幼年期の後、あるいは新時代の前に   作:杉鋸

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上位者ばかり。獣ばかり。

 上位者とは唯一無二でなければならない。

 如何に強大な力を持ち人知の及ぶ全てを自在に操るのだとしても、並び立つものが居るのならそれの影には力が届かないのだから。

 だからこそ上位者達は赤子を持てない。直接に子を成し得る同等の存在を排除したからこそ、あるいは同等の存在を生まなかったからこそ彼らは上位者と成った。

 同等の存在が無数に存在するのなら、それはもはや凡愚に過ぎないのだ。

 

 しかしいずれかの上位者が全てを平定するよりも早くに無数の上位者が並び立ってしまった事で彼らは行き詰まりを認識した。

 量的に己を拡張する事が出来たとしても、より根本的な質の部分で己を改良する事ができなくなっている。そういう行き詰まりだ。

 量だけでの闘争は長く苦しく、それでも更なる上位者となったものが出れば全てが無意味となるものでしかないというのに。

 

 だから彼らは赤子を求めた。最も上位のものへと歩みを進める為に。己の継嗣こそが最も偉大なものとなる事を望んで。

 

 

 

 

 

 

 上位者とはその物質的な構造としては超個体であり、『系』である。安易な表現をすればある種の団体、組織、あるいは社会とも表現する事ができる。

 人間の作るそれらと違うのは集団を構成する個体と集団の結びつきが強いという事だ。人間の作るそれよりも洗練された設計になっていると言ってもいい。

 社会構造として表現するなら全体主義の理想形。生物の構造として表現するなら人体そのものとも概念的にはそう遠くはない程度のもの。無数の細胞の代わりに無数の個体が存在していて、多次元的な広がりを持っている高次元生命体というだけの事だ。

 もちろん規模おいては人間とは比ぶべくもない。上位者は次元が違う存在である。極限まで薄い布を何枚も集めた所でその体積はたかが知れているのと同じ事で、人間をいくらかき集めてもそれだけで到達できるものではない。

 

 人間をかき集めても到達できるものではないが、しかし上位者の素としてならどうであろうか?

 多細胞生物である人が人として生まれる前には単細胞の配偶子が存在する。上位者と比べるには矮小な人間の集積体に次元を超える力を与えたならば、多細胞生物にとっての配偶子と同程度には「近い」ものに至るのではないだろうか?

 

 それが思索の末に至ったものなのか、試行回数を重ねた事で偶然に生み出されたのかは分からないが、再誕者とはつまりそういうものである様に思われた。

 

 

 

 そうであるとするのなら、ビルゲンワースや医療教会が上位者に伍する事を目指していた事の意味もまた見方を変える必要があるのかもしれない。

 自らの意思で『上位者に追いつく』だとか『上位者に成り替わる』なんて事を目指して動いていたつもりで、その実疾うに『上位者という系の一部として取り込まれていた』だけだったのではなかろうか。

 

 そして再誕者という物質的な人の集積体に対して、夢の狩人という遺志――情報的な人の集積体もまた同等の存在であったとすれば辻褄は合うのだ。

 さもなければ人にその力の一部を貸し与え、遺志による強化を行うなどという手厚い扱いをする動機がどこにあったというのか。

 あるいは血の赤子という人と上位者の遺伝子の集積体も同等であったのかもしれなければ、聖血や聖体の拝領も『一つの端末を消費して配偶子を作らせる術を用意した』というのが真実ではなかろうか。

 

 だとすればなんと皮肉な事だろうか。赤子が生み出されるまでの間の時にこそ彼らは上位者の一部であり、赤子を生み出し悲願を叶えたつもりでいる内に上位者から排出されてしまう。ヤーナムとは、そんな胎盤の様な存在だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 上位者にとって人の言う所の「絶対の真実」とは意味を為さないものだ。

 人にとっては唯一無二の世界であっても、上位者からすれば無数に存在する世界の一つでしかない。

 その世界に気に入らない真実があるのなら、それを投げ捨てて好みの真実を選ぶ事が出来る――それが真実である世界を選べるのだ。

 

 しかし無数の上位者が並び立つという事は、上位者が上位者として在れない状況が生まれるという事だ。

 人の目には変わらない様に見えても、並び立ってしまったがばかりにただの凡愚として選び様の無い絶対の真実を突き付け合わざるを得ない。

 

 だからとて上位者達が相争い消耗するばかりとは正に獣の愚かと言う他にない。

 上位者達の求めた赤子がその獣の如き望みとは別の進化を遂げていたのは幸いと言うべきだろう。

 

 それが更なる上位者の手で選び取られた必然である可能性を否定する術はないのだが。

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