TS悪役令嬢になったオレ! 王子と婚約してるけど悪役令嬢だから婚約破棄されるだろうし、気にせず生きていくぜ! 作:冬月之雪猫
結局、フレデリカが寮に戻って来たのは朝食の時間ギリギリになってからだった。
部屋に戻る道すがら、エレインと擦れ違った。
「おいおい、フリッカ! 朝から何処に行ってたんだ!? なんか、臭うぞ……」
「ゾディアとブライスに会いに行ってたの。悪いんだけど、ボンズが居たら、朝食を部屋に届けるようにお願いしてもらえないかな?」
「いいけど、メニューはどうするんだ?」
「なんでもいい!」
「……なんでもいいが一番困るんだが」
さっさと部屋に引っ込んでしまったフレデリカにエレインは唇を尖らせた。
「どうしたの?」
入れ替わりにレネが部屋から出て来た。
「我らが姫様からの御命令を賜った所だ。まあ、アイツはなんでも美味そうに食うからな」
「ふーん?」
「とりあえず、食堂に行こうぜ。アリーシャやロゼはもう先行ってんのかな?」
「アリーは使い魔の様子を見に行ってくるって、結構前に出ていったよ」
「……わたしもエドに会いに行ってやるべきだったかな」
「授業が終わったら会いに行こうよ。わたしもアミリィに会いたい」
二人はそれぞれの使い魔の姿を思い浮かべながら食堂へ向かった。
食堂に辿り着くと、ボンズの姿はすぐに見つかった。
「おーい、ボンズ! フリッカがなんか食い物を持って来てくれってさ」
『ええで』
二つ返事でボンズは頷いた。出来る男は多くを語らないものだ。
大きな尻尾をフリフリしながら、ボンズは厨房に向かって行った。
「まあ、後は任せとけばいいだろ」
「フリッカちゃん、ボンズ大好きだもんね」
あの溺愛振りを嫉妬深そうな王子が知ったらどうなる事やらと苦笑しながら、エレインはイオーンを探した。
イオーンは半透明の球体の中に十字が浮かぶ、彼女のお気に入りの精霊だ。彼は厨房のコックの一人でもあり、いつも彼女の大好物を作ってくれる。
「あっ、いたよ!」
「ほんとだ! おーい、イオーン! ステーキとわさびソース一つ!」
『……そろそろ別のメニューを食べてみませんか? さすがに同じものばかり食べ過ぎです』
「えー? いいじゃん、別に。ステーキ食べたいんだよ!」
『他にも美味しいものはたくさんあります。今日は魚料理にしましょう。あなたも必ずや気に入る筈ですから』
「いいよ、肉で! 魚より肉だぜ!」
『いいから、魚にしなさい』
イオーンはエレインの意見を無視して厨房に向かってしまった。
「ステーキ……」
「……エレイン、イオーンの言う通りだよ。一週間、ステーキばっかりは体に悪いよ……」
イオーンが勝手にサラダとスープを追加しているおかげで栄養バランス的には問題ないとは言え、一週間毎日ステーキは偏食にも程がある。
レネはイオーンに味方した。
「肉ぅぅぅぅぅ」
エレインはテーブルに突っ伏した。ところが、いざイオーンが魚料理を持ってくると夢中になって食べ始めた。
「うめぇぇぇぇぇぇ!!!」
『美味しいものは他にもたくさんありますよ。昼食はキノコのパスタにしましょう。きっと、気に入りますよ』
「え? これでいいよ! もっと食いたい!」
『キノコのパスタです』
「なんで!? ステーキじゃなくてもいいから、これ食わせてくれよ!」
『キノコのパスタです。これは決定です』
有無を言わさぬイオーンの言葉にエレインは泣いた。
そんな彼女達の微笑ましいやり取りを横目に見ながらボンズがフレデリカの食事を持って、食堂を出た。
『ボンズ。フレデリカちゃんはすっごく悲しんでるみたいなの!』
『たっぷりモフらせてあげなさい』
『エルフランちゃんの事、ボク達も協力出来ないかな?』
『難しい。それは非常に難しい。我らの干渉が良からぬ方向に働く可能性もある』
『アルトギアが解決に動いている』
ボンズの周囲には精霊達が集まっていた。フレデリカとオズワルドの会話を彼らは聞いていたのだ。そして、力になりたいと望んでいる。
『ワイの魅惑のボデーでメロメロにしたるわ』
尻尾をフリフリさせながら、ボンズはしたり顔で言った。
『……不明。愛し子は何故、ボンズに……?』
『フレデリカしゃん、不思議な子!』
『どう考えても、余の方がかわいいのに不思議じゃのう』
『ずんぐりむっくりしているのが良いのだろうか』
失礼な議論を交わす仲間達を尻目にボンズはフレデリカの部屋の扉をノックした。
『入るでー』
「その声はボンズ!? どうぞどうぞ!」
ボンズが中に入るとフレデリカは嬉しそうな笑顔を浮かべた。けれど、いつもと比べると少し暗い。
『ワイを抱っこしながら食べてもええで?』
「いいの!?」
ボンズは特別大サービスをした。その魅惑のボデーを抱き締めながら、フレデリカは彼が持って来た料理を食べる。とても食べ辛い。けれど、彼女は幸せに浸った。
「ボンズ。あなたはとても可愛いですね」
『せやろ』
「それに、とても優しいですね……」
『せやろ』
「大好きです!」
『せやろ』
大胆な告白にも動じない。自分が愛される存在である事を完璧に理解している。それが精霊ボンズである。
彼女が食べ終わると、去り際に大きな尻尾を殊更大きくフリフリした。思わず抱きつきたくなる所作にフレデリカの目はハートマークになった。
これでもかと彼女を癒やし、己の職務を全うしたボンズは空になった食器を持ちながら厨房へ戻っていく。
『……分からない。何故、こんなにも無愛想なのに……』
『せやろ。だけじゃなくて、もっと話してあげたらいいのに……』
『余じゃったら、もーっとサービスするのじゃがのう』
ブーブーと文句を言い続ける仲間を尻目にボンズはチラリとフレデリカの部屋を見た。薄っすら開いた扉の隙間からフレデリカが見ていた。
ボンズはウインクした。彼女は悩殺された。