TS悪役令嬢になったオレ! 王子と婚約してるけど悪役令嬢だから婚約破棄されるだろうし、気にせず生きていくぜ!   作:冬月之雪猫

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第十章『TS悪役令嬢になったオレと一年目の始まり』
第九十一話『入学式』


 王立アザレア学園には生徒主体の組織が複数存在する。その中でも最も大きな権限と責任を持つのが『生徒会』だ。

 生徒会には七つの寮の監督生達が所属していて、ジョナサン・レーベンヴァルクもその一人だった。

 

「……ギリギリだったけど間に合ったな」

 

 入学式は毎年の事なのだが、今年は特別豪華に仕上がっている。それと言うのも、今年は皇太子殿下が入学して来るからだ。

 その準備の為に生徒会のメンバーは方々を駆けずり回り、不眠不休で働いたからすっかりクタクタだ。

 

「御苦労だったな」

 

 ジョナサンに労いの言葉を掛けたのは生徒会のリーダーである生徒会長のエドワルド・ルーテシアだった。

 誰よりも精力的に働いていた筈なのに、その顔に疲れの色は欠片も見えない。

 

「だが、これで終わりではないぞ。今年は留学生も多い。彼らのフォローも我々の重要な責務だ。なにしろ、国が違えば文化も違うからな。特にポティファル大陸とイルイヤ大陸には国の概念がない。こう言っては何だが、巨大な宗教組織と特殊な集落だ。我々とは違う常識の中で生きて来た者達にいきなり我々の常識通りに生きるよう強制する事は難しいし、するべきでもないだろう」

「かと言って、いつまでも自分達の常識の中で生き続けられても困るだろ?」

「無論だ。言っただろう? 強制はするべきではないと。留学生達には自主的に常識を擦り合わせてもらうのだ。そうなるよう、この学園での生活を素晴らしいものだと感じてもらえるようフォローするのだ」

「なるほど……」

 

 同い年で同じ教育を受けて来た筈なのに自分よりも遥かに優れた判断を下す事が出来るエドワルドにジョナサンは少々の嫉妬を混ぜた視線を向けた。

 

「それから年中行事にも変更が加えられているからな。その対応もある。来年以降の生徒会の為にマニュアルも作成していかなければいかんからな」

「やる事は目白押しって事だな」

「そういう事だ」

 

 二人が話し込んでいると一人の女生徒が駆け寄って来た。

 

「そろそろ在校生達を大広間に誘導しますよ!」

 

 カガリ・オーデンベルクの言葉にジョナサンとエドワルドは頷きあった。

 

「今期生徒会の初仕事、最後まで気合を入れてやり切るぞ!」

「ああ!」

「はい!」

 

 ◆

 

 学園の敷地へ足を踏み入れた新入生達は案内役の在校生達にそれぞれの待機部屋へ通された。

 大広間に入場する順番が厳密に定められている為だ。

 アルヴィレオ・アガリアとフレデリカ・ヴァレンタインは最後に二人で入場する為、同じ部屋に案内されていた。

 

「入学式の場で寮を振り分けられるんだよな?」

「そうだよ。これはシュテルヴィスクと呼ばれていた時代からの伝統らしい」

 

 シュテルヴィスクが王立アザレア学園という名に改められた時、同時に様々な改革が行われた。

 けれど、変わらなかったものもある。より正確に言えば、変える事の出来なかったものがあった。

 

「この学舎を作り上げた聖女が施したいくつもの加護。その一つのようだね」

「オルネウス王やオズワルド猊下ですら解呪出来ないとなると、聖女様は相当な実力の魔法使いだったんだな」

 

 フレデリカの言葉に頷きながら、アルヴィレオは王から渡された資料とは別の紙束に目を通した。

 

「……シュテルヴィスク。古代の言葉でシュテルは『理想』、ヴィスクは『悲願』を意味している。聖女が求めたものは『偉大なる王』。オルネウス王はシュテルヴィスクを訪れ、王としての資質を目覚めさせ、王家の湖で聖剣を引き抜いたそうだ」

「オルネウス王は聖女が求めた『偉大なる王』に至ったというわけだな」

「うん。だからこそ、ここはアザレア学園と名を改める事が出来た。オルネウス王以外の者が自らの領地として周辺地域を支配した時、シュテルヴィスクはその名を固辞したらしい」

「その辺りがよく分からないんだよな……。だって、学校の名前だぜ? それを変えられないって、どういう意味なんだ?」 

 

 フレデリカが首を傾げると、アルヴィレオは言った。

 

「そのままらしい。シュテルヴィスク以外の名を付けようとした時、その地の支配者は言葉を紡ぐ事が出来なくなった。その名を知らぬ者がその建物の名を想像した時、必ずシュテルヴィスクの名が浮かんだ。そういう加護が働いていたらしい」

「加護って言うか、それって……」

 

 人の身体や思考にまで影響を及ぼし、時には害を与えるもの。

 それは呪詛と言うべきものだとフレデリカは思った。

 

「……しかし、この学舎が救世主を生み出した事は事実だ。だからこそ、聖女は聖女と呼ばれ、加護は加護と呼ばれている」

 

 オルネウス・アガリアが聖剣を引き抜き、初代魔王と戦わなければ世界は既に終わっていた。

 その事実がある以上、それが如何に呪い染みていたとしても加護なのである。

 

「物は言いようって感じだな……」

 

 フレデリカは通された部屋に飾られている絵画を見た。

 そこに描かれているのは他ならぬ聖女の肖像だった。

 

「……聖女ラミタルアか」

「美しい人だね」

「ああ、すごく……」

 

 その絵は公爵家の屋敷や王宮に飾られている絵画とは(おもむき)が異なっていた。

 写実画という、デフォルメや単純化をせずにありのままを絵としたものだった。

 まるで写真のようだ。それほどまでにリアルだった。

 

「執念みたいなものを感じるな」

 

 彼女のありのままの美しさを残したい。そんな思いが伝わってくる絵だ。

 

「……なんで、名前は変えさせたのに学園長や寮分けの加護(のろい)を残したのかな?」

 

 オルネウス王という偉大なる王を生み出した時点でラミタルアの願望は成就された筈だ。

 それなのに一部の加護が残っている事にフレデリカは違和感を感じた。

 

「彼女の目的は別の所にあったのかもしれないね。偉大なる王は過程に過ぎないのかもしれない」

「二人目の偉大なる王を求めてるって事?」

「あるいは、二人目はとっくに生まれているのかもしれないよ。なにしろ、七英雄は全員がアザレア学園出身者(・・・・・・・・・・・・)だからね。冒険者ウェスカー・ヘミルトン。大海賊ウェントワース・レッドフィールド。暗殺者スカイ・サリヴァン。武神クレア・リード。守護者ジュリア・リエン。初代剣聖アギト・ミリガン。そして……、策謀家エルトリア・アガリア。その中でも、ウェスカーとウェントワースはそれぞれ王の名を冠する権能を手に入れている」

「『冒険王の権能』と『海賊王の権能』だよな?」

 

 アルヴィレオは頷いた。

 

「権能とは人々の認知によって生み出されるもの。王とは特別な存在であり、王を冠する権能を持つ者とは大衆に王と認められた者という事になる」

 

 ウェスカー・ヘミルトンは七英雄のリーダーとして彼らを率い、二代目魔王ロズガルドから世界を守った英雄だ。彼をオルネウス王の再臨と呼んだ者もいる。

 彼の冒険譚は時代を超えて人気を博し、多くの人々を冒険の旅へと駆り立てた。

 世界を気ままに歩き、秘境を求め、魔獣を討伐する自由人。彼らを人々は『冒険者』と呼んでいる。

 ウェントワース・レッドフィールドはウェスカーに助力を求められた時、既に大海賊として世界の海を支配していた。

 人も魔獣も関係なく、クリムゾンリバー号の行く手を遮るものは全てを滅ぼした。

 彼らは求めるままに奪い、壊した。麻薬をばら撒き、人を商品として売り捌き、悪虐の限りを尽くした海の悪夢。その時代、海とは彼の国として扱われていた。

 

「二人が王の権能を得たのはアザレア学園を卒業したからこそって事?」

「無関係ではないと思っているよ」

 

 そうこう話しているとノックの音が響いた。

 フレデリカとアルヴィレオは頷き合い、迎えに来た生徒と共に入学式の会場である大広間へ向かった。

 

 ◆

 

 いよいよだ。ゲーム『エターナル・アヴァロン ~ エルフランの軌跡 / ザラクの冒険 ~』の『エルフランの軌跡』における第一部『迷いの森編』が終りを迎え、第二部『アザレア学園編』が始まる。

 大広間は巨大な円形で、まるで劇場のようだった。新入生達は中央の舞台に集められている。

 大広間の扉を潜り抜け、オレ達もみんなの下へ向かった。

 四方から集まって来る視線に体が強張りかけたけれどアルが手を強く握ってくれた。彼から勇気を貰って俯きかけた顔を少し持ち上げると天井から吊り下がる七枚のタペストリーが見えた。そこには七つの紋章が刻まれている。

 紅の船と骸骨は大海賊ウェントワース・レッドフィールドの紋章。

 二振りの曲刀は暗殺者スカイ・サリヴァンの紋章。

 弓と矢は守護者ジュリア・リエンの紋章。

 交差する三本の剣は剣聖アギト・ミリガンの紋章。

 ドラゴンの頭は武神クレア・リードの紋章。

 開かれた本は策謀家エルトリア・アガリアの紋章。

 そして、天秤の皿に三つずつ色とりどりの玉を乗せたのが冒険者ウェスカー・ヘミルトンの紋章。

 アザレア学園には七つの寮があり、それぞれに七英雄の名と紋章が与えられている。

 オレとアルもいずれかの寮に配属される事になっている。

 婚約者と言えども別々の寮に引き離される可能性があり、少し不安だ。寮の選定は聖女の加護によって行われる為、忖度などが一切ないのだ。

 最も、別々の寮になってもオレとアルには特別な私室が用意されている。王族特権である。寮の部屋を使ってもいいのだけど、学園での夜会の際にも使用した王族用の部屋を使う事も出来るのだ。

 大広間の奥で他の新入生達と合流し、彼らが開けてくれた道を進む。学園長のエラルド・ライゼルシュタインの前に立つと、彼は微笑んだ。

 

「新入生諸君、入学おめでとう!」

 

 その言葉と共にすべてが闇に包まれた。

 

「え? え?」

「なに!?」

「どうしたんだ!?」

「真っ暗だよ!?」

 

 戸惑う生徒達の声が聞こえる。おそらく、最初の儀式を知らないのだろう。

 今から始まるのは寮の選定だ。

 

「これより寮の選定を執り行う!!」

 

 エラルドの言葉と共に一人の生徒が色を取り戻した。

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