TS悪役令嬢になったオレ! 王子と婚約してるけど悪役令嬢だから婚約破棄されるだろうし、気にせず生きていくぜ!   作:冬月之雪猫

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第百五十八話『ソレイユ・ドール』

 破壊力測定の場所に来ると、そこには先客がいた。

 

「やっほー! 派手にやってるねー!」

 

 イルイヤ大陸の神護(リエン)の森からやって来た少女、シャシャ・シーライル・ウルクティンは片手に弓を握りながら手を振って来た。

 相変わらず、陽気な子だ。

 

「ごきげんよう、シャシャ」

「ごきげんよー! 見てたよ、さっきの! 変身のスキルなんて、すっごい珍しいやつじゃん! かっこよかったよ!」

 

 瞳を輝かせるシャシャにわたしは口元が緩んだ。

 可愛い女の子にかっこいいと言われると、僅かばかり残っていた男心が擽られる。

 

「えへへ」

「ねね、聞いちゃうんだけどさ!」

「なんです?」

「……前にキャロラインと学園の上空で戦ってた魔王って、君?」

 

 思わず吹き出してしまった。そう言えば、あの時は彼女もエルフランの隣にいた。

 あの戦いを目撃されていた事は大問題である筈なのに、完全に意識から外してしまっていた。

 

「やっぱりかー」

 

 何も言ってないのに彼女は何故か納得してしまった。

 

「い、いや、その、あの!」

「そんなテンパらなくても、誰にも言わないよ」

 

 シャシャは呆れたように言った。

 

「……わたしって、やっぱりウッカリしてるのかなぁ」

 

 不意を突かれたとはいえ、こうも簡単に重要機密を漏らしてしまうのは次期王妃として大問題だ。

 ライやエレインにウッカリと言われた時は怒り心頭になったものだけど、これでは全く否定出来ない。

 

「ありゃりゃ、落ち込んじゃった……」

 

 シャシャはよしよしとわたしの頭を撫でてくれた。

 頭を撫でられると頭がポワンとしてくる。

 

「おお、可愛い! これがお姫様パワー!?」

 

 シャシャはハァハァと息を荒げ始めた。

 

「おっと、そこまでにしとけよ」

 

 彼女の瞳に危ない光が宿り始めたところでエレインが割って入って来た。

 

「ちょっとー! 邪魔しないでよ!」

「うちのお姫様を襲わせるわけにはいかねーんだよ」

「ちょっとだけだから! 軽いスキンシップで終わらせるから!」

「ふざけんな! うちのお姫様を好きにしていいのは旦那だけなんだよ!」

「くぅー! いいもんいいもん! あとでアメリアとイチャイチャするもん!」

「誰だよ、アメリア……。まあ、フリッカに手を出さないならなんでもいいや。それより、さっさと測定を済ませようぜ」

 

 ひょっとして、シャシャは同性愛者なのだろうか? そんな事を考えながら、エレインに背中を押してもらって、わたしは破壊力測定に向かった。

 別名、必殺技測定は虹色に輝く巨大な石板に最大威力の技を放つというものだ。あの石板は強度の違う板を何重にも重ねたもので、破壊出来なかった板の強度から数値を換算する。

 

「わたしがいっちばーん! 先に来てたんだから、いいよね?」

「ええ、もちろん」

「お手並み拝見だな」

「へっへー、見ててよ!」

 

 シャシャは持っていた弓を構えた。矢は見当たらないけれど、彼女は何も持たないまま弓の弦を抓んだ。

 すると、見覚えのある光があふれ出し、弦を引っ張ると共に光の矢を形成した。

 

「『守護者の権能』」

 

 その一言と共に風が吹き荒れた。それは膨大な魔力によって大気が掻き乱された結果だ。

 権能の起動によって、彼女の中で複数のスキルが目を覚まし、彼女の能力を一気に増幅していく。

 

「『イセリアル・フィナーレ』!」

 

 彼女が指を弦から外すと共に、光が石板を貫いた。その最後の一枚すらも薄紙のように貫いた光の矢は壁に激突する寸前に耳をつんざく音と共に消滅した。

 

「……は?」

 

 唖然とした声をあげたのはわたし達ではなく、シャシャだった。彼女の視線の先には、彼女のイセリアル・フィナーレを相殺したライがいた。

 

「アイツ、何者よ……」

 

 その矢を止められる者など存在しないと思っていたのだろう。

 事実として、あの矢はライだから止められたに過ぎず、今のわたしでは止められなかったと思う。

 イセリアル・フィナーレ。それは守護者の権能を持つ者だけが使える奥義(ラスト・スキル)だ。

 ゲームでは、エルフランがジュリアの力を極めた時に使えるようになっていた。

 もしかしたら、彼女もジュリアと同じ存在なのかもしれない。妖王ルミナスが世界に干渉する為の触覚であるトレントだとすれば、ジュリアの権能を持っている事にも納得がいく。

 

「フリッカの騎士だよ。なんか、抜けてる感じだったけど、さすがだな」

「……ふーん」

 

 シャシャはライを睨みつけている。

 

「にしても、凄かったな! まさに必殺技って感じでよ!」

「ま、まあね!」

 

 唇を尖らせながらも、満更でもない様子でシャシャはライへの敵意を解いた。

 

「次はそっちの番! お手並み拝見させてもらうからね!」

「お手並みって言われてもなぁ。わたしはお前やフリッカみたいにド派手な必殺技なんて持ってないからなぁ……」

 

 そう言いながら、エレインは既に修復されている石板を見た。どういう原理なのかは見た限りでは分からないのだけど、どうやら自己修復機能が搭載されているようだ。

 

「んじゃ、いくぜ! ルーラー直伝!」

 

 石板の前まで歩み寄り、彼女は拳を握り締めた。地面を踏みしめ、彼女は石板を殴りつけた。

 見た目はただの正拳突きだ。けれど、その威力はただの拳打ではありえないものだった。

 すべてとはいかないまでも、彼女の拳は石板をかなりの深さまで打ち抜いた。

 

「……ただの怪力じゃないね」

「うん。でも……」

 

 彼女は無言のまま拳を振り抜いた。

 本来ならスキルの名前なんて、一々口にしない方が合理的だ。口を動かした分だけロスが発生するし、相手に自分がどんなスキルを使うか教えるようなものだからだ。それでも、スキルの名前をわざわざ口に出すのは、そうしなければスキルが発動しないからだ。

 つまり、スキル名を言わずに放った彼女の拳はスキルではないという事だ。

 

「いい感じに打てたと思ったんだけど、さっきの見た後だとショボいな……」

 

 戻って来たエレインは微妙そうな表情を浮かべて言った。

 

「そんな事ないよ! あれって、スキルじゃないんでしょ?」

「ああ、スキル化まではいかなくてよ。もうちょっとだと思うんだけどな」

 

 彼女は不満そうだけど、スキル化には途方もない努力と才能が必要になる。

 わたしのスキルはすべてが権能によって与えられたものに過ぎず、本当の意味での自分のスキルを得た事は一度もない。

 既に『ブラストシュート』というスキルを会得している彼女には才能があり、努力も重ねて来たのだろう事が分かる。きっと、彼女の拳がスキル化する日もそう遠くない筈だ。

 

「君、名前は?」

「ん? そういや、名乗ってなかったな。エレインだ。エレイン・ロット。よろしくな」

「わたしはシャシャだよ。シャシャ・シーライル・ウルクティン。よろしくね」

「おう!」

 

 シャシャも彼女に一目置いたようだ。

 

「次は君の番だよ、フリッカちゃん。見せてもらうからね、君の力」

「うん」

「がんばれよ!」

「うん!」

 

 破壊力測定もルイン・ストームを使えばいいと思っていた。だけど、こうも凄い技を連続で見せられたら、わたしももっと頑張ってみたくなる。

 魔術形態(メイガス・モード)はシャロンの魔術スキルを使用可能にしてくれた。だとすれば、彼女のスキルにあった形態(モード)になれば、同じように彼女のスキルを使えるようになるかもしれない。

 彼女自身のスキルとして知っているのは剣技、あるいは爪技(そうぎ)である『ストレイヤー・クラヴェス』と自らの竜の力を解き放つという『レムリア・アルカード』。

 元々が勇者の奥義(ラスト・スキル)である以上、その亜種であるストレイヤー・クラヴェスは恐らく、剣に特化した形態になっても使えるようにはならないだろう。だからこそ、陛下はわたしにライから教わるよう指示を下したのだ。レムリア・アルカードはそもそもどういう技なのかもよく分からない。だけど、他にもシャロンのものであろうスキルに心当たりがあった。

 それはザラクが竜姫の篭手を装備した時に使えるようになるスキル群だ。その中にはストレイヤー・クラヴェスが解禁される前までは最強だったスキルもある。

 

魔王再演(モード・チェンジ)!」

 

 その技を使いたいと願いながらの魔王再演はわたしのドレスを黄金色に染め上げた。

 

竜姫形態(レムリア・モード)

 

 感覚で分かる。これは本当に魔王再臨の直前まで踏み込んだ形態だ。あと僅かにでも足を動かせば再臨へ至ってしまうほどにギリギリの崖っぷち。

 だからこそ、シャロンの権能が起動した。

 

「是は」

 

 ザラクがスキルを使う前に必ず使う口上を口にした。

 

(わたし)の道を照らす」

 

 迸る魔力の色は(わたしの)でも、(シャロンの)でもない。

 けれど、この色には覚えがある。恐怖と怒りの記憶の中で、その輝きは忌々しくも鮮烈に焼き付いている。

 これは竜王(メルカトナザレ)が勇者に放った必殺の一撃と同じ、黄金の輝きだ。

 わたしは右手を掲げ、黄金を収束させた。

 本来のスキル名はイクス・アヴィドス。だけど、そのまま使うのはまずい。だから、スキルに龍平が特に気に入っていたカードの必殺技名を重ねて使う。

 

黄金の太陽(ソレイユ・ドール)

 

 振り下ろすと、目の前の石板が最後の一枚まで残らず引き裂かれ、傷跡が真っ赤になって溶け始めた。

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