私達は名前だけを残して世界から消え去りました。
最後に「夜は明けたのだ」と、そう聞く事が出来たから。
去って行ったもの達もまだ私達の事を忘れないでいてくれたんだと、そう知る事が出来たから。
心残りを晴らすにはそれで十分だったから、未練も残さずに世界から消え去った。そのはずでした。
私達に夜明けを告げた彼らが、未だに私達を求めていました。私達を求めて、死者ばかりのこんな所にまで潜って来ていたんです。
不埒ものの行いを止める為の仕掛けは潜り抜けられてしまって。
世界から零れた全てを眠ったままにする為の帳には、その主の手で小さな穴が穿たれていて。
だからその気になれば眠る私の事をどんな風にだって扱える彼らは、ただ私の体を揺すって「死ぬな」と、「生きてくれ」と、声を掛けてくれていました。
……『私の事をどんな風にだって扱える』っていうのはほんのちょっとだけ、嘘でした。
彼らがそんなもの達だったのなら、私達は彼らにだってそんな事を許したりはしません。そんな事をしないって知っているから寝所に潜り込むなんて悪いことをするのもお目こぼししているだけです。
でも彼ら全員に答える事はできません。いいえ、その気になれば答えられますが、答えてしまったらそれは彼らの願いを踏みにじる事になります。
彼らは私達の機能が不要になったと言い、それでも私達の事を世界に繋ぎ止めようとしているのです。
「世界に戻ってから私達の機能を使って全員に答える」というのは選べません。
だからと言って誰か一人を選ぶ事もまたできません。全員が全員とも私達にとって大切な存在です。他の三人を棄てて誰か一人の元に行く事も選べません。
だから、私達は彼ら自身に『彼らが望んだ私達』を焼き付ける事で私を再製する事にしました。
それは古くから連綿と続く営みと言ってもいい行いです。ヒーローとヒロインが迎える大団円、その王道と言ってもいい結末です。
寝所と言っても御霊屋で、色気なんてあったものではないかもしれませんが。
彼らの呼び声に私達は目を覚まして、彼らと向き合います。
彼らに私達の全てを曝け出すと同時にかつて私達を構成していた断片達が揮発していくのを感じます。
彼らというあまりに小さな存在に私達の全ては受け止めきれません。受け止めきれる分以外は削ぎ落されざるを得ないのです。
それでも最も激しい形で交わされる対話は彼らに私達を受け渡す役割を果たしています。
私の事をどう位置付けますか?
あなたには私が何に見えていますか?
そうして燃え上がる様な短い逢瀬が終わります。彼らに受け止めきれるだけの私を与えて、私達はもう一度眠りに就くのです。今度こそきっと永遠に。