TS悪役令嬢になったオレ! 王子と婚約してるけど悪役令嬢だから婚約破棄されるだろうし、気にせず生きていくぜ!   作:冬月之雪猫

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第六章『TS悪役令嬢になったオレとアザレア学園!』
第五十一話『学園からの招待状』


 アンゼロッテは溜息を零した。クリムゾンリバー号から降りて上陸して来たのは三人の少年だった。

 一人はレッドフィールドの子孫。

 もう一人はエリンで遭遇したアガリア王国の王国騎士団に所属している少年。

 最後の一人には覚えがないが、騎士の少年の態度から察するに護衛対象らしい。その立ち振舞からやんごとなき身分の者だと分かる。

 

「貴族の子か? それにしても、何を考えているんだ?」

 

 近辺の海賊共が根城に使っていた洞窟へ入り、そのまま奥へ進んでいく。

 見ていてヒヤヒヤしてくる。

 レッドフィールドの子孫と騎士の少年は日頃から確り鍛えているのだろうが、貴族と思しき少年の運動能力は街で駆けずり回っているはなたれ小僧以下だ。

 このままではいずれ立ち往生する事になり、三人で共倒れになる事だろう。

 

「ったく……」

 

 アンゼロッテは仕方なく『魔王の権能』でゲートを開いた。

 無鉄砲なガキ共の無謀な冒険に関わりたくなどないが、死なれても寝覚めが悪くなる。

 一つ、説教でもしてやろう。そう思って待っていると、ゲートの向こうから三人の少年が現れた。

 

「お初にお目に掛かります」

 

 出鼻を挫かれた。アンゼロッテよりも先に貴族と思しき少年が口を開いたのだ。

 

「わたくしはアルヴィレオ・ユースタス・ジル・オルティアス・ベルトルーガ・アガリア。アガリア王国の第一王子で御座います」

 

 その名乗りを聞いて、アンゼロッテは目を丸くした。まさか、アガリア王国の皇太子とは想像もしていなかった。

 当然だろう。国の未来を背負う皇太子が異国に居る事自体がおかしい。挙げ句、世界でも屈指の危険地帯に少人数で乗り込んで来るなど常軌を逸している。

 その上、この状況で自分の身分を明かすなど余程の大バカモノか、あるいは……。

 

「……アガリア王国の皇太子様は随分と無鉄砲のようだな」

 

 アンゼロッテはアルヴィレオの後ろに控えている二人の少年を見た。

 警戒しながらも態度に現さず、アルヴィレオを立てる為に気配を押し殺している。

 見た目の年齢と所作が釣り合っていない。アンゼロッテは気味の悪いガキ共だと思った。

 

「レッドフィールドの子孫とアガリア王国王国騎士団の騎士。なるほど、それなりに見栄えはいい。だが、ここが何処だか分かっているのか?」

「ええ、承知しております。その上で、この二人を同行者に選びました。紹介させて頂きます」

 

 アルヴィレオはアンゼロッテが脅かす為に敢えて後ろの二人の身分を言い当てたにも拘らず動揺を見せなかった。

 その可愛げのない反応に不満を抱きながらもアンゼロッテは彼の言葉に耳を傾けた。

 

「此方は我が騎士、バレット・ベルブリック」

「バレット・ベルブリックで御座います」

 

 紹介を受けたバレットが一歩前に進み出た。

 

「そして、此方は我が影、ジョーカー・レッドフィールド」

「ジョーカー・レッドフィールドで御座います」

 

 今代のレッドフィールド、ジョーカーも一歩前に出て来る。

 二人の臣下はどちらも余計な口を叩かない。己を完璧に殺している。

 アンゼロッテはただの無鉄砲なバカガキ共という評価を改めた。

 

「この二人はどちらも優れた能力を持っています。おかげで貴女の下に辿り着く事が出来ました」

 

 その言葉にアンゼロッテは怪訝な表情を浮かべた。

 

「何を言ってるんだ? お前等がここに来れたのはわたしがゲートを開いたからだ。あのまま歩いていたら十中八九死んでいたぞ」

「ええ、ジョーカー単独ならばともかく、わたくしという足手纏がいては道半ばで立ち往生していた事でしょう」

「……お前」

 

 アンゼロッテは顔を引き攣らせた。

 

「森の魔女殿。エリンの街には貴女によって救われた者達の記録が残っておりました。森に迷い込んだ者、森の魔獣に挑んだ者、森の調査に赴いた者。彼らは一様に語っています。『森に命を脅かされた、光の扉が現れた。その向こうには女神の如き美しい女性がいた。命を救われ、私は家に帰る事が出来た』と」

 

 その言葉を聞いて頭を抱えそうになった。

 

「言っておくが、わたしは別に慈善活動家じゃないぞ……」

 

 アンゼロッテはアルヴィレオを睨みつけた。可愛い顔して、とんでもない腹黒だ。

 彼は最初からアンゼロッテに保護される事を狙って、敢えて子供三人組で迷いの森に入って来たのだ。

 

「……クリムゾンリバー号を使ったのもわたしに気づかせる為か」

「発案は父上です」

「アガリア王か……」

 

 アンゼロッテは渋い表情を浮かべた。

 今代の王の事は知らないが、二百年前の王は知っている。

 賢王と讃えられ、善政を敷く偉大な王だった。そして、同時に腹黒だった。

 

「血の繋がりって……、怖いな」

 

 権能を受け継いだ後ならともかく、受け継ぐ前からこれでは先が思いやられる。

 どうやら、アガリア王国の未来は安泰のようだ。

 

「……わたしの事はどこまで知ってる?」

「アンゼロッテという名をバレットが聞いていました。そして、エリンの『森の魔女伝説』の始まりは二百年前。獣王の領域に居を構え、そして……」

 

 アルヴィレオは目を細めながら言った。

 

「魔王の権能」

「……良い騎士を持ったもんだな」

 

 アンゼロッテはバレットを見た。あの状況下で必要な情報を零さず主人に届ける忠犬振りには舌を巻く。

 

「わたしには勿体ない程の素晴らしい騎士ですよ、七大魔王の破壊神殿」

「……その呼び名は好きじゃない」

「申し訳ありません」

 

 アルヴィレオは素直に頭を下げた。

 その姿を見て、アンゼロッテは彼らをただの子供と思う事を止めた。

 大国の皇太子がわざわざ出向いたからには要件がある筈だ。

 

「それで、何の用だ?」

 

 さっさと本題に入ろうと思い、アンゼロッテは問い掛けた。

 

「……その前に一つ、言わねばならない事があります」

「なんだ?」

「勇者様が御逝去なされました」

「……そうか」

 

 それだけでアンゼロッテはアルヴィレオが来訪した理由を大まかに悟った。

 エリンでの一件によって、エルフランの存在と力を大多数の人間が知ってしまった。これから各国はこぞってエルフランを手中に収めんと動き出す事だろう。

 

「言っておくが、あの子は誰にも渡さんぞ? これはわたしだけではない。獣王ヴァイクの意思でもある。その意味は分かるな?」

「ええ、分かっています。だからこそ、わたしは貴女方に会いに来ました」

 

 強い意思の篭もった眼差しを見て、アンゼロッテは小さく息を吐いた。

 

「此方に強制する意思はありません。選択肢の一つとして考慮して頂ければと思い、此方を運んで来ました」

 

 そう言って、アルヴィレオは一通の封筒を差し出した。

 それは『アザレア学園』という学校への入学許可証だった。

 

「……アザレア学園? いや、この封蝋の刻印はシュテルヴィスクか」

「シュテルヴィスク……?」

「ん? なんだ、知らないのか? 二百年前は……いや、それより前だったか? そう呼ばれていた筈だぞ」

「……もしや、空白の時代の頃の事ですか?」

「空白……?」

 

 微妙に会話が噛み合わない。

 

「……まあいい。要するにアガリア王国への招待状というわけだな?」

「そうです。我が国には既に英雄クラスの力を持つ方がいますので、国の為に彼女を求める事はありません。だからこそ、彼女の後ろ盾となる事も可能かと」

「その英雄クラスの力を持つ方とやらの名は?」

「オズワルド・アガリア。史上最高の魔法使いと呼ばれている方です」

 

 その名を聞いた途端、アンゼロッテは渋い表情を浮かべた。

 

「ど、どうしました?」

 

 予想外の反応に対して、アルヴィレオは困惑した。

 

「……そいつの事は知ってる。一度来たからな」

「来た……? 叔父上が!?」

 

 寝耳に水の入る如しだ。まさか、オズワルドが既に彼女達と接触を果たしていたなど父王からの手紙にも記されていなかった。

 

「お前、あいつの事は信じないほうがいいぞ」

「……どういう意味ですか?」

 

 アンゼロッテは言った。

 

「言葉通りだ」

 

 そう言うと、彼女は封筒をアルヴィレオに返した。

 

「お前が渡せ。反対はしない」

「いいのですか?」

「いつまでも閉じ込めておくわけにはいかないからな……」

 

 寂しそうにアンゼロッテは言った。

 

「……かしこまりました」

 

 ◆

 

 森の中にポッカリと開いた空間。そこに佇んでいた廃墟は徐々に在りし日の姿を取り戻しつつあった。外装も仕上がり、街で手に入れた家具のおかげで内装も調える事が出来た。その後は家の周りに柵を並べ立て、レンガを設置して花壇も作った。

 色々と工夫を凝らして池を設置したりと、エルフランは手を動かし続けた。何かしていないと気が狂いそうだった。

 結果的には誰も死ななかった。けれど、そんな事は言い訳になどならない。自分の軽挙妄動によって人が死ぬところだった。

 それに人以外の被害は甚大だ。街に上がった火の手によって帰るべき家を失った人がいる。財産を失った人は未来に絶望しているかもしれない。そう考えると叫びだしそうになる。

 

「……もう、森から出ちゃダメだ」

 

 アンゼロッテとヴァイクがいれば、それだけでわたしは十分に幸せだ。それ以上を求めたからこそ、あんな事になってしまった。

 この森の中で生きよう。この森の中で老いよう。この森の中で死のう。

 そんな事を考えていると物音がした。

 

「アンゼロッテ?」

 

 振り返る。すると、そこには見知らぬ男の子がいた。

 

「え? だ、だれ!?」

 

 驚きのあまり飛び上がりそうになった。森の中でアンゼロッテ以外の人と会うのは初めてだ。

 

「驚かせてすまない」

 

 少年は申し訳無さそうに頭を下げた。

 

「ほえ!? う、ううん! わたしが勝手にビックリしただけだから……えっと、あなたは誰?」

「ボクはアルヴィレオ。君がここにいると聞いたものでね」

「わたしに用なの……?」

「うん。これを君に渡しに来たんだ」

 

 アルヴィレオは封筒を差し出した。

 

「これは?」

「アザレア学園への入学許可証だよ」

「アザレア学園? え? 学校?」

「うん」

 

 エルフランは困惑した。これからの一生を森で生きようと決意した矢先の事だから尚更だった。

 

「……いきなりの事で混乱しているようだね」

「そ、そりゃまあ……」

「大丈夫。ちゃんと説明するよ。ただ、君にとって酷な話もしなければいけない。いいかい?」

「酷な話……?」

 

 エルフランはキョトンとした。

 

「君の立場についてだ」

「……それは、エリンの件ですか?」

「それもある。だけど、それだけじゃない。君は勇者を知っているかい?」

「勇者?」

 

 エルフランは首を傾げた。

 

「えっと、冒険したり、魔王を倒したりする?」

「うん。その勇者が逝去されたんだ」

「……せい、きょ? え? 勇者って実在するの!? っていうか、死んじゃったの!?」

 

 目を白黒させるエルフランに対して、アルヴィレオは彼女の反応と言葉を観察していた。

 獣王の森に棲む少女。やはり、その常識は街の者とは大分異なるようだ。

 

「勇者は世界の守護者だった。その守護者が亡くなった事で各国は魔獣に対する防衛手段を模索する必要に迫られているんだ。そして、君がエリンで見せた力を多くの人が目撃した」

「……えっと、つまり?」

「君の力を求める者が大勢いるという事だよ。それも個人や街ではなく、国という単位で」

「なっ……」

 

 唖然とした。

 

「う、うそでしょ……?」

「嘘じゃない。君の力は強大であり、迷いの森の魔獣達を一方的に退けた実績もある。加えて、街を護った少女という点も大きい。悪い大人は君の善性と幼さに目をつけ、他の御しにくい力ある者達よりも優先して君を確保しようと動く筈だ」

「で、でも! わたし、この森を出られない! 出たら……」

「……獣王ヴァイクか」

「ヴァイクが悪いんじゃないの!!」

 

 エルフランは叫んだ。

 

「違うの! わたしが悪いの! ヴァイクは寂しくなって、それで怒っちゃったの。それで……、それで……」

「なるほど……、エリン襲撃はそういう理由から起きた事だったのか」

 

 アルヴィレオは安堵した。迷いの森からの魔獣の襲撃にキチンと理由があった為だ。

 それが無ければ、迷いの森の警戒レベルはこれまで以上に跳ね上がっていた。

 

「君……えっと、そう言えば名前を聞いていなかった。教えてもらえるかい?」

「……エルフラン。エルフラン・ウィオルネだよ」

「エルフラン……、星を探す者か。いい名前だね」

「そ、そう? ……えへへ」

 

 エルフランはアンゼロッテに付けてもらった名前を褒めてもらえて嬉しくなった。

 初めは変な名前だと思って不満を抱いたけれど、今はとても大切な名前になっていた。

 

「エルフラン。これまでの話はこれから話す事の前提なんだ」

「前提?」

「うん。さっき、君を求める者達が大勢いると言ったよね? 国という単位で動く時、それは軍隊となる。君を求め、各国の軍隊が迷いの森に攻め込んだとしたら、どうなると思う?」

「それって……」

 

 エルフランは言葉を失った。

 

「ああ、獣王を本気で怒らせる事になる。それに、他の魔獣達も黙ってはいないだろう。軍隊は全滅する。そして、そこで魔獣や獣王が止まる保証は一つもない。なにしろ、国という単位は人が決めたものだ。魔獣達にとって、敵は国ではなく、人類そのものとなる可能性が高い」

 

 アルヴィレオの説明はとても丁寧だった。だからこそ、エルフランは理解出来てしまった。

 森の中の幸福すら、もはや許されない事を……。

 

「そんな……」

「ウギィィィィィッ!!!!!」

 

 エルフランが泣き崩れた瞬間、二人の前に一匹の猿が降り立った。

 最強の猿。獣王ヴァイクは激怒していた。




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