TS悪役令嬢になったオレ! 王子と婚約してるけど悪役令嬢だから婚約破棄されるだろうし、気にせず生きていくぜ! 作:冬月之雪猫
ライと契約を結んだ後、オレはアイリーンとミレーユの下へ向かった。
これから彼はオレの護衛騎士となるわけだから紹介しないといけない。
問題はどこまで教えるかだ。
「……うーん」
「どうした?」
首を傾げるライを見る。
彼が勇者ゼノンである事は隠匿しなければいけない。
だけど、正体不明の男をいきなり護衛騎士に据えるなんて、アイリーンは納得してくれないと思う。
オレは彼の名前を隠さなければいけない理由を正確に把握していないから、どこまでがセーフなのかわからない。
彼に確認を取るべきだろう。
「……あなたの事をアイリーン達にどこまで話すべきか悩んでいます」
「お前の従者だったか?」
「はい。アイリーンとミレーユ。一人は幼少の頃からわたくしの世話を焼いてくれている大切な人なのです」
「なるほどな。だから、隠し事は出来ないと?」
「……いえ、隠さなければならない理由があるならば」
本音を言えばアイリーンに隠し事など持ちたくない。
彼女はオレに永遠の忠誠を誓ってくれた。その忠誠に対して、オレはあまりにも多くの事を隠し過ぎている。
前世の記憶、オレの未来、他にもたくさん。
「フレデリカ。俺やネルギウスはお前が苦しむ事を望んではいない。苦しいのならば話してしまえ」
「で、ですが……」
「やりたい事をやればいい」
ライは超然とし過ぎていて、その思考を読み取る事が出来ない。
おまけに今は仮面を被っている。おかげで表情すら見えない。
とりあえず、アイリーンには話そうと思う。彼女とは念話を使えるから秘密の話も気楽に出来る。
問題はミレーユだ。ついさっきのやり取りだけど、ミレーユはアイリーンに下された王命に対して勝手な判断を下した。
アイリーンとの間に個人的な確執があるのかもしれないけれど、機密情報を共有出来る程の信頼を置く事が出来ない。
「あまり考えすぎるな」
ライは言った。
「ネルギウスも言っていたが、それは悪癖だな。時にはシンプルに考えた方がいい事もある」
「ですが、わたくしの立場的に……」
公爵令嬢であり、次期王妃。その立場にありながら軽々な判断を下す事など出来る筈がない。
悪癖だと言うけれど、オレの立場ももう少し考慮して欲しい。
「……お前、意外と頑固だな」
「が、頑固……? わ、わたくしが頑固と……?」
「ああ、そうだ。お前は少し頑固過ぎる」
たしかにオレはライの助言を素直に受け取る事が出来なかった。だけど、それは立場上の理由があるからだ。
彼はオレの立場を全く考慮していない。それなのに頑固と言った。
とってもカチンと来た。
「ど、どこが頑固なのですか!? わたくし、これでも頑張っているのですよ!? 公爵令嬢の立場とか、次期王妃の立場とか一生懸命考えて行動してるんですよ!? むしろ、順応性が高くないですか!?」
「それだ」
「はぁ!?」
ライはビシッとオレの鼻先を指差した。
「そ、それ?」
「ああ、それだ。お前のダメな所はそこにある」
「ダ、ダメな所!?」
言うに事欠いてダメな所と言った。
基本的にオレは褒められる事の方が多い。
兄貴なんてオレの顔を見る度に無限の語彙力で褒めちぎってくれる。
教育係だったシェリーやアナスタシアだって、厳しかったり歪んでたりしたけど基本的に褒めて伸ばしてくれた。
一生懸命頑張ってるから褒められてチヤホヤされる事に罪悪感を覚えた事など一切ない。
それなのにダメと言われた。とっても哀しい気分になって来た。
「お前は順応しようとし過ぎている」
ライは膝を折り、オレと目線を合わせて言った。
「頑なに自分を殺している。だから、頑固だと言ったんだ」
「……だ、だって」
「お前、今まで誰からも言われてないのか? お前はお前のままでいいと」
言われた。一度や二度ではなく、何度も言われて来た。
「フレデリカ」
ライは仮面を取った。
「お前は賢い。そして、優しい子だ。だから、余計な事を考える必要などない。お前がやりたい事をやる事が結果的に最善となる」
「でも……、だけど……」
「お前、俺を助ける時に何か考えたか?」
「か、考えましたよ! い、いっぱい!」
「お前の立場やアガリア王国の事を? だとしたら、妙だ。その場合、お前は俺を助けるべきではなかった。それなのに、お前はどうして俺を助けたんだ?」
「それは……、だから……、その……」
「考えたのだろうな。それでも、お前はこう思ったのだろう? 『助けたい』と」
そうだ。助けたいと思った。だから、助けたんだ。
いろいろな事を考えたけれど、結局はそれが理由だ。
「結果はどうだ? 俺は生きている。そして、お前やアガリア王国の立場は安泰なままだ」
「……ただの結果論です」
「ならば、逆に考えてみるといい。お前が我欲ではなく、立場を重んじていたらどうなっていたか? 簡単だ。俺は死んでいた。その結果をお前は正しいと思うか?」
「思いません!!」
ライが死ぬ事は絶対に間違っている。これまで多くの人を救って来た人だ。その分だけ生きて幸せにならなきゃ釣り合わない。
「ほら、答えが出ただろう。お前はもう少し直感的に生きろ」
そう言うとライは仮面を被り直し、オレの頭を乱暴に撫でた。
折角丁寧に整えていた髪型がくしゃくしゃだ。それなのに大きな手に撫でられる感覚を心地よく感じてしまう。
一生懸命考えて行動する事をダメ出しされた事には不満を感じるけれど、それはそれとしてありのままの自分を認めて貰える事は嬉しく感じてしまう。
「だ、だったら好きにします! 何か問題が起きたらライのせいですからね!」
「ああ、それでいい」
穏やかに返さないで欲しい。器の違いを思い知らされる。
男として、完全に負けている。悔しい。
◆
アイリーンとミレーユが待っている使用人の待機部屋の前へやって来た。
オレの方からここを訪れるのは初めての事だ。基本的に使用人は呼ぶものであり、迎えに行く事などないからだ。
本来ならば執務室仕えの使用人に呼びに行かせる所だったのだけど、ライの事を秘匿する為に使用人を全員遠ざけていた為にこうして出向く事になったわけだ。
ついでに執務室仕えの使用人達に戻って来るよう伝言も言い付かっている。
ノックしようと手を上げた時、中から大きな物音が聞こえてきた。
何事かとライと顔を見合わせると中からミレーユの声が聞こえて来た。
「元々、わたくしがフレデリカ様の側仕えになる予定だったのです!! それなのに!!」
「わ、わたくしは幼少の頃からお仕えして来たのです!!」
アイリーンの声も聞こえて来た。かなり怒っている様子だ。
どうやらオレの事で揉めているようだし、扉の前で立ち止まっている場合じゃない。
オレは扉を押し開いた。
「アイリーン! ミレーユ! どうしたのですか!?」
部屋に入ると、二人は取っ組み合いの体勢で固まっていた。
ギギギと音が聞こえてくるような動きでオレの方を向いた。
「フ、フレデリカさま……」
「こ、これはその……」
明らかにまずい所を見られたという様子だ。だけど、オレよりも周囲の使用人達を気にするべきだ。
明らかにドン引きしている。中には呆れ返っている人までいる。
「……とりあえず、二人共立ってください」
「は、はい……」
「か、かしこまりました……」
正直、すごく気まずい。
明らかに問題行為を働いた二人の使用人に対して、主人として確りと指導しないといけない。
だけど、オレは十二歳だ。対して、アイリーンとミレーユは二十二歳。子供が大人に説教する構図なんて、居た堪れない光景になる事間違いなしだ。
溜息が出そうになるけれど我慢する。別に失望なんてしてないけど、溜息を吐いたら失望されたと思われてしまう。
二人が立ち上がって姿勢を正した所でオレは口火を切った。
「それで、どうしたのですか? わたくしの事で言い争っていたようですが」
「そ、それはその……」
すごく言い難そうだけど、ここでなあなあにしてしまうと他の使用人達からの印象が悪いままで終わってしまう。
それは二人の今後を考えると非常にまずい。ここで確りと問題を解決しておかないといけない。
「命令です。ありのままを話しなさい」
「か、かしこまりました」
「……かしこまりました」
二人は青褪めている。だけど、主人の命令は絶対だ。この状況で話す事を拒絶すれば解雇もあり得る。その事を二人は確りと認識している。
いつも世話を焼いてくれている二人を追い詰めるような真似はしたくないけれど、まずは状況を把握しなければいけない。
「……わたくしがミレーユを問い詰めた事が口論の切っ掛けとなりました」
まず初めにアイリーンが言った。
「それはミレーユがわたくしを迎えに来た事についてですね?」
オレが言うと、彼女は頷いた。
「わ、わたくしもフレデリカ様のせ、専属使用人です。な、なので、わたしが……」
ミレーユは声を震わせながら言った。
そう言えば、さっきの言い争いでもオレの使用人である事にかなり拘っている様子だった。
「……ああ、そうか」
こんな状況になるまで、オレはミレーユの事を真剣に考えた事が無かった。
少し考えれば分かる事だ。彼女は次期王妃に使える専属使用人として、オレはアルの婚約者に選ばれる前から教育や躾を受けて来た筈だ。
オレの使用人と考えるからズレていたんだ。次期王妃の使用人と考えれば、その立場が如何に特別なものかが見えてくる。
栄えある立場の人間として、彼女はきっと張り切っていたのだろう。プライドを持っていたのだろう。
それなのに、オレはアイリーンを連れて来てしまった。唯一無二だった筈の立場を二分された彼女の心境を想像してみると、二人の間に確執が出来た事は必然だったと分かる。
「ミレーユ。そして、アイリーン」
オレが名前を呼ぶと二人はビクッとした表情を浮かべた。すっかり怯えてしまっている。
自覚しなければいけない。公爵令嬢や次期王妃というだけではなく、オレは彼女達を含めた使用人達の主人だ。
彼女達とは家族や友達ではなく、ビジネスの関係で繋がった存在だと理解しなければいけない。
寂しい事だし、とてもイヤな事だ。だけど、立場を弁えなければいけない。それが出来ていなかったから認識がズレていた。
「……元々は一人用の職務内容を二人で分業する事になったが故の争いという事ですね? ならば、改めて二人用に内容を変更しましょう」
世話を焼かれるまま、彼女達に甘え切っていた。だけど、それではいけなかった。
主人として、彼女達を使う。その意識を持たなければ、また同じ事が繰り返される。
辛い事だけど、オレには彼女達の人生をより良くする義務がある。
「フレデリカ」
いきなり、ライに頭を撫でられた。
「ライ……?」
「ついさっき、俺がした助言を忘れたのか?」
困ったように彼は言った。
「助言……」
考え過ぎるな。やりたいようにやれ。直感に従え。
それが彼の助言だった。
「ライ……」
「お前がやりたくない事をやって、喜ぶ人間なのか? その二人は」
それは違う。
「勇気を出して、やりたいようにやってみろ」
「勇気を……」
その言葉にハッとした。
事ある毎に自分らしくあれと言われて来た。それでも思考して取るべき行動や態度を選んで来た理由をその言葉で自覚した。
不安だったからだ。自分らしく在る事で良くない事が起きる事を恐れていた。
男として、勇気と覚悟は何よりも大切なものだと考えていた筈なのに、オレは覚悟を抱けていなかった。勇気を持っていなかった。
「……アイリーン。ミレーユ」
二人の表情が怯えから心配そうなものに変化していた。
「前言撤回!!」
偉大なる勇者に背中を押してもらっておいて、踏み止まる事など許されない。
逃げるな。勇気を出せ。これまでの自分を超えていけ。
「わたくし、二人には仲良くしていて欲しいのです!! だから、仲良くしなさい!!」
シンプルな願望を口に出した。
二人は揃って目を丸くしている。
「わたくしは二人が辛かったり苦しかったりしたらイヤです! 不満があったらわたくしに言いなさい!! 二人であーだこーだ言うのは禁止です!! いいですね!?」
「かしこまりました、お嬢様!」
「かしこまりました、フレデリカ様!」
根本的な解決にはなっていない気がする。だけど、オレは二人を信じる事にする。
「信じますからね、二人共」
これは二人に全力で甘える選択だ。主人としてはすごく情けない選択だ。だけど、考えてみればこれが一番良い。
たぶん、オレがなんとかしてしまったら二人の関係は歪な形のままで終わってしまった筈だ。
それに他の使用人達からの心証も自分達で解決した方が改善出来ると思う。
オレはライを見た。仮面で表情は見えない。だけど、彼はオレの頭を撫でてくれた。
「……あ、あの、お嬢様」
すると、アイリーンが恐る恐る声を掛けてきた。
「その……、そちらの方は一体……」
そうだった。ここに来た一番の目的を忘れるところだった。
「彼はライ。これから、わたくしの護衛騎士となる事になりました!」