TS悪役令嬢になったオレ! 王子と婚約してるけど悪役令嬢だから婚約破棄されるだろうし、気にせず生きていくぜ!   作:冬月之雪猫

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第二十六話『魔王再演』

 公爵邸の北に広がる草原地帯。そこでは公爵家の領地を護る騎士団の訓練が頻繁に行われている。

 オレは軍事関連に殆ど関わっていない。そもそも、オレの行動範囲は公爵邸の中で完結している。騎士団の団長以外が公爵邸に顔を見せる事など滅多にない。

 その団長とも殆ど会った事がない。彼と話した回数よりも王国騎士団のヴォルス団長と話した回数の方が多い程だ。

 今日はその騎士団の精鋭達と共に草原へ来ていた。

 

「さてさて……」

 

 兄貴を説得するのは骨が折れたけれど最終的にオズワルドの名前を出して何とか納得してもらった。

 王宮専属魔法使いの肩書は伊達ではない。彼が現れた事自体はその日の内に報告してあったし、彼の方からも連絡が兄貴にいっていた。

 騎士団がついて来た事は想定外だったけれど、万が一の備えは必要だ。兄貴がどの程度まで事情を明かしているのか分からないけれど、彼らの事は気にしないほうがいいだろう。

 

「『魔王再演』」

 

 意図して使うのはこれが初めてだ。発動しない事も危惧していたけれど、それは杞憂だった。

 全身に力が溢れていく。思ったよりも楽だ。てっきり、暴走した時のように精神が乱れる事も予想していた。

 肉体的な変化も起きていない。兄貴達が戸惑っている。おそらく、何も起きていないと考えているのだろう。

 別に見せびらかす為に使っているわけでもない。肉体変化は後でいい。まずはシャロンの魔力を使ってみよう。

 

「……ふぅ」

 

 魔力を体外へ放出してみる。すると、周囲に赤雷が迸り始めた。

 兄貴達がどよめいているけれど、今の状態を確認する事の方が重要だ。

 

「すぅ……、はぁ……、ふぅ……」

 

 呼吸に応じて赤雷は拡縮する。

 魔力の扱いに関しては自前の物である程度は慣れていた。

 とは言え、想像以上に扱いやすい。

 

「……よし」

 

 掌に魔力を集中してみる。すると、真紅の球体が生まれた。

 

「たしか……」

 

 本によれば、シャロンは魔力で武器を編む事も出来たという。

 試しに剣を編んで見る。魔力が細長くなっていき、見た目だけはそれなりの物が出来た。

 

「……よし」

 

 近くの小石を拾い上げ、放り投げる。その軌跡がよく見える。どうやら視力が強化されているようだ。

 丁度いい高さまで落ちて来た石を斬ってみる。

 剣は石を通り過ぎた。何の感触もない。しかし、失敗かと思って足元を見ると二つに割れた小石が転がっていた。

 

「……ふむふむ」

 

 次は槍を作り出す。軽く突き出してみる。それから薙ぎ払い、振り下ろす。

 

「投げたらどうなるのかな……」

 

 槍は投げて使う事もある。陸上部が競技で槍投げの練習をしている姿を見た事があった。

 

「あっ……」

 

 しっくり来る。

 

 ―――― ブラッド・ジャベリン。

 

 その名前が脳裏に浮かんだ。

 まるで手を握り込むように意識する必要すらなく投擲を行えた。そして、魔力の槍は草原の遥か先まで到達し、その先に広がる雑木林の木々を次々に捩じ切っていく。

 まずい、止まらない。雑木林はかなり先まで続いているけれど、その先には領民が住む村がある。あの槍はその先まで威力を落とさず突き進む。

 

「戻れ!!」

 

 気がつけば叫んでいた。すると、手の中に槍が戻って来ていた。

 戻せた。かなり先まで進んでいた筈だけど、槍はオレの制御可能範囲から外れていなかったようだ。

 

 

「……なら」

 

 次は少し形に拘ってみた。鳥だ。美術が苦手なオレだけど、何年も学んできた成果が現れている。

 この鳥を羽ばたかせてみた。そして、浮き上がらせる。

 

「鳥が飛ぶイメージで……」

 

 魔力の鳥が前へ進んでいく。そして、徐々に高度を上げていく。

 槍を戻した時の感覚の延長だ。慣れてくると空を縦横無尽に飛ばす事が出来るようになって来た。

 

「よし……、これに探知を組み合わせてみよう。ロズ(存在しない) レイズ(眼を) フリエン(開け)

 

 探知は元々魔力を眼や耳に変える魔法だ。一所(ひとところ)にいながら離れた場所の音や光景を知る事が出来る。

 今操っている鳥も魔力の塊だ。出来ると思った。そして、成功した。

 

「……揺れるな」

 

 あまり長くは使えない。オレは探知を解除した。そして、鳥を上空で剣に変えてみた。

 剣は鳥と違って自由に飛ぶイメージが湧かない。だけど、多少は動かす事が出来た。

 

「よし、次」

 

 魔力の剣を手元に戻す。次は斧を作った。

 振り下ろしてみる。すると地面に大きな亀裂が走った。

 槍や鳥を作った時に感じた事だけど、やはりイメージが重要らしい。

 オレは斧に剣や槍に比べて動きはトロいけれど破壊力の強い武器というイメージを持っている。

 これはゲームのあるあるだ。

 

「自由度高いな」

 

 試しにメルカトナザレ襲撃時に作ったバリアを張ってみた。

 結界には基点が必要だから手近な小石を基点にする。そして、バリアに触れてみる。

 

「……ふむ」

 

 感触そのものが無い。けれど、足元を見ると地面や草がバリアに沿って消滅している。

 あの時もバリアはオレ達や飛竜船を透過した。

 バリアに限らず、恐らくはイメージ次第で対象を選ぶ事も可能なのだろう。

 

「つまり……」

 

 対象を選べる。つまり、筋肉や骨を対象外とする事で内蔵に直接攻撃を加える事なども可能という事かもしれない。

 こんな事、オレの自前の魔力では出来ない。亜竜であるエルダー・ヴァンパイアの魔力だからこそという事なのだろう。

 

「……よし、次は」

 

 魔力を武器に変える事は出来た。次は身体強化だ。

 ゲームのフレデリカ・ヴァレンタインは完全に人間を卒業していた。おそらく、シャロンの魔力で身体強化を行っていたのだろう。

 魔力による強化そのものは難しくない。この世界の人間が軒並み長寿な理由もそこにある。

 シャロンの本でウェスカー・ヘミルトンが空白の百年を間に挟んで存命していたのも魔力で老化を抑える事が出来た為だろう。

 もっとも、人間の体には魔力の強化に耐えられる限界がある。だからこそ、アイリーンや兄貴は筋肉を鍛えているのだ。鍛えれば鍛える程、魔力による強化の上限も引き上げられる。

 

「……多分、いけるよな」

 

 シャロンの魔力を身体強化に回してみる。すると体に痛みが走った。腕を見ると爪が長くなり、腕全体も硬質化し始めている。

 身体強化をストップすると異形化も解除された。

 

「ギリギリのラインを知っておきたいな」

 

 次は慎重に魔力を操る。異形化が始まるギリギリのラインを見極める。

 痛みが調整の度合いを教えてくれる。この痛みは肉体が大きく変化する時に起こるものだ。

 

「よし」

 

 自前の身体強化とは比較にならない。軽く地面を蹴ってみる。すると、数キロメートルは離れていた筈の雑木林に一息で到達してしまった。

 

「……やべ」

 

 体に異常はない。けれど、着ていたドレスがめちゃくちゃになっていた。下着も悲惨な状態だ。

 

「この格好で戻るのもなー……」

 

 そこで閃いた。暴走した時、オレの服は真紅のドレスに変わっていた。

 きっと、あれは魔力で編んだシャロンの武装だ。剣や槍を作れるのだから盾や鎧を作れてもおかしくはない。

 

 ―――― ブラッド・ドレス。

 

 あの時のドレスをイメージしながら魔力を練ってみると、あっさり作り出す事が出来た。試しに少し動いてみたけれどドレスには傷一つつかなかった。

 

「それにしてもジャベリンやドレスの前にブラッドって付けるのはシャロンの趣味なのかな?」

 

 個人的には悪くない。すごくカッコいいと思う。

 

「とりあえず、このくらいでいいかな」

 

 異形化以外の確認は一通り終わった。

 オレはチラッと兄貴達の方を見た。必死な顔でコッチに向かって来ている。

 だけど、馬を使っても十分以上はかかりそうだ。

 今の内に最後の確認を行おう。

 

「『魔王再臨』」

 

 自然と口から言葉が溢れた。そして、オレの体は激痛と共に変化した。

 視界が一気に広がり、耳には様々な音が入り込んでくる。

 

「……髪色も変わってるな。声は……、そのままだな」

 

 暴走状態の時に一度成ってしまった形態だ。

 今度こそ、精神に何か変化が起きるかも知れないと身構えていたけれど何も変わらない。

 

「魔王再臨って、言ったよな?」

 

 言った事を自覚した瞬間、マズったと思った。

 だけど、拍子抜けだ。ドラゴンの腕とドラゴンの翼が生えてきて、髪色やおそらくは瞳の色が変わった程度だろう。

 

「よし、解除っと」

 

 異形化中は動かないようにしていた。恐らく、とんでもない力が出そうだと思ったからだ。

 オレの一挙手一投足で公爵領の地図が書き換わりかねない。

 異形化はよほどの事が無い限り封印しておいた方がいいだろう。

 

「フリッカァァァァ!!」 

 

 兄貴が泣きながら駆け寄ってくる。騎士団より速い。

 

「兄貴! 実験大成功だぜ!」

「ド、ドレスが真っ赤に!? まさか、怪我をしたのかい!? フリッカ!?」

 

 涙と鼻水で凄い事になっている。オレはめちゃくちゃになった本来のドレスの切れ端で顔を拭ってあげた。

 

「ちょっと元のドレスが破けちゃったから魔力で編んだんだよ。どこも怪我してないから心配要らないぜ、兄貴!」

「ほ、本当かい!? もう、お兄ちゃんは本当にハラハラしたんだぞ!! あんな凄い力……、体に負担はないのかい!? ちょっとでも苦しかったり、痛かったら言いなさい!!」

「だ、大丈夫だって!」

 

 兄貴を宥めているとアイリーンと騎士団も追いついてきた。

 騎士団は揃いも揃って青褪めた表情を浮かべている。まあ、彼らの事は兄貴に任せよう。

 

「お、お嬢様!? ドレスが真っ赤に!?」

 

 おっと、アイリーンも兄貴と同じ事を言い出した。

 涙と鼻水をオレは別の切れ端で拭いてあげた。

 おっと、これは肌着だった。上の方で良かった……。

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