TS悪役令嬢になったオレ! 王子と婚約してるけど悪役令嬢だから婚約破棄されるだろうし、気にせず生きていくぜ!   作:冬月之雪猫

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第百二十九話『寮妹のお仕事②』

「おはよー!」

 

 笑顔で出迎えてくれたエシャロットに朝食と手紙を渡す。その後はゆっくりと彼女の予定を確認し合った。

 彼女はとても多忙だ。オリエンテーションの期間中は授業が無いけれど、彼女は他ならぬアガリア王国の第一王女の専属使用人だから、職務に励むヴィヴィアンのサポートの為に毎日奔走している。

 朝はひたすら手紙を書いている。学校内外に宛てたものを百通近くも送らなければならず、フレデリカも手伝っている。主な内容はオリエンテーション期間やその後のイベントで出入りする国内外の来賓に対する対応の指示書やヴィヴィアンの登城の日程調整など多岐に渡る。

 

「フリッカちゃん、こっちもお願い」

「はい」

 

 エシャロットは最初、フレデリカに手紙の代筆を任せる気はなかった。

 理由はいくつかある。いくら優秀と言っても、彼女はまだ十二歳だ。それに、エシャロットにもヴィヴィアンの専属使用人としてのプライドがある。自分の仕事を他人に委ねる事はあまり気が進まなかった。けれど、いずれ王妃となる彼女にはヴィヴィアンの仕事を側近の視点から見せる事も有益かもしれないと考え直した。

 そして、実際に任せてみるとエシャロットは改めてフレデリカが次期王妃に選ばれるに足る能力の持ち主である事を理解した。彼女は頭の回転が常人よりも早い。そして、必要な知識を十分に蓄えている。心配は杞憂に終わり、今は少し重要度の高い案件も任せている。

 

「エシャロット。クリフォード卿にアイヴィス商会の件を伝達しておいた方がいいのでは?」

「そっちはヴィヴィちゃんが直接手紙を出すよ。こっちで送るべきはローネス卿の方だね。あと、エルリック侯爵から届いた報告書は読んだ?」

「はい。イガニスタが目撃されたそうですね」

 

 イガニスタは空を飛ぶクジラだ。凶暴な性格ではないけれど、山よりも大きく、動くだけで突風が巻き起こる。その突風は大気をかき乱し、平穏に暮らしていた魔獣達もパニックを起こして暴れ出す。

 ただ存在するだけで天変地異を巻き起こす、生きた災害。それがイガニスタだ。

 

「うん。イガニスタは本来対流圏を漂う魔獣だけど、時々寝ぼけて地上近くまで降りてきちゃうんだよね。討伐するわけにもいかないから、普通の魔獣よりも厄介なの」

 

 イガニスタ害獣であると共に益獣でもある。基本的には地上へ降りてこない上に、寝ぼけて降りて来ても地上を意図的に攻撃する事はない。そして、対流圏に生息する他の危険な魔獣を捕食している。イガニスタが居なくなれば、空は更に危険な魔獣の領域と化してしまう。その為、イガニスタの討伐は国際法で禁じられている。

 

「この場合はイガニスタの眼を覚まさせる必要があるの。そして、それには戦力が必要になる。空を飛ぶ超級魔獣の眼を覚まさせられる戦力と言えば?」

「王国騎士団ですね」

「正解!」

 

 王国騎士団は飛竜(ワイバーン)と従魔契約を交わしている。そして、一人一人が精鋭だ。

 彼等ならばイガニスタの寝ぼけた頭を叩き起こす事が出来るだろう。

 

「では、王国騎士団に出動要請を?」

「うん。騎士団長に部隊の派遣要請をお願い」

「かしこまりました」

 

 そうして二人で午前中の仕事をいそいそと終わらせていくと少しだけ時間に余裕が出来る。

 本来はエシャロットが一人でこなす分の仕事をフレデリカが手伝った結果だ。

 

「いやぁ……、王国の未来は安泰だね」

 

 エシャロットはフレデリカが淹れた紅茶を飲みながらしみじみと言った。

 

「どうしたんですか? 急に……」

「フリッカちゃん、本当に優秀なんだもん。もっと手間取ると思ってた」

「関係各所への手紙の代筆は王宮で経験済みでしたからね」

 

 二人でティータイムを過ごした後はヴィヴィアンの部屋へ向かう。そこには部屋の主の他に、ヴィヴィアンの寮妹であるエルフランの姿もあった。軽く挨拶を交わした後は打ち合わせを始めるヴィヴィアンとエシャロットの昼食の手配の為にフレデリカとエルフランは急いで食堂へ移動した。そこで手早く昼食を済ませると二人はすぐに調理場に立った。

 自分達の分は他人に作ってもらって、寮姉の分は自分達で作る。なんだか少しちぐはぐに感じるけれど、気にしている暇などない。

 フレデリカは言うに及ばず、エルフランも料理の腕が達者だった。

 

「はい」

「ありがとう」

 

 言葉を交わさずとも相手が今何を使いたいのかが分かる。その不思議な感覚にエルフランは戸惑いながらも満足感を覚えていた。

 料理自体は面倒に感じている。食べさせる相手の事もエルフランはまだよく知らない。出会ってからの数日で分かった事と言えば、この国の第一王女である事や気難しい性格である事くらいだ。だけど、隣にフレデリカがいるこの時間が例えようもなく嬉しかった。この時間を作ってくれた点に対して、エルフランはヴィヴィアンにとても感謝している。

 

「エル。寮では上手くいってるの?」

「まあまあかなぁ」

「友達は出来た?」

「うん。ルームメイトの子達とは結構話してるよ。ただ、ヴィヴィアン王女殿下の寮妹になった事が気に入らない子もいるみたいで、絡んで来られる事もあるんだよね……」

 

 エルフランが吐露した悩みにフレデリカは眉間に皺を寄せた。

 ヴィヴィアンの寮妹という立場に嫉妬する気持ちは理解出来る。けれど、ヴィヴィアンの寮妹に悪意を悪意と気付かせるような態度で近づく者は居ないと思っていた。

 ゲームでエルフランを虐げる者が現れたのはフレデリカと彼女が敵対関係になった後だ。次期王妃の敵という構図が彼女を攻撃する免罪符になっていた。その免罪符も無い状態で彼女に敵愾心を向ける意図が分からない。

 

「……絡んできた人達の名前は分かりますか?」

「分かんない。わたしが反論する前にアマンダが『鬱陶しい!』って黙らせちゃったから」

「アマンダ?」

「さっき言ったルームメイト。すごく良い子だよ。今度、フリッカにも紹介するね。絶対に気に入ると思うから」

「ほほう」

 

 凪咲(エルフラン)の人を見る目は確かだ。彼女が太鼓判を押すという事は、相当な人物なのだろう。フレデリカはアマンダという少女に是非会ってみたいと思った。

 

「フリッカはどうなの? 人間関係は順調?」

「順調そのもの。オリエンテーション中は忙しくて無理だろうけど、終わったらお茶会を開くからそこでお互いに友達を紹介しようよ」

「お茶会かぁ……、セレブな響き……」

「どうせ身内だけだし、みんなでお菓子作りもしたいな」

「一気に庶民的に!」

「材料は最高級品だよ!」

「ブルジョア!」

 

 二人で話しながら完成させた料理を精霊達に運んでもらった後はヴィヴィアンとエシャロットが話し合いの中でまとめた資料を読む。二人が今何をしているのか、何をしなければいけないのか、それが分からなければ手伝う事も出来ない。

 

「……やっぱり、難民が増えているみたいだな」

 

 フレデリカは資料を読みながら呟いた。

 

「えっと……、ラグランジア王国とメルセルク王国の戦争が原因なんだよね?」

「うん。小競り合いが激化し始めているみたいだ」

「ずっと冷戦状態だったのが最近になっていきなり武力衝突に発展したんだよね? 原因は何なのかな?」

「色々あるけど、メルセルク王国の堪忍袋の緒が切れた感じだな。二枚目の資料にも書いてあるけど、かなり譲歩してたみたいだからな」

「……うわぁ」

 

 エルフランはメルセルク王国がラグランジア王国から受け続けて来た被害の数々に顔を顰めた。

 

「むしろ、なんで怒らなかったんだろ……? このヴェゼールって村なんか、軍の演習の為に村人が皆殺しにされたって書いてあるんだけど……」

 

 フレデリカは口を噤んだ。

 資料の内容は詳細を省かれている。実際にはもっと酷い。公爵領に居た頃、その事件に纏わる資料を見た事があった。そこには遊び半分で拷問された村人達の凄惨な死体の山の前で祝杯を上げるラグランジア兵の様子が記されていた。被害者の中には幼少の子供や赤ん坊も含まれていたという。

 その悪魔の所業に対してもメルセルク王国は抗議の声明を発表するに留めていた。それ以後、ラグランジア王国は幾度もメルセルク王国の民を蹂躙して来た。国境の村に住んでいた人々は移住を余儀なくされ、防衛の為の陣地を築けばメルセルク王国は戦争準備をしていると声高に騒ぎ立てた。

 

「やっている事が無茶苦茶過ぎるよな。だけど、メルセルク王国は許して来た。だけど、許せなくなったんだ」

「……当然だよ。だって、何も悪くない人を一方的に傷つけるなんて、絶対にしちゃいけない事だもん」

 

 エルフランの言葉にフレデリカが頷きかけた時、ヴィヴィアンとエシャロットが戻って来た。

 

「その辺り、ちょっち複雑なんだよねぇ……」

 

 どうやら、フレデリカとエルフランの会話が聞こえていたようだ。

 エシャロットは複雑そうな表情を浮かべながら言った。

 

「ラグランジア王国は二代目魔王ロズガルドや七大魔王の竜姫シャロンに一方的に蹂躙された歴史があるんだよ。それが免罪符になるわけじゃないけど、ラグランジア王国がおかしくなった要因の一つは魔王による蹂躙なの。元々はアガリア王国と大陸を二分(にぶん)する程の大国だったのにね……」

「メルセルク王国の領土も元々はラグランジア王国の領土だったのよ。だから、ラグランジア王国としては自国の領土を不当に占拠している侵略者だと考えている人間も結構いるのよ」

「シャロンか……」

 

 フレデリカは暗い表情を浮かべた。彼女とシャロンは別人であり、同時に同一人物でもある。

 彼女の罪が自分の罪だとは思っていない。オズワルドにも諭されたからだ。シャロンの生まれ変わりだとしても、魔王の力を宿していたとしても、罪はその力を悪用した時に初めて生じるものだと。けれど、無関係だと開き直る事も出来ない。

 ロズガルドによって、国土の半分が海と森に変わってしまった。そして、シャロンによって、更に国土の半分が焦土と化し、そこに開拓者達が国を築いてしまった。それを不当だと怒りを感じる事を責める事は出来ない。

 

「……どうして、魔王はラグランジアを襲ったのかな?」

 

 エルフランの疑問に答えられる者はいなかった。

 

「二人の魔王の真意は分からないわ。ただ、その暴虐が今の惨劇に繋がっている。そう考えると、やはり恐ろしい存在ね、魔王って……」

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