本作のハジメ君、黒髪や眼帯が無いことを除けば、容姿と身長は原作における変貌後のハジメ君と同じですが、性格や思考パターンは異なります。
翌朝
「いただきます」
俺とレイヴンは両親と共に朝食を食べていた。朝食の中身は、ご飯に味噌汁、焼き魚、納豆、きゅうりの漬物といったスタンダードなもの。だが、10年ぶりの和食である。俺は懐かしい味を噛みしめた。
「ハジメ、このネバネバした豆はとても旨い」
隣ではレイヴンクローが箸を使って納豆を食べている。鳥人族は人間よりも体が大きいため、ソファーを椅子の代わりにして食事をとっていた。
「おっさん、そいつは納豆だ」
どうやら、レイヴンは納豆が好きになったらしい。外国人はあまり納豆を好まないと聞いたことがあるが、宇宙人だと色々と違うな。
「ナットウというのか。これは是非持ち帰りたい。愁殿、このナットウという食べ物を幾つか融通していただけないだろうか?」
「え?まあ、構いませんよ。今までハジメを育ててくれた恩もありますので」
なお、レイヴンクローは後1週間程地球に滞在するが、その間に様々な地球の文化にハマり、持ち帰る土産が増えてしまう。だが、それはまた別の話だ。
朝食後、レイヴンクローは俺の両親と話し合いをしていたのだが、行方不明だった俺が帰ってきたことは公表することになったらしい。
「で、俺は記憶が無いことにしておくと」
10年も行方不明だった人が帰ってきた。そんなことを知ったマスコミや記者は間違いなく飛び付いてくるだろうし、俺の身に何が起こったのか知りたいはずだ。しつこい取材を避けるためには、そうすることが必要だろう。
そして、数日後に公表された。有名な漫画家とゲーム会社社長の行方不明になった息子が10年経って帰ってきたというニュースは、各種マスコミやインターネット、SNSを通じて日本全国に伝達される。記憶喪失ということにしたお陰で、しつこい取材は無かった。
情報が広がった後、南雲家のインターホンが鳴らされる。俺が受話器を取ってみると、「白崎」と名乗る少女の声が聞こえてくる。まさか、香織?
俺は玄関に急ぐと、扉を開ける。そこには、艶やかな黒髪の美少女がいた。彼女は俺の目をじっと見つめる。
「ハジメ・・・君?」
香織はすぐ俺のことに気付いてくれた。それにしても綺麗だ。将来、香織は間違いなく美少女になると、6歳の時に思ったことを思い出す。
「香織・・・綺麗になったな」
俺は香織と抱き合う。
「ハジメ君、元気そうで良かった…」
香織は涙をボロボロと流している。それでは、香織の綺麗な顔が台無しだ。俺は指で涙を拭ってやる。
「ありがとう、忘れないでいてくれて」
幼馴染との10年ぶりの再会。6歳の時で止まってしまった時間は、ようやく動き出した。
ここ1年、俺は高校に通っている。というのも、帰ってきたことが公表されてから様々な検査を受け、その内の1つが学力検査だったのだが、中学3年生レベルの問題を普通に解けたことで、高校に通っても問題ないことになった。ゼーベスで高度な教育を受けたお陰だ。
俺は香織と同じ高校を受験し、普通に合格した。最初は香織と異なるクラスだったが、2年生になって同じクラスとなった。
後に、とある事件によって今のクラスメイトと深く関わることになるのを、まだこの時のハジメは知らない。
ハジメの朝は早い。早起きしてジョギングし、公園で筋トレやシャドーボクシング、時には棒術の訓練をする。これは、再びゼーベスに帰る時に体が鈍っていない状態にするためだ。家に帰ると母の作った栄養満点の朝食を食べる。そしてベビーメトロイドと戯れた後、荷物を持って学校に向かう。ベビーが荷物の中に隠れ、学校に付いてきてしまうのはいつものことだ。
「ハジメ君、おはよう!」
教室に入ったハジメは、窓際の一番後ろにある自席に座って本を読んでいた。そこに、香織が歩み寄ってくる。
「おはよう、香織」
香織に挨拶を返すのだが、クラスメイトの一部、それも男子からの敵愾心を乗せた視線が一斉に突き刺さる。だが、ハジメによれば「スペースパイレーツや原生生物が向けてきた殺気と比べたら、可愛いものだ」とのこと。
ハジメの容姿はイケメンでも不細工でもなく、平凡そのものだ。一方、香織は学校で二大女神と言われ、絶大な人気を誇る美少女だ。敵愾心を向けてくる者達は、ハジメが幼馴染というだけで二大女神の1人である香織と親しく、互いに下の名前で呼びあっているのが気に入らないのだろう。
ハジメの授業態度は良好で、朝は鍛練をしている関係上、早寝のため居眠りは決してしない。勉強について質問すれば、分かりやすい説明をしてくれる。そのため、大半の者はハジメに対して悪い印象は抱いていない。敵愾心を向けてくる者は少数に過ぎないので、ハジメは無視していた。
ハジメは香織との会話を楽しむのだが、そこに乱入者が現れる。
「香織、記憶喪失で可哀想なのは分かるが、また南雲に構っているのか?」
そんなことを抜かす彼は、天之河光輝。容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人。それに加え、身長約180cm、引き締まった体、サラサラの茶髪に優しげな瞳、強い正義感を持つモテ男。
その特徴を聞くなら、彼は最高の人間だろう。だが、彼は思い込みが激しい人間。先ほどの発言もそうだ。
光輝は香織がハジメに話しかけた理由を、幼馴染であることに加え、ハジメが記憶喪失(嘘)で可哀想だから話しかけていると考えている。
幼馴染だからというのは間違いではないが、実際のところ香織はハジメのことが好きであり、休日はハジメと一緒に出かけることもある間柄だ。
また、光輝はハジメと香織が一緒に出掛けていることも知っているが、可哀想なハジメのため、香織が貴重な休日の時間を割いてあげていると思っている。
「光輝君、何言ってるの?私は楽しいからハジメ君と話しているだけだよ?」
「え?ああ、本当に香織は優しいよな」
光輝は香織がハジメに気を遣ったと思い込んでいる。いつも通りの光輝であった。
「光輝、また南雲君に構って欲しいのかしら?」
そんなことを言いながら、今度はとある女子生徒が現れる。彼女の名は八重樫雫。二大女神の片割れであり、香織の親友だ。身長172cm、長い黒髪のポニーテール、侍を彷彿とさせる凛とした雰囲気。
その雰囲気の通り、雫は剣道の大会で何度も優勝している猛者であり、彼女の実家は剣道場を営んでいる。ちなみに、光輝もそこの門下生であり、彼女の幼馴染だ。そして、美少女剣士として取材をよく受ける彼女は、年下の女子から「お姉さま」と呼ばれて慕われている。
ハジメが彼女の戦闘能力を鳥人族に紹介したところ、大半のマオキン族の戦士達が見惚れ、彼女のファンクラブができてしまったという。
「し、雫?!別に南雲に構って欲しいわけじゃ・・」
雫の発言が余程効いたのか、天之河は逃げるように去っていった。
「南雲君、うちの光輝がごめんなさいね」
光輝がハジメと香織にちょっかいを出し、まるで光輝の母親であるかのように雫がハジメに謝罪する。いつも通りの光景であった。
だが、いつも通りの学校生活は突然終わる。
それは、ちょうど昼食のときだった。教室にはクラスの全員と担任の畑山愛子先生がいたのだが、天之河の足元が突然光り始める。その光は、魔法陣に変化すると更に輝きを強めていく。
「皆!教室から出て!」
危険を感じた先生がすぐに教室から出るように叫ぶが、時すでに遅し。
その時、俺は教室から離脱できなかった。鳥人族の遺伝子による身体能力を使えば、窓を突き破って飛び降りることで脱出することだって可能だっただろう。だが、それでは香織を離脱させることができない。俺は、香織の傍に残った。
その後、魔法陣から強烈な閃光が発され、光が消失した時には教室にいた者全てが何処かに消えていた。この事件は、白昼の教室で起きた集団神隠しとして世間を騒がせることとなる。
「菫殿、愁殿、話は聞いています」
ハジメ行方不明の報を聞いたレイヴンクローは急いで地球に飛び、南雲家を訪れていた。
「ハジメの通っていた高校ですが、我々が極秘に調査したところ、例の教室に空間が歪んだ痕跡がありました。こちらの科学者によると、スターシップによるワープの際に発生する歪みに似ているそうです。つまり・・・」
「高度な技術を持った何者かが空間を歪ませて教室の人間を誘拐した?」
愁はレイヴンの言葉に続けた。
「ということになります、愁殿」
「ハジメは、帰ってくるのでしょうか?」
菫は心配そうな表情だ。
「お二方、ハジメは鳥人族の叡知と力を受け継ぐ、鳥人族の後継者であり、