南雲ハジメはバリアスーツと共に   作:ウエストモール

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13話 封印部屋

 

真迷宮 第50階層

 

 爪熊を倒し、スーパーミサイルを入手したハジメ達は、その階層から50階層は進んだ。だが、その道中には危険も多かった。

 

 例えば、毒霧に覆われた階層では、麻痺効果を持つ鱗粉をばらまく蛾のような魔獣に出くわした。スーツが無ければ、毒と麻痺のダブルパンチでやられていただろう。

 

 また別の階層では、足を踏み外せば溶解液の中に真っ逆さまになる狭い足場を渡らなければならなかった。“宙躍”やスペースジャンプのお陰で簡単に落ちることはなかったが、渡っている最中に溶解液に耐性のある魔獣が襲ってくるので堪ったものではない。

 

 そういえば途中で鳥人像を発見したのだが、何故か手に収まっているはずのアビリティスフィアが無かった。何者かによって持ち去られたのだろうか?

 

 鳥人像というのは、鳥人像が自らを模して造り出した彫像のことである。その中にはバイオテクノロジーで造り出された鳥人像も存在し、侵入者を迎撃するようになっている。

 

 そして、気付いた時には第50階層に到達していた。50階層を探索していると、明らかに後付けされている異質な場所を発見する。

 

 そこには高さ3mの両開きの扉があり、その付近の壁には、地球の神話に登場する単眼の巨人であるサイクロプスのような彫刻が2体埋め込まれていた。

 

「ベビー、周辺を警戒」

 

 俊敏態のベビーに周辺を警戒させ、ハジメ自身もアームキャノンに左手を添えて、油断せずに扉に近付く。

 

 よく見ると扉には装飾が施されており、中央には2つの窪みのある魔法陣があった。

 

「見たことのない魔法陣だ」

 

 おもむろに魔法陣に手を伸ばすハジメ。

 

「っ!?」

 

 だが、扉から放たれた赤い放電によって弾き飛ばされてしまった。スーツのエネルギーシールドが若干削られたようだ。

 

 その直後、異変が起こった。

 

「オォォオオオオオオ!!」

 

 突然、雄叫びが響き渡る。ハジメは咄嗟にアームキャノンを声の方向に照準し、構えた。ベビーも同じ方を向き、2本の尾の先からバチバチと電撃を発する。

 

「なるほど、門番か」

 

 ハジメとベビーの目の前にいたのは、先ほど壁に埋め込まれていた2体のサイクロプス。その手には、全長4mの大剣を持っている。

 

 侵入者であるハジメとベビーを睨むサイクロプス達。侵入者を排除すべく体を動かそうとするのだが、先に動き出したのはハジメ達だった。

 

「弱点はそこか?」

 

 アームキャノンを眼球に向け、チャージビームを放つ。チャージビームは眼球を貫通し、右のサイクロプスの脳を焼く。

 

 体の司令塔を失ったサイクロプスは、そのまま前のめりに倒れ、動かなくなった。

 

 

「キュィィィ!!」

 

 一方、左のサイクロプスへと駆け出す俊敏体のベビーは、振り下ろされた大剣を四足歩行による高い機動力で躱す。

 

 そして、その巨体を駆け上がって踏み台にすると、その頭上で剛力態に変化。その豪腕を顔面にねじ込ませ、サイクロプスの眼球を引き抜いた。

 

「グオォォォォォォォォ!?」

 

 顔面を血の噴水に変え、悲鳴を上げるサイクロプス。その足元には、引き抜かれた眼球が転がっていた。

 

 ベビーは間髪入れずに俊敏態に戻って顔面に着地すると、その顔面に噛みついてエネルギーを吸収し始めた。

 

 エネルギーを吸われているサイクロプスの体色は薄くなっていき、緑色から灰色に変わって石のようになる。

 

 全てを吸われた時、サイクロプスの体は砂のように崩れ落ち、その場には1つの魔石が残された。

 

「さて・・・」

 

 ハジメは扉の前に戻り、中央の窪んだ魔法陣を吟味する。すると、その2つの窪みの形に見覚えがあった。

 

「この魔石が鍵か」

 

 それは、先ほど倒したサイクロプスの魔石だった。ハジメはレイヴンを呼び出して短剣の長さにすると、自分が倒した方を切り裂いて魔石を摘出する。

 

 そして、拾い上げたもう1つの魔石と共に窪みにはめ込む。すると、赤黒い光が魔法陣に走り、魔力が供給される。何かが割れるような音の後、少し扉が開いた。

 

 隙間から中を覗き込むと、そこは光源の無い暗黒の世界だった。そこで、ハジメはサーモバイザーを起動させた。

 

 サーモバイザーは赤外線を感知して分析し、サーモグラフィとして表示するバイザーであり、暗闇に潜む敵の存在を暴くことができる。

 

 そして、暗闇の中に一か所だけ熱を放っている場所を発見する。だが、その熱源は人間の上半身の形をしていた。

 

 まさか人間が?と思ったハジメはその正体を確かめるため、扉を完全に開く。扉から差し込んだ光は、熱源のあった場所を照らした。そこにあったのは、光沢のある巨大な立方体の石。ズームして石をよく見ると、ハジメはその石の中央から人間の上半身が生えていることに気が付いた。

 

「・・・・・誰?」

 

 弱々しい女の子の声が聞こえる。

 

 声の主は下半身と両手が立方体の中に埋められており、長い金髪が垂れ下がっている。その髪の隙間から覗いているのは、紅の瞳。年齢は恐らく、12か13といったところだろうか?そして、美しい容姿をしていた。

 

「君は・・・何者だ?」

 

 迷宮の奥に封印されているのだから、危険な存在である可能性がある。そのため、ハジメはアームキャノンを向けて警戒しながら問いかけた。

 

「何故、こんなところに封印されているんだ?」

 

 封印されている理由によっては、ハジメの対応は180度変わるだろう。

 

 金髪の女の子は、枯れた喉に鞭打って自らの境遇を話し始めた。

 

「私、先祖返りの吸血鬼・・・すごい力持ってる・・・だから国の皆のために頑張った。でも・・・ある日・・・家臣の皆・・・お前はもう必要ないって・・・おじ様・・・これからは自分が王だって・・・私・・・それでもよかった・・・でも、私、すごい力あるから危険だって・・・殺せないから・・・封印するって・・・それで、ここに・・・」

 

 何とも酷い話である。

 

「王族か。それで、凄い力というのは?」

 

「自動再生・・・それと魔力の直接操作」

 

 つまるところ、怪我が自動で治る上に、魔法陣や詠唱無しで魔法が使えるのだ。

 

「たすけて・・・」

 

 女の子は、ハジメに懇願した。

 

 

 

 

 

 俺の知識の中で、吸血鬼族は数百年前に滅んでいるはずだった。ということは、彼女は何百年もの長い間、先も見えぬ暗闇の中に幽閉されていたのだろう。普通の人間であれば、間違いなく発狂する。彼女が発狂しなかったのは、尊敬に値する。

 

 彼女の比ではないが、俺も閉じ込められていた経験がある。スペースパイレーツに誘拐されたとき、俺は檻に閉じ込められ、暗闇の船倉に放置された。一寸先は闇。幼い俺は、闇に怯えるだけだった。

 

 だが、そこに一筋の光が差し込んだ。それは、鳥人族の戦士だった。助けてくれた戦士の名は、レイヴンクロー。後に俺をここまで育て上げてくれた、もう1人の父といってもいい存在である。

 

 俺は、彼によって暗闇から救われた。ならば、今度は俺が一筋の光になってみせよう。そして、彼がそうしたように彼女を暗闇から救ってみせよう。

 

 ハジメの意思は、固まった。

 

「任せろ」

 

 アームキャノンを下ろしたハジメはヘルメットのみを解除し、女の子と目を合わせる。女の子は驚いていたが、バリアスーツを着たハジメを人間だと思っていなかったらしい。

 

 ハジメは立方体に左手を当てると、“錬成”によって形を変えようと試みる。だが、立方体の抵抗が強いのか、錬成の効果は少しずつしか現れない。

 

「生半可ではダメか・・・ならば、全力で!」

 

 ハジメは更に錬成を続け、魔力をつぎ込んでいく。その詠唱は、すでに6節分である。

 

 詠唱は終わらない。詠唱が8節分に到達したところで、立方体は震えだした。だが、完全に変形させるには魔力が足りないのは明白。ハジメは、エーテルタンク内の魔力もつぎ込み始めた。

 

 その時、スーツが青白く発光し始める。錬成を続けるにつれて発光は激しくなり、部屋全体を白昼のように照らす。

 

 直後、立方体は融解して流れ落ちる。そして、彼女の裸体が露わになった。

 

 解放された彼女は、ペタリと地面に座り込む。立つ力は今のところ無いようだ。ハジメは、そんな彼女に左手を差し出した。

 

 ハジメの手に反応し、彼女も手を伸ばす。その手は、生まれたての小鹿のように弱々しく、震えている。やがて、彼女の手はハジメの手を握った。ハジメの手には、スーツ越しに熱が伝わってきた。

 

 彼女の目は、ハジメの目を真っすぐに見つめている。覚悟の決まった目だ。

 

「ありがとう・・・」

 

 彼女は、手と同じように震える声でハジメにお礼を言った。

 

「名前・・・何?」

 

「俺はハジメだ。君は?」

 

 名前を聞かれたので、ハジメは答える。そして、聞き返した。

 

「名前、覚えていない・・・」

 

 彼女は、自分の名前を覚えていなかった。

 

「名前、付けて欲しい・・・」

 

「分かった。君に名前をあげよう」

 

 それが、彼女のアイデンティティーとなるのなら。ハジメは、彼女の名前を考え始めた。

 

 光に照らされた彼女の金髪は、まるで夜空に光り輝く月のようだった。“月”を意味する多くの単語が、ハジメの脳内に溢れ出てくる。ハジメはその中から1つを掴み取った。

 

「君の名は、ユエだ」

 

「ユ、ユエ?」

 

 ユエ・・・中国語で月を表す言葉である。

 

「ん・・・今日から私はユエ。ありがとう、ハジメお父様」

 

 ユエは、ハジメのことをお父様と呼んだ。

 

「お父様?」

 

「ハジメは名付けの親。だから、お父様と呼んだ」

 

 ユエにお父様と呼ばれたその時、ハジメは庇護欲を掻き立てられた。

 

「俺が、父親か・・・しょうがないな、父親をやらせてもらおう」

 

 ハジメは、腕輪から外套を取り出すと、ユエに渡した。

 

「父親として娘に裸を晒して欲しくはない。これを着ておけ」

 

 自分が全裸であることに気付いたユエは、真っ赤になると外套を自らの小さな胸に押しつけ、上目遣いで呟いた。

 

「お父様のエッチ」

 

「何とでも言え」

 

 ハジメは、それ以上何も言わなかった。そして、ユエは外套を着るのだが、外套はハジメの私物だったため、身長約140cmの彼女ではぶかぶかだった。

 

 そのまま、ユエはハジメの方へ一歩を踏み出したのだが、ここで異変が起こる。突然、部屋がぼんやりと明るくなったのだ。

 

 ぼんやりと明るくなった封印部屋。気配を感じてハジメが天井を見上げると、そこには大きな目玉があった。

 

「目玉?いや、違う!!」

 

 それは、目玉の模様のある巨大な白い甲虫だった。そして、その周辺には何処からか這い出てきた紫色の小さな甲虫の軍団が蠢いていた。

 

「!?」

 

 目玉模様の甲虫を中心に紫色の小さな甲虫達が集まっていき、紫色の塊を形成する。その数は100匹や200匹では収まらず、1000匹以上いるのは確定だ。大きな塊に成長したそいつは、地面に落ちてきた。

 

 地面に落ちた紫の塊は急激にその質量を膨らませ、ギチギチと音を立てて巨大化する。まるで、一本の苗が大木に成長していく様を早送りで見ているかのようだ。

 

 その巨大化した姿を例えるなら、三角のワイングラスだろう。それも、高さ12mというおまけ付きではあるが。

 

 目玉の甲虫が埋め込まれている逆三角形の部分から生えているのは、鞭状の腕。腕を含めた体全体が、小さな甲虫の集まりによって構成されていた。

 

「グォォォォォォォォン!!!」

 

 3階建てのビルと同等の高さの巨大集合体は、前のめりになってハジメ達を威嚇した。

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