オレンジの誓い 作:黒の夢
※風太郎の母親に関しては、ねぎ先生のTwitter以外情報がほぼ無いので完全にオリキャラになっています、ご容赦ください。
複数のシナリオのまとめ、一部追加も行いました
初秋の昼下がり、静かな時を切り裂くけたたましい警報が鳴り響いた。デスクの上から落ちたファイルや筆記用具など一切気にも止めず、速やかに着替えと装備を整え、車両に乗り込み緊急出動。
「
「所要時間は約10分です!」
「各自、装備の最終確認。現場到着後、即進入、人命検索に入る」
「隊長、先着部隊からの情報です!」
現場は、学校。防火設備、防火対策も一般の建物よりも高い鉄筋コンクリートの校舎、燃え種になるような物は少ないはず。しかし、支援要請が入った。火災現場、事故現場、災害現場へ急行する消防組織の中で、特別に組織された部隊――
「おい⋯⋯」
「マズいぞ、これ」
校舎から避難する生徒、近所の野次馬、難を逃れようと一刻も早く避難しようとする車両が、歩道と車道を埋め尽くすかのように溢れかえっていて。先に到着した部隊の半数近くが、未だ校庭に入ることすら出来ていない。
「何だよ、この車両の数は!」
『緊急車両です! 一般車両は道路脇に停車して、道を空けてください!』
「ダメだ。呼び掛けもパニック状態でまともに聞きやしない!」
隊員の一人がマイクを持ち、声を大にして語りかけても、混乱は一向に収まらない。そうこうしている間に、校舎を包む炎は激しさを増し、狭い車内で足止めを食う隊員たちの中に、どうしようもないフラストレーションが沸々と溜まっていく。
――道は、決してひとつではありません。
ふと、あの人の言葉が頭を過った。
「車両反転、校庭側面へ移動させろ!」
「側面へですか? ですが――」
「急げ!」
「り、了解ッ!」
「お待ちしていました!」
「状況は!?」
「不明! 文化祭だそうで生徒、教師以外の来客も多く把握は極めて困難な状態です!」
文化祭。それで、通常じゃ考えられない台数の車両が。
「火が出ているのは、一棟だけか。大隊長」
「1階は検索済みだ。今、中隊が2階の検索にあたっている。
「了解」
火元と思われる家庭調理室、化学実験室などが入る特別教室棟。文化祭の出し物は屋外や教室棟が中心、人はあまり居ないだろうがゼロではない。到着に遅れが生じた、これ以上時間をかける訳にはいかない。
「各員面体、冷却ベスト装着。進入と同時に
「面体着装、ボンベ残圧20MPa使用可能時間15分、バディ間確認、ヨシ!」
「車両固定完了! ホース装填、水圧、問題なし! いつでも行けます!」
「退路は常に確保しろ、いいな!? 行くぞ!」
複数のポンプ車の後方支援を受け、黒煙が視界を遮る、灼熱の炎が躍る“地獄”へと進入した。
☆ ☆ ☆
「懲りないね、キミも。無茶なことばかりする」
無愛想な面構えの医師は、呆れたように言った。
「全治二週間といったところだ、大人しく休養していればの話しだけどね。今回の怪我はまた、痕が残る」
レントゲン写真から目を外し、顔をこちらに向けた。
「その瞳、一段と赤みが増した。キミも、彼も、優秀だということは知っているが、そろそろ第一線から退いたらどうだ? 後任を育てることも、前任の重要な務めだ」
「わきまえてるさ。もう、長くはないしな。それにこれは、俺の誇りだ」
治療を受けた、左上腕に触れる。
過酷なレスキュー隊に配属されて十数年が過ぎ、この体に刻まれた数え切れなほどの負傷の痕はいつ負ったものなのか、全て鮮明に覚えている。
「中野医院長、患者の意識が戻りました。受け答えもはっきりしてますし、経過は概ね良好です」
「そうかい。それはよかった。経過観察任せるよ。僕も後ほど伺う」
「はい、失礼します」
燃える校舎の中で発見した要救助者の状態を知らせに来た、短髪で黒縁メガネをかけた若い医師が診察室を出て行く。一酸化炭素を吸った影響で一時的に朦朧していた要救助者の意識も完全に回復、数日後には退院可能との診断。
「キミたちが救助した患者より、キミの負った怪我の方が遙かに重傷だ」
「安いもんさ。この程度で済んだんだからな」
「彼女は⋯⋯いや、忘れてくれ。僕の想像で話すことではなかった」
「ああ。さて」
オレンジ色の上着を持ち、席を立とうした時、デスクに置かれた二つの写真立てが視界に入った。ひとつは角度の関係ではっきり分からないが、大勢で写っている写真。もうひとつの方は、柔らかに微笑む凜とした女性。
あれから、七年が経った。
「救急外来の方から出ろ。その服で彷徨かれると、患者が動揺する」
「分かってる。何回来てると思ってるんだ」
「二度と来るな。僕は会いたくない。
病院では、か。
司令本部から、スマホに緊急連絡が入った。都心環状線で多重事故が発生したという知らせ。一呼吸遅れて病院にも、同現場へのドクターヘリ出動要請が入った。
「中野!」
「緊急事態だ、特別に許可する。僕の方から連絡を入れておく。裏口へ回れ。外来の反対側だ」
「恩に着る!」
オレンジの隊服を着て、廊下を走るフライトドクター、看護師と共に病院が所有するヘリポートへ向かう。ドクターヘリに乗り込み、機体の無線を拝借して、現場の部隊と情報を共有、現着次第即座に動けるよう支度を整えておく。
『見えました! 左舷前方!』
「横転しているトレーラーのエンジンは生きている! 現時点で燃料漏れは確認していないが、発火の危険性を回避して迂回、救急車が待機している事故現場の最後尾へ! 発煙筒を目印に!」
『了解です!』
着陸態勢に入るため、上空を大きく旋回。高層ビル群に跳ね返った西日に目を細める。夕暮れが近い。帰宅ラッシュ時、計7台が絡む玉突き事故。視界が悪くなれば、リスクは高まる。日が落ちる前に、人命検索、救助を終わらせる。
ドクターヘリを降り、ほぼ同時に現着したレスキュー隊のヘリへ乗り換え、再び上空へ舞い上がる。ヘルメットを被り、拡声器を持つ。
「前後の車両は検索済みだ、車体の損傷が激しい中央部の人命検索を行う。降下準備!」
「安全帯、カラビナ、降下ロープ固定! 降下位置目視、確認ヨシ!」
「火が上がってなくても油断するなよ、いつ引火するか分からないからな!」
「了解! 行きます!」
あれから、恩師の女性が亡くなってから七年。
“もう”七年なのか、“まだ”七年なのか。未だ、心の整理はついていない。
しかし、立ち止まる訳にはいかない。
あの人が――零奈先生が示してくれた道は、決して間違っていなかったと胸を張って伝えるために。
何より、今も帰りを待つ家族ため、要救助者を家族の元へと必ず連れて還る。
それが、オレンジを着る者の使命なのだから。
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