かつて「失われる事なく伝承されるべき」とその業績全てを石に標し遺された英霊達。
しかし今となってはもはや「継承されるべきではない」と判断され、あるいは人が持て余し集積場で忘れ去られていくばかりとなったものも少なくはなかった。
かつて「現世にあらざるべき」と血に酔った狩人を放逐する先があった。
しかし今となってはもはや古き狩人達も擦り切れ狩人は青ざめた血の魔物ただ一人となり、根源となった上位者も干渉する術すら失って久しかった。
現世に必要とされなくなった英霊達と、収めるべき中身と扱うものを失った
夢現の別に意味を持たない今であればこそ互いが互いを呼び合い、実在と非実在の狭間にある霊廟と化したのは必然であろうか。
元の目的はどうあれ扱いに困った狩人を放逐する先とされて久しかった狩人の悪夢を引き継いだ最後の夢の狩人、現代においては青ざめた血の魔物と呼ばれるそれはある日"ただの空箱"と化していたはずの狩人の悪夢に中身が入っている事に気が付いた。
迷い込んだと言うには明確な意図が絡んでいて、それでも望んで来たとは到底思えないそれらが積み上がる度に在りし日の名残は面影すら霞んでいく。
血腥く、悲鳴と獣臭さに満ちたヤーナム。
上位者を目指し屍を積み上げ続ける医療教会、その実験棟。
無辜の民から命と神を奪い取った呪いの根源足る漁村。
どれもろくなものではないけれど、いずれも自身の糧となった懐かしい場所だった。
中身のないただの箱となり果てようと捨ててしまうにはどうしても踏ん切りがつかないし、失われようとするのを放置もしておけない。
そう思って顔を出したというのにそこに居たのは捨てられ・朽ちる事もできないままあるだけのもの達で、捨てられるくらいには灰汁の強い所も・朽ちる事すら許されない所もどこか懐かしさを感じさせるもの達だった。
上位者となり、上位者としてもなお長い時が過ぎ、特別望んでいた訳でもなかったとはいえ気が付けば四人か一人かよく分からない子供も生まれ、世界を維持しようとしていた。
自分の子供が頑張って維持している世界でどうしても居場所を失ってしまったものがあるというのなら、親である自分が引き受けるくらいの事はしてもいいのかもしれない。
「自分の子供」だなんて言っても子育てなんて一切しやしなかったのだけれど。
面と向かって言ったのなら「今更過ぎる」なんて怒られるのかもしれないけれど。
ちょっとくらい親みたいな事をしてみたって、きっと罰は当たらないのだから。
狩人の悪夢が英霊達の御霊屋と化しかつての名残も消え去ったある日、英霊の様に石に刻まれ・人に捨てられた訳ではない未だに命を持つものが少しの間だけ迷い込んだ。
かつての様に使いを出してあらざるべきものを引き込んでいる訳ではなく、現代の在り様に生み出されたものが不意に英霊達の元に現れ、また帰る。
あるいは「継承されるべきではない」とされてもなお継承される事を望んだ英霊が引き寄せているのかもしれない。
「血と肉を以って再生される書物」とも表現される英霊達と来訪者は夢現のままに戦い、来訪者はその記憶もどれだけ残るか分からない状態で帰って行く。
……継承が上手く行かない、あるいは上手く行くとは思い難い事に未練を抱いてしまうのも狩人の業なのだろうか?
◇
この場所に居るのは英霊とそれを見守る最後の夢の狩人ばかりではない。
流れ着ける程の耐久性を備えるのが「伝承し続ける為」強固なものとされた英霊が主となっているというだけで、人が持て余したものが朽ちず・崩れず残り続ければいずれはここに流れ着く。
「四人か一人かよく分からない子」よりも先に武装型の模造上位者をベースにナノマシンの実験体として生み出されたもう一人の上位者もここに流れ着き眠っていた。
「眠っている」ではない。「眠って"いた"」である。
四にして一なるガーランドの治世の果て、蜜月の終わりに荒れ狂う巨獣は自ずから砕け・散り散りとなり、ある者は砕けた地に下り、ある者は人を捨て物となってガーランドの元に残り、ある者は助けを求めた。
助けを呼ぶ声に感応したもう一人の上位者は目を覚ましてそれに答え、その恐ろしい姿から求めた者達自身の手で打ち砕かれてしまった。
夢と現が未だ曖昧な世界で、しかも上位者であるが故に。砕けようとも砕けた数だけ増え、あるいは姿を変えた。求められた通り、助けになる為に。
幾度かの交戦の後に因果に干渉する事で砕かれない、あるいは砕かれようと元通りになる術すら理解した。
しかし……青ざめた血の魔物からの拝領の為の兵器、その予備機を四にして一なる上位者を作る前の実験に供し生まれた彼の上位者は戦う事だけを知り、語る事を知らなかった。
己を呼び覚ましたその声が何かを求めている事は理解できても、何を求めていたのかは一切理解できなかったのだ。
彼の上位者の系譜のものが、語り・歌う事を知るのは砕かれたその一部が人の姿へと再生した後の事である。