「南雲ハジメ。我らフェアベルゲンの長老衆は、お前さんを“鳥人族の後継者”として認める。また、本日をもって魔力を持って生まれた同胞に対する差別的な扱いを廃止し、保護するものとする」
熊人族不在で始まった長老会議は、最終的に2つの結論を出した。1つは、ハジメを“鳥人族の後継者”として認定すること。もう1つは、魔力持ちの亜人に対する迫害をやめて保護するということだ。それに伴い、シアとハウリア族は無罪となる。
長老会議での決め事は全会一致が原則であるのだが、ハジメを“鳥人族の後継者”として認めることについては、すんなりと全会一致で可決した。条件と完全に一致していたし、亜人達に対して差別的なこともしなかったため、印象が良かったのだろう。
ただ、忌み子に対する差別撤廃に関しては一悶着あった。森人族のアルフレリックは勿論のこと、元より差別意識がそこまで強い訳ではなかった狐人族のルアや翼人族のマオはすぐに賛成したが、比較的過激派の部類に入る虎人族のゼルと土人族のグゼは難色を示した。
ゼルは同族がハウリア族によって包囲されたことを、グゼは仲の良かったジンがシアによって制圧されたことをそれぞれ根に持っており、反対派へ回るに至った。
一応、ゼルはグゼと比べてそこまで頭に血が上っていなかったため、説得に応じて最終的に賛成派へ回っている。熊人族が不慮の事故で不参加だったことが、過激派の劣勢に拍車をかけているといっていい。
最後までしぶとく抵抗していたのがグゼであった。アルフレリックら穏健派の説得では殆ど効果がなく、穏健派と何らかの裏取引をしたゼルが説得したことで、ようやく全会一致となった。
「このように我々は決定したわけだが、基本的に亜人族は魔力を持った他種族を嫌う。我々の通達を無視してお前さんやハウリア族を襲おうとする、血気盛んな者がいる可能性も否定できない。もしもその時は、襲った者達を殺さないで欲しい」
「可能な限り努力はしましょう」
殺意を持って向かってくる相手を不殺で制圧するのは難しい。やり過ぎれば相手を殺してしまうし、中途半端にやれば自分の命が危うくなるからだ。
「すまんな…」
“鳥人族の後継者”として認められたハジメは、大樹への案内とアイテムの譲渡を受けることになったのだが、大樹の周囲は亜人族が迷う程に霧が濃く、その霧が薄くなる周期が10日後に来るらしく、大樹への案内はお預けとなった。そして、その日の内にアイテムが譲渡されることになった。
「ここには鳥人族の遺産が残されている」
ハジメ達はフェアベルゲンの地下に案内された。この場所は、長老衆やその他認められた者しか入ることのできない区画となっている。アルフレリックの先導で通路を進んでいくのだが、その壁には古代鳥人族の戦士の壁画や刻印された鳥人族の文字が多く見受けられた。
「フェアベルゲンの地下にこんな所があったんですね!何だかワクワクします!」
まるで、遊びに来たかのようにシアが騒ぐ。
(おいおい、ここはテーマパークじゃないぞ…)
ハジメはそんなシアに、内心ツッコミを入れた。
そうこうしている内に、彼らは通路の終点に辿り着く。そこは少し広い空間となっていて、通路と同様に壁画が見受けられた。そして、奥には鳥人像が座っており、その手にはアビリティスフィアが握られている。
アルフレリックはハジメ達の前に出ると、鳥人像を背にして宣言する。
「本日をもって、当該遺産を“鳥人族の後継者”南雲ハジメに引き渡すものとする」
アルフレリックが鳥人像の前から退いた後、ハジメはアビリティスフィアをパワービームで撃ち抜き、中のアイテムはスーツに吸収された。
『スペイザーを入手しました』
『出力が高められた3本のビームが同時に発射され、攻撃範囲が広がります。なお、ディフュージョンビームとの併用は不可能です』
ハジメはスペイザーを入手した。主に一対多の戦闘で使用され、ディフュージョンビームと役割が重なってしまうが、最大チャージが必要なそれとは異なり、このビームは手数の面で優れている。
することを終えたハジメ達は地上に戻るのだが、そこでは大きな異変が起きていた。
地上に出てすぐに飛び込んできたのは、人々が同じ方向に逃げている光景だった。人々が来た方向では、フェアベルゲンの街を構成している大木の数々が炎に包まれ、焼け落ちていく。
激しく炎上し、黒煙が立ち上るその区画を闊歩する者達がいた。それも、ただ歩き回っているわけではない。兵士や逃げ遅れた人々を虐殺して回っており、女子供に対しても慈悲はない。すぐさま、死体の山に放り込まれる。
甲殻類や昆虫を人型にしたような彼らは装甲を身に纏っており、個体によって差異はあるものの、右腕に射撃武装、左腕に近接武装を装備するスタイルで統一されている。彼らはスペースパイレーツ。ハジメの宿敵である。
そのスペースパイレーツが、フェアベルゲンに襲来したのだ。ハジメが確認しただけで、その数はおよそ100体。彼らは技術レベルでトータスの先を行っており、強力な武装によってフェアベルゲンの兵士達を蹴散らしていた。
「スペースパイレーツ…何故、ここに?」
ハジメとしては、パイレーツがフェアベルゲンに攻めてくることなど想定外であった。霧に包まれている樹海は、亜人族でなければ迷ってしまうのだから。
だが、驚いている暇など無い。宿敵であるスペースパイレーツが現在進行形で破壊活動に勤しんでおり、それを止める以外の選択肢は存在しないのだ。
「長老殿、連中は私の宿敵…スペースパイレーツです。あなた方の装備では連中に勝てません。そこで、撃退を我々に任せてくれないだろうか?」
ハジメは、襲撃を受けたことに動揺していたアルフレリックに提案する、
「ありがたいが、この国にはお前さんのことをよく思わない者もいるだろう。それでも、お前さんはこの国を守るのか?」
「私は、罪無き人々が連中によって傷つけられるのを黙って見ていられません。私のことをよく思わない人々であっても然りです。私は、戦って信頼を勝ち取ります」
ハジメは、自身を良く思わない者も救うつもりだった。そして、彼らを救うことで信頼を勝ち取ろうとしていた。
「お前さん……いや、南雲殿…」
そんなハジメに圧倒されたアルフレリックは、思わず彼に対する呼び方を変える。
「フェアベルゲンを…亜人族を頼む…」
アルフレリックはハジメに頭を下げた。
「師匠…フェアベルゲンが…燃えてます…」
「ん……酷い…」
「なんて鬼畜な連中だ…こいつらが、大将の言っていたスペースパイレーツ…」
シアが、ユエが、カムが口々に言う。皆、言いたいことは同じだ。他のハウリア達も無残な光景に嘆いたり、スペースパイレーツへの怒りを露わにしている。が、ハジメは沈黙していた。
内心、ハジメは怒りに震えていた。だが、今のハジメはハウリア達の指導者的存在でもある。指導者たるもの、冷静さを欠いてはいけないのだ。
「これから我々はスペースパイレーツと交戦する。その為、近接武装の振動刃機能の使用を許可する。そして、パルはビームボウガンの使用を許可する」
すると、カム達は各自の得物を取り出し、スイッチを入れて振動刃機能を点検していく。
「この時を待ってたぜ」
一方、狙撃兵のパルは、弓の部分を垂直に配したボウガンのような武器を手にする。これはビームボウガンという武器であり、これもまたハジメが製作したものだ。後部のハンドルを引くことでエネルギーをチャージし、放すことで長射程・高威力の一撃を発射できる。なお、連射できないことが弱点である。
「ユエ…シア……これから厳しい戦いになるかもしれない。力を貸してくれ…」
「お父様、覚悟はできてる」
「師匠のためなら頑張れますよ!」
2人ともやる気は満々である。更には、ユエのリュックの中からベビーメトロイドも飛び出してきて、自分もやる気があると言わんばかりに一回転し、俊敏態に姿を変えるとユエを騎乗させた。
「ありがとう。ユエ、シア、ベビー」
戦う者達が出揃った。ユエとベビーを除いた全員がパワードスーツを装着している。
ユエがパワードスーツを装着しない理由は、パワードスーツを装着している際の感覚があまり得意でないからだ。というのも、スーツが体に密着している感覚から、奈落に封印されていた時のことを思い出してしまうらしい。
防御面で心配があるが、ユエには“自動再生”があるし、飛び道具を自動的に弾くリフレクター*1をハジメが持たせている。一応、雨が降っていたり周囲が過酷な環境でスーツを装着しなければならない状況であれば、その辺の事情も割り切ることができるようだが。
「フェアベルゲンは一部が連中によって占領され、そこにいた人々は多くが虐殺されている。我々の後ろには、まだ多くのフェアベルゲンの人々がいることを忘れるな」
ハジメ達がいる場所はフェアベルゲンの中心部であり、背後には入ってきた門が見える。そして、パイレーツの攻撃を受けた地域から避難してきた人々で溢れている。
「各自、散開して敵に対処しろ。戦闘開始!」
ハジメの合図で戦士達は散開し、逃げる人々の流れに逆らって戦場に向かった。
「パイレーツ共!この俺が相手になるぞ!」
パイレーツ達はそれを見た。幾度と無くパイレーツの前に立ち塞がり、多くの同胞を殺してきたパワードスーツの戦士の姿を。そして、彼らが仰ぐ新たな指導者と瓜二つなその姿を。彼らは、その姿に動揺した。
ハジメはアームキャノン内でエネルギーを増幅し、浮き足立つパイレーツの集団に向けて放つ。最大威力のビームが3発同時に放たれ、横並びになっていた3体のパイレーツを同時に撃破した。
隊長と思われる少し練度が高いパイレーツが反応して発砲するが、手遅れだ。ハジメは既に“瞬発”によって地面を蹴っており、放たれた光弾の下を低い姿勢で通過して至近距離に迫る。
「グギャァ!?」
そして、アームキャノンによる正拳突きが頭に叩き込まれる。その一撃で頭の外骨格が歪み、続けて砲口から発生した爆発で完全に粉砕された。
「さて、次は誰から殺られたい?リクエストには答えてやる」
その瞬間、パイレーツ達が次々と襲いかかってきた。
左側から斬りかかってくる敵の頭を裏拳で砕き、同時に右側の敵を最大チャージのスペイザービームで掃討する。前方の集団に対してはスーパーミサイルを発射し、その強力な爆風で纏めて始末した。
その隙を狙って背後のパイレーツが発砲するが、瞬時にモーフボールに変形して回避し、そのまま転がることでパイレーツの後ろに回り込むと、人型に戻る。
「残念だったな」
背後からパイレーツの首を絞めながら、その首にアームキャノンを突き付け、ビームを最大チャージして放つ。至近距離から放たれたそれは、パイレーツにとって致命的な攻撃であった。
同じ頃、別の場所でシアが戦っていた。
瓦礫の物陰から量産型バリアスーツを纏ったシアが空に飛び出し、パイレーツの集団の頭上で戦鎚を上段に振りかぶる。
「うりゃぁぁぁぁ!!」
落下しながら戦鎚を振り下ろし、シアは真下にいた運の悪いパイレーツを叩き潰す。その際の衝撃波は凄まじく、周囲にいたパイレーツを吹き飛ばしている。
「はっ!?」
“未来視”が勝手に発動し、シアは自らに迫る危険を察知する。シアがその場を飛び退いた直後、飛来してきた球体が爆発した。
その正体はグレネード。スーツを装着しているとはいえ、その直撃を受ければただでは済まないだろう。
「あなたの仕業ですか?」
シアの目線の先、彼女から少し離れた場所にグレネードランチャーを装備したパイレーツ戦闘員、グレネードパイレーツが立っており、その周囲を10体程のパイレーツが固めている。
パイレーツは
「お返しです!」
シアは飛来したグレネードを戦鎚で打ち返す。そのグレネードは発射した張本人の足元に落下し、爆発。周囲のパイレーツ達も巻き込まれ、仲間の武器で散る結果となった。
直後、シアは四方八方から殺意に晒される。それは、最初の衝撃波で吹き飛ばされ、再び起き上がったパイレーツ達のもの。全員がボロボロになっているが、殺意だけは衰えないらしい。
「ここを、あなた達の死に場所にしてあげます!」
シアは最も近くにいたパイレーツに狙いを定めると、一気に距離を詰めて横薙ぎに戦鎚を振るう。直撃を受けたパイレーツは内臓を損傷し、血と装甲の破片を撒き散らして吹き飛んだ。
「“風刃”」
風の刃が飛び、パイレーツの首を切断する。ベビーに騎乗しているユエは、戦場を駆け回りながら弓騎兵の如く魔法を放っていた。
「行くよ、ベビー」
パイレーツ達は素早く動き回るユエに翻弄されており、効果的な対応が全くできていない。射撃も尽く躱され、接近戦をしようにも近付くことすら許されない。
「“破断”」
細いレーザーのような水流が飛び、パイレーツの1体を貫通する。移動しながら放ったために水のレーザーが水平移動し、進路上にいたパイレーツを次々と両断した。
「“緋槍”」
射出された炎の槍がパイレーツの頭に深々と突き刺さり、パイレーツは脳の組織を焼き焦がされて死に至る。
カム達も奮戦していた。
カム達精鋭の7人は得意とする隠密行動と連携を駆使し、数で勝るパイレーツと対等に渡り合っている。
「タイミングを合わせろ……3……2……1……今!」
陽動作戦でパイレーツを指定したポイントに誘い込んだ彼らは、物陰に隠れながらそれぞれの獲物の背後に接近し、カムのカウントで同時に襲いかかる。パイレーツ達は物陰に引きずり込まれ、その首を刎ねられた。
同時に行われた襲撃にパイレーツは対応できず、隊長クラスのパイレーツが気付いた時には、配下の大半が消えている有り様だ。
時折、戦場を一筋の光芒が走り、パイレーツの頭を一撃で撃ち抜いていく。これは、ビームボウガンを使用したパルによる狙撃である。
「狙い撃つぜ…」
パルは木の上に陣取って狙撃している。敵に狙いを定め、後部のハンドルを引いてエネルギーをチャージ。ハンドルを離すと高威力で長射程のビームが吸い込まれるようにして敵の頭に直撃する。
部隊が壊滅して散り散りとなったパイレーツなど、ただのカカシだ。残された選択肢は、首を刎ねられるか狙撃されるかのどちらかであるが、死という運命は変わらない。
その後も、パイレーツ地上部隊はハジメ達によって蹂躙され続けた。ビームや魔法を撃ち込まれ、鈍器で叩き潰され、背後から首を刈り取られる。ハジメ達の攻撃に対し、パイレーツ達に為す術は無い。1人、また1人と同胞が倒れていき、数の上では有利だったはずのパイレーツの勢力が急速に衰退する。逃げ出す者も現れ、フェアベルゲンを襲ったパイレーツ地上部隊は壊滅した。
この戦いは、ハジメ達の勝利に終わった。だが、忘れてはならない。スペースパイレーツの手によって多くの罪無き人々の命が奪われたということを。
やっとモーフボールを出せた。