それはさておき、今回は原作の死亡キャラがメインです
小学3年生の時、中村恵理は飛び降り自殺しようとしたところを天之河光輝によって助けられた。何故、彼女が飛び降り自殺を図るに至ったのか?それは、彼女が5歳の時にまで遡る。
当時、5歳の恵理は父親を目の前で亡くした。それも、彼女を原因として。彼女は父親と2人で公園に遊びに来たのだが、大好きな父親とのお出かけに浮かれていた彼女が不注意にも車道に飛び出し、そのタイミングで運悪く突っ込んできた自動車があった。そして、彼女を庇った父親が亡くなってしまったのだ。
これだけなら、ありふれた交通事故に過ぎないだろう。裁判によって賠償金が支払われるだろうし、自らの行為で父親が死んだ事実に傷ついた恵理を、母親が1人の大人として涙を呑みながら支える。普通はそうなるだろう。しかし、母親の態度は全く異なるものであった。
恵理の母親は良家のお嬢様であったのだが、家の反対に逆らって父親と結婚しており、依存といってもいいレベルで父親とべったりしていた。
精神的に弱かった母親は、精神的支柱たる夫を亡くしたことに耐えられず、その原因となった恵理に対して憎悪を向けた。元々、母親が恵理を愛していたのは「夫の娘」であるからであり、心から愛していた訳では無かったことも一因である。
恵理は、毎日の暴力と罵詈雑言に耐え続けた。自分が罰を受けるのは当然であり、この罰が終われば元の穏やかな母に戻ってくれると信じて。そのため、恵理は虐待を受けていることを口外しなかった。
よく考えて見れば、どんな理由があろうと子供に暴力を振るい暴言を吐くというのは思慮分別に欠けた行為であり、大人げないものだろう。そもそも、虐待自体ご法度な行為である。
ある時、母を信じていた…というか現実から目を逸らしていた恵理は、母の本質を直視することになる。
小学3年生の時、恵理の母親は再婚した。その相手は典型的なクズ男であり、あろうことか性的欲求を幼い恵理に向けた男は、母親が居ない隙に彼女を襲った。
恵理がその事態を予測して窓を開けており、悲鳴を聞いた近隣住民が通報したことで男は逮捕され、恵理も無事だった。だったのだが…
母親は恵理を心配するどころか、更なる憎悪を向けてきた。この事件に対する母親の認識は、恵理がまた男を奪ったということであり、男がクズであったと理解する切っ掛けにもならなかったのだ。
関係の改善を期待していた恵理は、打ちひしがれた。母親は決して昔の穏やかな姿に戻ることはなく、男に執着する醜い姿こそが母の本質であるということを理解させられた。
今までの我慢が意味の無いものだったことを知った恵理は、ついに壊れた。早朝、家から抜け出した彼女は、大きな川に架かる鉄橋から飛び降り自殺を図った。
そこに通りかかったのが、ジャージ姿でランニング中の天之河光輝だった。学校で人気を集める光輝に助けられた恵理は、彼の“特別”になりたいと願った。
だが、光輝の周囲には白崎香織や八重樫雫といった少女が既におり、どんな手を使ってでも排除したいと考えていた。
そして、今に至る。
「くっ、ふふふっ…まさか、光輝君が拒絶されるとは…これは、光輝君を手に入れるチャンス…」
恵理は、光輝が香織に拒絶されたところを目撃し、それをチャンスと捉えた。
「雫にも拒絶されれば、光輝君は精神的に不安定になる。そこを僕が支えれば…光輝君は僕の物に…」
香織に拒絶された以上、その親友である雫に拒絶されるのも時間の問題であると分析した恵理は、光輝が精神的に不安定になった所に攻勢をかけようとしていた。
「でも、僕に依存する切っ掛けを作った方が良さそうだ…まずは、僕に目を向けさせる…」
光輝を手に入れる計画の第1歩を踏み出すべく、恵理は動き出した。自分が、母と同じように男に執着していることに気が付かずに…
「雫も龍太郎も、どうして俺の味方をしてくれない?いつも、俺の味方だったのに…」
あの日の夜、光輝は薄暗い自室のベッドの上で蹲り、香織にビンタされた後のことを思い出していた。
「光輝、どうして香織にあんなことを言ったの?私の親友を傷付けるなんて、流石の私でも擁護できないわ」
「そうだぜ光輝。流石にあんなのはないぜ…」
光輝は幼馴染の2人にあの時のことを話したのだが、その反応は光輝が求めるようなものではなかった。
光輝が覚えている限り、今まで2人や香織が彼の行動を制止したり、否定したようなことは無く、3人共自分の味方であり、全て肯定してくれるイエスマンであると認識していた。
しかし、それは光輝の思い違いである。実際のところ、正義感が強く自分こそが正しいと思っている光輝が傷付かないよう、2人と香織が配慮していただけである。そのようなこともあり、光輝は自分勝手な正義感で暴走するような男になってしまったのだ。
「でも、ベヒモスさえ倒せば…みんな元に戻ってくれるはず…」
それに根拠などない。だが、そう考えなければ光輝は新たな暴挙に出てしまうだろうし、何をしでかすか分からない。
そんな中、扉がノックされた。そして、扉の向こうからは聞き覚えのある女子生徒の声が聞こえてくる。
「光輝君、起きてる?あの…中村です」
扉の向こうにいるのは、あの場にいた中村恵理であった。過去に彼女と関わりがあった光輝は、思わず扉を開けた。
「恵里、どうかしたのか?」
恵理はベッドの上に座っており、その隣に光輝が座る形となっている。光輝は、彼女に自室に来た理由を尋ねた。
「その…光輝君のことが心配で…」
「俺のことを心配してくれるのか?ありがとう、恵理。君は優しいな…」
自らを心配してくれる者の出現に、光輝は驚きつつも感謝の意を表す。
「もし良かったら、光輝君の話…聞かせてもらえないかな?」
恵理の申し出に対し、味方を求めていた光輝は喜んで事情を話す。 その内容を聞く限り、明らかに光輝が悪いのだが、恵理には関係ない。光輝は彼女にとっての王子様であり、可哀想な存在なのだから。
「俺は、南雲のせいで変わってしまった香織を救いたい。でも、雫と龍太郎が理解してくれないんだ…このままじゃ、みんな俺から離れてしまう…」
光輝は、香織に拒絶されてもなお、香織を南雲の被害者として救おうとしていた。そんなことは余計なお世話である。だが、光輝の病的な正義感は見捨てることを許さなかった。結局、香織からしたら非常に迷惑なのだが…
そう語る光輝に対して、恵理は本格的な工作を仕掛けにいく。
「みんなが光輝君を拒絶しても、僕だけは光輝君の味方をするよ。だから、光輝君は安心して香織ちゃんを助けに行くといいよ」
(どうせ、香織が光輝君に振り向くことはない。光輝君には何度も玉砕してもらうよ。いずれは雫にも拒絶されるだろうし、光輝君は僕に依存する)
「ありがとう、恵理のお陰で勇気が出たよ。けど、本当にいいのか?」
「大丈夫だよ。でも、約束してほしいことがあるんだけど、いいかな?」
「あぁ、それで味方してくれるのなら」
光輝は、恵理に味方でいてもらうために何でも言うこと聞くつもりになっていた。
「今、ここで密会したこと…それに話した内容について口外しないでほしいんだ。流石に、表だって光輝君の味方はできないから…」
「分かった。このことは2人だけの秘密にしよう。俺だって、恵理とみんなの関係を悪化させたくはない」
(光輝君と僕だけの秘密・・・!うんうん、実に最高な気分だよ)
その後、恵理は光輝を慰めるために彼と同じベッドの中に入り、そのまま夜を越えた。
清水幸利は決意した。神の使徒から離脱して冒険者となることを。
その一番の理由は、ハジメが消えたことにあるだろう。あの時助けてくれたハジメがいなければ、清水は小悪党組の4人によって訓練と称した暴行を再び受けてしまう可能性がある。そのため、王宮に残る理由は無いし、トラウムソルジャーに殺されかけた経験から大迷宮の攻略に赴く気も更々無かった。
近々、志願した生徒達が護衛隊として各地を巡る愛子先生に同行するらしいが、誰も自分のことを知らない世界に行きたいと考えていたため、清水は冒険者の道を選んだというわけだ。
清水の天職は闇術師であり、闇属性魔法を一番得意としている。闇属性魔法には相手の精神や意識に作用したり、相手の体を拘束するような魔法が多く、基本的には敵にデバフを与える魔法とされている。攻撃魔法も存在するが、その方面の研究をする者がほぼいないらしく、数は少ない。ただし、清水には闇属性以外にも風属性と雷属性への高い適性があるため、攻撃手段に乏しい訳ではない。
彼はオタクだ。様々な漫画やアニメに出てくる魔法や技の知識が豊富であり、特に闇属性とドラゴンを愛していた。清水はこの世界の闇属性魔法に失望していることもあり、冒険者として活動しながらも攻撃魔法の開発に力を入れるつもりだった。
そして、清水はクラスメイトの大半が起きていないであろう早朝に王宮から抜け出そうとしていたのだが、ここでとあるクラスメイトと遭遇してしまう。それは…
「ええっと、清水君よね?こんな時間にどうしたのかしら?」
「八重樫さん…」
清水が遭遇したのは、早起きして鍛錬している八重樫雫だった。彼は完全に失念していた。彼女が早朝に鍛錬しているということを。
(まさか、八重樫さんに遭遇するとは…それにしても、八重樫さんは綺麗だな。黒髪ポニーテールの美少女…最高だ)
実を言うと、清水にとって八重樫雫はドストライクな女性だった。美人なのは勿論のことだが、彼の好みは黒髪ロングであり、その長い髪を縛ってポニーテールにしていると更に好みになるという。
清水はそんな彼女に対して、自分が王宮から抜け出して冒険者になろうとしていることを包み隠さず話した。
遭遇したのが別の人だったのなら、ここまで話すことは無かっただろう。しかし、雫は意中の人である。清水は、少しでも彼女の記憶の片隅に残りたいと考えていた。もしかすると、二度と彼女と遭遇できない可能性だってあるのだから。
「なるほどね。別に、清水君を引き留める気はないわ。せっかく異世界に来たんだもの、冒険者になるのもいいと思うわ」
雫は清水がしようと思っていることを否定しなかった。その事実に、清水は内心驚いていた。そして、もう少し彼女と話をしてみたいと考えた。
「八重樫さんは、こんなところを抜け出したいと思ったことは無いのか?」
「私だって、逃げられるなら逃げたいと思うわよ。でも、光輝が何をしでかすか分からないし、幼馴染として傍にいてあげないとダメな気がするから…」
雫には光輝を見捨てる選択肢など存在しなかった。たとえ、かつて光輝のせいでイジメに遭い、己の親友である香織に対して彼が酷いことを言ったとしても。
「よく見捨てないな…」
「光輝のせいで酷い目に遭ったこともあるわ。空気は読めないし、他人の事情は考慮しないし、思い込みで突っ走るし、挙げたらキリがないけど、光輝は悪人というわけじゃないの」
「悪いことの方が多くないか?」
清水はツッコミを入れる。
「実際そうだもの。けど、光輝は正義感で動く存在だし、決して嘘をつくような真似はしないわ。でも、このままだと光輝はいつか現実を見て狼狽えることになる。その時、誰かが傍にいてあげないと…」
「そうか…八重樫さんは苦労人だな」
清水は雫に同情する。天之河が彼女の幼馴染でなかったら、雫はここまで光輝のことを考えていないだろう。光輝の幼馴染…その肩書きが雫を拘束していると言っていいだろう。
「清水君は人と話さないイメージがあったけれど、意外と話せるのね。光輝よりも話しやすい気がするわ」
「軽くディスられてる気がするけど、ここを出ていく前に話したのが八重樫さんで良かった。それじゃあ…」
清水は王宮の外を目指して歩き始める。そこに、背後から雫が声を掛ける。
「清水君、また何処かで会えるといいわね。その時はまた、お話ししましょうね」
「あぁ。八重樫さん、お元気で…」
その日、清水は王宮から去った。2人目の生徒が消えたことで愛子先生の精神に負担がかかったが、清水からしたら知ったことではない。
原作では関わりのない2人を絡ませました。さて、2人の関係はどうなることやら…
原作であまりセリフを言っていないせいで清水の口調が分かりづらい件