幼年期の後、あるいは新時代の前に   作:杉鋸

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針飛び式劫年伝承法ツォラ・ラッツァー

 決別の霊廟とは継がれるべきではないとされた業を伝える英霊を眠らせる場などと言われるものの、存外騒がしいものである。

 迷い込むものがあれば目を覚ましてはとりあえず戦って篩に掛けようとするのだから当然の事である。

 

「全く、嘆かわしいものですね。ブートレグゴーストなどという物を使って英霊の技だけを利用できる様にして、その癖技に振り回されるばかりなどとは」

「私とは違って、まだあの子の業は継がれるべきものとして残されているというのに」

 

 とはいえ、今回の様に迷い込んだものを英霊が完全に叩きのめして愚痴を言うなどというのは流石に珍しい。

 戦いとは言っても何度となく再生される幻影の様なものでしかない英霊にとってはもちろんの事、未だに命を残した相手にしても場の影響で真に手傷を負う事はない気楽なもので、あくまで力量を図る術としての戦いでそこまで酷い戦いになる事はそうあるものではなかった。

 

「……ああ、違いますね。振り回されるのも当然でしょう。そんなものが必要なのはあの子の業を継げないが故なのですから」

 

 英霊となる前からの知り合いの英霊の技だけを切り出したブートレグゴーストを使う相手を叩きのめし、露ほども記憶されないであろう――それでも残さずには居られなかった――言葉が致命傷とでもなったかの如くその姿が朧気になっていく。

 これはただ霊廟から元居た場所へと引き戻されているだけの事であり、むしろ元よりも活力に満ちた状態で目を覚ますのではあるが。

 

 

 

 力量を認めたものだけにその技能や英知を伝承/継承する英霊の技だけを写し取り多くのものが使える様にする道具であるブートレグゴースト。

 英霊というものの意義を踏みにじる道具であり、あるいは技の形ばかりを真似て・その技が必要であった理由を伝える事はない、問題の答えだけを写したあんちょこ。

 知と技を伝えようとするものにとっては許しがたいというのも分かる所があった。

 

 それでもかつて実践者であったものとしては「使える物を使って何が悪いのか」と、そうも思うのだ。

 

「……流石に使える物を使うなとは言いませんよ。あれには『扱いきれない物なのだから使うな』と言ったのです」

 

 

 

 

 

 

「あの子の業をこうもしっかりと継ぐものが居るという事は、喜ばしく思えます」

 

 いつの日にかブートレグゴーストに記録された技に振り回されていたものと、それを嘆いていた英霊が居た。

 姿形が変わる事こそ無くとも十分な力量を得て技能と英知を継承したであろうそれは、変わる事の無い英霊と十全に戦う事ができていた。

 

 技を振るうに理由があり、あるいは時に振るわざるべきを知る。技と理知の備わったそれは英霊の篩を当然のものと潜り抜けた。

 

「本来であれば、私の業をも継がせたい所ではありますがね」

 

 英霊は変わる事はない。

 しかし自身を取り巻く状況の変化を理解しない訳でもない。

 己の伝えるものが継がれるべきではないとされたが故に棄てられたのだという事は英霊にとってもよく分かっている事であった。

 

 新たな記憶をその身に刻む事は無い英霊と、この場での記憶を殆ど留める事のできない来訪者の一期一会。

 だからこそ霊廟に眠る英霊の業が継がれる事はなく、だからこそこれ以上どこかへと追い立てられる事もない。

 

 継ぐものが絶える事を嘆き、しかし継がれる事を拒んでおいて今更の話とはいえ、未練なものだった。

 

 

 

 

 

 

 霊廟には今日もまた新しい英霊がその言葉を狩られて流れ着く。

 流れ着いた2体の英霊の一方には覚えが無く、もう一方は覚えのある顔だった。

 

「嘆かわしいものですね。あなたの業まで棄てられるとは」

 

 彼岸と此岸に分かれていた英霊達の再会。そして

 

「今になっても慣れないものです。自分ももう物を覚えられない英霊になっているなんて」

 

 まあ、慣れる日なんて来る訳もないのですが、と続けたのは英霊達に覚えられる事のない弟子、業の伝承者。その面影を残した英霊だった。

 

 霊廟に棄てられる様な英霊に近い業を伝える英霊なんて、むしろ今まで棄てられていなかった事の方が不思議な事で。その系譜に連なる伝承者の面影が共に棄てられたのも当然の様で。

 

「自分の知らない弟子の居る感覚というのも気になってはいたんですけども、この分だと知る事はできないんでしょうね。……それとも、もう既に居たりするのでしょうか?」

 

 自身の事を覚えていない師と、互いの事を覚えていないもう一人の師と弟子の初めて交わした――これから何度となく交わされる――初顔合わせ。

 何度となくなぞり返されては大して変わる事も無い軌跡、その一回目が描かれた所だった。

 

 

 

 

 

 

 全てを石に刻み付け、もはや一片の肉も一滴の血も持たない幻として浮かび上がるばかりの彼らの積み上げられた此処は、かつて見た悪夢――人の営みが作り出した躯の山と、その山から流れ出した血が河を作り、死にきれなかったものがその山河を彷徨う世界――その似姿の様だった。

 面影も名残も押し流されて久しいはずだというのに、時は過ぎ・術も変わったというのに、人々の営みが残すものはどうしてこうも似通うというのだろうか。

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