TS悪役令嬢になったオレ! 王子と婚約してるけど悪役令嬢だから婚約破棄されるだろうし、気にせず生きていくぜ!   作:冬月之雪猫

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第二十四話『自分らしく』

 アナスタシアの教育は精神的にキツいけれど、週に二日は休みをくれる。

 シェリーは一切休みをくれなかった。

 何から何まで正反対な教育方針の二人だ。

 

「……和む」

 

 オレは庭園に来ていた。シェリーが居た頃は毎日花の勉強の為に来ていたけれど、アナスタシアはあまり花の知識を重視していない。

 

「折角、教えてもらったのにな……」

 

 オレはシェリーに名前を教えてもらったアルリスという花を見つめながら呟いた。

 青い花びらの内側に水色のラインが走っている。匂いを嗅ぐと爽やかな甘みを感じさせる匂いがした。

 

「……休みがなかったのはシェリーも一緒なんだよな」

 

 きっと、オレが休んでいる間も彼女は仕事をしていた。

 

「そろそろ冬の花も終わりだな」

 

 残っているのはアルリス以外だとウルリーヤ、アスィーリア、シルマの三つだけ。

 あとは春の花に植え替えられている。

 

「これはこれは、お嬢様」

 

 ボーッとしていると眼鏡を掛けた初老の男に声を掛けられた。

 庭師のカロスだ。

 

「お嬢様は花がお好きなようですね」

 

 庭師という役職を生まれ変わる前のオレは誤解していた。

 てっきり、のほほんとしたおじさんが枝切り鋏をパチンパチンしているイメージを持っていた。

 だけど、実際の庭師は来客の際にガイドを務める関係で身だしなみや礼節をキッチリ身につけたダンディーの勤めだった。

 

「うん! ねえ、カロス。新しく植えた花の事を教えてよ」

「ええ、構いませんよ」

 

 カロスは快く引き受けてくれた。

 赤くて小さな花がいくつも咲いている花壇に案内してもらう。

 

「これはガルヴェリス。春の訪れを報せる花とも言われております」

「へー」

 

 次は白くて大きな花。とても香り豊かだ。

 

「シャルコールです。この花は屋内に置いておくと部屋に匂いが充満してしまう為、少し注意が必要なのです」

「ふむふむ」

 

 それから青い花を見せてもらった。同じ青でも、アルリスよりも深い色合いだ。

 

「フェルライトと言います。この色合をフェルライトと呼び、この花が語源となりました」

「なるほど……」

 

 カロスの説明を聞いているとシェリーを思い出してしまった。

 彼女は花の事をよく知っていた。

 

「……お嬢様はシェリーを恨んでおりますか?」

「え?」

 

 カロスはハッとした表情を浮かべ、慌てたように頭を下げた。

 

「も、申し訳御座いません。とんだ御無礼を……」

 

 慌てて頭を下げたという事は無意識の発言だったという事だろう。

 シェリーはオレの教育の為に庭園の花の事でカロスと話す機会が幾度もあった筈だ。

 それなりに交流のあった同僚が解雇された事に使用人達が何を思っているか考えた事が無かった。

 

「……恨んでないよ。むしろ……」

 

 もっと教えて欲しかった。その言葉を口にする事は出来なかった。

 彼女を追い出したのはオレだ。アイリーンが兄貴に告げ口してしまったのはオレがシェリーの教育を受けている時に疲れた顔を見せてしまったからだ。

 もっと彼女の教育に満足している事をアピールしておけば良かった。それならアイリーンも思い留まってくれた筈だ。

 つまり、責任の所在はオレにある。だから、そんな言葉を吐く資格なんて無い。

 

「お嬢様はお(つら)い思いをされていると思っておりました……」

 

 カロスは言った。

 

「私から見ても、シェリーの教育は行き過ぎていると……」

「大変だった事は確かだよ」

 

 それは否定出来ない。オレの体は十歳の少女のものだ。ろくに運動もして来なかった。

 だから、彼女の教育に体が悲鳴を上げていた。

 

「だけど、それを言ったらシェリーの方が大変だった筈だ。オレは教えてもらうだけで良かったけれど、彼女は教えなければいけなかった。だけど、一度も疲れた顔を見せなかった。彼女は本気だったんだ。本気でオレに教えてくれていた」

 

 オレは俯いた。

 

「本気には本気で応えなければいけなかった。だけど、オレの本気は足りていなかった。それだけの話なんだ。シェリーを恨むも何もない」

 

 オレはオレ自身に甘過ぎる。その事を飛竜船に乗る前の一悶着で痛感した筈なのに同じ轍を踏んでしまった。

 今だって、オレは平然と『オレ』という言葉を使っている。

 勉強だけが取り柄の癖に学習していない。

 

「……いい加減、わたくしも覚悟を決めなければいけませんね」

「お嬢様……?」

 

 思考のすべてを塗り替える事は出来なくても、もう『オレ』という言葉を使うのは止めよう。

 高校生まで生きて、それから更に十年生きた。見た目は子供でも、魂は大人になる為に必要な年月を積み重ねて来た。

 もう、十分だろう。

 

「ありがとうございます、カロス。これで漸く捨てる事が――――」

「ち、違います!」

「え?」

 

 カロスは必死な顔でわたくしの肩を掴んで来た。

 

「シェリーはお嬢様にお嬢様らしさを失って欲しくなかったのです!」

「カロス……?」

「花の一つ一つに対する反応の仕方まで指導していたのはお嬢様に仮面を被る術を御教えする為だったのです!」

「……仮面ですか?」

「そうです! お嬢様がお嬢様らしく生きる為には仮面が必要だと言っていました。本当の御自身を御見せ出来ない状況で被る事が出来る仮面が!」

 

 呆れた。わたくしは……、オレはシェリーの指導の本質を全く理解していなかった。

 仮面とは、オレがお嬢様モードとか騎士モードとか呼んでいるものと同じ概念だろう。

 要するに演技だ。言われてみれば、彼女はオレに思想ではなく常に演技を指導をしていた。

 

「そっか……」

 

 シェリーはオレがオレのままで良いと思ってくれていたんだ。

 その為の鎧と武器をくれようとしていた。

 

「どうか、お嬢様はお嬢様らしく……」

 

 深く頭を下げながら懇願するカロスにオレは「うん……」と頷いた。

 その後少し話してカロスと別れ、オレはアイリーンと合流した。少し一人で見て回りたいと待機してもらっていたのだ。

 永遠の忠誠を誓ってもらった相手に対して、酷い主人だと思う。

 ただ、シェリーを思う姿をアイリーンに見られたくなかった。

 

「アイリーン。オレはオレのままでいいのかな?」

「もちろんで御座います」

 

 本当のオレはちっとも公爵令嬢らしくない。だけど、それでもいいとみんなが言ってくれる。

 だから、もう少しだけ自分を甘やかそう。

 

「よし! 書庫に行くぞ!」

「また、お勉強で御座いますか?」

「おう!」

 

 決めた。

 休みの日はとことんオレらしく過ごす。そして、それ以外の日はわたくしとして過ごす。

 メリハリを付けるんだ。

 

 ◆

 

「さて……」

 

 書庫にやって来たオレはアイリーンと一緒に魔王関連の本をかき集めた。

 いい加減、『魔王再演』について確り考えるべきだと思ったからだ。

 オズワルドも言っていた。

 

 ―――― 最も恐るべきものは未知です。故に識るのです。未知を既知と変えた時、そこに歩むべき道が拓かれる。

 

 前の暴走は『勇者の御守り』のおかげで抑える事が出来た。その時に抑え方も少し分かった。

 だけど、それだけだ。理解したとは到底言えない。

 まだまだ魔王再演は未知のままだ。

 

「とにかく、一から考えてみよう」

 

 オレが魔王再演を手に入れたのは王家の湖で石化したシャロンに触れた事が切っ掛けだ。

 その点は間違いないと思う。それ以外に魔王再演が発現する切っ掛けが思い浮かばない。

 竜王メルカトナザレが襲撃して来たタイミングから考えても確定情報と考えて良い筈だ。

 

「あの時、オレはシャロンの声を聞いた気がした」

 

 導かれるように手を伸ばした事も覚えている。今思えば、アレはシャロンに誘導されたのかもしれない。

 

「どうして、シャロンはオレを誘導したんだ……?」

 

 考えられる可能性は一つ。

 王家の湖には王族しか立ち入る事が出来ない。近衛兵や専属使用人すら立ち入りを禁じられている。

 けれど、未来の王妃という事でオレは特別に許可された。

 

「いずれ王家に入るとは言え、オレはまだ王家の人間じゃない。だから、都合が良かった……?」

 

 オレ自身が特別という可能性もあるけれど、それよりも王家以外の人間である事が理由である方が筋が通る。

 

「そもそも、今のオレはどういう状況なんだ? シャロンに憑依されている? あるいは一体化している? それとも、力を継承した?」

 

 暴走した時、オレは少なからずシャロンの意思のようなものを感じ取った。

 つまり、オレの中にシャロンが居る可能性が高い。

 

「けど、目的が分からない」

 

 王家の湖から脱出したかったのなら脱出した時点で憑依、あるいは一体化を解除した筈だ。

 

「解除出来ないのか……?」

 

 そろそろ思考が行き詰まり始めた。

 そもそも、憑依や一体化をどうやって行ったのかも分からない。

 

「まずはシャロンについて調べてみるか」

 

 オレは一冊の本を手に取った。

 真紅の革表紙に記された金色の文字を指でなぞる。

 

「『堕ちた竜の姫』……」

 

 とりあえず、オレは本を開いてみた。

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