RWBY 氷雪帝国は絶賛放映中!
スクロールを操作してワイスへ連絡を取る。このままでは奴隷達の反乱に巻き込まれるのは確実だ。彼らがシュニーダストカンパニーの社長令嬢を見て凶行に走る可能性は十分にある。原作でもホワイトファングの中で過剰にワイスに対して殺意を持っていた人物がいた。
「あら、何かありましたか?」
「ワイス、今どこにいる?」
「さっきまでは貴方と会った場所にいましたわ。今は廊下を歩いているところです」
「……それなら俺と会った場所まで戻ってきてくれ。そして扉の鍵を掛けて俺が来るまで待ってろ」
「え?ちょっと、一体何があったんですの?」
俺は言うべきかどうか一瞬迷い、今となってはそんなことしている場合ではないと決断する。
「俺以外の皆が反乱を起こした!もうそっちに向かってる!」
俺はワイスの返事を待たずに通信を切る。今は彼女と話している時間すら惜しい。聡明な彼女なら、例え納得していなくても緊急事態だと思って俺の話を聞いてくれるだろう。
「お願いだから間に合ってくれ……!」
もう既にお馴染みとなった配管をこれまで以上の速度で死に物狂いに駆け上がる。普通に本部に行くのでは絶対にあいつらには追いつけない。だから直接ワイスのいる部屋まで通じている配管を使い、あいつらよりも先にワイスの元へ……!
「もう、一体なんですの……?」
言いたいことだけ言って急に切れたお行儀の悪い連絡に呆れながら、私はスクロールを懐に仕舞う。彼の言っていたことはよく分からなかったが、彼ともう会うことができないのは悲しいことだとも思ってたので、最後にまた会いたいと私は運搬室へと引き返した。
突然サイレンが鳴り出したのはその時だった。鳴り響くサイレンの後、緊急事態につき避難するようにと放送される。私はその放送で緊急事態の内容が従業員の暴走であるということを聞き、ようやくアダムが言っていた内容を全て理解することができた。
アダム達が反乱を起こしたのだ!彼の言うことを信じれば彼だけは部外者で、彼以外の奴隷達が反乱を起こしたということだろう。それでアダムは私に彼と合流できる場所に逃げ込むようにと、ああいう風に言ったのだ。
だけど私はそれを素直に聞いて足を動かすことができなかった。放送では別の場所へと避難することになっている。その指示を背いてまでアダムと合流することを優先するべきかが分からないのだ。それに……
「それに、アダムは私を騙していた」
アダムは私に言ったはずだ。彼は脱出計画の為にここに侵入していたのだと。その時反乱する予定だったことなど一言も言ってなかった。
そんな男が私を守るなど、考えられるだろうか?むしろ、私を利用するために手中に入れたいのではないか?
そっちの方が自然だ。なにしろ、私はシュニーダストカンパニーの社長令嬢だ。私を人質にすれば、様々なことを要求することが出来るだろう。普通に考えればアダムもそう考えてるに違いない。
けど、ここ1週間で関わったアダムのことを信じたいという思いもまた事実だった。彼は家族を疎んだ私に対して彼のできる範囲で歩み寄ろうとしてくれたし、そのお陰で私の孤独感も大いに満たされた。そんな人が私を裏切っていたと考えたくないし、彼の言うことを信じれば彼は反乱計画とは無関係なのだ。
だから私は悩んでその場を動けなかったし、それが致命的な行動であると気づいたのは、壁の向こうから暴力的な喧騒が聞こえてからだった。それを聞いて私は足を止めているべきではなかったと、心底後悔した。
ここから避難場所までは遠すぎる。それまでに間違いなく彼らに捕まってしまうだろう。残された道はひとつしかなかった。
走る、走る、息が既に切れていても、呼吸を求めて肺の奥で痛みが走っても、足を止めてはいけない。既に後ろを振り向くと私を追い掛ける人影が見えた。人数は1人だったが、それでも無力な私では絶対に敵わないだろう。
ただ、追い掛けてくる人はよっぽど私を甚振りたいのか、それとも私の正体を知らなくてやる気がないのか、私を追い掛けてくる速度はそこまで速くなかった。それでもまだ小さな私にとっては全速力でないと追いつかれるもので、私は必死に走り続けた。
ようやく運搬室まで着いた私は急いで扉を閉めて鍵を掛ける。これで大丈夫なはずだ。追手も私がここに逃げ込んだのが分かったのか、ドンドンと扉を叩く音が聞こえたので私は震えて扉に背中を押し当てた。
その音はしばらく続いたが、ようやく諦めたのか音は聞こえなくなった。私は向こうの様子が知りたくて扉に耳を当てて聞き耳をする。
「お前何やってんだ?他の奴らは既に武器庫に行ってんぞ」
「あ、リーダー。いえね、ガキを見つけたんで保護するべきかどうか、捕まえてリーダーに伺おうとしたんですが、逃げられてしまって」
「で、ここに閉じこもったと?」
「ええ、そうっす」
扉の向こうには奴隷達のリーダーがいるみたいだ。彼が反乱の指導者であるかもしれない。私は自分が無事でいるように、祈っていることしかできない。
「ガキなんか捨て置け。自分から命乞いするならともかく、逃げるような奴を保護する意味なんかねぇよ」
「了解す、じゃあ武器庫行ってきやす。そういやリーダーは?」
「俺は武器なんてガラじゃねぇからな」
「さっすが」
追手達の遠ざかる足音が聞こえる。どうやら私はただの逃げる子供として処理されたらしい。そのことに安心して私は地面にへたり込んだ。
集中力が途切れた瞬間、周囲の喧騒も聞こえなくなり周囲に静寂が訪れる。だから、その声は今まで以上にはっきりと聞こえた。
「……待てよ。そのガキの見た目、髪が白かったとかじゃねぇか?」
「え?もしやリーダーはあのガキ知ってるんすか?」
「ククク、ビンゴか。お前は大手柄だ、よくやった!」
私の正体が奴らに気づかれた!私は部屋のどこかに隠れようとしたが、足が動いてくれない!私は恐怖に怯えきって、衝撃に打ちつけられる扉を見ていることしかできなかった。
そして幾度も激しい音を繰り返して、扉は強引に開かれた。扉を開いた大柄の男が入ってくる。
「やっぱりワイス・シュニーだったか。シュニーダストカンパニーの社長の娘、人質に取るにはピッタリの人間だ」
「ち、近づかないで下さい!」
「はあ?そんなこと、聞くと思ってんのか?それとも、今まで俺達はテメェのそんな命令まで聞かなきゃいけなかったのか?」
男は動けない私に近づいてくる。恐怖に怯えた私を見て薄暗い笑みを浮かべながら、その右手が迫ってくる。
私は目を閉じて心の底で助けを呼んだ。誰か助けて!
「その薄汚い手を引っ込めろよ」
「……テメェ、自分が何してるか分かってんのか?」
ワイスの前に立って捕まえようとする手を阻んだ俺に対し、リーダーの男がこちらを問い詰める。自分が何してるかだって?むしろ、俺の方が聞きたいんだが?
「アダム!」
だけど自分を呼んでくれる彼女の声だけには応えなければならない。それが余計なことをして彼女を巻き込んだ俺の責任であり、今の俺の存在意義だからだ。
「よくも計画の実行時期を騙してくれたな」
「はっ、人間と手を組んだ奴なんざ信用できねぇよ!その様子じゃ手を組んだのもそこのガキなんだろ!?」
「あの時の俺達じゃ、誰かの協力なくては脱出できなかった!……いや、ちょっと待て、どうやってお前達は採掘場から抜け出せた!?」
「ククク、俺達にはホワイトファング様がついてるんだよ。お前がスクロールを持って来てくれたお陰で助けを呼べたんだ。感謝しなくちゃな!」
「そこまで……」
こうして奴の計画の内容を聞くと、俺がワイスに貰ったスクロールを見せたその時から奴は俺を騙そうとしていたのだろう。そんなに人間が信じられないのか?人間と組んだ俺が信じられないのか?
「違う……」
俺とコイツらはやっぱり違うんだ。俺は見た目がファウナスでも、中身は差別の無い現代社会に慣れきった人間だ。目の前の男の言うことに何一つ賛同できないし、理解すらもしたくない!
「俺はお前達とは違う!俺はワイスを守る!」
「ほざけぇっ!」
男が捕まっている方とは逆の手を振りかぶって拳を振るう。俺は身体全体を使って拳を受け流しながら、奴の腹へと背中から体当たりをする。オーラを使った渾身の一撃は、大男を軽々と吹っ飛ばし壁へと叩きつけた。
「逃げるぞ!足は動くか?」
「も、申し訳ありません!無理です!」
「そうか、なら捕まっていろ!」
ワイスを背負って走り出す。彼女の存在について知っているのは今倒れているリーダーの男くらいだろう。ならばただすれ違うくらいなら他の人に怪しまれないはずだ。俺の見た目は普通にファウナスだし。
その予測は正解だった。今となっては同胞とは言いづらくなってしまった奴隷の皆とすれ違いながら、脱出手段を探す。流石にこの鉱山から近くの街まで歩いて行ける距離ではない。何より途中にはグリムが出没するから命の危険がある。俺1人ならともかくワイスを庇いながらは余りにも厳しい。
そう思いながら本部を出て駐車場へと直行する。最悪火事場泥棒で車を奪って逃走するつもりだったが、俺達の元に一台のトラックがやって来る。
「アダム!車借りて来たよ!」
「カラバ!」
その運転手はカラバだった。どうやら採掘して加工したダストを製錬所へと輸送するトラックを奪ったらしい。やだ、この子天才……?
カラバが運転席から降りて俺達の前に立つ。ワイスが怯えるが、安心させるように一歩前に出る。
「その子は?見たところファウナスじゃないみたいだけど」
「ああ、この子が本部のデータを送ってくれた協力者だ」
「えー!まだ小さいのに偉いねぇ」
ここでカラバにワイスのことを正直に伝えるかどうか、俺は迷った。正直に伝えれば先程のように決別するかもしれないし、黙っていても何かの拍子にバレてしまう可能性は十分にある。今まで俺のことを理解してくれたカラバなら今の俺の状況も分かってくれるかもしれない。
だがそれは楽観的な考え方だ。ワイスの身の安全を考えるなら今だけはカラバを騙してでも彼女を連れて行くべきだ。そう頭では分かっていても、心のどこかでカラバだけは俺の味方でいて欲しい自分がいた。
俺は俺なりに奴隷の皆にも愛着はあったんだ。酷い労働の後に皆で労ったことは数知れないし、脱出した後のことだって彼らと一緒にしばらくはメナジェリーにでも住もうかと思っていたのだ。それは彼らの復讐心に気付くまでの間であったが。
カラバはそんな俺を気遣ってくれた。彼が語ってくれた脱出した後の展望だって気が惹かれたし、潜入を決意した俺に感謝もしてくれた。そんな優しい子を騙して彼との友情を蔑ろにしたくないのだ。
そうやって悩んでいると、後ろからワイスが囁いた。
「私のことは気にしないで下さい。貴方に助けられているのですから、貴方のしたいようにするのが1番です」
その言葉があまりにも健気すぎた。天使かな?とにかく、そんなことまで言われてなお騙そうとするほど俺はクズじゃない。クズじゃないよね?自問自答しつつカラバに告白する。
「俺が保護したこの子、ワイス・シュニーって名前だ」
「ワイス・シュニーって……あの?」
「そうですわ。私はシュニーダストカンパニー社長、ジャック・シュニーの娘です」
「俺は皆と対立してまでこの子を守ろうとした。それでも、君は俺を助けようとしてくれるか?」
俺の問いかけにカラバは間を置き、申し訳なさそうに答えた。
「ごめんね。僕だって復讐をしたいわけじゃないけど、だからといって元凶に近い人達に何も思わないわけじゃない」
「そうか……そうだよな」
それは拒否の言葉だった。薄々感じていたことではいた。俺がワイスを守ろうとしているのは単純な正義感や罪悪感よりも原作知識によるものが大きい。それが無いカラバでは、彼がどんなに優しくても彼女を守ろうとまでは考えられないのだろう。むしろ俺の考えの方が異端なのだ。
「でも、君の考えに賛同はできないけど、かといって僕は君の考えを否定しないよ。仮に否定したって君が本気を出せば僕を排除するくらいは簡単だろうし、どうせなら一緒に脱走した方が脱走の成功率も高いよ」
だから、そのカラバの言葉は俺にとっての救いだった。例え考えが違ってもお互いに否定し合うことなく、自分の出来る範囲で受け入れる。殺伐としたこの世界で良識に溢れたカラバの言葉に俺は感謝しながらワイスと一緒に車へと乗り込んだ。
自分にとって厳しい生活の象徴であった鉱山、そしてそこで一緒に働いていた仲間だった人達に俺は心の中で謝罪し、同時に別れの言葉を告げた。トラックは勢いよく発進して複雑なものを感じさせたその光景を小さなものにしていく。
その姿をずっと見ていたから俺は気づいた。そうか、よく考えたら当たり前の話だ。破壊の獣、グリムは人間の嫉妬、悲しみ、孤独、憎しみ等の負の感情の源に集まる習性がある。奴隷達が反乱を起こしたなど、グリムからしたら絶好の餌場だ。
鉱山の方へと大量の黒い獣が真っ直ぐに向かっていた。
ここまでがプロローグです。奴隷の少年が反乱に巻き込まれてお金持ちの少女と逃避行!いや〜王道ですね。