TS悪役令嬢になったオレ! 王子と婚約してるけど悪役令嬢だから婚約破棄されるだろうし、気にせず生きていくぜ!   作:冬月之雪猫

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第百三話『冒険者の食卓』

 満足がいくまで庭園を堪能したフレデリカとエレインはエシャロット達の下へ戻って来た。

 

「……やっと戻って来た」

 

 エレインの寮姉はくたびれた様子で言った。

  

「おう、ティナ! 待たせたな!」

「ええ、本当に! 二時間も待たされるとは思っていなかったわ! よっぽどお花が好きみたいね、エレイン」

「ああ、前よりもっと好きになったぜ」

 

 そう言うとエレインはフレデリカに向かってウインクした。すると、フレデリカははにかむように微笑んだ。

 

「ほら、次行くわよ! 今日中に案内しておきたい所がいくつかあるんだから! モタモタしてるとディナーもお預けよ!」

「ディナーも? え?」

「え?」

 

 ティナの言葉にエレインとフレデリカは顔を見合わせた。

 

「……ランチの時間、もう終わっちゃったんだよねぇ」

 

 エシャロットの言葉に二人は凍りついた。

 

「良い機会だから教えてあげる。アザレア学園は基本的に時間厳守なのよ。ランチタイムの時間に間に合わなければ当然お昼抜き! 授業の時間に遅刻したら教室にも入れないよ!」

「お、お昼抜き……」

「フ、フリッカ!?」

 

 フレデリカはヘナヘナとその場にへたり込んだ。

 

「ありゃりゃ、お昼抜きが相当堪えたみたいだね……」

「……そういや朝飯の時とかすげぇ美味そうに食ってたな」

「うーん……、こうなると手段は一つかなぁ」

 

 ティナは指をパチンと鳴らした。

 

「未来の王妃様を飢えさせるわけにもいかないし、いっちょクラブ棟に乗り込むとしましょうか!」

「クラブ棟?」

「ああ、その手があったね!」

 

 困惑するエレインを尻目にエシャロットは納得した様子で手をパンと叩いた。

 

「その手って、どんな手だよ?」

「クラブ棟はクラブ活動の為の施設なのよ。アザレア学園にはクラブが星の数ほどあって、その中には料理研究会っていうのもあるわけ」

「料理研究会!?」

 

 フレデリカが瞳を輝かせながら復活した。

 

「おっ、食いついたな」

「フリッカちゃん、もしかして結構食いしん坊……?」

「否定はしません! 料理研究会、とても興味があります!」

「この子ってば、聞いてたより面白い子ね」

 

 ティナの言葉にエシャロットとエレインがうんうんと頷くとフレデリカは恥ずかしくなったのか縮こまってしまった。その姿にエレインはやれやれと肩を竦め、彼女の手を取った。

 

「とりあえず、さっさとそのクラブ棟ってとこに案内してくれよ。未来の王妃様が腹ペコなんだからさ」

「はいはい、こっちよ」

 

 ティナに先導されながらフレデリカ達はクラブ棟へ向かった。

 

 ◆

 

 クラブ棟は学園の中心部に聳える中央塔をグルリと取り囲む円環状の建物だった。

 入り口は複数あるらしく、フレデリカ達はヘミルトン寮から一番近い入り口から中に入った。

 扉の先には細い通路が伸びており、その端には螺旋階段があった。運動不足の身には少々辛い段数を登り切ると左右に広々とした回廊が広がっていた。

 

「こっちよ」

 

 ティナの後に続いて廊下を歩いていくと香ばしい匂いが鼻孔を擽った。

 

「着いたわ。料理研究会は十八あるんだけど、ここはヘミルトン寮の生徒が主体になっているの」

 

 料理研究会だけで十八もある事にフレデリカとエレインは驚いた。

 どうやら、クラブが星の数ほどあるという話もあながち言い過ぎでは無いようだ。

 

「時々、料理研究会同士で料理対決なんかもやってるんだよ。それで格付けをしているの。学生時代に自分が参加している料理研究会を格付けでトップに導いた生徒が実績を買われて王宮のシェフに抜擢されたなんて事もあるんだよ!」

「まあ、凄い!」

 

 エシャロットの話を聞いて、たかがクラブと侮ってはいけないようだとフレデリカはソワソワし始めた。その様子を見て苦笑すると、ティナは『冒険者の食卓』という看板が掛けられた料理研究会の扉を開いた。

 

「ハロハロー、新入生を連れて来たわよー」

 

 ティナが声を掛けると室内にいた生徒達の視線が一斉に集まって来た。

 

「ティナ? 今日って、新入生に学内の主要施設を案内する筈だろ? なんで、いきなりクラブ棟に連れて来てんだ?」

「ははぁん、さてはランチを食べ損ねたんでしょ」

「ここは食堂じゃないんだぞ……」

「まあまあ、新入生がお腹を空かせているなら放っておけないよ」

「ってか、あそこに居るの……」

「え? ウソ。ウソでしょ!? え? フレデリカ様!?」

「フレデリカ様!?」

 

 一人の生徒がフレデリカの存在に気が付くと、途端に全員が慌て始めた。

 

「ちょちょちょ、ティナ!? なんで、フレデリカ様が!?」

「え? まさか!?」

 

 殆どの生徒が真っ青になってしまった。その様子を見て、フレデリカはしまったと思った。エシャロットやエレインだけでなく、ティナも初対面から気安く接してくれていたから自分の立場を失念してしまっていた。

 空腹はとても辛い。けれど、何の心構えもない状態で次期王妃に食事を振る舞えと言われても困るだろう。ランチタイムを逃してしまったのはフレデリカ自身のミスだ。その為に彼らを精神的に追い詰めるような真似は出来ない。

 

「……わたくしは」

 

 席を外します。そう言おうとしたらエシャロットに口を人差し指で塞がれた。

 

「フリッカちゃん、大丈夫。わたし達だって、考えなしに連れて来たわけじゃないんだよ」

「そうそう。みんな、別に嫌がってるわけじゃないのよ。ただ、ちょっと緊張してるだけ」

 

 フレデリカは戸惑いながらエレインを見た。彼女も首を傾げながら肩を竦めている。

 

「フレデリカ様」

 

 青褪めた生徒達の間をかき分けながら一人の女性が現れた。

 

「フレデリカ様。彼女はアレクサンドラ・フォードです」

 

 ティナが紹介してくれた。どうやらフォード侯爵家の御令嬢らしい。

 

「当研究会の会長を務めております、アレクサンドラ・フォードです。どうかお見知り置きを、フレデリカ様」

 

 アレクサンドラは深く丁寧なお辞儀をした。

 

「よろしくお願い致します、アレクサンドラ」

 

 慣れた様子で挨拶を返すフレデリカにアレクサンドラは微笑んだ。

 

「フレデリカ様に足を御運び頂き、誠に恐悦至極で御座います。当研究会は『冒険者の食卓』という看板を掲げておりまして、主に秘境と呼ばれる土地の料理を研究しております。宮廷料理とは趣が異なりますが新鮮な味を堪能して頂ければ幸いで御座います。さあ、どうぞ此方へ」

「ええ、よろしくお願い致します」

 

 フレデリカ達は奥にある上品なテーブルへ通された。

 

「……な、なんか、雰囲気おかしくね?」

「たしかに……」

 

 厄介者が現れて迷惑に思われているとばかり考えていたけれど、どうにも周囲の様子がおかしい。ティナが言う通り、なんだか緊張しているように見える。

 

「フリッカちゃんに料理を食べてもらえるからだよ」

 

 エシャロットの言葉にエレインはキョトンとしているけれど、フレデリカは察しがついた様子だ。

 

「なるほど……」

 

 要するに王宮へ献上品を運んで来た人々と同じという事だ。

 フレデリカが美味いと言えば、それだけで箔となる。逆に不味いと言われてしまえば評判がガタ落ちしてしまう。それ故に緊張しているという事なのだろう。

 ランチを食べに来たつもりが、いつの間にか料理の審査をする事になっていた。フレデリカとしては食事に難しい話を持ち込みたくないのだけど、こうなっては仕方がないと割り切る事にした。

 

「大丈夫か?」

「うん。ありがとう」

 

 エレインの気遣いが嬉しい。

 彼女と仲直りする事が出来て本当に良かったとフレデリカは心から思った。

 

「それにしても、どういう料理が運ばれてくるか楽しみですね。エシャロット達はよく食べに来るのですか?」

「時々ね。料理研究会はほぼ毎日試食する人を募集してるから、いつ来ても色々と食べさせてもらえるんだよ」

「身内だけで品評していると遠慮や世辞が混ざるし、偏りも出て来ますからね」

 

 丁度、水を運んで来てくれた金髪の女生徒がエシャロットの言葉を補足するように言った。

 

「『冒険者の食卓』では実際に冒険者として活動している方からお聞きした冒険先でのご当地グルメを再現しているのです。アレクサンドラは秘境と言いましたが、都会から離れた地にある村落で生まれた料理というだけの事ですのでそこまで奇抜なものではありませんから御安心下さい」

 

 秘境の料理とご当地グルメでは大分違う気がするけれど、それよりもフレデリカは冒険者から話を聞いてという部分が気になった。

 

「冒険者の方からお話を聞けるのですか!?」

「ええ、定期的にギルドへ依頼を出して講演会を行ってもらっているのです」

 

 ギルドとは要するに専門職を持つ人々の互助組織の事で、フレデリカが生まれ変わる前の世界で言う所の農協のようなものだ。それぞれが専門とする職業の社会的地位向上と生活の安定を図り、個々人の目標達成の為に相互扶助を行っている。

 冒険者のギルドも存在する事は知っていた。ゲームでも登場し、『ザラクの冒険』ではザラクが冒険者として活動する際に何度も利用している。

 冒険者にはいくつかのタイプがあり、ザラクのようにギルドで依頼を受けながら世界を度する自由人もいれば、地理や歴史の専門家がチームを組んで様々な研究を行っているタイプもいる。正反対の道を歩んでいるように見えて、前者と後者の間には相互扶助の関係がきちんと成立している。

 例えば、遺跡などの発見や発掘はその地の地理や歴史に精通している研究者チームによるものが多い。そして、発見した遺跡の情報は自由人達に共有され、危険性の有無の確認やマップの作成が依頼される。また、研究者達がそこに遺跡があるとあたりを付けても、周囲の環境が危険である為に調査が進まない土地などの調査を自由人達が請け負う事もある。

 自由人達は未知の世界を見てみたいと望み。研究者達は未知を解明したいと望む。どちらも未知に対する好奇心を原動力としている為にそのような関係性が成立し、同じ冒険者という肩書を背負っているのだ。 

 冒険者の依頼は基本的に研究者達が自由人達に対して出すものだ。けれど、外部から依頼を出す事も出来る。なんでもかんでも依頼を受けてもらえるわけではないけれど、定期的な講演依頼となると冒険者達にとってもメリットが大きい。冒険先の珍しい料理という情報ならば危険もなく、他の依頼の片手間でも達成可能である為、ほぼ毎回受けてもらえているらしい。

 

「わたしも何度か講演会を傍聴した事があるんだけど、時々は信じられないようなゲテモノ料理の話を持って来る人もいるのよ。食べる気はしないけど、聞いてて面白いのよねぇ」

「そういう料理も一度作ってはみますがレシピには加えませんよ」

 

 そのように話しているとアレクサンドラが配膳用のカートを転がしながら戻って来た。皿の上に乗せられているのはみじん切りにした色とりどりの野菜が散りばめられた巨大なステーキだった。思ったよりもずっと普通の料理が来て、フレデリカはなんだか肩透かしを食らった気分だった。

 

「なんか、普通のが来たな。いや、美味そうだけどよ」

「まあまあ、一口食べたら分かるわよ」

 

 アレクサンドラにも食べるように促され、フレデリカとエレインはステーキをナイフで切り、器用に野菜のみじん切りを乗せたままフォークで口に運んだ。すると、あまりの美味しさに驚かされた。

 皮はパリパリで中の肉はとても柔らかい。そこまでなら王宮で食べ慣れるほどに食べて来た。けれど、この料理はそれだけではない。どうやらレモンのような柑橘類の汁が掛けられていたらしく、舌先が痺れるような酸味が走った。それが肉の旨味を引き立て、さらに咀嚼する度に肉の中から様々なハーブの香りが口いっぱいに広がった。どうやら切れ込みにハーブが仕込まれていたらしい。そこに玉ねぎやパプリカを含めた野菜の甘味が染み渡る。様々な味が口の中で溶け合い、更に肉を味わい深くしていく。これは見た目以上に高度な料理だ。

 

「美味しい! とても美味しいです!」

 

 フレデリカはあっという間にステーキを平らげてしまった。隣を見るとエレインも満足そうに笑顔を浮かべている。

 

「ほんとに美味いな! 食堂で食べたのより美味かったぜ!?」

 

 そう言えば、彼女は朝もステーキを食べていた。その彼女が比較してそう言うのなら、確かに食堂のシェフの味を超えているのだろう。これは凄まじい事だ。なにしろ、アザレア学園の食堂のシェフは王族の口にも運ばれる料理を作る為に選び抜かれた料理人だからだ。

 

「御喜び頂けて光栄の至りで御座います。他にも御召し上がりになられますか?」

「是非、お願いします」

 

 フレデリカが言うとアレクサンドラはニッコリと微笑んだ。

 一度離れると、彼女はすぐに新たな皿を運んで来てくれた。 

 

「次は魚料理です」

 

 運ばれて来たのは生の白身魚や赤身魚で野菜を巻いたものだった。上には小さな赤い木の実が添えられている。一口で食べてみて欲しいと言われ、素直に口へ運んでみる。口の中がいっぱいになってしまったけれど、噛んだ瞬間に潰れてしまった。そして、酸味の効いた汁が口の中いっぱいに広がり、それがまた絶品だった。

 カルパッチョに近い味わいながら、香辛料が効いている。ピリッとした感覚が癖になりそうだ。なにより、噛んだ瞬間の感覚が面白い。

 

「此方もとても美味しいです!」

「ありがとうございます。デザートも如何でしょうか?」

「是非!」

 

 自分が不味いと言えばクラブの評判がガタ落ちになる。それなのにティナがここへ連れて来た理由が分かった気がした。このクラブの料理にはどんな捻くれ者も素直にしてしまう力がある。それほどまでに絶品なのだ。

 

「ちなみにぃ、ここは格付け第三位なんだよ。会長のアレクサンドラは王宮の調理場から内定を貰い済みなんだ! だから、もしかしたらフリッカちゃんが王妃様になる頃には王宮のシェフになってるかもしれないよ!」

「とっても楽しみです!」

 

 フレデリカがそう言うと、アレクサンドはとても嬉しそうに微笑んだ。

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