ヤマト2198 第二次火星沖海戦 The ORIGIN   作:岩波命自

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 去年の七月にふと思い立ってその場の勢いで書き始めたヤマト二次創作の第二話です。


Episode2

「六時方向に艦影多数出現!」

「なに!?」

 ガミラス艦隊旗艦ゲルマルクの艦橋でリッテンス達がオペレーターの報告に驚いた時、ゲルマルクの右手を航行していたデストリア級航宙重巡洋艦が飛来して来た光弾にエンジンノズルを撃ち抜かれる。

 どんなに装甲で艦体を包んでも、エンジンノズルまで防御を施すのはガミラスと言えど不可能だ。

 エンジンノズルを狙撃されたデストリア級が航行不能になって隊列から落伍していく。

「第五巡洋艦戦隊にダメージ」

「第五巡洋艦戦隊二番艦より入電。我機関部に被弾、航行不能」

 迅速なダメージコントロールによってエンジンノズルを撃たれたデストリア級は辛うじて誘爆、轟沈は免れるが、その間にリッテンス艦隊の後背に出現した二四隻のオレンジの艦体色の艦艇は宙雷艇の様な素早い機動でリッテンス艦隊の艦艇のエンジンノズルを狙撃していく。

 あっという間にクリピテラ級駆逐艦三隻、ケルカピア級巡洋艦三隻、デストリア級一隻がエンジンノズルを狙撃されて航行不能に陥る。クリピテラ級の一隻はダメージコントロールが間に合わず、機関部が爆発して爆沈する。

 モニターに表示される味方艦八隻を使い物にならなくした艦影を見て、リッテンスは唇を噛んだ。行方が分からなくなっていた二四隻のテロン艦だ。

 出現した場所はついさっき艦隊の後背を通り過ぎたデブリ群。あの中に隠れてこちらの背中を取ったのは間違いない。もう少しスマルヒで入念に偵察していれば、と思うと悔やまれた。

「テロン人め……。デブリに隠れて背中から撃って来るとは」

 ガミラスでも敵の背中から撃つのは卑劣なやり方、と言う認識はある。テロン人としては火力差を埋めるにはそれしか手が無かったのだろうとは言え、やられてみればリッテンスも流石に腹立たしいものがある。

「駆逐艦戦隊、迎撃せよ」

 味方艦八隻の撃沈破に早くも浮足立ちかけるゲルマルクの司令部参謀や乗員を鎮めるのも兼ねて、リッテンスは二四隻のテロン艦迎撃をクリピテラ級で構成される駆逐艦戦隊に命じる。

 三七隻のクリピテラ級駆逐艦が即座に反転し、艦隊へビーム砲の光弾を叩き付けて来るテロン艦迎撃に入る。

 テロン艦の砲撃は相変わらずドアノッカーと評せる程度の威力しかない。飛来する黄色いビームの火箭はエンジンノズルに当たれば大ダメージを与えて来るとは言え、それ以外の箇所であればガミラス艦艇の装甲が弾いていた。

 自分達の火力ではどうにもならない事は無論承知なのだろう。二四隻のテロン艦はクリピテラ級駆逐艦三七隻が向かってくるのを見るや、宙雷艇さながらの高機動と速力で動き始める。

 クリピテラ級駆逐艦もガミラス艦艇の中では機動力に優れた艦艇だが、テロン艦の機動力はそれは凌駕していた。いや、これまでに交戦したテロン艦の中では一番の機動力を持っていると言っていい。

 これにガミラス艦艇の装甲を撃ち抜ける火力も備わっていたら、脅威度は更に高くなっていたかもしれない。

 しかし、結局はテロン艦。装甲面は大した事は無いらしい。クリピテラ級駆逐艦の援護射撃を行うケルカピア級とデストリア級の集中砲火を前に被弾した一隻が爆散し、続けて二隻が被弾し、黒煙を吹きながら速力を落としていく。

 クリピテラ級駆逐艦の迎撃を受け三隻を喪ったテロン艦は怯む事無く、エンジンノズルから噴煙を吐きながら猛スピードで艦隊内に突入して来る。

 敵然での回頭は危険とは言え、相手はテロン艦。その火力はガミラス艦艇の装甲を撃ち抜けない。寧ろ背中を晒しているとまたエンジンノズルを狙撃されかねない。

 リッテンスは敢えて全艦に回頭を指示し、全砲門を開いてテロン艦への攻撃を指示した。

 舵を切って側面を晒すガミラス艦艇の舷側にテロン艦からの砲撃が次々に命中するが、鈍い反響音と共にその光弾は弾かれる。

 逆に回頭したガミラス艦艇の砲撃が飛び回るテロン艦へと延びて行く。二隻がガミラス艦艇の赤い陽電子ビームに捉えられ爆発四散する。

 先に被弾して速力を落としていたテロン艦二隻もクリピテラ級駆逐艦の後部主砲の連射を浴びて瞬く間に轟沈する。

 爆沈するテロン艦を見て、リッテンスはある事に気が付いた。機動性は確かに高いが、火力は既存のテロン艦と大差ない。一方で防御力に関しては紙装甲と言えるレベルだ。

 ガミラス側でも既知のテロンの巡洋艦や戦艦、空母でもクリピテラ級駆逐艦の砲撃くらいならまだ耐えられる事があるガミラス艦艇の砲撃を前に、目の前のテロン艦はそのクリピテラ級駆逐艦の砲撃を受けるやあっさり爆沈している。

 戦時急増艦艇か、旧式化して予備役編入されていた老朽艦を引っ張り出して来たのかも知れない。

「テロン人も辛いのだな」

 敵とは言え、何か同情するモノを覚える。

 そんな私情を覚えながらもリッテンスは私情とは関係なしに攻撃を続行させる。

 だが、味方艦五隻撃沈に目をくれることなく残る一九隻のテロン艦は非力な主砲を撃ち放ち、攻撃の手を緩める事は無い。それどころか、砲撃を浴びせて来るガミラス艦隊に向かって突撃し始める。

 ゲルマルク目掛けて一隻のテロン艦が突入して来るのを見たデストリア級二隻とケルカピア級一隻が、その前に立ちふさがって集中砲火を浴びせる。しかし、スラスターを吹かして飛来するビームの火箭を片っ端から躱していくテロン艦の機動力を前に中々命中弾が出ない。

「まさか、特攻する気か!? 突っ込まれる前に何としても撃沈しろ!」

 呻く様に叫ぶヴィンデマンが砲術長に発破をかける。

 集中砲火を浴びてもいやらしい程の機動力で全弾回避していくテロン艦をリッテンスは凝視する。相対距離がどんどん縮まっていき、艦橋内に乗員のざわめく声が響く。

 体当たりを食らったら流石にガイデロール級戦艦と言えどタダでは済まない。随伴艦だけでなく、ゲルマルクの主砲も砲撃を浴びせてテロン艦を仕留めようとするが浴びせられる陽電子ビームの光弾はテロン艦を捉えるには至らない。

 手を伸ばせばもう届きそうな距離にまで急接近して来たテロン艦の主砲が火を噴き、ゲルマルクの艦体にビームの火箭を突き立てる。流石にこの距離からの直撃を受けるとゲルマルクの艦体も大きく揺れた。

 主砲を撃ちこんだテロン艦は更に二発の魚雷を発射し、即座にポップアップ。ゲルマルクの頭上すれすれを轟音を立てながら通り過ぎていく。

 艦橋の上を通り過ぎていくテロン艦をリッテンスが無言で見つめていると、テロン艦が放った魚雷二発がゲルマルクの舷側に命中した。

 爆発音と共にぐらりとゲルマルクの艦体が震える。

「被害確認!」

 ヴィンデマンの叫び声が飛ぶ。

「右舷第三デッキに被弾、損害は軽微」

 直ぐに上げられた被害報告にヴィンデマンが安堵の溜息を吐く。

 しかし、同じように肉薄攻撃を受けたケルカピア級一隻が大破していた。ビームを撃ち込んでケルカピア級の装甲にダメージを与えたところにピンポイントで魚雷二発を命中させたテロン艦は、別のケルカピア級の砲撃を食らって爆沈する。

「第一六巡洋艦戦隊四番艦、大破。航行不能です」

 

 

「いいぞ、これなら狙いを正確に付けるまでも無い。戦術長、撃って撃って撃ちまくれぇ!」」

 オリンパス戦隊の旗艦オリンパス・モンスの艦橋でフィリオンはブリッジの窓から見えるガミラス艦隊を眺めながら各艦の戦術長に発破をかける。

 密集隊形を取っているガミラス艦隊にオリンパス・モンス級巡洋艦の高圧増幅光線砲の黄色い光芒が突き立てられ、駆逐艦級のガミラス艦が直撃でぐらりと艦体を揺るがす。

 二門しかないオリンパス・モンスの魚雷発射管から魚雷が発射され、巡洋艦級に航跡の様な噴煙を伸ばしていき、一拍おいて直撃の閃光と爆炎が巡洋艦級の舷側で炸裂する。

 オリンパス戦隊の攻撃はガミラス艦艇のエンジンノズルを狙撃して撃破した例を除けば、その全ての攻撃が弾かれていた。オリンパス戦隊の主砲は国連宇宙海軍の艦艇にも引けを取らない出力の高圧増幅光線砲ではあるが、それでもガミラス艦艇の装甲を前には火力不足だった。

 しかし、オリンパス戦隊の突入は無駄では無かった。後背からの突入でガミラス艦隊の陣形は大いに乱れ、衝突寸前のところでギリギリ回避している艦も見受けられる。

 混乱するガミラス艦隊にオリンパス戦隊の各艦はその機動力を持って戦闘機の様な動きでガミラス艦隊の間を縫って飛び交い、高圧増幅光線砲を叩き付け、魚雷を撃ちこむ。

 被弾して撃破されたオリンパス・モンス級も少なくは無かったが、それでも持ち前の機動力を生かしてガミラス艦艇九隻を撃沈破してのけたオリンパス戦隊は魚雷の残弾が尽き、主砲の砲身が過熱して一時発砲不能になるまで暴れまわると一転、今度は離脱に入った。

 

 

 奇襲を仕掛けて来たテロン艦二四隻を各個に返り討ちにしていたリッテンス艦隊だったが、その突入を受けて混乱した艦隊の隊列は乱れに乱れ、衝突事故が起き欠ける事もしばしばだった。それが起きなかったのはひとえに高度な練度を誇るザルツ人旅団員の技量あってこそで、乱れた隊列も五分程度で再び元通りになった。

 だが九隻の艦艇が撃破ないし撃沈されていた。思わぬ損害に唇をかみしめるリッテンスに参謀達が伺う視線を寄こす。

「戦闘航行不能な艦はどうします?」

 参謀の問いにリッテンスはしばし考えを巡らせる。

 艦隊の損害は八隻が損傷、一隻が撃沈。艦隊全体で見れば大した損害ではない。とは言え、損傷艦を放っておくわけにはいかない。送り狼の様なテロン人の伏兵戦力が損傷艦を襲うかもしない。ここはテロン人の庭なのだ。

「後方の揚陸艦隊に回収を要請する。我々は残るテロン艦の掃討に当たろう」

「了解です」

 損傷艦八隻を置いて、リッテンス艦隊は離脱にかかるテロン艦追撃に入った。最初は二四隻もいたテロン艦もガミラス艦隊の迎撃によって一〇隻程度に数を減らしていた。

 

 

「パヴォニス・モンス、アレス・パリス、ケンタウリ、エチェス、ペラエア、フレグラ、ネレイドゥム、リビア、ラべアティス、アルギル、アルシア、アスクレウス、チャルケ撃沈」

 一三隻ものオリンパス・モンス級巡洋艦が撃沈され、一一三一名の乗員が火星の沖の宇宙に消えた。

 散った同胞に思いを馳せる間もなく、フィリオンは残存艦を率いてガミラス艦隊誘引の第二段階へと突入した。

 残る一一隻のオリンパス戦隊は事前に敷設したデブリ群と機雷群へと進路を取っていた。味方艦を複数隻撃沈破されたガミラス艦隊は残るオリンパス戦隊を追撃しにかかっていた。

「いいぞ、追って来い。ここからが見せ場だ」

 不敵な笑みを浮かべて追撃して来るガミラス艦隊を見るフィリオンの背後で、ガミラス艦隊の追撃の砲撃を受けたオリンパス・モンス級巡洋艦一隻が被弾する。

「シレヌム大破、航行不能」

「シレヌムより通信。『各艦は我に構わず前進されたし、火星と地球よ永遠なれ!』」

 被弾艦からの通信を通信士が読み上げた時、とどめの一撃を受けたシレヌムが爆沈する。

 真空の宇宙越しにも響くシレヌム爆沈の衝撃波で微かに震えるオリンパス・モンスの艦橋内に感傷に浸る猶予は無い。目の前に広がるのはデブリと機雷源。敵味方の区別なしに当たったたら最後の難所だ。

「航海長、鍛え上げた操舵の腕の真価の見せ所だぞ!」

「了解!」

 残り一〇隻のオリンパス戦隊は減速する事無くデブリ源と機雷源に突入した。

 

 

 デブリと機雷を回避するために複雑な軌道を取るオリンパス戦隊は傍目にはガミラス艦隊の攻撃を回避するために複雑な回避機動を取っている様にも見えた。

 しかし、先行するクリピテラ級駆逐艦三隻が事前に敷設されていたのか、それともタイミング悪く差し掛かったのかデブリ群の中に突っ込んでしまい、巨大な破片を艦体にぶつけてしまった三隻が中破して戦線離脱を余儀なくされる。

「タイミング悪いですな」

 苦虫を嚙み潰したような表情になるガルガ中佐に言葉にリッテンスは頭を振った。

「ここはテロン人の庭先だ。奴らが事前に敷設したデブリ群だろう。まんまと引き込まれてしまったようだ」

「どうします?」

 焦りを滲ませるヴィンデマンにリッテンスは正面を見据えて返す。

「全艦、主砲を正面に向け一斉射撃。デブリ群を排除し航路を確保する。その後追撃隊を編成して残るテロン艦隊を殲滅する。テロン艦隊の主力艦隊は今どこに?」

「デブリが多く、レーダーで捕捉できません」

 拙いな、とリッテンスは自分の失敗に渋面を浮かべた。

 あのオレンジ色の艦体色のテロン艦は陽動だろう。リッテンス艦隊を本隊主力の近くに引きずり出す為に囮となったに違いない。

「全艦、警戒を厳に。敵主力艦隊は近くにいるぞ」

 リッテンスが隷下の艦隊全艦に警告を発した時、レーダーを見ていたオペレーターが敵機発見の報告を上げる。

「攻撃機か?」

「いえ、偵察機の様です」

 ヴィンデマンの問いにオペレーターはモニターに表示される機動から偵察機と結論付ける。

 偵察機か。こちらの位置を通報されるのが厄介だが、艦隊を攻撃して来る訳では無いから放っておいても問題ないだろう。

 そう判断したリッテンスだったが、程なくそれが間違いであることが分かった。

 

 

「ソード3よりガミラス艦隊の位置座標データ来ました!」

「敵艦隊、デブリ群と機雷源を前に身動きが取れなくなっている模様」

「オリンパス戦隊の全艦戦闘宙域の離脱を確認」

 キリシマの艦橋内に船務士と通信士の報告の声が上がる。

 沖田は全報告を聞き終えてから、閉じていた目を開くと全艦に命令を達した。

「全艦、プランSに移行。マルチ隊形を取れ。ショックカノン撃ち方用意!」

「ショックカノン、撃ち方用意。機関部からのエネルギー電動用意宜し。ソード3からの測距データを確認」

 攻撃用意の沖田の号令を受けてキリシマ砲雷長の古代守三佐が97式空間測距儀を覗き込む。

 プランSへの移行が発令された特別混成艦隊の三隻のコンゴウ型と三〇隻のムラサメ型がマルチ隊形を取る。キリシマを中央に上下にクレムリン、アリゾナが遷移し、その左右両側に一五隻ずつのムラサメ型が展開し、更に縦三隻、横五隻ずつに隊形を入れ替える。

「キーロフより入電。右翼巡洋艦部隊、発射体制良し」

「タカオより入電。左翼巡洋艦部隊、発射体制良し」

「アリゾナ及びクレムリン、発射体制良し。各艦ショックカノンへのエネルギー充填開始」

「全艦、機関停止。慣性航法に切り替え。ソード各機は射線上より退避」

 スコープに表示されるガミラス艦隊の艦艇にレティクルを合わせ、トリガーに指をかける。

 艦橋にいる砲雷科を率いる古代の部下の砲雷士がコンソールに指を走らせ、新設されたショックカノンの発射体制を整えていく。同様にショックカノンへ全動力を供給するキリシマの機関を預かる機関科の機関士達からの各種報告も上げられてくる。

「メインエンジン及び補助エンジン、動力カット。全動力を艦首陽電子衝撃砲へ」

「慣性航法に切り替え確認。以後操舵反応は大幅に低下します」

「最重要区画を除く艦内の不要区画の電力を全てシャットダウン」

「機関主力最大。電力発電量、通常値を越えます」

「スーパーチャージャー起動。ショックカノンへの必要電力供給を確認」

「ショックカノン、薬室室内圧力上昇。砲身温度急激に上昇」

「強制冷却装置作動確認。発射三〇秒前、カウントダウン開始。二九、二八、二七、二六……」

 ショックカノン発射までのカウントダウンを始める古代の声が艦橋内に響く中、通信長が僚艦からもショックカノン発射用意良しの報告が入って来た事を告げる。

「アリゾナ、クレムリン、発射準備良し。ムラサメ各艦からも発射準備良しとの報告です」

「オリンパス戦隊が身を切ってまで作ったチャンスだ。全艦無駄にするな」

 一〇〇〇名以上のオリンパス戦隊の乗員が宇宙の塵となった事は、沖田にも知らされている。受け止めるしか出来ない事実を静かに受け止め、沖田ははるか遠くにいるガミラス艦隊の方を見据える。

 前方ではデブリ群を切り開くべく艦砲射撃でデブリ群に砲撃を加えるガミラス艦隊の爆破閃光が見えた。

「全艦及び展開中の索敵機各機、ショックカノンの射線方向に注意せよ」

「敵艦隊、照準誤差、〇・五、相対速度変わらず。距離10万、方位181.012」

 キリシマの乗員の上げる報告に交じって古代のカウントダウンは続く。

「一九、一八、一七、一六、一五……」

「全艦、対ショック、対閃光防御、UVフィルター、偏光モード最大」

 ショックカノン発射時の閃光と発射の衝撃に備えるよう、キリシマ艦長山南修一佐が号令を下す。

 カウントダウンを続ける古代の眉間に緊張からの冷や汗が直垂り落ちる。生唾を飲み込み、発射トリガーに指をかける。

「まだだ」

 早まってトリガーに指をかける古代に沖田が制する様に言う。

 トリガーかけていた指をそっと遠のけながら古代は最終カウントダウンを始めた。

「一〇、九、八、七、六」

 発射一〇秒前が告げられた時、キリシマの艦首のショックカノンの砲口に蒼白い帯電の光が瞬き始めた。

 きらびやかな帯電の光は徐々に強まり、充填されたショックカノンのエネルギーの奔流の強さを物語った。充填されたエネルギーが解放を求める様に唸るような音を艦首方向から響かせ艦橋内部にまで轟かせる。

「五、四、三、二、一」

 カウントダウウを終えた直後、測距儀のスコープに「射線確保」の文字が表示される。

「射線確保、行けます!」 

「ショックカノン、撃ち方始め!」

 古代がカウントダウンを終えた直後、山南の射撃号令が下った。

 その号令に古代はトリガーに掛けていた指を「ショックカノン、てぇーっ!」の声と共に引き絞った。

 戦艦キリシマの艦首から帯電の閃光が弾け、目もくらむ蒼白い光がキリシマの艦首から迸り、一筋の光芒となって放たれた。

 キリシマの発砲に続いてアメリカ艦隊の戦艦アリゾナ、ロシア艦隊の戦艦クレムリン、そしてショックカノンを搭載された三〇隻のムラサメ型巡洋艦の艦首からも蒼白い閃光が走り、同じ色の光芒が漆黒の宇宙に走った。

 

 

 三三条の蒼白いショックカノンの光芒は一〇万キロ近くに及ぶ超長距離の空間を一気に飛び抜け、デブリ群から脱したばかりのリッテンス艦隊に迫った。

 一方、ショックカノンを撃ち終えた三三隻のコンゴウ、ムラサメ各艦は直ちに強制冷却装置で加熱した艦首陽電子衝撃砲の砲身を冷却しにかかった。コンゴウ型三隻、ムラサメ型三〇隻の艦首部に増設された排熱口から砲身冷却に使われた冷却ガスが勢いよく噴出する。噴出されたガスで姿勢を崩さない様、姿勢制御スラスターが作動して艦の姿勢を維持した。

 

 

「高エネルギー体急速に接近!」

 突如発せられたオペレーターの一声にリッテンスが反応する前に、蒼白い光芒が彼方の空間から飛来したかと思うと、デストリア級、ケルカピア級、クリピテラ級問わずその艦体に蒼白い光芒が突き刺さり、一撃で撃沈していった。

 突如飛来した青白い光芒に貫かれた友軍艦艇が一撃で爆散し、宇宙の塵となっていく光景にゲルマルクの乗員と司令部要員は愕然とした。

「な、なんだ!?」

「どこからの攻撃だー!?」

「3722が轟沈したぞ!」

「何が起こった! 被害報告急げ!」

 一瞬で大混乱に陥る参謀達に対しリッテンスは厳かな声で「落ち着け」と言う。

「恐らくは敵の新兵器だ。こちらが動揺すればそれこそ敵の思うつぼだ。まずは正確な被害報告に務めろ」

「は」

 程なく被害報告がまとまった。上げられた報告を前にリッテンスは思った以上に深刻な被害が発生している事を知った。

 損傷艦はいなかった。いや損傷で済まず一撃で撃沈に至ってしまった艦ばかりだった。デストリア級二隻、ケルカピア級五隻、クリピテラ級八隻が轟沈していた。

 テロン艦は遂にガミラス艦艇を、それも一撃で撃沈可能な兵器を実用化したのだ。しかし、重装甲を誇るデストリア級すらも一撃で屠る威力の兵器を揃えるとは、テロン人独自に作り上げるとは俄には信じられない思いもある。

 どこかの星間国家がひそかに技術供与をしていたのではないか、とすら疑ってしまう。

 動揺するゲルマルクの司令部要員をリッテンスが諫めていると、発射地点の特定も済んだ。こちらの主砲で反撃するにはあまりにも遠い。超長距離からのアウトレンジ射撃だった。

「アウトレンジ砲撃かこのままでは一方的にやられるな」

 腕を組んだまま呟くリッテンスにヴィンデマンや参謀達が縋る目を向けてくる。

「一時後退し、後方の揚陸艦隊の護衛艦と合流しては……」

「そうしよう。揚陸艦隊の護衛艦を艦隊戦力として編入し、しかる後敵艦隊主力に決戦を挑む。敵の位置は分かっている。先手を打たれて痛い目を見たが、今度はこちらの番だ」

 

 

「敵艦隊、後退を開始。後方の艦隊と合流する模様」

 ガミラス艦隊の後退を告げるオペレーターの言葉に、古代は唇を噛んだ。

 ショックカノンのエネルギー再充填は最短でも六〇秒必要とされていたが、思った以上にエネルギーの消費が激しく機関部への負担も想定以上に大きかった為、エネルギー充填に一八〇秒も要していた。

 再充填が終わるころにはガミラス艦隊は反転して離脱していた。

「落ち着け古代。敵はまたすぐに戻って来る」

 苛立ちに肩を震わせる古代に山南が慰める様に声をかける。

 国連宇宙海軍側ではショックカノンによって一五隻のガミラス艦艇の撃沈を確認しただけに士気は否応なく上がっていたが、艦隊司令官の沖田は手放しには喜んでいなかった。

 ショックカノンを発射したのはキリシマ含めて三三隻。命中はその半分程度だ。しかも、敵旗艦らしき戦艦を捉えるには至らず、随伴艦艇を撃沈するにとどまった。

 それでもショックカノンの威力は確かであり、ガミラス艦艇を仕留められる有効な兵器であることは確認出来た。

 これが連射できるようになれば、劣勢の国連宇宙海軍は反転攻勢に出る事も夢ではない。

 負ける気がしない、その思いが国連宇宙海軍艦隊全艦の将兵の心の中に芽生えていた。

 

 

 撃沈または損傷して艦隊から失われた二四隻の艦艇分を揚陸艦隊の護衛艦隊から補充したリッテンスは、体勢を立て直した艦隊全艦にある命令を発令した。

「全艦、ゲシュタムジャンプ」

 リッテンス艦隊各艦のエンジンノズルがゲシュタムジャンプ、ガミラスで言うワープの跳躍の光芒を走らせ、揚陸艦と最低限の護衛艦を残してリッテンス艦隊はワープした。

 

 

 

 ショックカノンの再発射が可能になった地球艦隊だったが、肝心のガミラス艦隊が後退して射程距離から逃れただけでなく、一部を残しワープして姿を消してしまった為に何を狙うべきか、で迷いが生じていた。

 残存する敵艦艇に接近して掃討戦に移るべきか、それとも別方向からの敵艦隊の出現に備えるべきか。

 掃討戦を主張する五十嵐、風見を制して沖田は全方位への警戒を発令した。一部の艦だけを残して敵の艦隊の多くがワープしたのは、短距離ワープによって一気に距離を詰めて接近戦に持ち込む気だと沖田は踏んでいた。

「宙雷戦隊は防御網を展開。全方位警戒を厳にせよ」

 沖田からの指示を受けて後方に控えていたイソカゼ型が一斉に七群に分かれて艦隊周辺の警戒に入る。

 同時に偵察機部隊のソード隊各機も一部を除いて全機が艦隊周囲で警戒態勢に入る。

 

 

 警戒態勢に入った国連宇宙海軍艦隊に緊急電が入るのと、警戒態勢に当たっていた駆逐艦各艦から「敵艦見ゆ」の緊急通告が入ったのは同時だった。

「ソード3より入電、敵艦隊三群に分かれて我が方の左右及び後方にワープアウト!」

 キリシマの通信長が偵察機からの緊急電を沖田達に報告する。その知らせに五十嵐、風見、山南ら艦橋要員が一様に青い顔を浮かべる。

 ただ一人冷静に反応したのが沖田だった。

「全艦、マルチ隊形解除。巡洋艦戦隊はアリゾナ、クレムリン、そして本艦を基軸とした三群に分かれて敵艦隊をショックカノンで迎撃。駆逐艦戦隊は主力部隊の展開完了まで遅滞戦闘を開始せよ」

 敵前での回頭指示は本来危険極まりない判断である。そこでオリンパス戦隊のオリンパス・モンス級並みの高い機動力を持つイソカゼ型で構成された駆逐艦戦隊で今度は遅滞戦闘を行い、三群に分かれて迎撃態勢に入る主力艦隊の展開完了までの時間稼ぎを行わせるのだ。

 回頭して進路を変更するキリシマに一〇隻のムラサメ型が続き、同様に回頭するクレムリン、アリゾナに一〇隻のムラサメ型が従う。

 三方から囲い込む様にワープアウトしたガミラス艦隊だったが、デブリを恐れてか、慣れない敵地でのワープアウトに慎重になったのか出現場所は特別混成艦隊からそれなりに距離がある場所であり、殆どのガミラス艦の主砲最大射程圏外でもあった。

 

 ただ一つ、ゲルマルクと言う例外を除いて。

 

 

「主砲、撃ち方始め!」

 ヴィンデマンの砲撃開始号令が下るや、復唱したゲルマルク砲術長の「撃ち方始め!」の号令と共にガイデロール級二等航宙戦闘艦の三三〇ミリ三連装陽電子ビーム砲が赤い帯電の光を砲口に瞬かせると、光線へと変換された赤の陽電子ビームが彼方のテロン艦隊目掛けて死の赤い光芒の線を突き立てて行った。




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