華結を繋ぐは勇者である『凍結』   作:バルクス

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どうもバルクスです。
今回は二連続更新です。特に話す内容はないです。
では、本編をどうぞ〜



第17話 : 戦場の命令権

ゲームが開始した今海斗は草木が覆われている方の茂みの中に隠れていた。

門からスタートしてから数分。丸亀城二の丸に着いていたのだが、流石にここで相手を待って、見つけた瞬間に突撃したとしても格好の的なので時間を見て行動する事にした。

先に勇者達はまず、男である海斗を潰してくるだろう。

全員ではないが、球子や杏、若葉とかは警戒して先にやってくるに違いない。

だが杏だけは注意しなければならない。

彼女は他の誰よりもこの戦場ではその頭脳を活かして攻撃してくる。

ならば、ルールに決められていないものはどんな事でも利用してくるだろう。

先に潰した方がいいかもしれない。

 

「となると、ちーちゃんと友奈はどうしたものか......」

 

一方千景はというと、数が減るまで出てこないと思う。

友奈は意外と脳筋的な所があるので、出会った人を片っ端から挑みに行くだろう。

あの二人は一先ず放置でいいと判断した。

だが、警戒は怠らない。

 

「まずは、様子を見てから決めるとするか」

 

移動もしてはいいが、下手に動けばこっちがやられかねない。

ならここは慎重に行くのが筋だ。

海斗は動かずここで様子を見ることにした。

すると数分もしないうちに前から武器がぶつかって生じる音が鳴り響いた。

 

「.....ん、誰かが戦ってる?」

 

ゆっくりと茂みの隙間から覗くとそこには友奈と若葉がいた。

どうやら先に出会って戦っていたらしい。

このまま戦況を見つつ、いつでも逃げれるようにはしとく。

流石にあの二人は気配と勘で探知出来そうなのでバカには出来ない。

迂闊に出て見つかったりもしたら袋小路にされるだろう。

まだリタイアしている人は出ていないし、事を運ぶことさえ難しい。

もっと時間を掛けてから、攻め時だ。

茂みから二人の対決を見ていると友奈が先に仕掛けた。

放たれる拳を若葉は木刀で受け流す。

それは徐々にぶつかり合い激しく交差する。

お互い実力は互角だ。

友奈は一撃は軽いが、手数で押して連続で攻めれば勝機はある。

そして若葉の方は一撃一撃が重いのでこちらも一発さえ友奈に与えれば勝ちだ。

両者どちらも隙すらも譲らない。

しかし、友奈の拳が若葉の木刀を弾き飛ばした。

友奈も確信して拳を入れるがそれよりも先に若葉の腰に付けている鞘を武器にして銅へそれを振るう。

だが、友奈が咄嗟に左腕でガードをして、鞘の一撃を防いだ。

しかし重い一撃だったため、友奈は吹っ飛ばされた。

そして若葉はさらに友奈に追撃をしようとするが、そこに千景が割って入ったのだ。

彼女も草木に隠れていて二人の様子を見ていたのだろう。

だが、どうやら友奈の危機に思わず体が動いてしまいやむを得ず出てきてしまったのだ。

 

「(.......やっぱり近くにいたか、ちーちゃん)」

 

彼女の性格上仕方なかった。大切な友人を傷付けられさえもすれば誰だって守りはするだろう。

状況は二体一で若葉が若干不利だ。

しかし、今度は球子が戦いの音に聞きつけて参戦してきた。

あっという間に三体一になる。

四人がこうして集まっているということはこれなら他の場所に移動出来そうだ。

 

「(......よし、今のうちだ)」

 

海斗はバレないように密かに慎重にこの場を後にした。

後ろでは既に戦っている音が鳴っているため、決着はすぐにつくだろう。

その前に早く距離を取らなければならない。

 

「ここまで来れば大丈夫そうだな――」

 

茂みから出て一息を吐こうとした海斗だったが、何かが視界を掠った。

 

「――ッ!?あっぶねっ!」

 

辛うじて当たりはしなかったが、見てみればゴム製の矢が土に刺さっていた。

そしてその方向を見れば杏がクロスボウを構えていた。

既に次弾は装填済みのようだった。

 

「そこにいたか、杏!」

 

「すみませんが海斗さん、ここで倒れて下さい!」

 

杏が大きく言う。

彼女を倒すにはここから若干距離があるため、近付くには障害物が一切無いため分が悪い。

矢を回避したとしても杏はその先を読んで矢を射ってくるつもりだ。

誘われては相手の思うつぼで終わりだ。

どうしたものかと考えるが、やはり思いつくのはあれしかない。

 

「やるしか.....ないか」

 

海斗は木刀を構えて、杏が矢を放った瞬間に全速力で走った。

 

「――はぁッ!!」

 

矢が迫ってくる中、海斗は避けずに木刀で矢を弾いた。

何度も高速で矢が放たれる中、的確に矢を回避したり時には弾き飛ばした。

そして遂に杏の元に辿りついた。

 

「よぉ......さっきは矢をご馳走してくれてありがとよ」

 

「やっぱり海斗さんは規格外すぎますよ.......でも、負けません!」

 

「良い覚悟だ!来いよ、杏ゥ!」

 

折角突破したのに逆に杏に引かれてしまったが気にしないようにしよう。

瞬間、杏がその隙を狙ってクロスボウを構えて矢を放った。

海斗はそれを避け、木刀を彼女の頭に振りかざそうとした。

杏は目を瞑るが、海斗はそんな彼女の額に人差し指でツンっと小突いた。

 

「あぅ......」

 

「これで俺の勝ちな?」

 

「へ?」

 

まるで意味が分からなかった。

まだ何も攻撃を受けていないというのに彼は何を言っているんだと杏は目を丸くしてしまう。

 

「あー......その、仲間とか女の子を傷付ける趣味はないんでな」

 

「......海斗さんそのセリフは!」

 

「流石に気付いちまうか。この前読ませて貰った主人公のセリフだよ」

 

「あ、そっちの方でしたか.......本当に間際らしいですね」

 

「?何言ってるか分からないが......まぁ、お前の射撃と頭脳戦は流石に肝を焼いたよ」

 

「そう言われて私も嬉しいです!でも、やっぱり海斗さんには敵わないと実感しました」

 

「......ま、慣れれば勝てるさ」

 

以前杏に借りた小説に出てきた主人公のセリフを言ってみて驚かせたかったが、何でか怒ってるように思えた。

それでも、話を変えればなんともないように反応してくれた。

全く女とは分からないものだと再認識される。

 

「後は、あの四人か.....苦労しそうだな」

 

「そこは大丈夫だと思いますよ。海斗さんが来る前に千景さんと友奈さんは若葉さんによってリタイアになってますから」

 

どうやら海斗が距離を取っている間に友奈と千景は若葉にやられたらしい。

それを遠くで見ていた杏は海斗に教えた。

今若葉は球子を追っているらしい。

本当は海斗を倒してさえすれば後は球子と若葉を騙し討ちで倒せてたと杏の鬼戦術プレイで幕を閉じたという。

そうなるとゲームを見ているひなたは開始前に杏に買収されているという事だ。

まぁ、そこは大丈夫だろう。

杏は倒したし後はあの二人だけだ。

 

「あ、そうだ杏」

 

「はい、なんですか?」

 

「俺が勝ったらお前に命令権譲ってやるよ」

 

「えぇ!?」

 

ついでかのように海斗はさりげなく杏に自身の命令権を譲ろうと宣言したのだ。

杏さえ驚いてしまう。

 

「ど、どうしてそんな貴重なものを負けた私に?」

 

「んー.......下すものが浮かばないのと、お前の命令権の方が何かと面白そうだからかな」

 

「本当に......いいんですね?」

 

「男に二言はないとだけ言っとくよ」

 

 

海斗は真面目にそう言うと杏は分かりましたと了承をした。しかし嬉しさと悔しさのもどかしさでどう反応すれば良いのか分からなかった。

でも、海斗さえ勝ってくれれば彼女のしたい事が出来るのだ。

是非とも勝って欲しいところである。

 

「んじゃ、宣言しちゃったし......いっちょ、勝ってきますか」

 

「......頑張ってくださいね海斗さん」

 

「おう」

 

海斗は杏と別れ若葉と球子がいると思われる方に駆け出した。

数秒もすれば丁度若葉と球子が戦っているところに出くわした。

どうやらこちらには気付いていないので慎重に近付いた。

しかしここで勢いよくやれば泥沼化するのは確定だ。

そして木の上に登り、二人が近付いた瞬間に上から木刀を軽く振って終わらせた――と思っていた。

球子には当たって気絶させてはいるが、運悪く若葉が回避してしまい一体一になってしまった。

 

「ほう?海斗、奇襲とは卑怯な手を使うとはな」

 

「俺はお前みたいに武士でもなければ侍でもないし誉も一切無い」

 

「そうだな。これはバトルロワイヤル、どんな手を使ってもいいものだ」

 

「主催者が文句とか言わないよな?」

 

「言うわけがないだろ、私とて勇者のリーダーだ。ルールや掟は絶対に破らない主義なんでな」

 

若葉は勇者の中では一番の堅物だ。決めた事はぶれないし、何を言っても聞かない。

でもそこが丁度いいところでもある。

こうしてバトルロワイヤルに『なんでもあり』だなんて出すんだから、試合さえ始まればルール変更なんて彼女にとって無理だろう。

 

「そっか......じゃあ、これで思う存分殺り合えるな」

 

「あぁ。私もお前と戦うのは楽しみにしていたぞ」

 

二人の言葉で一瞬で空気が冷たくなる。

その静かな音で一枚の葉が漂って地面に落ちた瞬間に海斗と若葉は木刀をぶつけ合った。

お互い攻防を許さず打ち込んではまた重い一撃を入れる。

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

「だぁぁぁ!」

 

斬撃が舞い周囲の草木が揺れる。

それはもう残像と言っていいほど空間を歪ませた。

若葉は居合が得意で海斗は我流で剣撃を行っている。

一撃の重さは同等で、小さな隙でもどちらがやられてもおかしくはない。

 

「はぁっ!」

 

「ぐっ.....」

 

しかしその交戦を破ったのは海斗だった。

若葉の木刀に集中にしていたため鞘を使うのを忘れていたのだ。

突然の不意打ちに対応は出来た海斗だが受ける場所が悪く、その衝撃をもらってしまい膝を着いてしまう。

 

「よく防げる.......やるな」

 

「そりゃ、どうも」

 

一瞬で形勢が若葉の方に傾いた。

これを切り抜けるのは難しいだろう。彼女だってそんな隙をさえも与えてはくれないだろう。

 

「ほら、さっさとやれよ」

 

「そうだな。もう少しお前と戦いたかったが、これで終わりだ」

 

海斗が顔を下に俯くと若葉の攻撃を受け入れるように力を抜いた。

降伏にも見えるその姿はまるで処刑だ。

刑の執行を待つ受刑者だと感じてしまう。

若葉は木刀を上に向けて海斗に振りかざした。

刹那――海斗は見えない速さで攻撃を避け、彼が持っていた木刀で若葉の背中を軽く突いた。

 

「なっ......!」

 

「なんてな?俺がそんな簡単に負けるかっての」

 

「最初からこれを狙っていたのか?」

 

「あぁでもしないとお前には勝てないからな」

 

海斗は最初から真剣勝負なんてものはしなかった。

どうにか彼女から隙を作ってそれを決めるしかないと思い騙し討ちをした。

結果は成功で若葉はそれに掛かった。

 

「完敗だ.......強いな海斗は」

 

若葉の賞賛を受け取るが、少しもどかしかった。

別にこれはいわばズルだ。汚い戦い方だ。

勝利にどん底に食らいついて、勝てればそれでいい事。

だが、後悔はしていない。

これまでだってそうしてきたのだから。

 

「お前よりじゃないさ」

 

こうして、第一回バトルロイヤル模擬戦は、黒結海斗の勝利に終わった。

勝者の権利として、海斗は命令を下せるのだが彼はそれを杏に譲った。

そして杏は海斗の命令権をもらい他の勇者たちに命令を下せることになったのだが――

 

 

「私のものになれよ、球子......」

 

「わ、若葉君......そんなこと言われても、タマには他に好きな人が......」

 

「待ちなよ、若葉君!球子さんが嫌がっている!」

 

「あ、高嶋君.......って、なんじゃこりゃあぁぁぁぁっ!」

 

「カット、カットぉっ!ダメだよー、タマっち先輩!ちゃんとセリフ通りに言ってくれないと!」

 

丸亀城に出来た教室の中で、若葉が球子を壁際に追い詰め、腕を壁について逃げ場を塞いで甘い言葉を囁く――いわゆる『壁ドン』をしていた。

そこにやってきた友奈が、若葉と球子の間に割って入るという三角関係ができるわけだ。

これは杏のお気に入りの恋愛小説の一節を、彼女たちを使って再現しているのだ。

 

「こんな恥ずかしいセリフ言えるかっ!というか、なんでタマが『内気で大人しい少女』の役なんだよっ!」

 

「このヒロイン、背が低いって設定だから。タマっち先輩に合うかなって」

 

「タマがチビだって言いたいのかぁっ!」

 

「というか、私は男装までさせられているんだが......」

 

「私も......なんだか男子の制服って、変な感じ」

 

若葉と友奈は男子用制服を着せられている。

因みにこれは海斗が着ている制服の予備だ。

 

「再現度を高めるために当然です!」

 

杏監督の厳しいこだわりであった。

なんならこれを作った原因は椅子に座ってこの現状を楽しんでいた。

 

「ぶふぅ!あはははっ!もうダメだ.....ははっ!腹、痛ぇ.....!」

 

「なぁに笑ってんだお前はぁっ!元はと言えばお前があんずに命令権を渡したせいで、タマたちがこんなことやらされないといけなくなったんだぞ!」

 

模擬戦では海斗が勝ったが、如何せん命令権を手にしても特に下すものがないので杏に渡したのだ。

その前に彼女には約束もしていたし別に後悔は微塵もなかった。

 

「まぁまぁ、タマっち先輩落ち着いて」

 

「そうだぞーお前、元から

可愛いんだから似合ってるぞ、もっと自信持て」

 

「カイトは黙っていタマえ!」

 

褒めて、宥めたはずなのに悲しい。

なんなら再現を始める前に球子が髪を下ろして一瞬誰だったか忘れたぐらいだ。

流石にどちら様ですかと言えるはずもないので心の中にしまったが。

とにかくこれ以上球子を怒らせたらやばいので大人しく引き下がることにした。

顔が何でか赤くなってるし、本当にやばい。

 

「とっ、とにかくっ!あんずの言う通りにしたぞっ!もうこれで命令は終わりなっ!」

 

「私もこれで終わり......でいいか?」

 

「面白かったけど、やっぱりちょっと恥ずかしいよね」

 

「若葉さんと友奈さんはいいですが、タマっち先輩はダメですよ?まだやって貰いたい人がいるので」

 

「なっ!もう終わりでいいだろ!それにもうやるやつ何て誰も.....」

 

ふと、球子がこちらに視線を向ける。どうやら何かを察したらしい。

杏もこちらを見ており、目で語っていた。

 

「はぁ.....身から出た錆てっこんな事を言うのかな」

 

「か、カイトっ!お前本当にやるつもりなのか!?」

 

「球子、覚悟決めろ」

 

嫌だけど、杏に命令権譲ったの自業自得だから何も言えなかった。

そして再び恋愛小説の再現は始まった。

海斗は記憶してある台詞を思い出す。

 

「よう、球子。悪かったな急に呼び出しちまって」

 

「ううん、大丈夫だよ海斗君。それで私に何か話したいことがあるって、何かな?」

 

「あー......なんつーか、お前に......言いたい事があるんだ」

 

「何かな.......?」

 

役に演じているとはいえ、普段あんな好奇心豊富な球子がこんなに大人しい少女になれるとは思わなかった。

ギャップが違いすぎて最早誰だか分からなくなる。

でもこれは演技で球子だって嫌々やっているのださっさと終わらせた方がいいだろう。

 

「......もういいや。球子!」

 

「きゃっ!」

 

球子を壁際の方に行かせ、海斗は自身の右手を壁について逃げ場を奪った。

「俺のものになれよ、球子......俺は、お前を愛しているんだ」

 

「......ッ!?」

 

そして彼女の耳元で甘い言葉を囁いた。

少しアドリブを入れたがまぁいいだろう。少しは弄っても罰は当たるまい。

しかし球子は何も言わなかった。

本来ならば弱々しく台詞を言うはずなのだが、言ってこなかった。

 

「おい、球子?」

 

「にゃっ!?だだだだだ大丈夫だぞ!ぜんっぜん!」

 

「お、おう?」

 

様子を見れば顔を赤く染まりながら言うが、なんならしおらしくなっている。

球子はすぐさま海斗から距離を取って、杏の後ろに隠れるた。

よく見れば皆目を丸くして顔を赤くしていた。

何故?そんなに酷かったのかと思ってしまう。

 

「......あー、もうこれでいいか?杏」

 

「ぜ、全員OKです!寧ろタマっち先輩にしてくれてありがとうございました!」

 

場を変えようとして杏に声を掛けた海斗だが何故だか感謝をされてしまう。

何かやったと思うが別に何もしてないと思うのは自分だけなのだろうか。

 

「さて、次は千景さんの番ですよ」

 

杏の目が、千景に向く。

ビクッと体を震わせる千景。

 

「私も、あんな恥ずかしいことを......?.......ぜ、絶対に......お断りよ......!」

 

「ふふふふふ。千景さんに合った役柄は何がいいでしょうか?」

 

杏の口元は悪どい笑みを浮かばせている。

一方千景の方は体を強張らせる。

だが千景はあの光景を見て少し羨ましいと思ってしまったが、もし逆にやられる側になれば果たして自分は意識を保つことが出来るのか。

それが想い人に甘い言葉を囁かれたとしても。

 

「うぅ.....」

 

それを想像すればするほど顔が熱くなっていった。

すると杏は悪どい笑みをやめ首を横に振った。

 

「千景さんには、別の命令にします。それと海斗さんにも」

 

「え......?」

 

「は?命令はもう終わりじゃないのか?」

 

もう済んだと思って油断をしていた海斗と怪訝そうな顔をしている千景。その二人に杏は教卓の中から白い用紙を二つ取り出して、それを千景と海斗に差し出した。

用紙には『卒業証書 三年 郡千景』と『卒業証書 三年 黒結海斗』と書かれている。

 

「命令は、これを受け取ってください」

 

「これって......」

 

「卒業証書......?」

 

千景と海斗は呆然としながらも、その卒業証書を見つめる。

すると友奈微笑んで口を開いた。

 

「よく考えたら、ぐんちゃんとうみくんって三年生だから、本当はもう卒業だしね。卒業証書、私たちで作ったの」

 

同じ教室で授業を受けているため、お互いにほとんど意識せず忘れてしまいがちだが、千景と海斗は中学三年生。普通の学校であれば、卒業式を迎えている時期だ。

 

「といっても、学年が高一になるってだけで、学校もここから変わらないけどな」

 

そう球子は苦笑気味に言う。この学校が勇者を一箇所に集めて管理することを目的とした施設である以上、高校生になっても学校が変わることは無い。

 

「だが、形だけでも、こういう行事は行った方がいい」

 

「えぇ、私もそう思います」

 

若葉とひなたも頷いて言う。

学校も変わらない、意味を感じず、千景自身は『卒業』という行事を忘れていた。

でもそれは昔の事。

海斗や友奈、皆に出会って大切な人に出会った。

皆千景を見てくれる。心配も声も掛けてくれる。

嫌な言葉ではなく優しく暖かい言葉。

 

「海斗......」

 

不安そうにちらりと彼を見る。するとこちらに気付いた海斗は千景の方に向いて笑みを浮かばせた。

 

「もらっちゃえよ。俺だってこれは嬉しいし......それに、拒否権なんてないんだろ?」

 

海斗は杏達の方へ言うと全員頷いた。

 

「.....命令なら、仕方ないわね......」

 

そう言って、千景は卒業証書を受け取った。

その心はとても暖かった。

夕日の中、海斗たちは寄宿舎へ帰っていく。

 

「くっそー、バトルロイヤル模擬戦、カイトの不意打ちにやられなければ生き残ってたのにっ!」

 

「でもタマっち先輩生き残ったとしても一人だけじゃ、海斗さんと若葉さんのどちらかに負けてたと思うよ」

 

「そうだな、盾を投げても、その間にはやられてそうだからな」

 

「何をーっ!」

 

「友奈、次は全力で来い」

 

「え、全力だったよ!」

 

「いいや、バーテックスと戦っている時よりも、明らかに動きが鈍かったぞ」

 

「今度同じ戦いをやったら......負けないわ.......」

 

「千景さんは友奈さんの戦いの時に飛び出していなかったら、優勝していたかもしれませんね.....海斗さんに対抗できる戦術でしたから」

 

「ちーちゃんと戦うのは少し勘弁かな、ゲームでボコられそうだ......」

 

「海斗......あとで部屋にきて.....対戦しましょう......?」

 

「あ、あのぉ......千景さん?なんか怒ってません?」

 

「.......さぁ?........どうかしらね」

 

「拒否権は?」

 

「ないわ」

 

「........精一杯相手になる所存です」

 

そんな感じでみんなわいわいと話していた。

海斗の方は恨みがやばそうだが。

 

「また、近いうちにこうして、みんなと遊べる機会を持とう」

 

若葉の言葉にみんな頷いた。

丸亀城から見える瀬戸内海は、いつもと変わらぬ穏やかな景色を広がり、その姿を見せている。

バーテックスの襲撃は、まだ起こらない。

だが、この先何が待ち構えているかは誰にも分からない。

たとえ誰かが死ぬとしても。

 

 

 

 





新年を越してから何故か執筆のモチベが上がったので沢山書けましたw
人間って凄いね!
さて次回はあのシーンになります。(分かるよね?)

ではまた次回にお会いしましょう。さらば!

次回。第18話:散るものは瞬間に
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