TS悪役令嬢になったオレ! 王子と婚約してるけど悪役令嬢だから婚約破棄されるだろうし、気にせず生きていくぜ! 作:冬月之雪猫
ヴィヴィアン王女のお茶会の後、生徒達の心は徐々に浮つき始めた。
どれだけ脅かされても、やはり使い魔の召喚には大きな魅力があるからだ。
自寮に戻った生徒達は寮兄姉に使い魔の話をせがみ、自分がどのような使い魔を望んでいるのかを熱心に語り聞かせた。
そうなる事を予め理解していた寮兄姉はやれやれと苦笑を浮かべながら寮弟妹の話に付き合った。それは彼らにとって、懐かしき過去の思い出との再会だったからだ。彼らが新入生だった頃、まったく同じ事を自分の寮兄姉にしていた。そして、その時の寮兄姉も今の自分のように昔を懐かしんでいた。
「エシャロットはどんな使い魔を召喚したんですか!?」
フレデリカもご多分に漏れず、使い魔に興味津々だった。
「わたしのペットはこの子だよ」
エシャロットの言葉と共に虚空からオレンジ色の毛皮の狐に似た使い魔が現れた。
その体には至る所に赤い鉱石がくっついている。
「これは緋石獣ですか?」
「よく知ってるね!?」
緋石獣。正式名称はリルケーロ。ヴィヴィアンの使い魔であるディブラリアと同じく、ブリュートナギレスを棲家とする魔獣だ。
「ちなみにティナの使い魔はポティファル大陸に棲む『
「ブリュートナギレスにポティファル大陸、風の谷。本当に様々な場所から召喚されるのですね」
「ううん。棲家は違うけれど、召喚される場所は同じだよ」
「え?」
「死者の魂は死霊楽園に向かうからね」
エシャロットは魔法で色とりどりの光を生み出した。
「あらゆる地で生まれた魂は霊王の下で安息を得る。使い魔達の魂はそこから来ているみたい。魔獣の霊が使い魔になる理由は未練を晴らす為っぽいよ」
「未練を?」
「うん。新たに生まれ直す為に」
曰く、志半ばで命を落とした魂は未練を残し、その未練は魂を縛り付ける。その縛りを解く為には未練を晴らす必要があり、使い魔召喚の儀式はその未練を晴らす為のものらしい。
「この子達には未練がある。それを晴らしてあげる事が召喚者であるわたし達の役目なの。と言っても、大体の召喚獣の未練って、もっと生きたいとか、もっと食べたいとか、もっと戦いたいとかっていう、シンプルな欲求なんだけどね」
「それは晴らせるものなのですか?」
「晴らせるよ。もっと生きたい子ってのは、自分が生きられる筈だった時間を過ごせれば満足するし、もっと食べたい子はお腹いっぱいになれば満足する。もっと戦いたい子はそれこそ戦いの中で死なせる事が未練を晴らす事に繋がったりする。だから、楽しみにしている子には言い辛いんだけど、相手によっては別れがすごく早いんだよねぇ……」
どうやら、一日も経たずにお別れになる場合もあるらしい。
「食欲関係の子は本当に早いよ。小動物系だと、儀式中におやつをあげていてお別れしちゃう子もいたから……」
「せ、切ないですね」
「まあ、さすがに儀式が終わる前にお別れしちゃった子にはセカンドチャンスがあるけどね。ただ、召喚される使い魔は召喚者の気質とかに依るものだから、似たような子が来ちゃうの。わたしの寮姉から聞いた話なんだけど、儀式中に三回もお別れを経験した子もいたんだってさ」
「三回もですか!?」
儀式で召喚した使い魔とは一生の友になれるのだとばかり思っていたフレデリカは少し肩を落とした。
「本格的に自分の使い魔が欲しいなら、その為に活動しているクラブもあるし、3年生になったら選択科目で使役術を習う事も出来るよ」
しょげ返るフレデリカに苦笑しながらエシャロットはそう言って彼女を励ました。
「っていうか、フリッカちゃんの場合は選択科目を全部取らないといけないんだよね……」
エシャロットは渋い表情を浮かべた。
三年生からの選択科目は七つある。
通常授業の薬学では取り扱わない高度な内容を学ぶ上級薬学。
上級薬学と同じく、通常の授業では取り扱わない高度な内容を学ぶ上級錬金術。
通常授業である魔獣学の知識を更に深め、使い魔召喚の儀式以外の使い魔の使役方法を学ぶ魔獣使役術。
地政学なども含む、国際的な政治の知識を深めていく高度政治及び国際関係学。
戦争と勝ち方を学ぶ為の戦術及び戦略学。
格闘術や武器術、魔法に及ぶまで、あらゆる戦い方を学ぶ戦闘訓練。
領地を統治する上で必要な知識を学ぶ統治学。
この七つの選択科目の内、生徒は最低三つを選ぶ。ただし、皇太子と次期王妃は必ず全ての選択科目を受けなければならない。それはどれも必要なものだからだ。
「ええ、楽しみです!」
「た、楽しみなの……?」
「はい!」
フレデリカにとって、それは苦難でもなんでもなかった。
なにしろ、彼女は勉強が大好きだからだ。そして、選択科目は寮の境目がなくなる。つまり、運に頼る事なくアルヴィレオと一緒に授業を受ける事が出来るからだ。
四六時中、
「いやぁ……、我が国の未来は安泰だねぇ」
そんな事をしみじみと呟きながら、エシャロットはフレデリカの頭を撫でた。
◆
翌日、朝食を食べ終わった頃、寮教師のクロス・ヘミルトンと監督生のジョナサン・レーベンヴァルクに中央塔の広場へ集まるよう指示を受けた。
ヴィヴィアン王女のお茶会がフレデリカの最終課題だったように、使い魔召喚の儀式はアルヴィレオの最終課題だ。その為、フレデリカは手伝う事が出来なかった。それどころか、アルヴィレオからはあまり下調べをせずに新鮮な気持ちで儀式に臨んで欲しいと言われた。それは彼女が使い魔の召喚を心待ちにしている事を彼が見抜いていたからだ。彼は彼女に儀式を心から楽しんで欲しいと願い、その思いを彼女もまた見抜いていた。
次期王妃として、みっともない姿を見せないように入念な下調べと準備を行うべきだと訴える自分がいる。けれど、彼女はその声から耳を塞いだ。彼の愛情を身に受ける事は何よりも優先するべき事だからだ。
それに、少しみっともない姿を見せたとしても、支えてくれる友達がいる。だから、彼女は儀式を楽しむ事にした。
「ヘミルトン寮の生徒はこっちに集まってくれ!」
ジョナサンの指示に従って、フレデリカ達は広場の西側に集まった。そこはアガリア寮の生徒達の集合場所のすぐ隣だった。
「おい、フリッカ。お前の旦那がいるぞ」
「え? アル!?」
エレインの言う通り、アルヴィレオは彼女の視線の先にいた。
そして、そこにはオズワルド猊下の姿もあった。
「ってか、なんか変なおっさんがいるな」
「あの方はオズワルド猊下です! 陛下の弟君にして、世界最高の魔法使いですよ!」
加えて言うと、初代魔王の側近の生まれ変わりであり、歴代の勇者と交戦した過去を持つ、エキセントリックな人物だ。少なくとも変なおっさん呼びしていい相手ではない。
「へぇ、あのおっさんがねぇ……」
「猊下です。猊下と呼びなさい!」
「わ、わかったよ……」
エレインは眉を八の字にしながら頷いた。
誰に対しても物怖じせず、ぶつかっていけるのは彼女の美点だ。だけど、目上の相手に対しての言葉遣いは直してもらわなければ困る。今はまだ入学したてという点からお目溢しをしてもらえるけれど、本格的に授業が始まればそうもいかなくなる。
「エレイン。あなただって、不躾にガキと呼ばれたら嫌でしょ? 自分が嫌な事は相手にしない。それだけの事です」
「……はい」
エレインはしょげてしまった。
「やーい、おっこられたー」
「うっせ!」
そんなエレインをアリーシャがからかうと、彼女はすぐに立ち直って見せた。
「それより、せっかく旦那が居るんだから、声でも掛けて来たらどうよ?」
「やめておきます。今は集中したい時だと思うので」
「そうか? お前に声を掛けられたどんな状況でも喜びそうだけどな、旦那は」
「どうかーん」
「だ、だとしてもです! お仕事が終わってから声を掛けにいきます……」
「フリッカは夫を立てるタイプの奥さんなんだねぇ」
奥さんと言われると、フレデリカはちょっとだけ口元が緩んだ。
その姿にエレインとアリーシャはニヤニヤと笑みを浮かべ、気付いたフレデリカは慌てて表情を引き締めた。
「そ、それより! みんなはどんな使い魔が良い?」
「わたしはミストリアだな!」
「ミストリア?」
「おう! 前に世話になった冒険者が連れてた使い魔だ。水色の宙を泳ぐ蛇みたいな姿の魔獣でな。
「唄う?」
「おう! すげぇ、綺麗な唄声なんだ。ずっと聞き続けてられるくらいにな」
「そんなに!? すごいね」
「そういう魔獣だからな。唄声に引き寄せられて、唄声に聞き惚れて、そのまま衰弱していく獲物を食べるんだとさ」
「いきなりグロテスクな話に!?」
「まあ、魔獣ですからねぇ……」
獲物を狩り場に誘う術の一つというわけだ。
「動物の仔に擬態したり、芳しい香りを漂わせたり、獲物の断末魔を再現したり、狡猾な手段を用いる魔獣は数多く存在します。ミストリアもそうした魔獣の一種なのでしょう。そうした魔獣は知性も高く、使い魔として優秀だと聞きます」
「ちょっと、怖いね……」
レネが体を震わせながら呟いた。ローゼリンデもうんうんと頷いている。
「怖がる必要などない。知識さえあれば、大半の魔獣の罠は退けられる」
怖がる二人を見かねて、ザイリンが言った。
「授業をきちんと受けていれば何も問題はないさ」
「ちなみにお前だったら、どんな魔獣がいいんだ?」
「オレか? そうだな……、アプサラスを知っているか?」
「アプサラス?」
エレインはピンと来なかったようだ。
「たしか、流体系の魔獣だよね? 紫っぽい」
「そうだ。様々な能力を持ち、とても強い。使役出来れば、この上なく役に立つ筈だ」
「ザイリンの基準は役に立つかどうかなんだね」
アリーシャの言葉にザイリンは肩を竦めた。
「そういう君はどうなんだ?」
「わたし? わたしは可愛い子がいいな! モフモフなら言う事なし! ワンコ系なら尚の事よし!」
「見た目重視というわけだな」
「ちゃ、ちゃんと中身も評価するよ!」
何故か、二人の間に火花が散っている。
フレデリカはそっと視線を外した。
「ロゼはどう?」
「え? あ、えっ、あ!」
フレデリカが問い掛けると、彼女はあたふたしてしまった。どうやら、特に考えていなかったようだ。
「……えっと、蛇が好きです」
しばらく待つと、意外な答えが帰って来た。
「蛇なの!?」
「い、意外なチョイスだな」
「だったら、ミストリアがいいんじゃね? あれ、蛇っぽいし」
「いや、その……、ずっと前に一緒に居てくれた子がいて、その子に似た子がいいなって……」
「なるほどな。思い蛇がいたって事か」
「どんな子だったの? 大きかった?」
「う、ううん。そんなに大きくなくて、鱗は黒くて、でもちょっと赤い部分もあって、すごく勇敢な子だった……」
「その子、今は実家にい……」
実家に居るのかと訪ねようとしたらしいアリーシャの口が止まった。
ローゼリンデが涙を浮かべたからだ。それだけで、その蛇に何が起きたのか、みんな分かってしまった。
「……わたしを守ってくれたの」
本当に勇敢な蛇だったようだ。
フレデリカ達が励ます為の言葉を考えていると、それを口にする前に監督生達が儀式の開幕を告げた。アルヴィレオが壇上に立ち、全ての生徒が姿勢を正した。
「これから、使い魔召喚の儀式を始める」