幼年期の後、あるいは新時代の前に   作:杉鋸

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かなしきかな、赤からぬ血よ

 輸血液と呼ばれるそれが「他者の内へと潜り込み、子を成す」性なる液体であったのに対して、灰血病の原因となったそれは「内へと潜り込んだ他者を排斥する」免疫であり、神秘の力の行使に関わる触媒でもある代物だった。

 

 ただ免疫として他者を排しようとするだけでも人の身を害するには十分というのに、無秩序故に微弱なれども神秘の力の影響すら受ける事があるのだから堪ったものではない。

 

 赤き遺志の抜けた血とは生きて継がせ続ける為のものではない。

 拒絶の意思を届ける銃弾そのものに自己複製機能は必要ない。銃弾ならば工房で作ればいい。

 免疫や触媒、使者にも同じ事が言える。

 女王蟻のみが子を作り、働き蟻は子を産まない事に例えたっていい。

 

 あるいはビルゲンワースの末路もそうだ。

 生き物としての本能――子を成し、継ぐ事――の全てを捨てて、自分が知る事だけを求め、伝える為の言葉すら失った徒花に赤き遺志は宿らない。

 


 

 なに? 狩りの助言者の血が白い?

 銃弾が水銀――触媒たる銀血――で作られているのと同じさ。端末にどれだけの遺志も要るものか!

 なあ。最初の狩人の血を見たかい?

 月の香りの狩人達がその身に受けた、狩人の血はそこに残っているじゃあないか。

 

 人形ちゃんはただの道具だったのか?

 そうさ! 魔物の使う子作りと子育ての術、体の外に用意された無機の子宮にして自動子守装置。他者の遺志を集め扱う術と、そのインターフェースが道具以外であるとでも?

 ……けれど、けれどね。作り手の意図した用途が継ぎ続ける為のものだった訳で無かろうと、継ぎ・継がせられない理由にもなりはしないだろうさ。

 先の尖った筆記具を凶器に選ぶ事も、禍々しい大剣を地面に文字を書く筆記具にする事も、使い手の胸三寸ってものじゃあないか。

 


 

 それでも求められたのは青ざめた、赤き遺志の薄まった血。道具としての血だ。

 不可逆の進化ではなく、可逆の良いとこ取り。"自在"の進歩が出来る偉大なる大仕掛け。進化の袋小路に窮するのではなく、袋小路に辿り着こうとそれすら糧にして道を戻れるものこそが望まれたものだ。

 

 それは生命に対する拝領と言ってもいいのかもしれない。

 今まで通り生きて死ぬのではなく、生存しているという状態にメスを入れ、その正体を探り、目的に適う運用方法を解き明かす。

 死ぬというのならば、死なないようにする。生き物とはそういうものだから生き延び続けたのだ。そして生き延びる為には死すら厭わない。

 

 生き延びるのに生き物としての側面が邪魔だというのなら、それまでの積み重ねごと切り捨ててしまえばいい。

 

 血の通わぬ結論はしかし、それすらも継がれる様なものではなかったのだろう。

 赤い、継がせる事を本懐とする血ではないのだから。

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