幼年期の後、あるいは新時代の前に   作:杉鋸

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chained

 元が伝承されるに値する優れたものであろうとも代を重ねる事で知識は失われ、技はねじ曲がって形骸化し衰退する。それに抗する術が英霊という技術である。

 世代や時間によって失われうる英知や技を守る為の技術が英霊ではあるが、しかし結局のところ英霊を殺すのは『時』である。

 

 例えば現実の脅威として竜が居て、その竜を屠る技があったとする。その時には竜を屠る技は重用されるだろう。

 では全ての竜が狩られ二度と目撃される事すらなく、竜という脅威が居たという歴史も忘れ去られ、架空の存在と成り果てたのならば?

 あるいは竜が脅威ではなくなり、屠る価値すら無いものとなったのならば?

 はたまた竜こそが世界を制し、竜を屠るのに特別な技を必要とする人が滅び去ったのならば?

 

 英霊の言葉を聞いて「竜は確かに過去には存在したのだ」と思ってもらえるかもしれないが、本当にそれ以上の事はないだろう。

 あるいは無意味であるか、無意味では無くともあえてする理由もない行いの為の技術に残るのは精々が歴史的な価値くらいのものだろう。

 

 英霊が意味を持つにはそれ相応の脈絡というものが必要で、時間の経過は英霊を取り巻く脈絡を大きく変えるだけの力を持っている。

 脈絡も無くただフレーズだけが残されて、その呪文と化した言葉の持っていた本当の意味を誰も理解できなくなってしまう様なもの。

 時が英霊を殺すとは、そういう事であった。

 

 

 的の一部には直接的な主従関係が存在し、スレイブ()が破壊されたとしてもマスター()に直接的な損害は発生しないが、マスターが破壊されるとスレイブはマスターの制御から離れた事でその多くは自爆する事となる。

 柵があればこそ存在出来ていたものが失われたと嘆かれるべき事なのか。柵から解放されたと喜ばれるべき事なのか。

 ――HELLSINKERという主が居てこそそれに蠱惑されたもの達は集まり、HELLSINKERが失われればそれらも多くは失われる。

 規模の大小はあれどおおよその構造の変わる事のない遺物処理の縮図だろうか。

 それでも何かを受け取る事ができるのなら、それはきっと救いなのだろう。

 

 

 上位者からすれば一つの命の何と儚い事だろうか。

 血脈でも、道具でも、技術でもいい。儚いそれが何かを残す事が出来たのならばその命に意味はあったのだろう。

 きっと、だから神は墓地を作ったのだ。

 幾千と打たれ幾万と穿たれる事となっても、その暁に実を結ぶ為に。

 

 

 上位者と人間を分かつ場合に問題になるのは、人間が上位者というより高機能な存在に依存してしまう事である。

 上位者にとっての人間とは取るに足らない機能しか持たない存在であるが為に上位者から人間が排除されたとしてもそれだけで致命傷となる事はまずないが、上位者と深く繋がった人間と上位者の繋がりを絶ったのなら人間はまず生きてはいけない。

 一夜というわずかな間しか夢の狩人が夢の狩人では居られないのはこれが理由――もちろんその狩人を最後に破棄するつもりであれば何夜でも夢の狩人であれたかもしれないが、『元・夢の狩人』になってからも需要があるものを使い潰したりはしない程度には慎ましやかな用い方をされていたらしい――と思われた。

 ――ガーランドに求められた機能は一夜などという短い期間を乗り切る為のものではない以上、先例に倣う事は不可能であった。

 

 もちろんガーランドが永遠に存在し続けて、永遠に夢を見続ける事ができるのならそれで問題はないのだろう。

 しかし人が人としてあって関わる限りいつの日にか物事は何らかの破綻に行き着くは必然であり、上位者・高次元存在たるガーランドもまたいつか破綻する事を想定しなければならなかった。

 ガーランドが斃れた後でもなお人々を活かし続けるマトリクス、次なる上位者・高次元存在を、ひいてはその次、更にその次をも延々と・絶えることなく用意し続ける更なる上位構造が求められた。

 

 ガーランドがいつの日にか破綻するのは人と関わりを持つが故である。だから人と関わりを持つ消耗品の高次元存在(フロントエンドモジュール)を内包した、人と関わらずに機能する真なる上位者としての超次元存在を用意したならばそれは人が人として在れる夢を保持し続ける事が、きっとできる。

 

 先だって(一度目)の試みは紛う事無き惨敗で、今現在(二度目)の試みも破綻が目に見えている。

 死すべき定めを欺く為に、全てを仮初めと貶めてでも。

 次の試みもまた、それまでと同じ様に。ただ行くべき道があるだけなのだ。

 

 真の夜明けと目覚めを乗り越えられるだけの実を結べるのかなど、神ならぬ身では知る由もない事であるけれども。

 

 

 結局僕たちはいつだって――そりゃあ入れたいものは多いのだから小さければ困るだろうけども――なんでも大きく造ろうととするばかりで、小さく造ろうとなんてろくに試みもしなかったけれど。

 『姿なきオドンとは具体的には何だったのか』なんてもう今となっては確かめる為の手がかりすらないけれど、きっとその在り方に具体的な媒体なんて重要じゃあなくて。きっと、オドンの本質とは何もかもを「必要な機能だけ」まで切り詰めた果ての上位者だったのではないか、と。

 それは家畜や野菜・果物が人の利になる事で繁栄している事だとか、ウィルスが自分で自分を複製する能力を持たず他の生物の細胞の機能を乗っ取って自分の複製を作らせるのと同じ事で、触媒機能という利を持つ事で誰かに自分を増やさせ・蔓延させる存在こそがオドンという「最小限の要素で構成された上位者の正体」だったんじゃないか、と。

 

 上位者というものの輪郭を掴む為に探られた「オドンが選んだかもしれない蓋然性のあるやり口」というのは魅力的で。そういったやり方を全くしないという訳でもなかったけど。だけどそのやり方を推し進めた先に人間が人間として生きられる世界が残っているとは到底思えなかった。




PRAYER
目的の為に幽かな生物を引き寄せ・運用する為の祈りだけを焼き付けたかつて人だったものと、陶質と金属質の混ざった機械で構成された実像部の複合体。
全てを擲つに値する最期の祈りを叶える為に必要な機能だけを残した聖職者(祈り持つ者)怪物(けもの)
その在り様は人から大きくかけ離れているが、ただ人である事の名残を残せる程の余裕を持っていなかったというだけの事だ。
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