幼年期の後、あるいは新時代の前に   作:杉鋸

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天邪鬼

 カインハーストとは古くは神から王権を授けられたという説話の残るヤーナム一帯を治めていた王家であり、しかし時代が下り他の王家へと臣従する事となった一族である。

 その祖とはトゥメルにありて血を拒んだ者達であり、血に依って神から与えられた役割を果たさんとするトゥメルから彼らが放逐されたのはそれ故であった。

 カインハーストの祖に言わせるのなら「神の子の力がいかに強力と言えども、払う犠牲が多すぎた」が故に神の子を産む役割を棄てるに至ったのであり、どちらがどちらを棄てたとも言い難く。ただ時の流れの中でトゥメルは滅び、カインハーストは残った。

 

 現代のカインハーストの血族が血を追い求めるのは時代がカインハーストの様な「旧弊の貴族」を排さんと脈動していて、それに抗する力を伝説の中へと求めるに至ったが為だ。

 葬り去った過去を、言葉通りの墓場から掘り起こして拠り所とする。

 祖の願いと反するものであろうと、他に縋りうるものが無かったのだから仕方のない事なのだろう。

 

 

 

 血族の何と誇り高き事か。時代が移り変わろうと、それに気付こうともせず――あるいは気付かないふりをしているのか――栄光の日々へと思いを馳せ、旧い習俗をなぞり返し享楽的に過ごしている。「埃、堆き」とでも言う方が幾分も実情に合った有り様だ。

 しかし確かに彼らは誇り高いのだ。今なぞり返されているそれよりもなお旧い因習を持ち出して「より神にいと近しかった頃の栄光」を理由として与えてやればそれなりに働きもする。

 誇り故に危険の多いヤーナム地下遺構の探索で磨り潰されて消えてくれるのならそれでよかった。

 

 そして実際にその多くは磨り潰されて、血族の粛清はそうと気付かれぬ形で成ったと思われた。……彼らの残りが忌々しきビルゲンワースの学者達と手を組んで、実際に旧き日の栄光を手にしてしまうまでは。

 ビルゲンワースの謂う所の『禁断の血』。それはカインハーストの衰えた血に神秘を取り戻させ、誇りばかりが高き者共を増長させた。

 かつて棄て去るだけの理由のあったそれと共に病もまた取り戻された事すらも彼らは「吉兆である」と強弁し、それこそが真実であるという事になる。

 

 彼らの得た勝利は、きっと最後まで勝利と共にあるのだろう。カインハーストの多くをも犠牲にして、華々しく偉大なる勝利――血と名誉と誇りに目が無い彼らには、それが勝利だと思えるのだろう――と共に全てが失われる。……まったく、過去の存在となる事こそが勝利だとでも思っているのだろうか?

 

 

 

 しかし最早事ここに至っては。最早どう滅ぶのかを選ぶ事しかできないのだろう。

 血族の多くを捨て、名を捨て、粋足る一だけでも残すのか。真実その全てを失うか。

 真に全てを失う事を思えば、それを勝利と呼ぶのもまた仕方のない事なのだろう。他に何へと縋れる訳でもないのだから。

 




時の流れ
人は過去から未来へと進む事しか出来ない。だから人にとって過去の存在となるという事は未来へと進めず進退窮まって滅び去ったという事である。
しかし神にとっては、人の謂う所の過去も未来も大した差のあるものではない。
右手だけが届く場所に物が転がっていても、左手だけが届く場所に物が転がっていても、どちらかの手を伸ばせば手が届く事は変わらないのだから。

あるいは神が拾い上げたから人が目にする事は無くなったのだろうか?
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