TS悪役令嬢になったオレ! 王子と婚約してるけど悪役令嬢だから婚約破棄されるだろうし、気にせず生きていくぜ! 作:冬月之雪猫
いよいよ本番だ。偉そうに指示を飛ばしたり、叱りつけながら準備を進めていたけれど、わたしがお茶会を主催するのはこれが初めてだ。
王妃様主催のお茶会には何度か参加させてもらったし、作法や手順はすべて把握しているけれど、どうしても緊張してしまう。だけど、逃げるわけには行かない。
本番はヴィヴィアンのお茶会だ。これはその前哨戦に過ぎない。そもそも、このお茶会は大仕事の前に初体験を済ませておく為のものだ。ここを完璧に乗り越える事が出来なければ、本番でも失敗してしまう。
―――― がんばってください、お嬢様。
―――― どうか、ご武運を。
こっそりと念話でアドバイスを貰っていた二人から励ましの声が送られてくる。
彼女達の声を聞くと、それだけでホッとする。
「カーリー、扉を」
「かしこまりました、フレデリカ様」
カーリーに扉を開けさせると、最初にレネが入って来た。彼女にはアガリア寮のレイラ・アカイラムを案内するよう頼んでおいた。アカイラム侯爵家の三女だ。
彼女とは夜会の時に会っている。だけど、語り合う時間は作れなかった。それでもアガリア寮の代表者として彼女を選んだ理由は彼女の家名にある。
アカイラム家。より正確に言えば、その前当主であるグレゴリー・アカイラム。彼に繋がる縁を結んでおきたかった。それと言うのも、グレゴリーは後に魔王と手を結んでしまうからだ。
グレゴリーは嘗て、アガリア王国の王宮専属魔法使いだった。それはつまり、史上最高の魔法使いであるオズワルド猊下の前任者だったという事だ。後任者が自分を遥かに上回る能力を持ち、次々に実績を上げて名声を高めていく様を見て、彼は嫉妬に狂う事になる。そして、その優れた能力を魔王の為に振るうようになる。
未来の魔王の側近の孫娘。彼女の未来はゲームで特に語られていなかったと思う。もしかしたら、わたしが見逃しただけかもしれないけれど、どう考えても碌な事にはならないと思う。
グレゴリーの暴挙を止める事が出来れば最善だけど、それは正直望み薄だ。ミリアル・レーゼルフォンの一件で、決めつけは良くないと反省したけれど、グレゴリーの場合はゲームのストーリーの中で主人公がアルと共に説得に向かう場面があった。そして、まったく聞き耳を持たず、スキル『リベリオン』の取得イベントに繋がっていく。
恐らくは七英雄の内の誰かのスキルなのであろう、リベリオンは別名『反射スキル』と呼ばれている。ゲームだと、一定時間、敵のあらゆる攻撃を反射する事が出来るようになる。連続では使う事が出来ず、クールタイムというものが設定されていた。通常、一度の戦闘では一度か二度使ったらタイムアップだ。けれど、その一度か二度で戦況をひっくり返す事が出来る極めて強力なスキルでもある。なにしろ、リベリオン中は無敵なのだ。そして、無敵の間にタイプ:チェンジや必殺技の準備が出来る。準備時間の長い必殺技を使う時は、ほぼ必須のスキルというわけだ。
ただし、リベリオンにはリスクがある。使用回数の上限が決められているのだ。それ以上使った瞬間、唐突にゲームオーバーになる。
詳細については覚えていない。だけど、取得時に警告された一文だけは覚えていた。
――――『これを使う度、お前の未来は閉ざされていく』
暗転した画面に映し出される真紅の文字。それはあまりにも恐ろしい一文だった為、記憶に焼き付いていた。
おそらく、使用回数が上限を超えた時、エルフランの未来は閉ざされるという事なのだろう。そんなスキルを覚えさせるわけにはいかない。
だから、エルフランとグレゴリーの対面だけは絶対に回避する。これはその為の一手だ。
エルフランとレイラを同時に招いたのは、わたしの知らない所で交流を開始される事を阻止する為であり、二人の関係性に対して事前にメスを入れる為だ。
本音を言えば、やりたくない事だ。交友関係に口を挟まれる事ほど不快な事はない。わたし自身、ミリアルにエレイン達との付き合い方に対して口を挟まれた時は不愉快に感じた。それでも、リベリオンだけは習得させてはいけない。
ゲームでも、グレゴリーの説得に向かわないルートが存在していた。そして、そのルートではリベリオンを覚えなかった。だから、グレゴリーとの接触回避は絶対だ。
「フレデリカ様、お招き頂きまして、光栄に御座います」
「来てくれて嬉しいわ、レイラ。そこに座ってちょうだい」
「はい」
レイラの次に入って来たのはアリーシャが連れて来たイザベルとエルフランだった。
エルフランは嬉しそうに両手を持ち上げかけて、イザベルに小声で窘められた。そのやり取りからは気安さを感じる。前に同室のアマンダという少女とも良好な関係を築けていると言っていたし、エルフランの環境はそれなりに悪くないものになっているようだ。
「お招き下さり、誠にありがとうございます」
「あ、ありがとうございます!」
エルフランはイザベルを見習いながら頭を下げた。
普段ならかしこまらなくても良いと言う所だけど、今回のお茶会は友達同士が友好を深める為のものではない。
言ってみれば、これは会議だ。生前の記憶は高校生の時までの物だから大人の世界の会議の事は知らないけれど、わたしは生徒会に所属していて、子供の世界の物とは言え、一応は会議というものを一度ならず経験している。
会議で大切な事は公私混合しない事だ。会議中に友達同士で会話を始めると話が纏まらなくなる。そういう時、生徒会長の出雲さんはいつも怒声を上げていた。
―――― お前ら、真面目にやれぇ!
実家が寺だからか、質実剛健で声に力がある人だった。
あの人のように怒鳴り散らすわけにはいかないけれど、お手本にすべき点は多々あった。
生徒会室では厳しくても、廊下であった時の出雲さんはいつだって優しくて穏やかな人だった。オヤジギャグの愛好者で、事ある毎に肌寒くしてくる事が玉に
引き締めるべき所はしっかりと引き締める。
「ようこそ、イザベル。エルフランも」
ゲストは他にもたくさんいる。この場で特定の人物に多く時間を割く事は公平性の欠如を疑われてしまう。それは会議に要らぬ感情を持ち込ませる事になる。
出雲さんも仲良しな宮園さんに対しても生徒会室では厳しく当たっていた。
「座ってちょうだい」
だから、交わす言葉は最小限に抑えておく。
二人が座った後、次に入って来たのはイレーナが連れて来たサリヴァン寮のルミリア・レントケリオンだった。彼女はポティファル教国からの留学生であり、炎王レリュシオンを信仰する民の一人だ。
「フ、フレデリカちゃ、ちゃま! お、お招き頂き、あ、ありがとうごじゃましゅ!」
彼女は噛んだ。
とても可愛らしい噛み方だったけれど、本人は真っ赤になってしまっている。
「ルミリア。これはお茶会ですから、リラックスしてちょうだい」
「ひゃ、ひゃい!」
相変わらず、人前では緊張してしまうようだ。彼女はわたしの隣の席に座るよう促した。
見ず知らずの人間に挟まれるより、多少はマシになるだろう。
「あわわわわ」
「大丈夫ですよ、ルミリア」
「ひゃ、ひゃい!」
夜会の前の顔合わせの時も彼女は緊張しっぱなしだった。けれど、途中からは落ち着いた様子を見せていた。少し間を置けば、今回も大丈夫だろう。
ルミリアの次に入って来たのはヘイゼルが連れて来たレッドフィールド寮のミーシャ・カステルだった。
まず目についたのは彼女の化粧の濃さだった。
病的なまでに青白い肌はそういうファンデーションを使っているようだし、アイシャドウは赤から黒へのグラデーションになっていて、いわゆるゴスロリメイクのようだ。
「お招きくださり、ありがとうございます。フレデリカ様」
「来てくれて嬉しいわ、ミーシャ」
寮にはそれぞれに特徴がある。レッドフィールド寮は枠組みに収まらない破天荒な生徒が多く所属している。彼女も一筋縄ではいかない人物というわけだ。
彼女の次に入って来たのはレイチェルが連れて来たリエン寮のアメリア・イスルトとシャシャ・シーライル・ウルクティンだ。
シャシャもルミリアと同じく留学生であり、入学前はアメリアの屋敷に滞在していた。イスルト家は歴史が浅く、家格こそ低いものの、元々は貿易商だった事もあり、外交に携わっている。ネルギウス陛下からの信頼も厚く、それもあってシャシャの滞在先に選ばれたらしい。
「やっほー、フリッカちゃん! げんきー?」
「シャシャ! やめて! 言っておいたでしょ! お行儀よくして!」
キシャーと怒るアメリアにシャシャは「はーい」と軽い返事をした。
「フリッカ様、ご機嫌麗しゅう!」
「はい、ご機嫌麗しゅう。二人共、椅子に座ってちょうだい」
「はーい!」
「はい、はい! お招き下さり、誠にありがとうございます!」
「来てあげた側なのに感謝するの?」
「そういうものなの!」
アメリアは苦労しているようだ。
そんな彼女達の後、最後に入って来たのはエレインが連れて来たセシリア・ウィスコンティーとキャロライン・スティルマグナス。
彼女達が所属するミリガン寮は初代剣聖アギト・ミリガンの名を冠するだけあり、戦闘に秀でた者が多く所属している。
剣聖の愛弟子であるキャロラインはもちろんの事、セシリアも歳に見合わぬ才能の持ち主だ。
「お姉様! お会い出来て、
「はい、わたしも嬉しいですよ。アリサ様とは上手くやっていますか?」
「もっちろーん! もう一回やってみる? 前みたいにはいかないよ!」
「それはまた今度にしましょう。いずれ、機会が来ますから」
「そうなの?」
「そうなのです」
「そうなのかー!」
前よりも聞き分けが良くなっているように感じる。
彼女の成長にわたしは少し感動してしまった。彼女の隣でエレインも感無量の表情を浮かべている。
「……フレデリカ様。恐れながら、彼女は貴女様に危害を加えた事があると聞き及んでおりますが、それは事実で御座いますか?」
セシリアはあまりこのタイミングではして欲しくなかった質問をした。けれど、それは彼女が空気を読めていないわけではない。むしろ、読んだからこそだ。
キャロラインの蛮行はすでに知れ渡っている。夜会の日の事はともかく、運動場での大立ち回りからの流れは人目に付き過ぎていた。イザベルなどはその視線に殺意すら紛れている。
「わたくしへの危害という事でしたら、それは事実ではありません。わたくしと彼女が剣を交えたのは事実ですが、それは決闘によるものです」
「け、決闘で御座いますか?」
「そうだよー? 正々堂々の勝負だったんだから、変な言い方しないでよね!」
「……わたくしとの間の事はあくまでも決闘であり、彼女の事はアリサ様にお任せしております」
「かしこまりました」
それだけで、内心はどうあれ彼女は納得してくれた。二人が椅子に腰掛けると、その近くに案内役を務めてくれたエレイン達が侍り、お茶会の準備は整った。