人…そして、遠くで興味も無さそうに観戦していたロイマンは顔を青褪めた。

 

「殤君…!」

 

「神ガネーシャ、今すぐこの戦いをやめさせてください!」

 

「そうだ!これでもし、何かあれば私が…」

 

 

ロイマンとエイナからの言葉を他所に、ガネーシャは静かに2人の戦いを見続ける。

 

「ヘスティア、あの子供は…確かにレベル1なんだな?」

 

「うん…それは間違いないよ」

 

不意に、ガネーシャは闘技場の様子から目を離さずにヘスティアへと質問する。

対してヘスティアも、その様子を見ていたが為に…目の前で繰り広げられている光景の異常さ(・・・)に気がついた。

 

 

「君の所の子…本気、だよね?」

 

「だろうな。それに、一撃の重みも、同格相手と変わらんだろう」

 

 

ヘスティアとガネーシャの交わす言葉の意図が掴めず、エイナとロイマンは改めて視線を闘い続ける2人へ移し…其処で繰り広げられている光景に唖然とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャクティ・ヴァルマはガネーシャ・ファミリアに所属する冒険者だ。

 

【象神の杖】の二つ名を神から賜ったシャクティのレベルは5、オラリオでもトップクラスの実力を持った女傑である彼女もまた、上級冒険者と言われるだけのステイタスを有している。

 

そんな彼女の本気で放つ攻撃となれば、恩恵を授かったばかりの冒険者や、市井の人間が目で追う事や受け止めるなど出来る筈もなく、それどころか何をされたかすら分からないのが当たり前だ。

 

 

しかし…。

 

 

(莫迦な…コイツ!)

 

その異常さに気づいたのは、攻撃を続けるシャクティ本人だった。

 

初めこそ、ただまぐれで避けたものだと思った。

 

だが、立て続けに攻撃を繰り出す度、フガクは避け続ける。

 

それどころか、避ける際の動きに無駄が無くなっているのが理解出来た。

 

 

それだけでは無い。

 

偶然にも武器に当たったものと考えていた攻撃も、動きが洗練されていくにつれて的確に弾かれる。

 

自身の驚愕を振り洗うように、頭上から振り下ろした槍の一線を、フガクは剣で受け止めた。

 

地面が大きく陥没する程の威力…にも関わらず、フガクはまるで苦でも無いと言わんばかりの表情で目を見開くシャクティに向けて口を開く。

 

 

「漸くアンタの本気を把握出来てきた…だったら、こっちも本気で相手をせにゃ、無礼ってもんだよな!」

 

 

その言葉と同時に力を込めてフガクが槍を弾いた瞬間、先程シャクティが放ったものと同等の衝撃が彼女を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な…ありえない!」

 

ロイマンは、己の目の前で繰り広げられる光景が信じられなかった。

 

レベル1の冒険者、それどころかステイタスを封印されている状態でレベル5と本気で打合い、互角の戦いを繰り広げるなど前代未聞だ。

 

 

「彼は、本当にレベル1なのですか…?」

 

エイナも同様に、信じられないとばかりに呟く。

 

今見ているものは夢だと言われた方が、まだ気が楽だった。

 

「確かに…レベルを偽ってると言われても可笑しくない光景だけど、ボクは昨日殤君に恩恵を刻んだし、そのままステイタスを封印した。なんなら、このあと彼の背中を見ても良いよ」

 

恩恵を刻んだヘスティア自身、殤の本当の力を見たのはこれが初めてだ。

話に聞いていた限り、相当な力を秘めている事は解っていたが、想定以上の実力を見せつけるフガクの姿に冷や汗が流れた。

 

 

 

 

 

剣と槍がぶつかり合うだけで空気はビリビリと震え、フガクが剣を振るえばその風圧が斬れ味を伴ってシャクティを襲う。

 

それを躱し、再び距離を置いた2人は息を整え、次の一撃を最後とするべく、それぞれが必殺の構えを取る。

 

 

 

「…ハァッ!」

 

先に仕掛けたのはシャクティ。

 

裂帛の気合いと共に繰り出された突きは、フガクの胸目掛けて放たれるが、其れを紙一重で躱す。

 

互いの体がすれ違うや、すぐさま体制を切り替え、振り返り様に頭部へと槍が振り下ろされる。

 

 

 

「拙劍無式・八方氣至」

 

「っ?!」

 

あと僅かで槍が触れる、その瞬間。

 

フガクが口を開くと同時に研ぎ澄まされた気迫が解き放たれた。

 

 

衝撃はシャクティの体を大きく揺さぶり、崩された体制を再び整えようとするも、その眼前に刃の一閃が迫る。

 

咄嗟に槍を引き寄せ構えるも、柄を両断され、放たれた刃がシャクティの首筋スレスレで止まる。

 

「…引き分けか」

 

小さく息を吐き、フガクが口を開く。

 

次いで視線を下にずらすと、その先には斜めに切られ鋭くなった槍の柄…その先端が、胸の前に突きつけられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあぁ…」

 

「大変な奴が入ったな、ヘスティア!」

 

息をすることを忘れるような戦いが終わりを迎えて脱力するヘスティアと、その様を横目に、堪え切れないとばかりに呵々大笑するガネーシャ。

 

神々の恩恵に頼らず、己が修練のみで此処まで登り詰めるなど、神時代よりも以前…それこそ、英雄の時代と呼ばれたあの頃から中々見る事が無かったのだから。

 

寧ろ…大変なのは、これからか。

もし、フガクの事が他の神々…ましてや、あの神に知られたら面倒な事になるのは明白だ。

 

 

だが…まずは

 

「こっちから片付けなきゃなぁ…」

 

 

 

そう言って、ヘスティアは己の常識を覆すことの連続のあまりに気を失ったロイマンと、放心状態のエイナを見て本日何度目かの深い溜息を吐いた。

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