TS悪役令嬢になったオレ! 王子と婚約してるけど悪役令嬢だから婚約破棄されるだろうし、気にせず生きていくぜ!   作:冬月之雪猫

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第百六十九話『理不尽』

 早朝 ――――。

 フレデリカを見送った後、エレインはザイリン、レネ、ローゼリンデの三人を叩き起こして食堂に連れ込んだ。

 ()ぼけ(まなこ)の三人に向かって、彼女は言った。

 

「アリーシャを止めるために協力しろ」

「ふえ?」

「ほえ?」

「はぁ?」

 

 その言葉が三人の脳へ到達して、浸透するまでにたっぷり五分も掛かった。

 せめて、コーヒーを一杯ずつ飲ませてから切り出せば良かったと後悔しながらも、エレインは辛抱強く反応を待った。

 

「……聞き出したのか?」

 

 ようやく頭が回り始めたらしく、ザイリンが目元を押さえながら問いかけた来た。

 昨日、彼は少しだけアリーシャと話す機会を得られた。けれど、詳細までは聞き出す事が出来なかった。

 

 ―――― 『アリーシャ。どうして、君は離れて行動しているんだ? 姫様やレネ達が寂しがっているぞ』

 

 そう言うと、彼女は申し訳なさそうに口元を歪めた。

 

 ―――― 『みんなが嫌いになったわけじゃないんだな?』

 

 彼女はしっかりと頷いた。

 会話は一方的であったけれど、彼女が自分達を疎んで離れたわけではない事は分かった。そして、事情を話せない理由がある事にも気が付いた。

 人にはそれぞれの事情がある。ザイリン自身、踏み込まれたくない一線がある。彼女との間に引かれている線がまさにそれだ。

 その一線を越えた時、彼女との関係が決裂してしまう。それは予感ではなく、確信に等しかった。

 だから、彼は彼女に背を向けた。

 

「どうやって?」

 

 ザイリンは不安と期待の入り混じった表情で問いかけた。

 

「聞き出したのはルミリアだ。わたしはそいつとアリーシャの会話を盗み聞きしただけだ」

「……なるほどな。ルミリアというと、ポティファル教国からの留学生だったか?」

「ああ、そいつだ。測定の最中に肩がぶつかってよ。文句を言おうと思ったら、アリーシャの所へ行って話し始めたんだ。ありゃ、わたしに視せるためだったんだろうな」

 

 アリーシャとの会話の最中、ルミリアは幾度かエレインに露骨な視線を寄越していた。

 

 ―――― 視ろ。

 

 それは奇妙な体験だった。ただの視線の筈なのに、そこに含まれた意図をエレインは正確に読み取る事が出来た。

 まるで、真正面から言葉として聞いたかのようにハッキリと。

 

「……炎王の巫女とか言ってたな」

「炎王?」

 

 ローゼリンデは首を傾げた。

 

「七王の一画だね。ポティファル教国が崇めている守護神レリュシオンの事でしょ?」

 

 レネが過去に読んだ本の記述を思い出しながら言うと、エレインは頷いた。

 

「何故だ……?」

 

 ザイリンはいぶかし気な表情を浮かべた。

 

「何故、アリーシャの事で炎王の巫女が動くんだ? それに、どうしてお前に……?」

「詳しくは話せない」

 

 エレインは言った。

 

「……どういう意味だ?」

「そのままの意味だ。ルミリアはアリーシャと知り合いだった。アリーシャには特殊な過去がある。色々と理由があって、暴走寸前だ。だから、囲ってリンチして、無理矢理思い留まらせる。説明出来る事は以上だ」

 

 その説明の杜撰さにザイリンだけではなく、レネやローゼリンデもポカンとした表情を浮かべている。

 

「……話せない理由はなんだ?」

「色々ある。ただ、その理由も話せない」

 

 その言葉でザイリンは溜息を零した。

 

「たった一日で何があったんだ? 君は秘密を扱えるような性格では無かった筈だが?」

「墓まで持っていかなきゃならねぇ秘密をこれでもかってくらい抱える事になっちまってな」

「……なるほど、姫様からの信頼を稼げているようで何よりだ」

「僻んで嫌味言うんじゃねーよ。協力出来ねぇってんなら無理にとは言わねぇ。他にもアテがある」

 

 その突き放したような物言いにザイリンは押し黙った。

 

「エ、エレイン。そんな言い方は……」

「悪いけど、時間もあまり無ぇんだ。フリッカに気付かれたくない」

 

 レネに窘められても、エレインは頑なだった。

 

「どういう意味?」

「えっとだな……」

 

 エレインは腕を組みながら少し考えた。

 

「ラグランジアって国が色々ヤバい事になっててな。フリッカはそっちで大忙しになりそうなんだ」

「それって……」

「ラグランジア王国に何かあったの!?」

 

 口を開きかけたレネを押しのけるようにローゼリンデが掴みかかって来た。その必死さに面喰いながら、エレインは言った。

 

「とんでもなく悪くてヤベェ奴が暗躍してることが分かった。フリッカはそっちの対処に動いてる。だから、アリーシャはわたし達で対処する」

「……それは言えるのに、アリーシャの事は言えないのか?」

 

 敵国の機密情報としか言いようのない情報を何の躊躇いもなく口にしたエレインに、ザイリンはますます険しい表情を浮かべた。

 

「ああ、言えない」

「なるほどな。つまり、アリーシャの為の秘密というわけか」

「……ああ、そうだ」

 

 その言葉にザイリンは目元を押さえ、深く息を吐いた。

 

「それを先に言え、馬鹿者」

「なんだと!? 誰がバカだ!」

 

 いきり立つエレインのおでこをザイリンは小突いた。

 

「貴様だ、貴様! アリーシャの為に言えない事がある。それだけで納得が出来た。それを言わないから、こちらとしても貴様に対して反感を抱いた。姫様の側近になるのならば、最低限の交渉術は覚えろ!」

「こ、交渉術だぁ!?」

「そうだ。秘密を持てるようになった事は成長と認めてやってもいい。だが、秘密は敵を生み出す諸刃の剣だ。相手の心を理解して、言葉を選べるようにならなければ、お前の存在が姫様にとってのリスクになる」

「うっ……、フリッカのリスク……」

 

 フレデリカの負担を減らしたい。この場はその為に設けたものだ。その行動がフレデリカのリスクになってしまえば本末転倒だ。

 

「……どうしたら、覚えられるんだ?」

「覚える気があるのなら、授業をキチンと受けるだけでいい。今日は社交術の授業があるからね。そこで教えてもらえる筈だ」

「至れり尽くせりって感じだな」

「そう感じられるようになったのなら、とりあえずは及第点だ」

「……偉そうに」

 

 唇を尖らせながら、エレインはザイリンを一睨みした。

 

「とりあえず、協力するって事でいいんだな?」

「ああ、構わない。炎王が関わってくるとなると、思っていたよりも事態は深刻そうだしな」

 

 その一挙手一投足が世界を揺るがす七王の一画が動く。その意味を知らぬ貴族はいない。

 

「それで、我々は何をすればいい?」

「まずは戦力集めだな。生半可な戦力じゃダメだ。とりあえず、キャロラインだな」

「……あの異常者を使う気なのか? 相手はアリーシャなのだろう? そもそも、本当にリンチする気なのか!?」

「エ、エレイン! 乱暴なのはダメだよ!」

「あの……、話し合いとかで解決は出来ないのかな……?」

 

 三人の否定的な意見に対して、エレインはバッサリと言った。

 

「話し合いでどうこう出来るなら、ルミリアが解決してる。アリーシャの事情を全部知ってて、アイツに共感出来る奴が必死に説得してダメだったんだ」

「……なるほどな。事情も分からぬ状況では説得など不可能というわけか……」

「ねぇ、エレイン。どうしても、教えてくれないの? アリーシャのその……、事情を」

「教えられない。ぶっちゃけ、アリーシャだけじゃないんだ。いろんな奴に飛び火する感じだからよ」

「でも、だからって……」

「……気が進まないのは分かる。ぶっちゃけ、これはわたしの(かん)だしな」

「勘?」

 

 エレインは頷いた。

 

「言葉じゃ無理だったが、殴り合えば解決する気がするんだ。なんていうか、アイツは振り上げた拳のやり場に困ってるだけなんだと思う。だから、リンチって言ったけど、要するにアイツの怒りを受け止めてやりたいんだ」

「……それを先に言え」

 

 ザイリンは頭を抱え、深々と溜息を零した。エレインは言葉の選び方が酷過ぎる。

 

「ねぇ、エレイン」

「なんだ?」

「アリーシャは何に怒ってるの? それも、教えてもらえないの?」

 

 エレインはレネの問いかけに少し考え込んだ。

 アリーシャは怒っている。その理由をルミリアは、

 

 ―――― 竜の姫に倣い、魔王の権能を手に入れる。ただ、それだけの為に虐殺を行った悪魔。

 

 と語っていた。その虐殺の最中で、彼女は弟を殺されたらしい。

 

「……理不尽って奴だな」

「え?」

 

 アルトギアやオズワルドの名前は出せない。そうなると、どう言えば言いか悩んだ末の結論がそれだった。

 アリーシャの怒り。その矛先は理由もなく弟を殺害された事だろう。

 それはまさしく、理不尽というものだ。

 

「アイツは理不尽に対して怒ってるんだ」

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