デジモンアドベンチャー01 episode of CHAOSDRAMON   作:もそもそ23

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"彼"の旅路……

ファイル島、ムゲンマウンテン周辺の森。

木々の合間から日の光が差し込む深い森を、一匹の小さなデジモンがゆっくりとした足取りで歩く。

 

(………オレが生まれて……もう1年……早いものだ……)

 

元ムゲンドラモンであった"彼"がこの世界へと再び生を受けて、早1年が過ぎた。

始めこそ慣れない身体に苦労した"彼"であったが、やはり年月が立てば適応していくものなのだろう。

この1年で無事に成長を遂げた彼は、今は"黄色い小型の恐竜"へと進化を遂げていた。

 

(……この身体にも、馴れたものだ……)

 

以前より遥かに軽い身体で、彼は森を歩く。

 

 

 

 

1年前、

 

はじまりの街にて新たな生を受けた彼であるが、そこに長くいる事はなく、一世代目の進化を終えると同時にそこから直ぐに姿を消した。

やはり元闇の頂点の一人として、他のデジモン達との集団行動や馴れ合いはどうしても苦手だったからである。

 

 

 

 

だが、ふらふらと街を出た所で、彼はある一つの問題点に気が付いた。

 

(…………どうしたものか………)

 

"それ"はとても重要で、以前の彼は持ち合わせていたもの。

 

(……オレは……今、何をしたいのだ……?)

 

"それ"、即ち、生きる上での"目的"

 

元来、感情を捨てた彼は、"ウイルス種故の破壊衝動"と、ダークマスターズ共通の認識である"選ばれし子供達の排除"を目的とし、そのために行動してきた。

 

しかし、

 

(……今は……興味が出ない……)

 

恐らく、性質の変化による影響だろう。

今の"彼"には、"何かを破壊したい"という衝動もなければ、"選ばれし子供達に復讐する"という"憎しみ"の感情すらも、過去の記憶を引き継いだ故に持ち合わせてはいなかった。

 

勿論、"喜び"や"悲しみ"などもなく、元々生物が持つ"闘争心"すら、マシーンデジモンの記憶が色濃く残る彼には存在しない。

 

 

故に、"無目的かつ無気力"、今の彼を一言で表すならば、その言葉がぴったりであろう。

それでも、群で行動するよりは一人でいる方がいいと、彼は自身の"目的"を探すようにこのファイル島を当てもなくさ迷っている。

 

その延長として、今はムゲンマウンテン周辺の深い森の中をただひたすら歩き続けているのだ。

 

 

 

 

 

 

「…………そろそろ……エネルギーを補充するか………」

 

誰に告げるでもなく、彼は一人呟く。

"食事"というこの行為は、彼が自発的に行う数少ないの行動の内の一つである。

 

彼は周辺に生える背の高い木々の中で、果物が実っている木を見つけると、その手前までテクテクと歩き寄り、そして、

 

「スラッシュネイル……」

 

ザシュっと、本来はまだ使えない筈の技を持って、彼はその木を斬り倒した。

いや、正確には彼はその技が使える世代への進化を既に終えてはいるのだが、身体が大きくなるに伴って必要とする食糧も増えるため、"合理性"を重視する彼は、初進化以来最低限しかその姿になろうとしないのだ。

 

 

ドスンという音を立てて倒れた木の枝から、彼はいくつかの果物を千切り取り、それを口へと運ぶ。

 

(……全く、面倒な身体になったものだ……)

 

機械の身体であった時の事を考えれば、毎回"食事"という行動を取らなければ生命を維持出来ない今の身体は、酷く効率が悪い。

 

(思えば、昔に比べて……この世界には人間が増えたな……)

 

ふと、彼はそんな事を思う。

この1年、新たなこの世界を歩き回った彼は、いく先々で数名の人間が辺りを彷徨いているのを見てきた。

とは言っても、この時代にまだ量産型のデジヴァイスなどはなく、あくまでも"観光"のようなものなのだろう。

『世界を救った子供達の旅した世界』というものを、一般人も知りたいのだ。

 

ただ、やはり"命の保証がない"という点が引っ掛かるのか、世界的な活躍を見せた選ばれし子供達の影響にしては、その数はまだまだは少ないのだが。

 

(……ふっ……まあ、今更人間がこの世界に蔓延った処で……オレには関係ないか……)

 

彼は思考を止め、果物を食べ終おえた後再び歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、しばらくして、

太陽が傾き夕日になり始める頃、森を歩く彼はピタリと足を止め、何かを警戒するように険しい目付きでぐるりと回りを見渡した。

 

(……殺気……)

 

恐らくこの森に住む何者かの縄張りへと入ってしまったのだろう。

周囲の木々の合間から自分へと向けられる無数の殺気を、彼は感じ取ったのだ。

 

(……敵か……)

 

心の中で彼は静かに呟く。

 

今はまだ此方側からその姿は確認出来ないが、それは気のせいではなく、やがてブンブンというそのデジモン特有の"羽音"が、四方からかすかに聞こえ始めた。

統制されたその羽音は徐々に大きくはっきりと聞こえるようになり、近づいてくるにつれて更に八方へと分散、まるで獲物を追い詰めるかのように迫ってくる。

 

(……退路を絶たれたか……21……いや……22体……)

 

"羽音"の重なり具合のみで、彼の頭は瞬時に迫り来る敵の数をまるで機械の演算のように正確に割り出した。

当たっているのならば、それは正に圧倒的な数の違い。だが、

 

(……多いな……)

 

逃げ場のないこの状況の中、彼が感じたのは"ただ"それだけ。

 

羽音はぐんぐん迫り、重なり合う音はまるで騒音のようである。

 

そして、夕日によって赤く染まる森の中、"それら"は彼を取り囲むように一斉に姿を現した。

 

黄色と黒が混ざった見るからに危険な体色、大型のデジモンすら一撃で仕留める強力な毒針を持つ巨大な蜂、

成熟期の昆虫型デジモンの中でも特に獰猛な性格を誇る『フライモン』である。

 

「キシャーー!!」

 

蜂特有のブンブンという羽音を響かせ、それらは彼の姿を確認するや否や下腹部の鋭い毒針を向けて、皆一斉に威嚇するような鳴き声を上げた。

 

その数は彼の予想通り22体。一般的な成長期、成熟期が単独で勝てる数ではない。

 

しかし、

 

「……引け……戦うつもりはない……」

 

彼は一切怯むことはなく、全方向を取り囲むフライモンの群れへと口を開く。

その声には目の前の敵に対する『恐怖』などは微塵もない。それどころか、本来"追い詰めている側"である筈のフライモン達が、逆に"追い詰められている側"であると錯覚するような威圧感を、この成長期は放っていた。

 

それもその筈。

 

彼は一般的な成長期などではない。

力の殆どを無くしたといっても、元闇の頂点の一人。

成長期の姿をしてはいるが、そのスペックは全く違う。

"戦闘になれば"、目の前の敵が束になろうが負けることなど有り得ない。

 

では何故戦おうとしないのか。

理由は簡単である。

 

前世の記憶故に、彼が最も優先するのは"合理性"

"無目的"な今の"彼"にとって、他者と争う事は特に意味を成さないのだ。意味のない事に力を浪費する事は、その合理性に反する。

 

故に彼は、どのような相手であれ一度は警告する。

 

「……貴様らの縄張りを荒らすつもりなどない……」

 

 

だが、フライモン達は獲物の高圧的な態度が気に食わなかったのか、話に耳を傾けることなどせず、

 

「シャアー!」

 

射出可能なその毒針を、全方向から一斉に打ち出したのだ。

ミサイルのような毒針の雨が彼へと襲い掛かる。

 

 

そんな中、彼は場に合わない小さなため息の後ポツリと呟いた。

 

「……戦闘回避は……不可能か……仕方ない、"アグモン"進化……」

 

直後"彼"、元ムゲンドラモンであるアグモンの姿は目映い光に包まれ、降り注ぐ毒針の雨を弾き飛ばしながら、その身体が巨大化していく。

 

そして、弾かれた針がパリン、パリンと乾いた音を立てて地へと落ちていく中光は収束し、中から一匹の純正の恐竜が姿を現した。

 

その心とは対照的に、体色は燃え上がるような赤。

 

鋭い爪はまるで凶器のように鈍い光沢を放つ。

 

「……ティラノモン……」

 

進化の完了と共に、彼は自身の新たな名を静かに呟いた。

 

この"ティラノモン"が最も優先するのは"合理性"。

 

戦闘の回避が叶わないのなら、その"次"に合理的な方法を取るしかない。

例えそれが"無駄なエネルギー消費"だとしても、邪魔になるのならば排除するまでだ。

 

「キ、キシャー!」

 

先程の攻撃を弾かれた事によって、フライモン達は僅かに動揺したようではあるが、臨戦態勢のティラノモンを見ると、今度は彼の身体に直に毒針を突き立てるために、尻尾を前にして一斉に突撃を始めた。

 

前後左右真上と有りとあらゆる場所から、総勢22体の毒の"弾丸"が彼へと一気に襲い掛かる。

 

そんな中、

 

「…………」

 

ティラノモンは無言で"心無い両爪"を構えた。

 

彼に『感情』など存在しない。

自身から戦闘を仕掛ける事はなく、戦闘を望む訳でもないが、排除すると決めたのならば、そこには一辺ためらいも挟まない。

 

 

 

そして、

 

 

 

 

ブオンという風切り音と共に、1匹の恐竜と22体の蜂が、夕暮れの中交わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数刻後。

 

「……景色が、変わったな……」

 

森を抜ける手前、雪が降り積もる平原を前に、アグモンはポツリと呟いた。

このファイル島は地域によっての気温差が著しく、このように『森を抜けると銀世界』という事も別段珍しくはない。深々と降る雪道は、見るからに動きにくそうである。

 

既に日は完全に沈んでおり、このまま進むのは非合理だと判断した彼は、雪原の探索を明日へと回し、今日はこの森の中で夜を明かす事を決めた。

 

(…………エネルギーの補給は、また明日でも問題はない……)

 

木々の枯れ枝や草をベッド代わりに、彼は横になり瞳を閉じる。

 

先の戦闘の結果など語るまでもない。

 

襲い掛かる蜂達は全て一閃の元排除し、データの粒子へと変えた。ただそれだけである。彼にとってみれば、"無駄なエネルギーを消費してしまった"程度の事でしかない。

 

機械の身体とは違い、丸一日歩き続けた生身の身体は、徐々に彼の意識を眠りの中へと落としていく。

 

(……オレの"目的"……このまま進めば、いつかそれが見つかるのだろうか……)

 

暗い森の中、アグモンは果ての見えない"旅"を思いながら、ゆっくりと意識を手放したのだった。

 

 

 

 




こっちのアグモン(ティラノモン)の戦闘力は、大体デビモンと同じくらいの強さだと作者は考えています。
ファイル島では半ば無双が成立する程度ですね。

進化先がグレイモンではなくティラノモンなのは、"闘争心"がないのが理由です。作者の都合も大きいのですが……

話の最後に出てきた雪原は、選ばれし子供達も通った、あの温泉がある場所の近くです。

さて、次回、オリキャラが一人登場します。


サブタイトルは『儚い雪の少女』

お楽しみに
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