改めて1話から読み返したり、書いては消してを繰り返して一応の完成です
アイズの指導のもと、ベルの戦闘訓練が始まった。
といっても、手取り足取り1から教えるというものではなく、武器を用いた組手を行い、直接体に叩き込むという方法だ。
当初は手を出す暇もなくアイズによって打ちのめされていたベルだったが、その成長速度は目を見張るものがあり、その日の反省点を自主練で補い、更にはアイズの動きを真似ては自分の動きに合うものを盗む事で、駆け出しとは思えないものとなっていった。
訓練が始まって三日目、ベル達が休憩をとるなか、ふと視線を別の場所へと向けると、そこには木刀を手に佇むフガクの姿があった。
「…そういえば、殤さんが鍛練する姿を見るのは初めてだな」
「そうですね…。リリも、何度かお会いしていますが、こうして見るのは初めてです」
体を休めるベルと、それを甲斐甲斐しくサポートするリリルカの話を隣で聞きながら、同じく休憩を取るアイズはフガクの姿を見る。
改めて思い出すのは、彼と初めて出会った怪物祭の日の出来事。
強さを求めるアイズは、フガクの強さの秘訣を知ろうと、静かに佇む姿を注視した。
一般的に、武を修める者といえば師から教えを賜るものだろう。
フガクにも師は居るが、まともな指導を受けた事は無かった。
彼が扱う力…内功の練り方、その基礎を教えた後は自分でなんとかしろと居なくなり。
数ヶ月経っていきなり姿を現したと思えば、まだ幼いフガクを野生のモンスターが跋扈する森に置き去りにした。
おまけに、得物はたった一本の棒切れという始末。
指導どころか、死んでこいと言わんばかりの行いをされたが故、フガクは師匠と呼ぶ事を頑なに拒む…が、そのような死地に放り込まれ、生きる為に我武者羅に足掻いた結果、今の強さを手に入れたのだから尚更複雑だ。
其れはさておき、武に絞って言うならばフガクには手解きしてくれるような師匠は存在しなかった。
代わりにあったのは、幼い頃から見ていた夢の世界に現れる侠客、達人達。
幼いフガクは、夢で彼らの戦いを見ては、その動きを真似し続けた。
始めは子供の遊戯程度でしかなかったものの、何年も、休む時間を削って只管模倣し続け。
夢の中に現れる者達の動きや技を盗み続けた。
「ふぅ…」
そして、幾度とない模倣の末、フガクはある種の境地を開いた。
体捌きから太刀筋、果てには癖や気迫の隅々に至るまで見続けた相手を、己の相手として
初めたばかりの頃は、全くイメージが出来ずに終わる事が多かった。
しかし、それを繰り返す事数週間。
ある程度形になりはしたが、今度は全く歯が立たなかった。
想像の中で、打ち合う間も無く殺される。
それでも、己を鍛え、想像の相手と戦い続けた。
そして、現在。
「…」
深呼吸を繰り返し、ゆっくりと目を開いたフガクは、木刀を構える。
相対するのは、侠客達の中でも剣鬼と呼ばれた男。
これまで、何度も刃を交えた相手…だからといって、気を楽に出来る相手ではなかった。
目を開き、木刀を構えるフガクの纏う空気が変わったのをベル達は感じ取った。
「…っ」
首筋に冷たい刃を添えられたと錯覚する程の殺気…それが、自分達に向けられたものではない事は理解していても、身震いしていまう。
「…ふっ!」
そして、フガクは木刀を振り下ろした。
かと思えば、刃を振り上げ、二、三と手にした木刀を振るう。
澱みのない足捌きで前進し、突きからの横薙ぎ。
後退し、刃を立て、体を逸らし、時には跳躍する。
「…凄い」
息を乱す事なく激しく動き、鋭く振るわれる木刀。
一種の舞踊のように見えるそれに、ベルとリリルカは感嘆の息を洩らした。
だが、その中で1人。
アイズだけが、フガクの動きに違和感を感じていた。
「…?」
彼が時折見せる、怪物祭でも見たような動き、頻りに何かを躱し、受け止める動作。
その中で見せる真剣な…殺気を纏った表情に疑問を感じ、更に注視していく。
脚の運び。
腕の振り。
身体の動き。
意識を集中して、その全てに目を凝らす。
「っ!」
そして、アイズは視た。
フガクの視線の先…其処には、誰も居ない。
しかし、間違いなくそれは存在した。
それは、フガクの振るう刃を躱し、受け止め、返すように刃を振るう。
速く、鋭い一撃は確実に命を刈り取る為に振るわれる。
(一振り…ううん、其処から更にもう一振り…相手は、二刀流)
真剣さを増すフガクの動きから、相手の姿がみえてくる。
(相手は…男。背格好は、彼と同じくらい…?)
『相手』が息を吐かせる暇を与えない速さで刃を振るう。
其れを、フガクは必死に躱し、逸らし、反撃する。
袈裟斬りからの逆袈裟。
腕を引き絞り、体重を乗せた鋭い突き。
怪物祭でも目にした、光の刃が襲いかかるが、相手はそれすらも余裕をもって対処する。
そんな、一瞬の隙すら許されない仮想の相手との生死を賭けた戦いも、終わりを迎えようとしていた。
フガクと剣鬼が互いに距離をとり、再び剣を構える。
呼吸を整え、内息を練り上げ、同時に駆ける。
剣鬼の刃よりも速く放たれた突きは、その点穴を穿ち、練り上げた気の流れを止める。
間合いも、タイミングも完璧と言える一撃だった。
しかし、剣鬼は更にその上を行った。
身体を逸らして突きを紙一重で躱すと、木刀の上を滑らせるように刃を走らせ…一閃。
僅かに見せた、ほんの数ミリの緩み。
其処を、針の穴に糸を通すような精密さを以て。
左手に持つ一振りがフガクの体を深く切り裂き、返す右手の一閃が、その首を撥ねた。
「…ぇ?」
果たして、その言葉は誰の口から溢れたものか。
フガクの首が宙を舞い、地面に転がる光景を、この場に居た全員が見た。
目を擦り、改めて視線を向けた先には、無傷ではあるが息を切らし、地面に膝をつくフガクの姿がある。
「ベル様…今…」
「…うん。僕も、見た…」
それでも尚、先程幻視したものが頭から離れない。
アイズも同様に、フガクの首が宙を舞う光景を幻視した。
それも、僅かにではあるが、フガクが戦っていた相手を視たことから、より鮮明に。
「…大丈夫、ですか?」
フガクのもとに歩み寄ったアイズが、幾分か息の整った彼へと手を差し伸べる。
「…おぅ、悪いな」
アイズの手を掴み、木刀を杖代わりに立ち上がったフガクは、深く息を吐きながら空を見上げた。
「…どうしたら、そんなに強くなれますか?」
アイズの口から、そんな疑問が溢れた。
その意図を、フガクは分からない。
彼女が何を思い剣を取ったのか、何の為に剣を振るうのか。
「…お前さんが何の為に力を求めるのかは分からんが…俺が強くなりたいと思ったのは、憧れからだ」
「憧れ…」
フガクの言葉を聞き、アイズは小さく呟いた。
「…過去の英雄は、神からの恩恵も無しにモンスターと戦い、勝ってきた。だったら、俺にも出来ない道理はねぇ。きっかけはそれだった」
「それから、俺は知った。世界には、恩恵も無い身でありながら、冒険者に並ぶ強さを持つ奴が居るって事を」
「そいつらを越えた、その先…果てに至るのが、俺の目標だ」
空に浮かぶ雲…その先を見つめて話すフガクの言葉に、アイズは自分の手を見つめる。
幼い頃から剣を取った手…そのきっかけは、憧れとは程遠い、昏い感情からだった。
だからこそ、憧れの為に強くなろうとするフガクの姿が眩しく見えた。
「…オラリオに居る奴は、何かを為したい奴が多いな」
「…そうですね」
フガクにつられ、空を見上げたアイズの目に青空が映る。
様々な形の雲が浮かび、漂う姿は、オラリオに集った冒険者達のようだ。
「お前さんも、何かを為したいからオラリオに来て…そして、強くなろうとしてる」
なら…そう言うと、フガクは視線を空からアイズへと移し、問い掛けた。
「お前さんの為したい事…その先を考えた事があるか?」
主人公情報
剣術、気功術の腕前は目を見張るものはあるが、周りに使い手が存在せず経験が足りないため、あと一歩及ばずといった実力