南雲ハジメはバリアスーツと共に   作:ウエストモール

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アビリティ紹介

〈スペースジャンプ〉
無限に空中回転ジャンプを行い、上昇する能力。どんなに高い場所でもたどり着ける。


10話 偽装、陰謀、吉報

 

 ハジメは、右腕のグラップリングビームと脚力で壁に貼り付いていた。

 

「まさか、俺を殺そうとするとはな」

 

 檜山が俺の命を狙ってくることは十分予想できたことだったが、そのような凶行に走る可能性は低いと考えていた。そのように考えたのは、浅はかだったな。

 

「さて、今すぐ脱出したいところだが・・・」

 

 スペースジャンプの能力を使えば、空中回転ジャンプの繰り返しで先ほどの階層に戻ることは可能だ。

 

 だが、檜山が俺の命を狙ったことが分かった以上、今すぐにクラスメイトの所に戻れば、口封じのために更なる凶行に走るだろう。香織に危害が加えられる可能性もある。

 

 ここは、俺が死んだことにしようと思う。それなら、この世界で自由に行動できる。勿論、このままでは香織が自殺しかねないため、香織には俺の生存を知らせたい。ベビーを回収する必要もあるため、香織に生存を伝えることも兼ねて、王宮に潜入することに決めた。

 

 

 

 数分後、ハジメは壁を蹴ることで空中に飛び出すとスペースジャンプのアビリティを使い、連続の回転ジャンプで空中を跳ねることで暗闇の中を上昇していく。

 

 そしてついに、ハジメはベヒモスとトラウムソルジャーのいた65階層に戻ってきた。65階層の崩落した橋はまだ直っておらず、魔獣もまだ復活していない。

 

 撤退中であろうクラスメイトとの遭遇を避けるため、ハジメは迷宮の中をじっくりと調査しながら上に向かうことにした。

 

「へぇ、あれで生きているなんて、イレギュラーは凄いなぁ。まあ、あのパワードスーツのおかげでもありそうだけど」

 

 ハジメを見張っている者がいた。その人型が羽織っている外套の隙間からは、黒色の有機的な装甲が見え隠れしている。

 

「イレギュラー。僕は君と戦う日を楽しみにしているよ」

 

 次の瞬間、その者は音もなく忽然と姿を消した。

 

 

 

 

 

 ホルアドの町外れの一角にある目立たない場所にて、檜山大介は体育座りで膝に顔を埋めていた。その様子を周囲が見れば、落ち込んでいるように見えるだろう。だが、実際は味方を撃った罪人である。

 

「ヒ、ヒヒヒ。あ、あいつが悪いんだ。調子に乗って俺の邪魔しやがって・・・それに・・・白崎を奪いやがった・・・て、天罰だ・・・あいつの邪魔は・・・これで入らない・・・俺は間違ってない・・・ヒ、ヒヒ」

 

 彼から漏れる言葉は、全て自己弁護の塊。自分が殺人(実は未遂)を犯したことを正当化していた。

 

 使用したのは火属性魔法の火球。自分の魔法の適正は風属性魔法であり、疑われることはまず無い。あの時、南雲と目があったため、南雲に気づかれたかもしれないが、殺したので問題ない。

 

 そんなことを自身に言い聞かせる檜山。そして、彼に背後から近付いて声をかけてくる者が1人。

 

「君は檜山君だったかな?殺人を自分の中でそこまで正当化できるなんて、君は大した人間だね。僕は君を気に入ったよ」

 

「ヒッ、誰だっ!?」

 

 檜山が振り向くと、そこには黒色の有機的な装甲を全身に纏った人型が立っていた。全身には水色の発光部位が存在し、右腕は砲のような形になっている。そして、フルフェイスヘルメットのような頭にはY字の水色のバイザーが目立つ。

 

 檜山は知らないが、その人型のおおまかな姿はハジメが装備するバリアスーツによく似ていた。

 

「ま、魔人族か?!」

 

 檜山は後退りして逃げようとするが、そいつはワープして檜山の目前に現れ、右腕のアームキャノンを檜山の頭部に突き付けた。

 

「まあ、落ち着きなよ。僕の名前はプライム、ある御方から魔人族側に付くように言われている者さ。そして、君に力を与えに来た」

 

 檜山にアームキャノンを突き付けているのは、魔人族側であると自称する存在。彼がその気になれば、檜山の頭に風穴が開くだろう。

 

 目の前の存在に生殺与奪の権を握られていることを理解した檜山の顔は青ざめ、冷や汗を流す。

 

「ちっ、力をくれるのか?でも、裏切り者になるわけには・・・」

 

 流石の檜山でも、魔人族側から力を受け取るというのはクラスメイト達を裏切ることだと判断していた。

 

「けど君、仲間を殺しているじゃないか。これって、すでに仲間を裏切っているようなものだよ?」

 

「あ、あぁ…」

 

 プライムの鋭い指摘を受け、檜山は狼狽える。

 

「すでに裏切っているのだから、受け取っても問題ないよね?それに、力があれば欲しいものが手に入るよ?」

 

「欲しいもの?」

 

「惚けないでよ。白崎香織、あの女が欲しいんでしょ?」

 

 それと同時にプライムの顔が至近距離に迫り、バイザーから青白い光が檜山の顔に照射されると、檜山の目が虚ろになった。プライムは、檜山に何かしたらしい。

 

「香織、欲しい・・・」

 

「恋敵を殺したくらいだし、手に入れる為なら何でもするよね?」

 

「何でもする」

 

 プライムが仕掛けた精神的な細工によって、檜山の心の中は香織を手に入れることだけで埋め尽くされていた。もはや、欲望の塊である。

 

「じゃあ、力を与える引き換えに僕の門弟になりなよ。僕に従っていれば、女どころか欲しいもの全てが手に入るよ」

 

 檜山は悪魔に魂を売り渡した。

 

「これが、君に力を与えるものだ」

 

 プライムの左の掌の上に青白い光球が浮遊している。その光球は、掌から離れると檜山の胸部に吸い込まれた。

 

「凄い、力が沸いてくる・・・!」

 

「時間が経てば経つ程、君の力は上昇していく。とりあえず、僕から命令があるまでは自由にしているといい。でも、勝手に白崎香織に手を出してはいけないよ?またね、門弟君」

 

 直後、プライムはワープして何処かに消えた。

 

「香織・・・絶対に手に入れてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワープしたプライムは森の中に出た。すると、その背後に何者かが降り立つ。

 

「プライム、何故あのような下らない男に力を貸したのですか?」

 

 それは、銀色に光る翼を背中から広げている銀髪碧眼の女であり、白をベースとしたドレスのような甲冑を纏っている。その姿は天使やワルキューレを思わせるのだが、その瞳は氷のように冷たく、まるで機械のようだった。

 

「おや、旧式・・・・じゃなくてノイント君じゃないか」

 

 その女の名はノイントといい、エヒトに仕えている存在である。プライムの言う“旧式”というのは、エヒトが最初に作り、今でも主力として多く残っている生体魔導兵器〈ノイントシリーズ〉の初期個体が彼女であることに由来する。

 

 そして、プライムは試験的に作られた最新型の個体であり、完全に異形の姿にすることで、戦闘に特化していた。もしも量産されれば、〈プライムシリーズ〉となるだろう。

 

「確かにあの男は下らない。でも、あれくらい欲望に忠実な方が色々とやりやすいんだ。欲望を増幅させてやれば、上手い具合に操れる」

 

 プライムが檜山にしたこと。それは、欲望を増幅させることだった。それにより、檜山は香織を手に入れるためなら何でもする男になった。

 

「なるほど。ですが、私を旧式と言うのは聞き捨てなりません。あなたより古いのは事実ですが」

 

「悪かったよ。君はノイントシリーズの初期個体だけど、アップデートを何回も受けたことでシリーズの中では最強の個体だったね。で、どうしてここに来たんだい?」

 

「我がマスターより、最新型のあなたを監視しておくように言われています」

 

「お目付け役ってわけね。まあ、安心してよ。僕はあの御方に逆らうようなことはしないから。ただ僕は、あの御方の盤上を面白くしたいだけさ」

 

 

 

 

 

翌日 夜

 

 王宮に潜入した俺は、クラスメイト達の自室がある棟にたどり着いた。王宮の敷地内は警備の騎士達が巡回していたが、突破は難しくなかった。

 

 そして、俺は香織の部屋のベランダに降り立った。室内を見ると、ベッドで眠っている香織の姿が。すかさず鍵をピッキングして解錠し、部屋に入った。やっていることは完全に犯罪であるが、バレなければ問題はない。

 

「香織・・・」

 

 机にあった書類によれば、香織は今日に至るまで眠り続けているらしい。

 

 俺は、眠り続けている香織の手を握る。その手は俺の手よりも少し小さく、繊細で、可愛らしい。

 

「ハジメ・・・君・・・」

 

「!?」

 

 突然、香織が小さな声で俺の名を呼ぶ。それと同時に、香織は俺の手を握り返す。

 

 そして、香織はゆっくりと目を覚ました。

 

「ハジメ・・・君?」

 

 しばらく周囲を見渡した後、香織の目は傍らにいる俺を見る。その目からは、涙が溢れていた。

 

「ハジメ君は・・・あの時落ちて・・・でも、目の前のは本物のハジメ君・・・!」

 

 香織の声が段々大きくなっていく。このままエスカレートされると俺の存在がバレるので、少々強引な方法で静かにしてもらう。

 

「え?」

 

 さらに発言しようとした香織の口を、ハジメの口が塞ぐ。ハジメに強引にキスをされた香織は、顔を真っ赤にしていた。これにより、香織の発言は止まる。

 

「すまない。ある事情で、俺がここにいることはバレてはいけないんだ。ところで、どうして俺が本物だと?」

 

「私はハジメ君の特徴を知り尽くしているんだよ?ハジメ君の匂いも、体の動かし方も、筋肉の付き方も・・・」

 

「おっ、おう…」

 

 流石にドン引きするハジメ。だが、気を取り直して話を続ける。

 

「それで、ある事情というのは・・・」

 

 ハジメはその時のこと香織に話し始めた。

 

 

 

「ハジメ君はクラスの誰かに命を狙われていたの?」

 

 香織は驚く。

 

「信じられないかもしれないけど、本当だ。犯人は、クラスの男子の誰かだ。もしも俺が生きていることが分かれば、そいつは更なる凶行に走るかもしれない。だから、俺はクラスに戻らないことにした」

 

「だったら、私も行くよ」

 

「もしも香織が居なくなれば、混乱が起きる。それに、生きていることがバレた場合に俺が誘拐犯扱いされる」

 

「そうだよね・・・」

 

 香織は少しガッカリした様子だ。だが、これが混乱を防ぐためであることは理解したようだった。

 

「香織、俺はそのうち君を迎えに戻ってくる。その時は、一緒に行こう」

 

「分かった。私はハジメ君のことを首を長くして待ってるね・・・・・・そうだ、ハジメ君にお願いがあるの」

 

「?」

 

「その・・・ハジメ君の持ち物を少し置いていって欲しいの。一緒に居られない間に、ハジメ君を感じていたいから・・・」

 

 そこで、ハジメはとある物を香織に渡した。

 

「これって、指輪?!ハジメ君・・・もう結婚しようだなんて早いね///」

 

 再び顔を真っ赤にした香織。彼女が渡されたのは、1つの指輪だった。

 

「錬成と錬金の練習のために作った指輪だ。作った時に俺の魔力を流しているから、持っていれば俺を感じられると思う」

 

「ありがとう、これで生きていけるよ」

 

(ハジメ君の魔力が流れた指輪!これで、ご飯何杯も食べられるよ。もしも戻ってきたら、ハジメ君のことも食べたい///)

 

 妄想に浸っている香織。彼女が妄想から現実の世界に戻ってきた時、すでにハジメの姿は無くなっていた。

 

「もう行っちゃった・・・ハジメ君、私は帰りを信じているよ。あの日みたいに・・・」

 

 その直後に雫がやって来る。香織と雫は抱き合うのだが、それを目撃した天之河と坂上は2人の邪魔をしないように立ち去った。

 





プライムの見た目は完全にダークサムスですが、ただのそっくりさんです。
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