TS悪役令嬢になったオレ! 王子と婚約してるけど悪役令嬢だから婚約破棄されるだろうし、気にせず生きていくぜ!   作:冬月之雪猫

149 / 177
第百四十九話『その威光、並ぶ者なし』

 ボンズのおかげで少し気分が晴れた。

 やるべき事は分かっている。クヨクヨしている暇なんてない。

 まずは授業を受けよう。そして、休み時間や放課後にオブリビテーク図書館で百五十年前の出来事を可能な限り調べ上げる。

 その時代の書物に渚の事が記されている可能性は低いけれど、ゼロではない。

 

「……アルにも聞いてみよう」

 

 彼に隠す理由はない。オズワルド猊下が知っている以上、ネルギウス陛下も御存知の筈だ。いずれはアルの耳にも入るだろう。

 それ以前にアルの頭脳なら、遠からずエルがロズガルドである事に気がつく。あるいは、既に察しているかもしれない。

 わたしが目を逸らしていただけでヒントは揃っていたのだから。

 彼を頼れば、わたしが自力で調べるよりも多くの事を知る事が出来る筈だ。

 ロズガルド化が人為的なものならば、その時代の人々の中に鍵となる記録を残してくれている人が居るかもしれない。

 特に七英雄が残した記録などがあれば目を通しておきたい。

 

「よしっ!」

 

 方針さえ決まれば、後は動くだけだ。

 わたしは急いで身支度を整えた。最初の授業は敷地の中央に聳えるアガリア塔で行われる。普通に歩いたのでは間に合わない。

 だけど、わたしには裏技がある。アガリア塔にはわたしとアルだけが立ち入る事を許されている特別な空間がある。そこに魔王の権能のゲートを開いた。

 

「……アル」

 

 ゲートを潜った先で、わたしはバルコニーを見た。そこで彼はわたしにプロポーズをしてくれた。

 あの時の事を思い出すだけで幸福感が溢れてくる。そして、その喜びは未来に向かう為の力になってくれる。

 国の為にガイス・レヴァリオンを極める。だけど、目指すべき未来はみんなが笑っている未来だ。エルを救えなければ、わたしもアルも笑えなくなる。

 決意をしっかりと固めて、わたしは階下に降りていった。出入り口を見張っている騎士を驚かせてしまったけれど、わたしだと分かると素通りさせてくれた。

 そのまま塔の正門に回ると、そこにはたくさんの生徒達が集まっていた。

 

「おーい、フリッカ!」

「エレイン!」

 

 エレインがわたしを見つけてくれた。彼女の周りにはレネやロゼ達の姿もある。みんな、わたしを見て安堵の表情を浮かべた。

 

「ほれみろ、ちゃんと来てるじゃねーか」

「だ、だって……」

「お前が姫様が落ち込んでたと言うからだろ!」

 

 どうやら、心配させてしまったようだ。

 

「みんな、ありがとう。わたしは大丈夫。それよりも教室に向かいましょう」

 

 基本的に授業は寮毎で受ける事になる。ヘミルトン寮の最初の授業は歴史学だ。

 アガリア王国の歴史だけではなく、世界全体の歴史を学ぶ事になる。

 教室に辿り着くと、わたしは中央付近の席にみんなと座った。教室の風景は転生前に通っていた学校と大分違っていた。

 通っていた学校の教室は四角い部屋に小さい机が整然と並べられていたけれど、ここは部屋自体が扇形になっている。並べられている横長の机も緩やかな弧を描いていて、どの席に座っていても教壇をまっすぐに見る事が出来るようになっている。

 実際に通っていたわけではないから自信が無いけれど、ドラマや映画で見た大学や海外の学校の教室の風景に近い気がする。

 

「授業、楽しみだね」

「そうですね。ワクワクします!」

 

 隣に座ったレネと一緒に教科書を開いた。一年目の歴史学の教科書はセリーヌ・エヴェン著の『確かなる時代の足跡』というものだ。タイトルの通り、確かな歴史が記されている。

 歴史というものは遡れば遡る程に曖昧となっていくものだけれど、この世界には『空白の百年』がある。ロズガルドの出現以降の記録が百年分、バッサリと消し去られている。そして、その時代に近づけば近づく程、あらゆる歴史書の内容は憶測を多く孕んでいく。

 故にこそ、確かな歴史(・・・・・)を学ぶ事には大きな意義がある。曖昧なものが曖昧である事実に気付く為に。

 

「そう言えば、アリーシャの姿がないな」

「え?」

 

 ザイリンに言われるまで気付けなかった。いつものメンバーの中にアリーシャの姿がない。慌てて教室中を見回したけれど、彼女はいなかった。

 

「もう授業が始まるのに!?」

「おい、ザイリン! なんで、もっと早く言わないんだよ!」

「いや、君達こそ、なんで気付かないんだ!?」

 

 授業への遅刻には罰則がある。進級や卒業の為の評点にも関わる。

 

 ―――― ライ! アリーシャを探せる!? 1分以内に!

 ―――― アリーシャ・ヴィンセントか? 彼女ならば、お前の位置から二十メートルほどの場所にいるぞ。

 

 藁にも縋る思いで頼ってみたら、すぐに応えてくれた。さすがは勇者様だ。そして、そのすぐ後にアリーシャが教室へ入って来た。息を切らせている。

 

「アリーシャ!」

「おーい、こっちだぞ!」

 

 レネとエレインが立ち上がって、彼女を呼んだ。

 ギリギリセーフだ。

 

 ―――― ありがとう、ライ。

 ―――― 礼は要らない。

 ―――― わたしがお礼を言いたいの。

 ―――― そうか、ならば受け取っておく。

 

「あれ?」

 

 エレインが戸惑いの声をあげた。

 

「どうしたの?」

「いや、アリーシャが……」

 

 彼女の揺れ動く視線の先を見ると、アリーシャはこちらへ来ないで遠くの席に座った。

 

「気付かなかったのかな?」

「いや、それは無いと思うが……」

「もう授業が始まっちゃうからじゃない?」

 

 丁度、先生が入って来た。おそらく、レネの意見が正解なのだろう。

 歴史学のモーリス・カルマン先生は老齢の女性だったけれど、背筋はピンと伸びていて、とても矍鑠とされている。

 

「ごきげんよう、みなさん。一週間のオリエンテーションが終わり、今日から授業が始まります。分かっているとは思いますが、このアザレア学園はアガリア王国の未来背負って立つ人材を育成する為の場所です。ここで必要な教養を身につければ、平民であろうとも国家の中枢で働く栄誉を授けられる事でしょう」

 

 その言葉に平民の子達の表情が輝いた。

 

「ですが、平民の身で卒業に漕ぎ着ける者はそう多くありません。何故ならば、平民と貴族ではスタート地点が違うからです。貴族の子は生まれた時から親に役割を授けられている事が多く、その為の知識を詰め込まれるからです。およそ十年というアドバンテージがある者達と肩を並べたければ、並大抵の努力では足りません。そして、その努力が実を結ぶまで、学園のカリキュラムは待ってくれません」

 

 平民の子達の表情が一気に暗いものへ変わっていく。十年という時間は途方もない。その内の半分以上は基礎中の基礎であり、平民でも当たり前のように知っているような知識ばかりだとしてもだ。

 才能であったり、並々ならぬ努力を重ねられる実直さであったり、折れずに前を向き続けられる精神の強さであったりと、その途方もない差を埋められるものを持っていなければ、この学園では生き抜けない。

 

「甘い考えは捨てなさい。すべての授業に対して、必死になって食らいつきなさい。そして、研鑽なさい。遊ぶ事も休む事も大切ですが、己を磨く事を怠る者は来年の今頃、ここを去っているでしょう」

 

 そうやって、脅すだけ脅すと彼女は教科書を取り出すように生徒達へ命じた。

 誰もが必死の形相を浮かべている。平民の子の中には薄っすらと涙を浮かべている子さえいた。

 

「では、今日はアガリア王国建国当時の事を学んでいきましょう。今より、およそ千年前。この大陸を支配していたのはラグランジア王国でした。ですが、極地より現れた魔王の暴虐によって国という枠組みが破壊され、人々は各地に散らばり、息を潜めながら嵐が過ぎ去るのを待ち続けました。そして、偉大なる初代アガリア王陛下であらせられるオルネウス・アガリア様が聖剣の担い手となり、魔王を打倒した事で世界は平穏を取り戻し、陛下はこの地にアガリア王国を建国なされたのです」

 

 わたしにとっては今更な内容だったけれど、半数近くの生徒にとっては今更ではなかったようだ。

 貴族の子は最初に歴史を叩き込まれる筈だけど、あまり真剣に取り組んで来なかったのか、はたまた建国当時の事を教わっていなかったのか。

 

「ラグランジア王国って、そんなに古くからある国だったんだ……」

「アガリア王国よりも古いなんてビックリだね」

 

 どうやら、貴族の子を驚かせたのはラグランジア王国の事だったようだ。どうやら、建国当時の事は教わっていても、それ以前からあった国の事までは教わっていなかったようだ。

 

「ラグランジア王国はとても歴史の古い国です。ですが、初代魔王出現以前にあった王国と現在の王国が同一の国であるという確証はありません。なにしろ、一度歴史が完全に途切れているのですからね。カロス・ラグランジアと名乗る者が王国の再建に乗り出した事で現在のラグランジア王国が生まれたのですが、果たして彼が本当にラグランジア姓を持つ者だったのかは甚だ疑問が残りますね」

 

 モーリス先生はあまり信じていないようだ。だけど、ラグランジア王国は二代目魔王ロズガルドや七大魔王シャロンの出現地点であったり、勇者ゼノンやザラクの出身地であったりとそれなり以上に特別な国だ。

 ロズガルドの正体がエルフランだと判明した今になると、『エターナル・アヴァロン ~ エルフランの軌跡 / ザラクの冒険 ~』の主人公が二人共ラグランジア王国と深い関係を持っていた事になる。

 偶然で片付けていいものでは無い気がする。最初のラグランジア王国と今のラグランジア王国が全くの無関係とは思えない。

 

「話を戻しましょう。オルネウス陛下は聖剣アリエルを引き抜いた地に王都を築き、そこに人々を呼び集めました。偉大なる救世の王に誰もが平伏し、その庇護下に入る事を望みました。王都アザレアの名はオルネウスの御母上が愛した花の名から取られているそうです。家族を愛し、友を愛し、臣民を愛する慈悲深き王は百年の歳月を王として生き、魔獣に襲われている臣民を守る為にその尊き命を落とされました」

 

 オルネウス・アガリア陛下。

 その威光、並ぶ者なしと謳われる偉大な救世王。誰かの為に戦い、誰かの為に生き、誰かの為に死んだ人。

 ネルギウス陛下やアルには彼の優しさがしっかりと受け継がれている。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。