TS悪役令嬢になったオレ! 王子と婚約してるけど悪役令嬢だから婚約破棄されるだろうし、気にせず生きていくぜ!   作:冬月之雪猫

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第十三話『召喚』

 フレデリカが乗る飛竜船がドラゴンの襲撃を受ける数刻程前、王宮は蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。

 第一王子であるアルヴィレオは事態を把握出来ないまま王に呼ばれて国際会議の場に向かった。

 そこは開かずの間とも呼ばれていた特別な会議場だ。巨大な円卓にはヴァレンタイン公爵を含め、現在王宮に滞在中の名だたる貴族達が集結している。

 そして、円卓の中央には使用に対して厳しい制限が幾つも重ねられている国家間緊急通信用魔法具が設置されている。

 

「……一体、何が」

 

 疑問に応えてくれる者など居ない。アルヴィレオ以外にも事態を把握出来ていない者が大勢いる。

 それでも全員が会議の開始の為に淀みなく動き回っている。

 国家間緊急通信用魔法具の起動はそれ自体が大陸全土、あるいは世界の危機を意味している。

 

「準備完了致しました」

 

 王宮専属魔法使いのオズワルド・アガリアの言葉と共に会議場が静まり返る。

 そして、国家間緊急通信用魔法具が起動した。

 

「―――― ネルギウス陛下! 火急の要件の為、御無礼をどうか御容赦願いたい!」

 

 その声はアガリア王国より南西に位置するレストイルカ公国のアドラス・セルブロイド大公のものだった。

 大公直々の報告とあり、アガリア王国の国王であるネルギウスが自ら受け答えた。

 

「構いませぬ! 御要件を御聞きしたい!」

「メルカトナザレが竜王山脈より飛び立ち、我が国の領空を超えました! 現在、クラバトール連合国の領空へ到達している頃かと!」

「メ、メルカトナザレ……、竜王が!?」 

 

 ネルギウス王の顔は恐怖に歪んだ。

 この世界には法律や国際条約以上に遵守しなければならない掟が存在する。決して犯してはならない三つの禁忌(タブー)。その一つが王への不敬である。

 人の王はもちろんの事、魔獣であれ、竜種であれ、王と呼ばれる存在に不敬を働いてはならない。

 人の王とて世界は滅ぼせない。しかし、魔獣の王や竜種の王の怒りは世界を滅ぼす。

 だからこそ、レストイルカ公国やクラバトール連合国は領空を(おか)したドラゴンの群れに対して静観を決め込む事しか出来なかった。

 竜王メルカトナザレに対する攻撃は即ち、自国の滅亡を意味する為だ。

 

 

「教会を通じて勇者様に御出陣を願いましたが……、勇者様は聖剣の整備の為にブリュートナギレスを訪れていると……」

「ブ、ブリュートナギレス……」

 

 ただ一人、勇者だけが禁忌に触れる事を許されている。

 しかし、ブリュートナギレスはドワーフ族の領地であり、その所在は別大陸であるパシュフル大陸の西端だ。

 アガリア王国が存在するバルサーラ大陸に勇者が来る為には海を超えなければならない。

 勇者が来た頃には大陸が滅亡していてもおかしくない。その事を誰もが理解し、絶望した。

 

「申し訳ない! 我々も国民の避難を開始しなければならない為、これにて通信を終了致します!」

 

 その言葉と共に国家間緊急通信用魔法具が停止した。

 

「何故だ……、何故、竜王が……」

 

 ヴァレンタイン公爵が青褪めた顔で呟く。

 

「……フレデリカ嬢」

「え?」

 

 アルヴィレオは父が呟いた言葉に反応した。

 

「父上、フリッカがどうしたのですか!?」

「いや……」

 

 ネルギウス王が口籠るとヴァレンタイン公爵が椅子を倒して立ち上がった。

 

「そ、そうだ……。いかん! アザレアと公爵領の位置関係からして、フリッカが乗っている飛竜船が竜王と相対する可能性がある!!」

「なっ!?」

 

 ヴァレンタイン公爵の言葉を聞いた瞬間、アルヴィレオは椅子を蹴っ飛ばして会議室の入り口へ向かって走り出した。

 

「どこへ行く気だ、アルヴィレオ!!」

 

 ネルギウスの鋭い声が飛ぶ。

 

「フ、フリッカを助けに行かないと!!」

「戻れ、アルヴィレオ」

 

 その言葉にアルヴィレオは従えなかった。

 フレデリカとはついさっきまで一緒にいた。一緒に笑った。キスをした。抱き合った。

 父の言葉に足を止めてしまった事を後悔した。

 

「戻れと言ったぞ、アルヴィレオ」

 

 再び走り出そうとして、足が空を蹴った。体が浮かんでいる。

 王の魔法だ。引き寄せられ、さっき蹴り倒した椅子の下へ戻された。

 

「父上! 行かせて下さい!! フリッカが死んでしまう!!」

「アルヴィレオ王子!!」

 

 ネルギウス王は声を張り上げた。その声に威圧され、アルヴィレオは動けなくなった。

 

「ヴァレンタイン公爵。お前も動くな。勝手な行動を取る事は許さんぞ」

「……し、しかし」

 

 ヴァレンタイン公爵の顔は恐怖と絶望に歪んでいた。

 何故、自分も同乗して領地まで送り届けなかったのかと後悔している。飛竜船など使わず、馬車で帰らせれば良かったと後悔している。

 後悔は別の後悔を呼び、ヴァレンタイン公爵は今にも叫び出してしまいそうだった。

 

「聞け!! 竜王を止められる者はこの世に唯一人!! これより勇者様を召喚する!!」

「ゆ、勇者様を召喚……?」

 

 アルヴィレオは困惑した。

 

「正確には聖剣を召喚する。前に説明した筈だぞ! 嘗て、王家の湖の小島には聖剣が刺さっていたと!! 引き抜かれた後も聖剣と聖地は繋がっている!! その繋がりを辿り、聖剣を召喚するのだ!!」

「し、しかし、陛下!! 勇者様に対し、それはあまりにも不敬では!? 勇者様に対し、何者も強制してはならぬと……!! 禁忌を犯す御積りですか!?」

 

 それは宰相であるオルトケルン・アルヴィスの言葉だった。

 王に対する不敬と同様、勇者に対する強制もまた禁忌の一つ。人類存続の要である勇者を利用する事は何者にも許されない。

 

「他に手立てが無いのだ!! オズワルドよ!! アガリア王国の国王、ネルギウス・コンウォート・ジル・オルティアス・ベルトルーガ・アガリアの名において命じる!! 今すぐに召喚の儀式を開始せよ!!」

 

 王の名において命じられた以上、オズワルドに躊躇は無かった。

 勇者の召喚。それは禁忌を破る行為であり、教会を通じて世界を敵に回しかねない蛮行だ。

 だからこそ、滾る。

 

「クカカカカカカカカカカッ!!! 愉快!! 痛快!! 爽快!! 我が兄よ!! 拝命承りました!!」

 

 オズワルドは王家の湖に向かって走り出した。

 その姿を見送る事も無く、王は次々に命令を下していく。

 

「私は勇者様に事情を御説明する。あるいは処刑される事も視野に入れねばならぬ! 故、以後はオルトケルンが陣頭指揮を取るように! ヴァレンタイン公爵はオルトケルンを補佐してくれ! アルヴィレオ! お前の命令権が第一となる! オルトケルンの指示を受けながら命令を下せ! また、今回の件は私の独断である! では、オルトケルン! 後は任せるぞ!」

 

 矢継ぎ早に指示を出し終えるとネルギウス王は立ち上がり、会議室から駆け出していった。

 突然訪れた国家存亡の危機とフレデリカの窮地に対して、アルヴィレオは膝の震えを止める事が出来ずにいた。

 けれど、立ち止まっている暇などない。

 

「オルトケルン宰相! どうか御指示を!」

「……殿下」

 

 アルヴィレオの言葉によってオルトケルンも腹を決める事が出来た。

 

「殿下……、まずは!」

 

 そして、ヴァレンタイン公爵もようやく鮮血のヴァレンタインと謳われた本来の彼を取り戻す事が出来た。

 

 ◆

 

 ネルギウス王が王家の湖に辿り着いた時、既にオズワルドは召喚の儀式を開始していた。

 

「……素晴らしい。さすがは我が弟だ」

 

 魔道に魅入られ、王位継承権を放棄して王宮専属魔法使いになった男。

 それが国家を滅ぼしかねない行為だと分かっていても、彼は一切躊躇わない。

 だからこそ、ネルギウス王は彼を誰よりも疑い、誰よりも信じている。

 

ウリア(水よ) トール(道となれ)

 

 ネルギウス王は湖の水面に足を踏み入れた。そして、水の上を走り始めた。

 小島までの距離を一瞬で詰めると、丁度勇者の召喚が完了した。

 聖剣を小島の地面に突き立て、勇者はゆっくりと立ち上がる。

 

「……感謝する」

 

 勇者はネルギウスを一瞥すると、そのまま立ち去ろうとした。

 

「お待ち下さい、勇者様! 現在、我が国の領空へ竜王が向かっています! 狙いはおそらく……」

「分かっている。時間がない。教会には俺の方で話を通しておく」

「心より感謝申し上げます!!」

 

 跪く王に小さく頷くと、勇者は大地を蹴った。咄嗟にオズワルドが結界を構築したが、範囲外のすべてが消し飛んでしまった。

 水も木も草も何もかもが勇者の跳躍の衝撃によって吹き飛ばされたのだ。

 

「あれが……、勇者様」

 

 人智を超越した存在の力の片鱗を垣間見て、ネルギウス王は幼き日の憧憬を思い出した。

 

「クカカカカカカカッ!! 素晴らしい!! あれが勇者!! 人類最強の男!! ああ、痺れる!!」

 

 けれど、後ろがやかましくて直ぐに現実に引き戻された。

 

「……フレデリカ嬢」

 

 彼の表情は険しい。これは大いなる賭けだった。

 自分は殺されるかもしれない。国が滅びるかもしれない。勇者が救ってくれないかもしれない。そして、フレデリカが殺されるかもしれない。

 賭けは今のところ勝てている。けれど、残る一つは勇者の御心次第となる。

 

「どうか、息子の花嫁を御救い下さいませ、勇者様」

 

 ◆

 

 そして、時の流れは現在に追いつく。

 勇者はフレデリカ・ヴァレンタインの窮地に辿り着き、竜王メルカトナザレと相対している。

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