TS悪役令嬢になったオレ! 王子と婚約してるけど悪役令嬢だから婚約破棄されるだろうし、気にせず生きていくぜ!   作:冬月之雪猫

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第四十九話『魔女の招待』

 エリンの一件以来、エルフランは森の外へ出る事を恐れるようになってしまった。

 自分が森を出た為にヴァイクが怒り、森の魔獣達がパニックを起こし、あわやエリンという街が滅びる所だった。

 その事に責任と恐怖を感じているのだ。

 

「……ったく」

 

 アンゼロッテは頭を抱えた。責められるべきは我儘なヴァイクとエルフランを外に連れ出した自分の方だ。だから、気に病むなと何度も言った。それでも効果がなかった。

 このままでは一生を森の中で過ごす事になりかねない。それが彼女にとって最も幸福な事ならば問題ないが、そんな事はあり得ない。街へ行く事を提案した時、彼女はすごく嬉しそうだった。

 

「ヴァイク!」

 

 だから、アンゼロッテはヴァイクの下を訪れた。

 

「ウキ?」

 

 ヴァイクは巣である巨木から降りて来た。地上最強の生物である獣王を前にしてもアンゼロッテは怯まなかった。

 以前までは違った。その存在に萎縮していた。けれど、今は大切な娘(エルフラン)の為ならば幾らでも勇敢になれる気がした。

 

「ウキ? じゃねぇ! お前、エルを不幸にしたいのか?」

「ウキ」

 

 ヴァイクの目が血走った。周囲の木々や植物は見る間に枯れ果てていく。

 アンゼロッテは森全体に結界を張り巡らせた。また魔獣達がパニックを起こして森を飛び出さないようにする為だ。

 

「……エルは人間だぞ。森の中では幸せになれない」

「ウキ……」

 

 怒りが鎮まった。やはり、この猿の知性は非常に高い。恐らくは人間と同等か、それ以上だろうとアンゼロッテは推測していた。

 アンゼロッテの言葉をしっかりと受け止めて、考えている。

 そして、とてもとても哀しそうな顔をした。

 

「お前がエルを愛している事は分かっている。だけど、お前が怒ったせいで魔獣達が森を抜け出し、人間を襲った。その事にエルは苦しんでいるんだ」

「ウキィ……」

「なあ、ヴァイク! お前がエルを愛しているように、エルもお前を愛している! その事は分かっているんだろう!? だったら、もっとエルを信用しろ!」

「ウキ? ウッキー!」

 

 また、ヴァイクは怒った。信用していると訴えている。

 

「だったら、エルは絶対お前を忘れないし、お前の下に帰ってくるって分かれよ!!」

 

 その怒気に負けじとアンゼロッテは叫んだ。

 

「ウキ……、ウキィ……」

 

 ヴァイクは涙を零し始めた。アンゼロッテにはその苦悩が手に取るように分かった。それは彼女もエルフランを愛しているからだ。

 離れ離れになる事を想像すると胸が張り裂けそうになる。だからこそ、彼女の言葉はヴァイクに通じたのだ。

 

「ヴァイク。いつかエルは森を出る日が来る。直ぐとは言わない。けれど、いつか必ずだ! だけど、絶対に戻って来る!! だから……」

「……ウキ」

 

 ヴァイクは小さく頷いた。そして、巣に戻っていった。

 

「……お前の気持ちはよく分かるよ。だけど……、幸せになって欲しいじゃないか」

 

 アンゼロッテは涙を拭った。ヴァイクが涙を零した時、彼女も同じように零していた。

 そして、家に帰ろうとした時の事だった。不意に懐かしい気配を感じた。

 

「これは……、クリムゾンリバー号か?」

 

 気配はマグノリア共和国の漁港に現れ、迷いの森へ舵を取っている。

 

「……ふむ」

 

 目的が何であれ、クリムゾンリバー号の接近を無視する事は出来ない。

 何故なら、その船の船長は大海賊レッドフィールドの権能を受け継いでいるからだ。

 

「やれやれ……、センチメンタルな気分に浸っていると言うのに」

 

 ◆

 

 クリムゾンリバー号は伝説に恥じぬ速度で大海原を駆け抜けていく。

 

「ジョーカー。彼らは?」

 

 アルヴィレオは船の甲板を駆け回っている人々を見ながら問い掛けた。

 一見すると人に見えるが、彼らの姿はどこがおぼろげだ。

 

「『海賊王の権能』の一部ですよ」

「……使えるのか?」

「ええ、クリムゾンリバー号を継承した時、権能も継承しました」

「船の所有者である事が重要という事か?」

「そのとおりです。権能は立場に宿るもの。海賊王の権能はクリムゾンリバー号の船長という立場に宿っているのです」

「なるほど」

 

 アルヴィレオは興味深げに頷いた。いずれアガリア王国の国王に即位した時、彼も『アガリア王の権能』を継承する事になる。

 権能は時に人の臨界を超える力を授ける事もあり、英雄と呼ばれる者達は例外なく備えているものだ。

 

「面白いな。たしかに、クリムゾンリバー号は大海賊レッドフィールドの象徴とも呼べる船だ。だからこそ、逆説的にクリムゾンリバー号の船長はレッドフィールドとなるわけか」

「その理解で問題ありません。権能において最も重要な点は大衆の認知ですから」

「大衆の認知か……」

 

 あるいは、その特性を利用する事で特定の人物に意図的に権能を会得させる事も出来るかもしれない。

 英雄が求められる時代になる。英雄を意図的に生み出す事が可能ならば……、

 

「一つ忠告を」

 

 考え込むアルヴィレオにジョーカーは言った。

 

「通常のスキルは自ら魂に刻むものです。しかし、権能は他者から刻まれるもの。初代(オリジナル)ならば特にリスクはありません。実像と偶像の誤差が軽微ですから。しかし、継承者は違う。権能は認知の誤差を埋めようとする。魂の形を変えられ、オリジナルに近づけられる」

「……経験論か?」

 

 アルヴィレオの問い掛けにジョーカーは頷いた。

 

「自分では中々気付けませんでした。しかし、数少ない友人曰く、継承前と継承後ではまるで別人との事です。記憶も意識も継続している。それでも決定的に変わってしまう。それ故に権能は慎重に扱わなければならないのですよ」

「そうか……」

 

 自分では気付く事が出来ない変異。それは実に恐ろしいものだ。

 

「……もっとも、それを踏まえた上で実用化しようと研究している国もあるようですが」

「どこの国だ?」

「パシュフル大陸のイグノス武国です。隣接しているカルバドル帝国には剣聖が居ますからね」

「剣聖マリア・ミリガンか……」

 

 世界最強の大剣豪として知られている女だ。剣技に限れば勇者に匹敵すると言われている。

 その圧倒的な力とは裏腹に人格面は至って善良であり、国の垣根を超えてパシュフル大陸の人々を魔獣の脅威から護っているという。

 

「イグノス武国は帝国に戦争を仕掛ける気か?」

「既に幾度も仕掛けています。そして、その度に剣聖によって阻まれています」

「なるほどな。しかし、イグノス武国が英雄を量産出来るようになったら剣聖と言えども危ういか?」

「それはないでしょう」

 

 ジョーカーはキッパリと言った。

 

「他の継承系の権能とは異なり、剣聖は代を重ねる毎に強くなっています」

「どういう事だ?」

「『剣聖を超えた者だけが剣聖になれる』。そもそも、剣聖を継承するとは先代を超えるという事なのですよ。その時代、最強の剣士である事。それが剣聖の条件なのです」

「……待て。それはつまり、剣聖の権能を持つ者に権能を持たない者が勝ち続けて来たという事か?」

「そういう事です。剣聖は常に先代を上回り続けている。それにより権能も塗り替えられ続けている。権能を持たずとも、今代の彼女は二代目魔王を葬った七英雄よりも強いわけですよ」

「……な、なるほど」

 

 にわかには信じ難い話だが、剣聖がそれほどの存在ならば英雄を量産出来たとしても意味を為さないだろう。

 

「さて、見えてきましたよ」

 

 ジョーカーは船の先を指差して言った。話している内にクリムゾンリバー号は迷いの森の傍までやって来ていた。

 

「あれが……、迷いの森か」

 

 クリムゾンリバー号は速度を落とし、ゆっくりと海岸に近づいていく。

 船着き場に停泊し、下船したアルヴィレオとバレット、ジョーカーの三人はすぐ目の前に広がる洞窟へ向かった。

 

「……結界か?」

 

 アルヴィレオは魔獣に襲われない事に疑問を抱いた。

 

「いいえ、違います。ここは樹系の魔獣が根を張る区画なのですよ。森に一歩踏み込めばまたたく間に溶かされます。地下も安全とは言い切れませんが、意図して襲い掛かってくる事はありませんから注意して歩けば問題御座いません」

「そういう事か」

 

 そして、三人は洞窟の入り口を潜った。そして、その先には廃墟が広がっていた。

 

「……これは」

「以前まで、ここは海賊の拠点でした。しかし、獣王が森を抜け出した一件の調査の為に国連軍が捕獲したのです。今頃は墓の下か、あるいは牢獄に繋がれている筈ですよ」

 

 廃墟と化した海賊の拠点を奥に向かって進んでいく。

 

「ああ、あまり先へは進まないでください」

 

 ジョーカーは警戒の為に前へ出たバレットを止めた。

 

「ここは樹系魔獣の領域です。岩肌を突き抜けた根はその一部。触れれば溶かされますよ?」

「申し訳ございません。御助言の程、感謝申し上げます」

 

 バレットは頭を下げながら一歩下がった。

 

「洞窟に魔獣が入り込んで来る事はないのか?」

「ありません。樹系魔獣は動かない事を除けば獣王に次ぐ危険度を誇りますからね」

「そこまでなのか……」

「ですから、慎重に進まねばなりません。うっかりで死にたくはないでしょう?」

 

 会話は途切れ、三人は洞窟を進んでいく。

 暗闇の中、暗視の魔術を瞳に宿し、慎重に木の根を避けていった。

 

「三メートル先に三センチ程の木の根が飛び出ています」

 

 先導しているバレットは僅かな木の根も見逃さない。どうやら、アルヴィレオは友情だけで唯一の同行者を彼に決めたわけではないようだとジョーカーは感心した。

 触れれば即死の木の根が這う暗黒の中で彼は実に落ち着いている。神経を研ぎ澄まし、主に危機が及ばぬよう最善を尽くしている。

 先程のジョーカーの助言を素直に聞き入れた事も含め、彼はまさに騎士として完成している。

 

「……っ」

 

 バレットが立ち止まった。その意味をアルヴィレオとジョーカーもすぐに悟る。

 目の前で魔力が渦巻き始めている。そして、光の輪が現れた。

 

「これは、あの時の……」

 

 バレットとアルヴィレオはエリンでの出来事を思い出した。その輪は森の魔女を名乗る女が彼らを避難させる為に使ったゲートと非常に似通っていた。

 

「どうやら、招待して下さるようですね」

「……行くぞ」

 

 アルヴィレオの言葉に頷くと、バレットは真っ先にゲートを潜り抜けた。その後にアルヴィレオとジョーカーも続く。

 そして、ゲートを潜り抜けた彼らの前には魔女がいた。

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