アルシェ・In・ビーストテイマー   作:ansin

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ラティ兄妹が出ると聞いて、アルトマーレで感動しました。
でもゲットしないのは(-ω-;)ウーンと物足りなさを感じましたね…
ゴウはスイクンゲットしてるのに…


捕虜収容所解放作戦

 遂に始まった、魔導国と聖王国の共同作戦。

 会談が了承した翌日、前回ネモ様が転移した場所へ早速使節団とともに舞い戻った。たった一日で会談が完了したので、早すぎる使節団たちの帰りに聖王国側はまたもや度肝を抜かれた。ひょっとしたら会談なんて行われず殺されて影武者ではないかとこちらが疑われたくらいだ。

 

「ネイア殿、気を楽にせよ。気持ちはわかるが、戦場で動かなくなってしまったら死あるのみだぞ」

「も、勿体なきお言葉!!」

 

 ネモ様(ドッペルゲンガー)とオルタ、アルシェにシズと一緒に乗っているネイアはこちらを気遣っているのか中々緊張感が解けていない。大方、上司のレメディオスに此方を上手く使い潰そうとお付け役に無理やり任命されたのがよくわかる。

 

 それでこちらから、折角お付け役で守ってくれる先行投資としてネモ様から、これまた豪華な弓『アルティメイト・シューティングスター・スーパー』が贈呈された。流石に貧相な武装で護衛させるわけにもいかないので、ネイアは渋々その弓を借りる。

 

 早速、カルカ聖王女主導で作戦が展開される。

 まずはヤルダバオトや亜人たちに捕らわれた捕虜の救出をするため、カリンシャから東北東に5日かからないくらいの場所にある、人口2万人以下の小都市"ロイツ"に向かう。そこに大量の捕虜を匿っていると情報があったので仲間を増やすことには賛成だ。

 

 しかしどういうわけか、作戦内容までは聞かされることはなかった。

 大方これくらいの作戦であるならば、こちらの力を頼らずとも遂行できる自信があるのかはたまたこちらをヤルダバオトの戦力として温存するつもりか…いずれにせよ、こちらは後方で援護してほしいという要望(オーダー)だった。 

 

「行くぞ!」「「「おう!」」」

 

 レメディオスと騎士団員達は収容所と化した村に一斉に馬で駆ける。

 襲撃方法神官達が天使を召喚し見張り台を制圧、その援護の受けた聖騎士達が破城槌を用いて門を正面突破するというもの。

 

「皆の者! これより、ヤルダバオトより我が国の民を取り戻す最初の戦いを始める! 我らに正義を!」

「(正義、ね…)」

 

 レメディオスの鼓舞に聖騎士達も一丸となり突っ込んでいく。

 ただ、戦闘になればすぐに村は騒がしくなる。一応奇襲にはなっているようだが間もなく見張り台にも迎撃兵の亜人が現れる。そこから矢が放たれるが、一団の先頭を突き進むレメディオスはその矢を打ち払い進撃速度を落とすことは無い。

 

 門に到達すると、聖騎士達が破城槌をぶちかます。門が大きく軋むが一度では破れない。こちらの正面突破に気づいた敵の亜人軍団は、そうはさせまいと城壁内から岩などを落とす。だが、許可はされていないが後方に待機していたこちらで遠距離から魔法等で仕留めていく。その隙に破城槌で繰り返される衝撃で門は破壊寸前の所まで追いつめられるが…

 

「下がれ!」

 

 そんな時、聖騎士団ではない大声が響き渡る。声の主は見張り台の上にいる亜人。今は天使達に制圧されていたはず。だが、この亜人種は険しい山岳地帯に住み城壁すらも簡単に踏破する能力を持つ"バフォルク"と呼ばれる種族だ。

 

「貴様! 卑怯な!」

 

 聖騎士達が叫ぶ原因はバフォルクが手に持つ少女(人質)のせいだ。首にナイフを押し当てられた少女はぐったりとしていて、見る限りでは生きているかどうかもわからない。

 

「我々も向かおう」「はい…!」

 

 近接戦闘に参加する予定が無かったネモとジェスターの二人に、ネイアを伴いレメディオスに合流しようとした。

 

・・・

 

「(人質を捕られているのか…!)」

 

 城壁付近まで近づくと、バフォルクが子供を人質に取り盾にされた光景にレメディオスと聖騎士たちは後退を余儀なくされていた。このままでは救援を呼ばれ、亜人の大軍を持って逆にこちらが殲滅されるだろう。引くという選択肢はすでに無い。だが…

 

「(あの人質の子供…まさか…!)」

 

 ネモとアルシェは気づいていた。

 

 あの子供は、既に死んでいる(・・・・・・・)

 遠目で夜なので常人では子供の状態はよくわからないだろう。しかし、魔眼持ちである二人はその子供の生命力を感じ取っていた。しかし、子供の身体には生命力を感じなかったのだ。となれば答えは一つしかない。

 

「くっ、あれでは攻められん! どうすれば…」

 

 そんなことはつゆ知らず、人質を盾にされレメディオスは後退を余儀なくされていた。彼女の信条から人質を無視して攻め込むこともできない。そして、人質が有効と見たバフォルクがどういう行動をとるか想像もしていなかった。

 

「レメディオス殿、あの子供は…!」

 

 こちらが合流してくるのとほぼ同じタイミングで見入り台上のバフォルクが、人質の少女の首を切り裂いた。激しく血しぶきを上げ、絶望と恐怖に目を見開いていたのかそのまま地に倒れた。

 

「き、貴様! 言うとおりにしたぞ! なぜ人質に手を出した!」

「お前達の動きが鈍かったからだ! さあ、次の子供もこうなってほしくなければ下がって動くなよ!」

 

 見張り台のバフォルクは死んだ少女を無造作に投げ捨て、別のバフォルクによって見入り台に引き立てられた少年を拘束する。あの少年は少女と違って今度こそ本当に生きている。

 

「二人目も殺されたくなければ言われるとおりにしろ!」

「(何やってるんだあの団長! このままだと中の大勢の捕虜も!)」

 

 そう叫ばれてはレメディオスも言われるままにするしかなかった。周囲からそれが悪手だと言われようとも、彼女の中では誰一人として見捨てることなくなされてこそ正義なのだ。

 

 しかし、ネモとアルシェは心の底から非難した。

 戦いと犠牲は切っても切れない縁だ。このままでは人質が有効とされて、中にいるバフォルクたちにこちらが捕虜を救出するためにやってきたと知るや否や皆殺しを決行するだろう。

 

「団長殿、このままでは奇襲の意味がなくなる。それに先程から門に木材を運んでいる様子もある。バリケードを作られたら余計に門の破壊時間が―――」

「黙れ! 誰かいいアイデアはあるか!? 誰一人として死なないで済む方法だ!」

『そんなのあるわけないだろ(でしょ)!?』

 

 鬼の形相で見つめられたこちらに、レメディオスは一喝する。

 それと同時に全く現実のない打開案が飛び出たことに、ネモとアルシェは心で突っ込み返した。こう言い争っているうちにも、少年の身が危ない。かといって、もうレメディオスに任せていられなかった。

 

「あぁもう仕方ない! アルシェ、シズ(シーゼ)!」

「てめぇらなn(ピュンピュン!)ガッ…」

「ゴルーグ!」

 

 レメディオスと聖騎士たちがしどろもどろしている間に、シズが死角となっていた場所から精密射撃でバフォルク2体の頭に風穴を開ける。そして間髪入れず、アルシェがゴルーグを召喚してあれほど苦戦していた門破壊を1発で終わらせた。

 

「全員突撃しろ! 捕虜の救出を急げ!!」

「きさm「団長!!」ッ!…ギギッ、突撃だ!!」

 

 レメディオスが文句を言おうとしたが、そんなことはお構いなしにジェスターは門の向こうへ突撃を開始する。その直後、グスターボからの喝で考えることをやめ命令に全てを委ねることとなった。

 

・・・

 

「…お疲れさまでした。ジェスターの皆様、ご協力に感謝します」

 

 作戦終了後、カルカ女王の待つ天幕にて捕虜収容所開放作戦の結果を伝えた。

 あの後の突撃後は、半分はジェスターが主体となって収容所を解放した流れで成功した。唯一の懸念は、捕虜収容所に備蓄されていた食料が少なかったことだ。

 

 これは亜人たちが捕虜に十分な食事を与えなかった事実と、規定日数ごとに亜人たちが近郊にある小都市より食料を運んでくるシステムを取っていたことに起因している。例えそこの亜人を全員殺害して強奪しても、小都市に帰還しなければ収容所でトラブルが発生したと判断されるのは時間の問題だ。

 

 聖騎士たちも連日の奇襲で疲労度が増しており、国側が確保した食料もヤルダバオトの襲撃によって分担されてしまい全員が満足に食事をとれない状況になるまで陥った。だが、ネモの魔法によって一人で騎士と捕虜分の最低限の食料確保できたことが救いだろう。

 

 だが、他にもいいニュースがあった。

 なんとあの収容所に聖王家の血を引いているカルカ王女の兄、"カスポンド・ベサーレス"が救出されたのだ。次期王位継承の血族同士の争いを好まず、自分よりも優秀な(カルカ)に譲って貴族社会で生きる知識を求めた人物だとか。

 

 カスポンド殿下も部下のグスターボから大まかな状況を説明してくれた上、その上でネモとジェスターの二人に感謝した。それは同じく天幕にいたカルカにグスターボ、ネイアも同じ気持ちだ。しかし…

 

「貴様ら! 何故、人質を助けなかった!」

 

 聖騎士団の部下を引き連れた招かれざる客、レメディオスを先頭に天幕に現れる。皆返り血に濡れ疲労の色が濃く顔に出ている。そんな様子で戻って来た彼女が最初にしたことは、拭い切れていない血に濡れた聖剣の切っ先をジェスターの二人につきつけ怒鳴りつける事だった。

 

 カルカもカスポンドも、グスターボもネイアも戦場から戻って来た聖騎士団員も…そして、ネモとアルシェすらレメディオスがそんな行動に出るとは思いもしなかった。

 

「最初から魔獣を嗾けておけば、あの人質が死ぬことは無かった!」

 

 余りの物言いに正気が疑われた。そもそも、こちらは作戦内容を詳しく知らず後方補助に専念するよう言ってきたのは紛れもなくレメディオスだ。

 

「レメディオス殿は気づいていなかったようだが、最初の人質は最初から死んでいた。我々の混乱を招く為にバフォルク達に一杯食わされたのだ。救えなかったのは残念だが、もしこちらの強行手段が遅れていたら、団長殿は囚われている捕虜たちの命を、責任もって助けられたのかね?」

「ぐぐぐ……」

 

 ネモの一言で、レメディオスは黙る。こちら側に死者は既に殺された捕虜数名程度で負傷者もゼロではないが限りなく少なくなった。それに我々が作戦内容を知っていれば、そもそもバフォルク達に人質という作戦時間も与えなかっただろう。

 

「カルカ殿の(こころざし)を目指していることはわかる。しかし、戦場はゲームのように簡単に上手くいかない。刻々と変化していき、最悪の展開も予想しなければ兵士たちの心も折られていくぞ」

 

 多くの捕虜に感謝を言われたが、その中で子供を殺された親だけは怒り狂ってこちらを責めているのが見えた。だが、こちらが収容所を奇襲しなかったら遅かれ早かれ自分たちも殺されたかもしれない事実に、ネモとアルシェはイライラした。ここはネモの威圧で黙らせたが。

 

「カルカ殿、戦いと犠牲は切っても切れないものだ。戦場に立ちそれがどういう意味か理解したはず。下手をすれば、カスポンド殿が亡くなっていたかもしれない。裁定者として、国の開放を望むここにいる全員は…誰も悪くないし、文句を言われるのは筋違いだ」

「貴様! カルカ様を侮辱する気か!?」

 

 カルカの(こころざし)は無理だとわかるや否や、レメディオスはネモに剣を突き付ける。対するネモは動じないが、ここでカルカが止めに入った。

 

「レメディオス、武器を下ろしなさい! こうなることは私も予想はついていました、なので彼らは責められません。それに、捕虜開放に協力してくださった恩人(・・)を無下にしてはいけません…!」

 

 キッと鋭い目線で睨まれると、レメディオスは部下とともに次の作戦のため乱暴に天幕を揺らしながら出て行った。

 

「此度の救援は本当に感謝しています。死者が出てしまったのは残念ですが、団員を代表して礼を言います。団長も今は気が高ぶっていてあんな物言いになっていますが国の為、国民の為必死なのです。どうか、気を治めていただきたい」

「だがグスターボ殿、あんな調子が続いてしまってはいつかはこちらに剣で切られかねないぞ。そうなってしまえば、カルカ殿が全責任を負うのは難しくなる」

 

 グスターボが感謝と謝罪を申すが、レメディオスの殺意は本物だ。もし作戦時に…ありえないかもしれないがこちらを斬ってくるかもしれない。そうなってしまったら、最悪今度は魔導国と戦争になりかねないとわかっているのだろうか。

 

「カルカ様は、貴方は…聖王国をどんな未来にしようとお考えですか?」

「アルシェさん…」

 

 アルシェがカルカに質問する。

 

「この国が亜人たちと憎しみあい復讐の連鎖で成りあっているのは承知の上です。しかし、このままですとこの戦いが終わったとしても…今と変わらない生活が続くでしょう。表面ではなく、元から断つべきです」

 

 カルカ自身も内心気づいていた。このままヤルダバオトから国を救ったとしても、残った亜人たちが再結成しまたぶつかり合う日常に戻ってしまう。疲弊している今の状態でそうなったら、今度こそ聖王国は終わりだ。

 そこで魔導国から、戦場で生き残った亜人たちをこちらで引き取り罪を償う形で引き取る案を密かに受け取っていた。カルカ自身、亜人たちは敵であるが話ができる分なんとかならないかと思っている。しかし、それで民たちを失いたくない葛藤に悩まされていた。

 

「貴方様の苦しみはわかりますが、今こそ決断の時です…どうか…」

「!!」

 

 ここでアルシェから一体の魔獣が飛び出る。その姿を見るや否や、カルカとグスターボは口をパクパクしながら見つめていた。

 魔獣ではない、亜人でもない…彼女の隣にいるのは神獣だ。こんな、人ならざる神秘的なものは見たことがなかった。それと同時に、彼女の中にあった汚れてしまった"本心"を洗い出してくれたのだ。

 

「私たちを……信じてくれませんか?」




次回から2回に分けて…
アルシェのビーストテイマー、2連戦です。
もう一度言いましょう…2連戦(・・・)です!



誰の悲劇を見たいですか?

  • アルシェの元父
  • レメディオス野郎
  • クライム小僧
  • その他(感想欄などへ)

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