TS悪役令嬢になったオレ! 王子と婚約してるけど悪役令嬢だから婚約破棄されるだろうし、気にせず生きていくぜ!   作:冬月之雪猫

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第百五十七話『デス・パレード』

 魔術形態(メイガスモード)によって、ドレスが紫と黒に染まっていく。そして、たくさんのフリルやリボンが現れた。いわゆる、ゴシックロリータ風だ。

 髪にも魔力が走り、変化が現れた。少し焦ったけれど、色に変化はない。ただ、はゆるふわなウェーブが掛かって、ガーリーなヘアスタイルになった。

 

「…………これは」

 

 目の前にはいかにもな杖が形成されようとしている。

 まるで宇宙を閉じ込めたような暗い光で形成された一メートル程度のそれはゾディア・ブライスのような実体ではなく、ブラッド系のスキルで生成した武具のように魔力のみで構成されていた。

 魔力測定装置に装填されている魔石の煌めくような表面に映り込んでいたのは、どう見ても日曜日の朝にやっていそうな魔法少女的な恰好をした自分だった。

 恐らく、魔王再演はわたしの中にある魔法使いのイメージを汲み取ったのだろう。

 魔法使いと言えば、世界的なベストセラー小説が真っ先に思い浮かぶのだけど、その要素はあまり見受けられない。理由として思いつくのは、この世界の魔法に対する印象がそのベストセラーよりも日曜日の朝の方に近いとわたし自身が感じている事だろう。

 

「う、うーん……」

 

 女の子の服装にも大分慣れ親しんで来たけれど、とうとう魔法少女になってしまった。

 生まれ変わる前の知り合いに知られたらと思うと冷汗が止まらない。そして、その知り合いがこの広場に一人いる。彼女の前では見せられない。さっさと測定を終わらせて魔王再演を解除しよう。

 魔術形態によって、感覚が研ぎ澄まされている。意識してみると、体内を巡る魔力の動きが手に取るように分かった。目で見た世界も一変している。あらゆる人や物質の魔力を視認する事が出来た。それだけではなく、とあるスキルの使い方が脳裏に浮かび上がって来た。

 

 ―――― 『レディ・フレデリカ。竜姫シャロンが使用していたスキルはほぼ全て記録に残されています。複数の魔法陣を一挙に展開する『デス・パレード』、自らの竜の力を解き放つ『レムリア・アルカード』など、彼女のスキルは詳細に至るまで全て』

 

 以前、オズワルド猊下から聞いたシャロンのスキル、『デス・パレード』だ。

 実際には見た事もないスキルなのに、今の状態ならば使えるという確信がある。

 

「……とりあえず、今は」

 

 わたしは目の前の魔力測定装置に触れた。すると、装置の内部にある魔石が鳴動を始めた。

 魔力は万物に宿る力の事だ。その量は媒体の体積に比例する。けれど、大人よりも大きな魔力を持つ子供がいる。その理由は生物に魔力を増幅する能力があるからだ。そして、その能力には個人差や種族差があり、魔力測定で測られるのは増幅した状態の魔力の量だ。

 魔力の増幅は『練り上げる』と表現する事が多い。わたしは魔力を練り上げた。

 

「……君の魔力は反応限界域のようだね。次は魔力の性質測定だ。量を測るわけではないから、そこではスキルを使わない方がいいかもしれない。念のためにね」

「え? あっ、はい! 分かりました」

 

 クレスプリー先生は意味深な事を言うだけ言うと、次の生徒の測定に移ってしまった。

 

「……性質かぁ」

 

 魔力の性質は人によって異なる。とは言っても、血液型のようなものだ。

 日常の中で性質の違いについて意識する事など滅多にない。

 ただ、魔王再演によって魔力が性質変化を起こしているとしたら、それを公表する事はリスクになるかもしれない。

 魔王再演を解除してから、わたしは次の測定に向かう事にした。

 

 魔力の性質測定は碁盤のようなマス目のある大きな箱で行われる。マス目の中にはそれぞれ無色の石が置かれていて、中心にある手形に手をのせて魔力を流し込むと測定が始まる。

 わたしが魔力を流し始めると、無色だった石が青白く輝き始めた。

 測定結果は測定装置の前にある自動書記装置が様式に記入していく方式らしい。

 

「……これ、完全にロボットアームじゃ」

 

 これもハロルド・カルバドルが考案した装置らしい。

 あらゆる地球の科学技術や料理をこの世界に齎した男。それも、途中で抜けていた知識を補う為の資料さえない世界で、近くはあっても完璧に同質ではない素材を使いながらの成果だ。

 料理も科学もちょっと齧った程度ではなく、それぞれを極め抜いている。

 そして、この自動書記装置という名のロボットアームには魔法も使われている。この世界の技術である魔法にも精通して、応用出来るまでに至ったという事だ。

 剣と魔法の世界をたった一人でサイエンス・フィクションに変えかけたのだから凄まじい。知れば知るほど、一番ファンタジーな存在に思えてくる。

 

「おっと」

 

 自動書記装置が止まった。

 確認してみると、血液検査の結果のような数値がたくさん並んでいた。これを専門家に精査してもらう事で自分の魔力の性質が分かる。結果は次の魔法理論学の授業で配られ、解説もそこで行われるみたいだ。

 魔力の性質測定の後は握力測定であったり、柔軟性の測定であったり、跳躍測定であったりと、生まれ変わる前の世界でもやった事があるような測定が続いた。

 

「これであらかた終わりましたね」

「……色々突っ込みたかったんだけどよ、跳躍測定で空を飛ぶのは反則じゃねーのか?」

 

 同じく、測定をあらかた終わらせたエレインがやって来た。他のみんなはまだ測定中で、周りにも人がいない。二人っきりだと思うと、少し気が楽になった。

 

「わたしもそう思ったんだけど、キャロラインやシャシャが堂々と浮かんでいたのでありなのかなーって……」

「まあ、スキルは使い放題って話だもんな。わたしも視力検査で計測不能を叩き出してやったぜ!」

「炯眼なら100キロメートル先も見えるもんね」

 

 彼女のスキルに見えない物などない。見る事に関しては、まさに最上級の魔眼だ。

 

「あとは何が残ってるんだ?」

「えっとねー。射撃能力測定と破壊力測定と特異能力診断とスキル診断と権能診断だね」

「さっきまで割と普通の測定だったのにいきなりぶっ飛んだのが来たな。なんだよ、破壊力測定って……」

「必殺技測定とも言われてるみたい。とにかく、自分が使える最大の威力の技を放って、その威力を測定するみたい」

「必殺技って……、お前は持ってんの?」

「一応ね」

 

 話しながら、わたし達は射撃能力測定の場所まで来た。

 空中に大小様々なバルーンがいくつも浮いている。バルーン毎にポイントが書いてあって、小さかったり、遠くにあるバルーンほど、ポイントが高い。

 一応、射撃用として弓矢や銃、杖などが用意されている。

 

「……これ、どれ使ってもいいんだよな?」

 

 エレインは銃を選んだ。

 

「使えるの?」

「一応な。前に教わった事があるんだ」

 

 興味深い。わたしは順番を彼女に譲った。

 

「さてさてさーて」

 

 エレインが選んだ銃は火薬ではなく、魔力で弾丸を作り出し、発射するタイプの魔銃(まがん)だ。魔力が続く限り、弾切れになる事がなく、カスタム性にも優れている事から、主に冒険者に好まれる武装だ。

 

「ダリウス直伝の技、見せてやるぜ!」

 

 ダリウス。どこかで聞いた覚えのある名前だ。彼女はその人から教わったらしいスキルを発動した。

 引き金を引くと共に、彼女は叫んだ。

 

「『ブラストシュート』!」

 

 それは魔銃系のスキルの基本とされている技の一つで、とにかく威力を高める事だけに重点を置いたスキルだ。

 彼女のブラストシュートは一発でいくつものバルーンを貫き、一番遠くのバルーンまでも穿った。

 

「こんなとこだな」

「お見事!」

 

 ブラストシュートの威力が目標まで減衰する事なく届いたのは魔力量が豊富なだけではなく、スキルの精度も高い証拠だ。

 

「次はわたしだね! 魔王再演(モード・チェンジ)魔術形態(メイガスモード)!」

「お、おお。さっきも見たけど、なんか可愛いな!」

「えへへ、ありがと!」

「それって、前にキャロラインとやった時のスキルとは別なのか?」

「うん。あれはこのスキルの上位版って感じかな。でも、あっちはちょっとリスクがあるからね」

「リスク!? おい、聞いてねぇぞ! あの時は大丈夫だったのか!?」

 

 うっかり口が滑った。エレインはがっしりとわたしの肩を掴んでいる。虚言は許さないと、その瞳が告げている。

 

「だ、大丈夫だよ。リスクって言っても、社会的なアレっていうか……。心身に影響があるタイプのリスクじゃないんだよ」

「ほんとか?」

「うん」

 

 しばらく見つめ合っていると、ようやく彼女は納得してくれた。

 

「旦那にも散々叱られてんだからよ、無理はすんなよ?」

「うん。ありがとう、エレイン」

 

 問題ない事を示す為にも、気合を入れて測定に臨もう。

 丁度、エレインが撃ち抜いたバルーンの補充も終わったらしい。

 

「いざ!」

 

 複数の標的を撃ち落とすのならば、まさに打ってつけのスキルを覚えたばかりだ。

 わたしは先生に一言告げると、手元に現れた杖を構えた。すると、杖は脈動して、その形を変えていく。

 わたしがこの姿でやりたい事がより明確になったからだろう。暗い光で構成されていた杖は黒と紫の金属へ材質を転じ、まるで槍のような形に再構築された。

 

「よし……、術式展開!」

 

 杖を振り被ると、空中に無数の魔法陣が浮かび上がってきた。そのどれもが深紅の光を帯びている。その魔法陣に描かれている文様や文字に見覚えはない。わたしが展開した筈のそれは、わたしの知識にはないものだった。だけど、動揺する必要はない。

 魔王の権能のゲートだって、わたしにとっては未知の力だった。だけど、使いたいと思っただけで使えた。スキルとは要するにコンピューターのスクリプトのようなものだ。

 結果に至るまでのプログラムはすでに組まれていて、あとは起動するだけでいい。

 竜姫シャロンが考案して、設計して、編み出したスキル。その第一段階の準備が整った所で気が付いた。そのままの名称だと、シャロンのスキルである事がバレてしまうかもしれない。

 うっかりしていた。だけど、もう発動準備に入ってしまっている。どうしたものかと悩んだけれど、すぐに魔王再演をモード・チェンジと言い換えたり、魔王再臨をへんしんと言い換えた時と同じように、新たな名前を与えてやればいいと気付いた。

 その意思が影響を与えたのか、魔法陣の光が赤から青に変わった。

 

「『破滅の嵐(ルイン・ストーム)!」

 

 わたしは生まれ変わる前の世界で龍平と遊んだカードゲームのアニメのライバルキャラのエースカードの必殺技の名前をそのまま『デス・パレード』というスキルに乗せて、杖を目の前の魔法陣に投げつけた。その瞬間、魔法陣同士の間に閃光が走った。

 魔法陣は小型のゲートだ。本来は一直線に進んでいく魔法や銃弾をゲートで飲み込み、別のゲートから吐き出す事で角度を変える。そして、ゲートの魔法陣には加速などの追加効果も付与する術式が組み込まれていて、杖はゲートを通る度に加速していく。

 目にも止まらぬ速度で次々にバルーンを貫いてはゲートに飛び込み、また飛び出していく。

 一撃を無数の攻撃に変えるスキル。それが竜姫シャロンの『デス・パレード』だ。

 

「こんなところかな」

 

 すべてのバルーンを消し飛ばしたところで杖を手元に戻した。

 振り返ると、先生は唖然としていて、エレインはドン引きしていた。

 

「……マジで必ず殺す技って感じだったな」

「まあ、必殺技だし……」

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