デジモンアドベンチャー01 episode of CHAOSDRAMON 作:もそもそ23
本編の更新を待っていて下さった方がいましたら申し訳ありません。
先にどうしてもこっちを仕上げときたかったので。
翌日、
まだ薄暗さが残る森の中、何時もと同じように日の出と共に目を覚ましたアグモンは、軽く身体を動かした後、目の前に広がる銀世界への一歩を踏み出した。
(……ふっ……まるで別世界だな……)
森から出た直後に降り始める粉雪と急激な気温の変化に、彼は心の中でそう呟く。
だが、幸い視界はくっきりと開けており、地面へと積もる雪の量も大したものではない。彼は予定通りにこの雪原を横断するべく、柔らかく積もる雪道に足跡を残しながら、テクテクと前を向いて歩き始めた。
(……敵の姿はナシ……)
意識を周囲に向け、アグモンは歩きながら注意深く回りを見回す。
昨日まで歩いていた森とは違い、見渡せる雪原には木々などの障害物は殆どなく、同時に他のデジモン達の姿も見えない。
彼一匹だけが、今この場を進んでいるようだ。
余計なエネルギーを消費しないためにも他者との接触をなるべく控えたいアグモンにとっては、此方の方が都合はいい。
しかし、残念な事に彼の望む"一人行動"は、そう長くは続かなかった。
そして同時に、
唐突に訪れる"運命の出会い"が、彼の未来を大きく動かす事になる。
「……そういえば……エネルギーの補給がまだだったな……」
太陽が登り、チラチラと降る雪が眩しく目に写る頃。
雪道を少し進んだ所で、彼はふとそれを思い出した。
昨日のフライモン達との戦闘で"多少"の体力を消費した事で、何時もより空腹が来るのが早いようである。
しかし此処は雪原。回りを見渡してみても周囲に食料となるものはなく、だからといって一旦森へと戻るのも非効率。
雲の合間から眩しい太陽が差し込む中、彼は一度立ち止まり、腕を組んでどうするべきか思考を巡らせた。
(…………エネルギーの残量はゼロという訳ではない……水に関しては雪を食らえば確保出来る……空腹にはなるが、戦闘さえ行わなければ、今日一日は持つだろう……)
結果、やはり彼は空腹よりも効率を優先し、引き返す事なくこの雪原を越える事を決めた。
「……進むか……」
ポツリと呟き、アグモンは果ての見えない雪原に再度目を映す。
しかし、アグモンが再び雪道を歩き出そうとした次の瞬間、彼の身に予想だにしない出来事が起こった。
「きゃあぁぁぁ!」
「!」
突如、彼の"頭の本当にすぐ上から"、甲高い悲鳴と共に急に"何か"が迫ってくる気配を感じたのだ。
アグモンの持つその高い索敵能力ですら今の今まで全く気付く事はなく、"声"が聞こえて始めて彼は"自分以外の何か"の存在に気付く。
『敵か』と思ったアグモンは慌てて振り返ろうとするが時は既に遅い。
「ぐおっ!」
「きゃっ!」
ドカっという鈍い音を上げてその"何か"は彼の後頭部に直撃し、アグモンはやや間抜けな声の後その"何か"に押し潰されるように、ズザアっと雪を巻き上げて前のめりに盛大な転倒をみせた。
(ぐっ……なんだ……!このオレが、不意打ちを受けるだと……)
降り積もる雪の中へと顔を埋めながら、予想外の出来事に彼は心の中で珍しく取り乱す。
それもそうだろう。何せこの一年間、いや、彼がムゲンドラモンであった時から数えても、今まで『敵の不意打ちを受けた事』など一度としてないのだから。それに加え、雪の中に顔を埋めた挙げ句背中を取られたとなれば、『感情』がなくとも取り乱すのは仕方がないだろう。
(……くっ……仕方ない……無駄な戦闘は避けたかったが……)
背中に感じる圧迫間は大したものではないが、反撃に出なければ追撃を受ける恐れがあると、アグモンは"進化"する事でこの場を切り抜けるため、身体に力を込め始めた。
たが、
そんな中、彼を押し潰している"何か"が声を上げる。
「……こ、此処が……デジタルワールド……って寒っ!」
(……?)
それは幼さを残した少女のような声、始めての事に感動するようなその声には敵意などは微塵も含まれてはいない。というよりも、そもそも下敷きとなっている彼の存在にすら気が付いていない節がある。
そこで、
「……おいっ……」
アグモンは進化を抑え、一度自身の上に乗っている"何か"に向かって声を掛けた。すると、
「えっ!?……わっ! わわ……き、君……デジモン……!?」
やはりその"何か"は、自身の下敷きとなっているアグモンに気がついていなかったのだろう。
姿は見えないが、彼の背中から明らかな動揺を含んだ声が返ってきた。
(……なるほど……たまたまオレの頭の上に"ゲート"が開いたか……)
短いやり取りから彼は状況を整理する。
この時代、現実世界とデジタルワールドを繋ぐゲートは、それを開くまで"何処に繋がるかは分からない"。
それを踏まえて考えれば、彼が気配探知出来なかった事にも合点がいく。背中を押し潰している"何か"について、アグモンはおおよその予想がついた。
「……とにかく……そこを退け……"人間"……」
アグモンは雪の中から自らの背中に乗っている"何か"へとそう問いかける。すると、
「……あっ!……ごめんね……よいしょっと……」
その声と同時に、今までアグモンを圧迫していたそれが、彼の背中からスタっと離れた。一時は肝を冷やしたものの、ようやく身体に自由が戻ったアグモンは自身の身に着いた雪をパンパンと振り払いながらゆっくりと立ち上がる。
そして、先程まで自分を押し潰していた者を確認するために、そのまま後方へと振り返った。
すると、そこにいたのは、
「……えと……ごめんね……大丈夫……?」
彼の予想通り、一人の人間の少女。
白い薄手のワンピースに身を包んだ、恐らく10歳前後の小さな女の子。
だが、
「…………」
(……初めてみるタイプの人間だな……)
それは彼が今までの旅で見てきた人間達とは明らかに違う。
顔立ちは人形のようにハッキリとしているが、少女の体で最も特徴的なのは、周囲の雪と比較しても遜色のない程の"真っ白"な長い髪の毛。
いや髪だけではない。まつ毛や眉毛、そして少女の肌の色さえも、まるで"色素が抜け落ちた"かのように白い。
状況も相まって、それは小さな雪女とさえ写るだろう。
それほどに、この儚げな少女と雪景色は非常に似合っているのだが、
「うう……なんで雪なんて降ってるの……?」
実際はやはり寒いのか、アグモンに顔を向けながらも、白い少女は両手で肩を抱くように小刻みに震えている。
最も、少女が着ているのは薄手のワンピースのみ。日が出ているとはいえ粉雪がちらつくこの雪原では、それも当然だろう。
「……あの……大丈夫……?」
振り返っていこう口を開かないアグモンに、少女は心配げに声を掛けた。
「……ああ……問題はない……ではな……」
フルフルと震える少女に背を向け、アグモンは再びなに食わぬ顔で雪原を進もうと歩き始める。見た目に少し特徴があったためにしばらく凝視したが、それは彼にとって別段興味を引くものではないのだ。
彼にとって優先すべきはこの雪原を越えること。
敵でないのなら、放っておいても問題はないとの判断である。
しかし少女の方は、予想以上に淡白に去ろうとするアグモンを見て、慌てて彼の前へと躍り出た。
「えっ!?ちょ、ちょっと待って!」
「……なんだ……?」
「あの……私、今初めてこの世界に来たんだけど……」
「……それがどうした……」
ため息混じりに、アグモンは目の前に立つ少女へと問いかける。彼としては早くこの雪原を越えてしまいたい所なのだが、何も知らないこの少女は、恐らく彼が狂暴な生物ではないと判断したためだろう、少しモジモジとしながら口を開いた。
「……えっと、君……デジモン……だよね……よかったら、その……この世界を……案内してくれないかな……?私、右も左も分からなくて……」
期待を込めた目で少女は初対面のアグモンを見つめる。
だが、
「断る……他を当たれ……」
即答。表情一つ変えずアグモンは白い少女へといい放つ。当然だ。敵でない事が分かった時点で、彼にとっては既に『この少女に構うエネルギーが無駄』なのだから。
敵意を向けなければ攻撃する事はないが、だからといって助ける事もしない。それが今の"ムゲンドラモン"の在り方なのだ。
その容赦のない物言いに、少女は少しビクッとした様子をみせるが、周囲をキョロキョロと見回した後、再び彼へと問いかけた。
「うっ……他にって……此処には私と君しかいないみたいだよ……」
「……オレの知った事ではない……」
「……やっぱり、さっきの事怒ってるの……?」
「…………」
少女は申し訳なさそうな顔でアグモンを見るが、それは全くの検討違いである。むしろ、逆に彼はこの少女について最早"何も感じるものはない"といってもいいのだから。
「……わわっ!ごめんなさい、踏みつけちゃった事は謝るから……!」
「…………」
"話はそれだけだ"とでも言うように、アグモンは少女を避けるように素知らぬ顔で隣を通過した。
しかし、何せ薄手のワンピース姿で何処かも分からない雪原の真っ只中にいるのだ。彼女とて此処で簡単に引き下がるわけにはいかない。
「じ、じゃあせめて、雪の降ってない場所だけでも教えて……このままだと私、凍えちゃう……」
「…………」
鳥肌の立った細く白い腕を擦りながら少女は訴えかけるが、最早アグモンはその声に耳を傾ける事もしない。
彼女が凍えようが別に彼には関係ないのだ。背中越しの少女を無視して、彼はテクテクと歩いていくのだった。
「……置いてかれちゃった……うぅ……かわいい顔して容赦ないよ……デジモンって、みんなあんな感じなのかな……」
一人ポツンと残された白い少女は、寒さと不安感からか少し涙声になりながら、遠くなりつつある黄色い体に向かい呟く。
「……ぐす……いいもん……教えてくれないなら、勝手に付いていくから……」
この白い少女には彼女なりにこの世界に来た"目的"がある。それをここで諦めるなど、彼女にとっては絶対に認めたくはない。
「……念願の"お外"なんだもん……これくらい、何てことない……頑張るのよアリア……」
自身を鼓舞するように、彼女は肩を抱きながら自分自身に言い聞かせた後、一人粉雪の中を歩く"黄色い恐竜"に視線を移した。
「……パパ……ママ……行ってきます……」
厚い雲の合間から『仮想の』太陽が照らす雪原。その中を、真っ白な少女、アリアは、黄色い背中を追うようにゆっくりとした足取りで歩き始めた。
これが"全ての始まり"。
絶対的な破壊竜カオスドラモンと、白い少女アリアの始まりの一ページ。
episode of CHAOSDRAMON編オリキャラのアリアちゃん登場回でした。
ここからこっちの話もようやく動いていくとおもいますが、その前に本編の方も急がねば……