デジモンアドベンチャー01 episode of CHAOSDRAMON 作:もそもそ23
こっちの話の更新は随分久しぶりな気がします。
ムゲンマウンテンを中心とし、その回りを森林、更にその回りを、砂漠、雪原、平野、工場地帯など、様々な土地が囲むようにして形成された島、デジタルワールド、ファイル島。
そんな世界の縮図のようなその島の海岸沿い、白い砂浜を今、不機嫌そうな顔をした一匹の小さな恐竜が、一定の足取りでテクテクと歩いている。
「…………」
彼の名前は"アグモン"。
前世の記憶を引き継ぎ、成長期の中で異常に突出した力を持つも、その代償として『感情がない』デジモン。
一年前にこの世界へと再び生まれ、以後、『自分の目的』を探して宛もなくこの島を回っている彼であるが……
「………」
感情がないにもかかわらず不機嫌そうな顔。
森でのフライモン達との戦闘以降、無駄な戦いが起こっていない事は喜ばしいのだが、実は、二日程前から彼には一つ"悩み"が生まれてしまったのだ。
その悩みと言うのは、
「ねえ、いい加減何か喋ってよー」
「…………」
アグモンの後方を、ただひたすら着いてくる一人の少女。
顔立ちは人形の様に整っており、全身は髪の毛も含めて白。着用しているワンピースも白く、それはまるで小さな雪女の様だ。
「ねえったらー、名前くらい教えてよー」
「…………」
二日前に雪原で突如出会い、それ以降こうやってひたすら彼にコンタクトを取ろうとしているこの少女こそが『悩みの種』
(……アリア……とか言ったか……コイツは、一体何がしたいのだ……?)
朝、アグモンが起きれば、彼女もまた起き、
アグモンが何処かで止まれば、彼女もまた止まり、
アグモンが食料の果実を取れば、彼女もそれを真似て取り、
そしてアグモンが眠れば、彼女もまた眠る。
別段アグモンにとって『害』があるわけではない。
故に、自身の感情で『動けない』彼は彼女を排除する事が『出来ない』。彼が優先するのは"効率"だ。つまり害のない生物の排除はエネルギーの無駄、"非効率"だと考えてしまう。
これが悩みなのだ。
確かに『害』はない、ただ付いてくるだけ。『構うだけ体力の無駄だ』と判断する彼はずっと無視を決め込んではいるが、こうやって朝から晩まで話しかけられては、やはりどうしても気にはなる。
ザーザーと押し寄せる波音以外は静かな昼下がり。今日は少女の声もよく通っているようだ。
「今日はいい天気だねー。 海も綺麗だし、風も気持ちいいよ」
「…………」
「うーん、自由にお外を歩けるってやっぱりいいね。 このまま何処までも歩いていきたいって感じ」
「…………」
「この世界は広いねー。 それとも、私の知ってる世界が狭かっただけなのかな?」
「…………」
歩きなから、いくら無視され続けようと少女、アリアはアグモンに話掛け続ける。儚い見た目に合わずなんというポジティブな性格だろうか。無意味な一人言、アグモンにとってどうでもいいそんな話を、この少女はずっと繰り返していた。
(……初めてデジタルワールドに来た、とは言っていたが……何故……コイツはこれ程無視されても付いてくるのだ……?)
「そう言えば、君と出会ってもう二日立つけど、君は何でずっと歩いてるの?」
「…………」
アグモンには、アリアの行動が全く理解出来ない。
確かに、初めてこの世界に一人で来たのならば、この世界の住人であるデジモンにデジタルワールドを案内して貰うのが最も効率的だろう。
「……………」
だが、何故それが自分なのか。
此処は比較的何処にでもデジモンが生息しているファイル島だ。この二日間、彼等は既に何体かの小型デジモン達と遭遇している。何れも気性は荒くはなく、人間の言葉を理解出来る者達である
彼は始めに『他を当たれ』ときっぱり言っているのだ。周囲に誰もいなかったあの雪原ならともかく、以降は別のデジモンへと乗り換えた方が彼女としても賢明だろう。
にも関わらず、無言の自分に行き先すら分からないまま、この少女はテクテクと付いてきている。
(……もしや……ただ、バカなだけなのか……?)
アグモンの結論として浮かび上がるのは、『少女の異常思考』というくらいだろうか。
「あっ、もしかして、私のためにこの世界を案内してくれてるの? 」
背中から聞こえてくる呑気な声。
「…………」
「……って、そんな訳ないか。 ねーねー、そんなに無視されると、私だって怒っちゃうよー」
「…………」
『是非そうするがいい』、アグモンは内心でそう思う。
敵意を晒すならば、障害として彼は機械的に容赦なく少女を消せる。
そうすればこの二日間の悩みは解決、アグモンは何時もの日常に戻ることが出来るのだ。
だが、アリアがそんな言葉を口にしたその直後、
「!」
(……なんだ……この殺気……?)
アグモンの表情が険しくなる。
自身の後方から突如として放たれる殺気。それは敵意というレベルではない。彼を仕留めようとする明白な殺気である。
「チッ……!」
その気配に急いでクルリと後ろに振り返るアグモンであったが、
「あれ? 急にどうしたの?」
そこにいるのは、突然の彼の行動に首を捻る少女の姿。
『怒るよー』とは言っていたが、言うまでもなくその殺気は彼女のものではない。
元マシーン型デジモンである彼の索敵能力は非常に優れている。
気配の出所は少女の間隣の海。その水中だ。
「……退け……邪魔だ……」
「えっ? きゃっ!」
アリアをドンッと押し退け、アグモンはその
「……姿を表せ……貴様の気配は、既に知れている……」
「 いたた……えっ?」
突き飛ばされた少女が、尻を擦りながら立ち上がった時、アグモンの声に反応するように『殺気の主』がドボンと水面から飛び出し、白い砂浜の上にその姿を表した。
「……へへへ、よく俺の気配に気付いたじゃないか?」
まるで甲殻類のような出で立ち。
無数の足や、サソリを思わせる尻尾には如何にも凶悪なブレードが仕込まれ、見た目からもそれが獰猛なデジモンである事が見て取れる。
「……成る程……アノマロカリモンか……」
対面するアグモンが、冷静な声でそう口を開いた。
アノマロカリモン。
海辺に生息する完全体であり、別個体ではあるが、かつては選ばれし子供達とも戦った事もある古代生物型デジモン。
データ種ではあるが種族的に獰猛な性格で、『エサ』と判断した敵には前足と尻尾のブレードで容赦なく襲いかかる。
この個体も、恐らく自分のテリトリーへと入った彼等をそう認識し、殺気を向けてきたのだろう。
「ね、ねえ君! こ、これもデジモンなの……!?」
今だかつて見たこともないだろう巨大生物に、少女の顔が少し怯えを見せて、アグモンの背中に隠れるようにそう呟いた。
「…………」
しかし、そんな状態でもアグモンは彼女を一切気に止める事もなく、彼は目の前のアノマロカリモンへと睨みを効かしたまま、静かにその口を開く。
「……一応聞いておく……その"殺気"を解け……無駄な戦闘をするつもりはない……」
「ヒヒヒ……"エサ"の分際で俺に指図か?」
最も、相手にアグモンの"忠告"を聞く気はさらさらないようであるが……
「……引く気はないのか……?」
「当たり前だ!」
その言葉と同時に、アノマロカリモンは少し長い一対の前足をクロスさせ、遠距離から小さな標的"二人"に向かってそれを勢いよく振り抜いた。
それは戦闘開始の合図。
「スティンガーサプライズッ!」
先制して飛来する巨大な×型の衝撃波。
見ただけで分かる。それは直撃すれば人間など一撃で命を消されかなない程の威力。
「……あっ!?」
この世界に来て初となる外敵からの攻撃に、アリアは目を丸くしてアグモンの背中で短い悲鳴を上げた。
一方、そのアグモンは、
「………」
迫り来る衝撃を無言で見つめたまま、一歩たりとも動かない。
そして、
「きゃあああ!」
アリアの悲鳴が甲高いものへと変わる。
直後、
ドゴン!という衝撃音を上げてアノマロカリモンの必殺がアグモンへと直撃し、余波によって彼の足元の白い砂がまるで爆発するかのように飛び散った。
「ハハッ!バカが! 直撃しやがった」
快晴の空の下モクモクと立ち上る土煙。
少女の悲鳴もピタリと止まる。
完全体の攻撃をまともに受けて無事な成長期などまずいない。
アノマロカリモンはあっさりと勝利を確信した。
「態度はでかかったが所詮は成長期だな……俺の必殺を避けれる筈もない……しかし、ちょっと強く撃ちすぎたか。 バラバラになってなければいいが……」
必要以上の攻撃はアグモンの高圧的な態度が気に食わなかったからだろう。
土煙で酷く視界が悪くなった海岸沿い。そんな心配を胸に、二人の亡骸を捕食しようとアノマロカリモンは彼等の立っていた位置に向かってノソノソと進んでいく。
だが、
それこそ、アノマロカリモン最大の失敗。
「……ファイアー……ブレス!」
「?」
煙の奥から、そんな声が彼の耳に届いた。直後、
「ぐうおおお!!」
気付けば、アノマロカリモンはそんな絶叫を上げ、突如噴出した強大な火炎に飲み込まれながら宙を舞っていた。一瞬ににして焦げ付く甲殻。そして、
「がふっ!」
そのまま、ガチャンという殻と殻がぶつかり合うような音を上げて、彼は真っ逆さまに砂浜へと叩き付けられた。
炎の勢いによって煙が晴れ、砂浜に巨大なシルエットが浮かび上がる。
"そこ"に居たのは、
「……なら……覚悟はいいな……」
一匹の真っ赤な恐竜。
『当たり前だ!』という先程のアノマロカリモンの答えへの返答を述べながら、ティラノモンへと進化したアグモンがまるで何事もなかったかのようにドスンと一歩を前に出す。そしてその後方では、
「えっ……ええーー!」
アグモンの真後ろに立っていた事が幸いしたのだろう。
尻餅こそついているが、白い少女もピンピンとしているようだ。
今のアリアは自分が助かった事よりも、目の前のアグモンが突然巨大化した事に驚いているようだ。
最も、驚いているという点では、彼らの目の前で黒焦げになっているアノマロカリモンこそが一番のようであるが……
「ぐっ!? お前……何故……まともに受けた筈……」
「…………」
冷酷そのものと言える目付き、そしてその身に纏う異常な威圧感。無言のまま、ティラノモンは砂浜に伏せるアノマロカリモンを平然と見下す。
そう、敵と判断したのなら、最早このデジモンは一切容赦が『出来ない』
それが例え格上の完全体だろうと話は同じ。
いや、元
そして既に最終確認を済ませた今、ティラノモンが話す言葉も何もない。
『敵は叩き潰す』それだけである。
「……行くぞ……」
ダンッ!と、ティラノモンはその巨体に合わず、ほんの僅かな助走のみで一気にアノマロカリモンへと跳躍し、そして、
「がっ、がああああああ!」
バキっ!と、黒焦げの彼の右前足を、増加した体重を持って一撃の元に"踏み潰した"。
直後に響くアノマロカリモンの絶叫。
ボロボロに潰された前足から、彼を構成するデータが漏れている。そんな中、
「……これでもう……貴様は二度とあの技を放てない……」
それを他所に、ティラノモンは感情のこもっていない声でそう呟く。
そして、それだけでは終わらない。
「クっ! クッソオオォ! たかが成熟期にィ!」
「……スラッシュネイル!」
激昂と共に体勢を捻り、反撃に尻尾のブレードを突き立てようとしたアノマロカリモンの攻撃を避け、逆に一閃。今度はその尻尾を鋭い右爪によってバサリと切断した。
「ああああああ!」
又もや上がる苦しみの声。
「…………」
だが、今さらそんな声を上げたところでこの恐竜は『何も感じない』。そしてそれは、感情がどうこう以前の問題。
今まで、何百、何千、何万というデジモンを破壊してきたムゲンドラモンにとって、敵の断末魔など野鳥が鳴く事程にどうでもいい。
「…………」
「がっ!」
無言のまま、赤い恐竜は叫び声を上げるアノマロカリモンを、まるでゴミのように蹴り上げる。
そして再び宙へと舞い、ドゴンとそのまま背中から地上へとたたきつけられた哀れな姿の完全体。
「……………」
「ウッ! アッ! アアア!」
右足を潰され、尻尾を切断され、そして全身を焦がされたアノマロカリモンは、恐怖と激痛から砂浜を野田打ち回る。
"とんでもない地雷をエサだと認識してしまった"
此処に来て彼はやっとそれに気付くが、もう時は既に遅い。
「……止めだ……ファイアー……」
ティラノモンが大きく息を吸い上げる。
「ヒッ! ヒィィ!」
最早アノマロカリモンに戦意はない。
彼は背中を見せ、一目散に元居た海の中に戻ろうと逃げ始めた。しかし、やはり体の損傷があまりに大きいためか、どうしても上手く走れない。
近くにある海が途方もなく遠く、彼の表情が絶望に変わった時、その止めの声が響く。
「……ブレス……!」
「!」
先の一撃よりももう一段上の火炎放射。
海の波すらも蒸気に返す程の炎を背中で受けたアノマロカリモンは、声を出すことも出来ないままその炎の波へと飲み込まれ……
そしてドボン、と……
『真っ黒な炭』へと変わった後、彼は帰りたがっていた念願の海へと、ゆっくりと沈んでいくのだった。
「……終わったか……」
戦闘の終了。
ブクブクと敵が沈んだ水面を見つめながら、ティラノモンは旅を再開するため、その姿を直ぐにアグモンへと退化させる。
やはり、エネルギー消費と歩行速度のバランスを考えれば、成長期のこの体が一番効率がいいのだろう。
水面に背を向けくるりと反対方向を向くと、今度は白い少女と目が合う。
「……あっ……」
「…………」
突然の戦闘、そしてあっという間の決着。
これがデジタルワールドであり、弱肉強食の世界の在り方。
しかし、あくまで現実世界から初めてこちらに来たアリアには、今の戦闘はやはり衝撃的だったのだろう。
一人賑やかだった彼女がペタンと砂浜に座り込んだまま、どこか少し沈んでいるような表情を見せている。
(……所詮はただの人間……大方、オレの力を恐れていると言ったところか……フッ……好きに思うがいい……オレには関係ない……)
かつて彼がムゲンドラモンであった頃もそうだった。
どのようなデジモンであれ、彼の力に恐怖を覚えなかった者はいない。
例外があるとすれば、それは同じダークマスターズか、もしくは選ばれし子供達程度。
殆どのデジモンはその力の前に先のアノマロカリモンのように無様に逃走し、一部のデジモンは自身への恐れから服従する。
突出した力を武器に彼は過去そのように生きてきた。
故に何時も一人。今でもそれは変わらない。
それを寂しいと思うことも、辛いと思う事もない。
その背に付いて回るのは何時も『恐怖』だけ。しかし、他者に何と思われても、元々ない『心』には何一つ響かない。
それが
(……最も、これでもう……オレに付いてくるなどと考える事もないだろう……)
エネルギー消費はしたものの、副次的に少女を遠ざける事が出来たのならば悪くはないと、彼は一人で再びテクテクと歩き始める。
だが、
「………」
「………」
座り込む彼女とのすれ違い様。アリアが放った言葉はアグモンにとってあまりにも衝撃的なものだった。
「……ありが……とう……」
「……な……に……?」
思わずその足が止まる。
「だから、『ありがとう』って……私を助けてくれて……ちょっと怖かったけど、君が居なかったら今頃私食べられちゃってたから……」
「…………」
以外にも、ケロッとした表情でアリアは語りかけてくる。確かに衝撃的な光景だった。だが、見方を変えれば彼女はアグモンに助けられているのだ。ある意味、その反応は当然とも言えるが、
「ん? ……なんで固まってるの?」
「………バカ……な……」
『ありがとう』の意味ではない。何故この娘が自分に対してその言葉を使っているのかが、である。
今までの生涯で、誰一人からも言われた事のなかったその言葉。『感謝』の意を示すその言葉を、あろうことか自分へと使う者がいるなど、アグモンは唯の一度として考えた事がなかった。
思考は困惑し、彼ともあろう者がそのたった一言で全身が停止してしまう。『会話などエネルギーの無駄』そう考えているにも関わらず、アグモンは聞かずにはいられなかった。
「……何故……だ……オレは……貴様を……助けたつもりなどない……にも関わらず……何故?」
「えっ? でもホントに助かったんだよー。ありがとう……ていうか、やっと喋ってくれたね」
「!」
海を背景に嬉しそうにニコッと微笑むその顔は、今まで彼が見てきたどんな景色よりも、何故か綺麗に見えて、
「……オレには……お前が分からない」
まるで"恥ずかしさ"を隠すように、彼はそそくさと歩き出す。
今しがたの戦闘よりも、彼にとっては自分に向けられる笑顔の方が、遥かにダメージは大きかったようだ。
(クソ……何なのだ……コイツは……)
「えっ! ねえ、待ってよー!」
太陽は今だ真上。
後ろから慌てて追いかけてくるアリアの気配をアグモンは感じるが、不思議と、それは先程までよりも不快には思わなかった。
ティラノモン無双。こっちのアグモンは相手が完全体でも関係なしです。
どうでもいい話ですが、サイバースルゥースで始めて感じた不満点は、『何故メタルティラノモンからムゲンドラモンになれないのか』という部分でした、
ではでは、次回タイトル『母』
更新は少し先になるかと思います。先に本編を頑張らねば……