TS悪役令嬢になったオレ! 王子と婚約してるけど悪役令嬢だから婚約破棄されるだろうし、気にせず生きていくぜ!   作:冬月之雪猫

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第百五十六話『願いを叶える力』

 わたしは大きく息を吸い込んだ。

 ライのクラスに入る為にはキャロラインと並べる実力を示さなければいけない。だけど、魔王再臨を使うわけにはいかない。なにしろ、魔王再臨で変身した姿は竜姫シャロンそのものなのだから。

 だから、使うのは魔王再演だ。それも、普段のように抑えた状態の魔王再演ではなく、魔王再臨の一歩手前まで踏み込んだ魔王再演でなければいけない。

 けれど、魔王再臨と魔王再演の境界はとても曖昧だ。加減を誤れば、魔王再臨が発動してしまう。その事を危惧して、今までにも何度か試してみたけれど、結局は境界線を見つけ出す事が出来ず仕舞いでいた。

 それなのに、今は出来る気がした。恐らく、それは運動場でキャロラインと決闘した時の事が切っ掛けだと思う。あの後から、魔王再演の感覚に変化が生じていた。

 あの時、わたしはエレインに魔王再臨という変身を見てもらうという意思があった。だからこそ、魔王再臨の発動に対して、『へんしん』という言葉を使った。そこで初めて、わたしのスキルにわたしの意思が重なった。

 ただ、使えるから使う。それだけではダメだったのだと気付いた。

 そのスキルで何をしたいのか?

 そのスキルをどうしたいのか?

 その意図を明確にしなければ、スキルの方も応えようがなかったわけだ。

 だから、その意図を言葉にしながらスキルを発動すれば、きっと望んだ通りに力を使う事が出来るはずだ。

 わたしが今、魔王再演に望むことは一つ。スピードだ。誰よりも速く走りたい。その為の力が欲しい。

 だから――――、

 

魔王再演(モード・チェンジ)

 

 イメージしたのは生まれ変わる前の世界で龍平と一緒に遊んだゲームだ。そのゲームでは、状況に応じて主人公の戦闘スタイルや武装を変える事が出来た。そのシステムをゲーム上では『モード・チェンジ』と呼んでいた。

 そして、そのゲームにはスピードに特化したフォームがあった。

 

加速形態(アクセルモード)

 

 魔力が全身を駆け巡っていく。髪色に変化は無いけれど、編み込みが解けて、代わりに青いリボンが現れて、髪をポニーテールのように一纏めにした。いつものように赤くないのは、イメージしたゲームの主人公のアクセルフォームが深い青を基調としていたからだろう。

 ドレスも深い青を基調としたものに変わった。魔王再臨の時のように元々のドレスを核として生成されているらしく、元の形状から大きく外れる事は無かったけれど、刺繍が増えていたり、ドレスの内側にピタリと張り付くような黒のインナーが現れた。

 

 

「よし……」

 

 感覚で分かる。この状態なら、魔王再臨と同等のスピードを出す事が出来る筈だ。

 

「準備が出来たら合図と共に走り出……して下さい」

 

 ライの言葉を受けて、わたしは走る態勢に入った。

 

「……フ、フレデリカ様、そのお姿は!?」

「スキルです。それよりも、合図が来ますよ。あなたも走る用意を」

「は、はい!」

 

 戸惑わせてしまった。彼女だけではなく、他のレーンの子達もわたしに向かって目を見開いている。

 とても不味い。この身体測定は個々の能力を測り、入るべきクラスを決める為の大切なものだ。誤った測定結果で選ばれたクラスでは十全な指導を受ける事が出来なくなる。

 だから、わたしは大きく手を叩いた。

 

「落ち着いて、アルマ。カレンとレイチェルも」

 

 彼女達の名前を呼ぶと、さっきまでよりも更に大きく目を見開いた。

 単純な事だけど、名前を呼ぶという行為はコミュニケーションの上でとても重要で、相手が名前を憶えられている自覚がない場合は特に効果的だ。

 

「驚かせてごめんね。わたし、実は結構凄いんだよ!」

 

 そう言うと、彼女達はポカンとした表情になった。

 

「一緒に頑張ろう、みんな」

「……は、はい!」

「が、がんばります!」

「一緒にです!」

 

 茶化すという行為は悪し様に捉えられがちだけど、時には役立つものだ。

 

「準備は出来た……、ですか?」

「うん。それより、ライ。後で作法を教えますから、今は普通に話してください。みんなの集中を乱してしまいますから」

「……わかった」

 

 ションボリと肩を落としてしまった。

 個人的には可愛らしくて、ほっこりするのだけど、そうならない子もいるのだ。

 可哀そうだけど、ここは心を鬼にする。後で慰めてあげよう。

 

「さあ、ライ」

「ああ、位置について」

 

 改めて、わたし達は走る態勢に入った。

 

「よーい、スタート!」

 

 そして、地面を蹴った瞬間、わたしはカーブに辿り着いた。

 このトラックは一周500メートルの円形だ。直線距離ならば、きっと二歩目でゴールテープを切っていた。だけど、カーブで二歩目を踏む事が出来た。アクセルモードは初めて使う力だけど、さっきの聴覚強化とは違って、完璧に制御する事が出来ている。

 わたしはそのままスピードを落とさずにカーブを曲がり切った。そこから先の直線も一歩で踏み越え、最後のカーブを曲がる。そして、ゴールであるスタート地点でピタリと立ち止まった。

 

「制御出来ているようだな」

「うん。折角だから、この測定でいろいろ試してみる」

「それがいい」

 

 魔王再演を解除すると、ドレスは元の状態に戻った。一応、確認してみたけれど、(ほつ)れや汚れは見当たらない。

 ホッとした。測定自体は寮毎で行われるけれど、ここにはアルもいるから身嗜みには気を付けておきたい。

 

「……髪はそのままか」

 

 それなりに時間を掛けた編み込みは再現されず、リボンだけが消えてストレートヘアになってしまった。このままだとだらしがないから、改めてポケットに入れておいたリボンで髪を纏めた、

 一応、髪が乱れてしまった時の対策として持って来ていたのだ。

 

「備えあれば嬉しいなっと」

 

 走力測定が終わったら、次は魔力測定だ。魔法理論学の教室にあった魔力測定装置がズラリと並んでいて、クレスプリー先生が待っていた。

 

「さあさあ、時間がないぞ。来た者から順番に測定を行う。やり方は単純だ。魔石に触れるだけでいい。後は自動的に装置が結果を出してくれる」

 

 彼が言う通り、モタモタしていると後から来た人がつかえてしまう。

 魔力測定装置の前に立って、わたしは魔王再演に魔法を使いこなしたいと願った。

 生憎、モード・チェンジの発想をくれたゲームには魔法という概念がなかった。けれど、魔王再演はわたしの願いを聞き入れてくれた。

 

 

魔王再演(モード・チェンジ)魔術形態(メイガスモード)

 

 ようやく、この力の本質が分かって来た。

 思い返してみれば、初めてシャロンの姿に変身した時も、魔王再臨はわたしの願いに応えてくれていた。みんなを守りたいと思えば盾を作ってくれて、空を飛びたいと思ったら翼をくれた。

 

 ―――― これは願いを叶える力だ。

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