華結を繋ぐは勇者である『凍結』   作:バルクス

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どうもバルクスです。
そろそろ自分も働いてから一年が経過しそうなんですけど、やっぱり何か実感が湧かないんすよねぇ.....まだまだ慣れないことはあるのでこれからも油断せずに頑張りますけど......さて、今回はあの回です!
因みに何ですが、結構長いです申し訳ない。
では、どうぞー



第23話:心が叫ぶ

 

千景は寮の自室でベットの上で携帯ゲームをしていた。

だがそれは長くも続くはずもなく、いつの間にか手から離していた。

五月上旬に壁の外にバーテックスの討伐に失敗してからその中旬から下旬に掛けて突如にバーテックスの侵攻が増えるようになった。

その猛攻の中で若葉、千景、球子、杏の四人で迎撃をする。

だが、何度も戦っても幾ら作戦を変えても市民への被害は免れなかった。

そして勇者達も切り札である精霊を宿し続けて肉体的疲労と精神疲労で大社管理の病院で傷の手当てと検査、そして精神的ケアを受ける事を催促される事になる。

すると医師から「切り札の使いすぎだからこれからはあまり控えろ」と釘を刺されてしまう。

だが、それはあまりにも酷だった。

ただでさえバーテックスの侵攻が活発化してあるのに制限をされては必ず被害が増大してまう。

それを聞いた彼女達は少々苛立ちを覚えるが、それは心の隅にしまった。

数分で手当てと検査が終われば皆は俯きながらこれからのバーテックスの侵攻についてや市民の被害のことについてを考える。

しかし、千景にとってはそんな事はどうでも良かった。

彼女の中ではあのSNSについての誹謗中傷が脳裏に過ぎる。

何時如何なる時もそれは変わらず、勇者達の不満や不評。そして――男性勇者の罵詈雑言の嵐を。

 

『また勇者達が失敗したそうだぞ』

 

『また事故や災害が起こってるしな』

 

『あいつら何やってんだよちゃんと守ってるのか?』

 

『守れてないだろ。実際に火災や山火事とか起きてんだから』

 

『いつになったら結果出してくれんのかね?』

 

『もう不要だろ』

 

『役立たず。』

 

『無価値』

 

『いなくていいから消えろ』

 

『弱すぎ』

 

『戦えよこの、無能』

 

その言葉が毎回増え続けている。まだ千景自身は耐えられるだろう。

けど、仲間や大切な人が好きがって言われるのは我慢ならなかった。

何故こいつらはそんな事を言えるのか、何で認めてくれないのか、どうして体験した事ないのに上っ面な事が言えるのか。

それを見るだけで腸が煮えくり返りそうだ。

その後千景は病院から寄宿舎の自室に戻り一人で一日を消費していた。

 

「........」

 

近くに置いていたスマホを手に取ってSNSをアプリを起動した。

そのSNSの名前には『黒結 海斗』と『高嶋友奈』と書かれていた。

その名前をタップしてメッセージトークを開く。

 

『海斗、大丈夫?』

 

『ん、大丈夫だぞー』

 

『高嶋さんは?』

 

『私も大丈夫だよー!この通りばっちし動けます!』

 

『いや、分からないから(汗)』

 

『あ、そうだった......えへへ』

 

メッセージを打って送信すると数秒後に既読が付いて返信が帰ってきた。

そのやり取りを見て千景は笑みを浮かべ安堵する。

 

「.......良かった」

 

こちらも返信を返した。

 

『なら、いいわ』

 

『いいのか!?......そっちこそ、大丈夫か?何かあったら言ってくれ』

 

『ありがとう。その時はお願いね』

 

『ぐんちゃん、私にもいつでも言ってね〜!』

 

『うん。何時間でもいいからな』

 

海斗と友奈のメッセージを見て千景は心が暖かくなった。

彼が目で見てなくても千景を心配してくれている。

彼女の言葉を見るだけで元気が湧いてくる。

それだけで嬉しかった。

本来なら病院に行って二人に会いに行くのだが生憎、まだ面会は許可されていない。

だからこそ、このデータ上のやり取りでも千景は穏やかになれた。

 

「早く.....海斗と高嶋さんに――会いたいな」

 

スマホの画面を顔に付けるながら千景は二人に会えることを祈った。

すると千景のスマホから一通のメールが届いた。

 

「.......?大社から.......」

 

何事かと思いメールの内容を確認すると千景は眉を顰める。

 

『郡千景様。勇者の御役目の影響で現在、貴方様は精神的に不安定と判断したため、安定のため、貴方様のご両親を丸亀市に移住させ、貴方様と一緒に暮らせるようお願い申し上げます。』

 

「どうしてこんな時に......」

 

幸せだった心が途端に冷えた気がした。

何が精神を安定をしろだ。大社はわざとやっているのかと思う。

いや、あの大人たちは何も分かっていない。

千景が過去に事も何もかも。

無意識に傷がある耳を触る。

そこには決して消えない禍々しいものがある。

けど、それは不幸でもあるが幸福でもあった。

だからこそなんとも複雑な気持ちだった。

でも、あそこに戻るのは抵抗感がある。

その不安で胃の中にある物を吐きそうになるのを抑えながら耐える。

 

「海斗.......海斗、海斗、海斗........会いたい.......会いたいよぉ......」

 

今この場にいない彼の名前を呼ぶ。

あの時は海斗がいたから何とか保てたが、今度は一人に行くことになる。

何が起こることは予想出来ない。

また罵られ、疎まれ、蔑まされるのだろうか。

それだけは嫌だ。

けど、行かなくてはならない。

 

「助けて......海斗」

 

『本当に彼が助けてくれるのかしら?』

 

突如、耳元で声が聞こえ、千景は驚いて顔を上げた。

いつの間にか、ベットの横に千景と同じ顔をした人がいた。

 

「(......これは夢.....かしら?いいえ、夢よ、悪い夢.......)」

 

千景の姿をした者は、口を不吉な笑みを吊り上げながら浮かべせる。

 

『最近の彼は貴方に当たっているし見てもくれないわよ?それにさっきのメッセージのあれ、彼がいきなりあんなこと言うのって、不自然ではなかったかしら?』

 

「何が......言いたいの.......?」

 

悪い夢だと思いつつ、目の前にいる彼女に問いかけていた。

 

『彼は都合のいい女だと思ってるんじゃないかしら?』

 

「.......」

 

『海斗はあなたただの使い勝手のいい道具だとしか見ていないのよ』

 

「なんの......根拠があるの.......!」

 

『決まっているわ、勇者として縛り付けて永久に駒として使い、その功績を根こそぎ奪ってあたかも自分の結果として振る舞う。正に――悪の所業ね本当にあなたを傷付けた連中と同じ』

 

昔、虐められていた時の記憶が蘇る。

うるさい、黙れ、お前に何が分かるんだ、彼はそんな事はしないと心の中で否定する。

そして千景と同じ顔をした少女は、耳元で囁いた。

 

『海斗は貴方を愛していない』

 

「ッ!.......うるさい!」

 

そう千景が言い、目の前にいる千景を手で振り払うとそこには誰もいなかった。

 

「.......もう、寝よう」

 

千景は布団を被って目を閉じた。

今日の事を忘れるために。

 

 

 

 

千景が実家に帰省したのと同時刻。

入院している海斗は病室でノートパソコンを開いて情報を纏めていた。

それは若葉達が樹海でバーテックスと交戦した情報だった。

それを杏や若葉に聞いて纏めている。

最近、バーテックスの侵攻が活発化しすぎている事や精霊を宿した時の体調も調べている。

 

「(.......やっぱり、切り札は肉体的に過度な負担を掛けるだけなのか?)」

 

少し疑問が残っていた。

以前若葉と連絡を取り合った時に、少しだが彼女の様子がおかしかった事に気付いた。

苛立ちを覚えているのか口調が強かったり思った事を言ったはずもないのに勝手に口に出ていたりとか。

何かと弊害が出ているのは確実だ。

そして海斗はスマホを取り出して杏にも電話で聞いてみることにした。

 

『はい。もしもし?』

 

「すまない杏。ちょっと聞きたいことがあるんだ」

 

事情を話すと彼女なりでも調べていたらしい。

それを情報共有することにして照らし合わせた。

そして照らし合わせた結果、杏の考察と海斗が考えていた考察は合っていた。

それは精神汚染。所謂、『穢れ』だ。

精霊は人ならざるもの。

その強大な力を人間が使えば何かしらデメリットは存在する。

攻撃性の増加、不安感、不信感、自制心の低下。

マイナスな思考や破滅的な思考への傾倒。

噛み砕くなら、危険な事を取りやすくなるということ。

 

『私もタマっち先輩が遠征の時に宿した日から調べるようになったんですが、その時はまだ確信には至れなくて......でも、海斗さんのお陰で確証が得ました!』

 

「こっちも助かるよ。やっぱり杏の観察眼は頼りになる」

 

『あ、ありがとうございます......あっ!すいません、タマっち先輩が入ってきたので先に失礼しますね!』

 

杏が慌てながらそう言うとそれを最後に通話は終了した。

やはり体には何かしら影響があったのは間違っていなかった。

これを大社は知り得ないとするなら何故今まで気付いていなかったのか不思議でしょうがなかった。

明日大社に問い詰めるのもいいが、今の海斗の状態は隔離に近いので手を取り合ってはくれないだろう。

完全に八方塞がりである。

だがまだ情報が足りなすぎる。

 

「クソっ......まだ分からない所が沢山ある」

 

明日に片っ端から直接大社の神官達に聞くしかないと思った。

そして、入念に調べて貰うつもりだ。

これ以上切り札を使えば勇者達がどうなるか分からない。

最悪の場合四国の住民に手を出しかねない。

それだけは避けなければいけないと思った。

すると、スマホにひなたから一通のメールと若葉からの電話が掛かってきていた。

 

「......先にメールを開くか」

 

メールを確認すると海斗は驚愕した。

 

『勇者、郡千景が精神的に不安定でケアのため、高知の村に帰省させたとのことです。』

 

あまりにもそれは身勝手すぎていた。

大社も千景の家庭環境のことを分かっている筈なのにどうして行かせたのか分からなかった。

ダが今はそんな事を考えている暇もなかった。

海斗は棚の中に隠されている勇者アプリが入ったスマホを取り出して勇者装束に変身して病室の窓から飛び降りた。

その間に電話を開いた。

 

『海斗か!すまない、今千景についてお前に伝えたい事があってだな――』

 

「そこは大丈夫だ若葉。俺も今高知に向かってる」

 

『なっ!?お前その体で行くのか!馬鹿な事はやめろ!この件は私に任せてくれ!』

 

若葉は随分と慌てた様子で海斗に電話を掛けているのか口調が荒くなっている。

だが、それは海斗には分かっていた。

 

「それは出来ない相談だな。これは、俺のけじめなんだ」

 

『そんなのはいい!お前は病院で大人しくしていてくれ!』

 

「精霊の負担については知ってる。だから頼む......行かせてくれ」

 

海斗がそれを伝えると若葉は何も言わなくなった。

今の若葉を行かせれば確実に千景は彼女に攻撃を仕掛けるだろう。

それだけはダメだ。

仲間打ちなんてそんな胸糞が悪いことをさせたら彼女の心は荒んで挙句には壊れてしまう。

 

『.......どうしても行くんだな?』

 

「......あぁ。俺はあいつの親友なんだからな」

 

海斗は根気強く言うと若葉は溜息を吐いて言葉を発する。

 

『わかった。ただし、私達もすぐに合流するつもりだ。それまで頼むぞ』

 

「あぁ。任しとけ」

 

そして海斗は電話を切って千景の実家がある高知に全速力で向かった。

 

 

 

 

 

千景は自身の故郷である高知の村に帰省していた。

ここに来るのは随分と久しぶりで最後に来たのは二回目のバーテックスの侵攻ぶりになので一年は経っていた。

 

「.......戻りたくなかったのに」

 

千景が小さく呟く。

本当ならこんな場所さっさと出ていって丸亀城に帰りたいぐらいにこの場所は嫌いだった。

だが、彼女にはやるべきことがあってここに来た。

それを終わらせなければ帰れない。

千景は自身の実家に向かって布に包ませた大葉刈を持ちながら歩き出す。

その途中で村人に出会うが、千景を見るや否や目を逸らして農作業を続ける。

そしてその先には三十代後半の女性二人が歩いてきて千景の存在に気付くと、ハッとした表情を浮かべる。

 

「あ、郡......様。帰っていらっしゃたんですか?」

 

「えぇ.......少し用事があって.......」

 

「そうですかそうですか」

 

それだけ言えば、彼女達は早々と千景の横を通り過ぎて去っていった。

するとある程度千景と距離を取った女性二人はひそひそと語り始めた。

それを千景は耳を凝らして聞いてみる。

 

「あの子、戻ってきたのね」

 

「よくあんな平然としてられるものね......あの子たちのせいで人が死んでいるのに」

 

千景が聞いてるに気付いていない二人は心底ウザそうに話し出す。

 

「......っ」

 

千景は布の中に包まれてる大葉刈を強く握りしめ、立ち尽くす。

あれ程称えていた人がこうも豹変できるのか不思議でたまらなかった。

必死に戦っているのにどうしてこんな仕打ちを受けなければならないのだろうか。

 

『あぁ、ひどい。なんてひどい。あんなに勇者様、勇者様と言っていたのに、すぐ手のひらを返す』

 

またあの声が耳元で聞こえる。

 

「(うるさい......うるさい.......」

 

『味方なんていない。幼い頃を思い出しなさい。皆、あなたを傷つける敵よ』

 

「(うるさい.......!)」

 

千景は一通りの少ない道を通って早足で家へ向かった。

そして一回建ての古ぼけた実家に帰り着く。

居間に入ると、布団に伏している母と、その傍に父の姿があった。

母は天恐で病院に入院していたが、移住が決まったため、今は家に戻って父と一緒にいる。

 

「帰ってきたのか、千景」

 

父の表情には、娘の帰郷を喜ぶ感情など微塵もなく、ただ疲れたような無表情さで、千景を見つめる。

 

「母さんは今、薬で寝ているよ......最近は一日の半分は寝てる。起きて暴れたら困るから、寝ていて貰った方がいいけどな」

 

淡々と語る父の言葉を千景は何も言わずに聞き続ける。

母は天空恐怖症候群進行していて、薬無しでは日常生活が出来ないほど難しくなっていた。

すると唐突に、千景の父は呟いた。

 

「なぁ、千景......冗談だろう?」

 

「.......何が?」

 

「家族三人で暮らす?そんなこと出来るわけないだろう?母さんはこんな状態なんだぞ。一緒に生活なんてできるわけがない!病院に入れているのが一番安心なのに......なんで今更三人で暮らせなんて......」

 

「それは......大社の決めたことよ」

 

「馬鹿げてる!だが、香川へ引っ越すのはいい案だよ。直ぐにでもこんな村、離れたいんだ。こんな村!今すぐにでも出て行ってやる!!」

 

あんな無表情に語った父が今度は苛立たしげに叫ぶ。

 

「一体、どうしたのよ.....」

 

「これを見ろ!!」

 

父はテーブルに置いてあった紙の束を千景に投げつけた。

材質も大きさも不揃いな数十枚の紙が、床に散らばる。

それらの紙にはノートの切れ端や使い終わったカレンダーの裏、コピー用紙――無数の罵詈雑言が書かれていた。

その内容はとても酷かった。

 

『勇者は役たたず』

 

『クズの娘はクズ』

 

『村の恥さらし』

 

『死ね』

 

『人を守れない勇者に価値無し』

 

『ゴミ一家消えろ』

 

「何......これ......?」

 

いつの間にか千景声は震え、目の前が暗くなるのを感じ、足元がふらつく。

 

「毎日毎日、うちの家に投げ込まれてくるんだ!紙だけじゃない、そこに書いてあることはな、陰口でみんなが言っていることだ!

村を歩いているだけで蔑まれ、中傷され......あぁ、クソクソ、クソッ!もうこんな村住んでいられるかぁ!千景、お前のせいだぞ!勇者のくせに負けるから!人を守れないから!クズが!」

 

「.......」

 

元から郡家は、村の中でも嫌われものだった。

だが千景が勇者になればそれが一転して村民か敬われる立場になった。

だがそれは千景にとってどうでも良かった。

村人に何を言われようと家族に何を言われまいと海斗が――彼さえいればいいのだ。

彼がいれば千景の存在を肯定してくれれば、認めてくれるならそれでいい。

そして、罵詈雑言が書かれた紙の中を見ればこの場にあってはならない言葉を見つけてしまった。

 

『黒結海斗は無能。高待遇だからって自分がやった感とか出すな!税金返せ!お前だけは無価値なんだ!』

 

「.......何、それ」

 

勇者はこんなことを言われるために戦っていたのか。

心身を削り取るようにして戦って、失敗したらこの結末。

 

『あーあー可哀想に。貴方の想い人はこんな仕打ちを受けている。なんて様かしらね』

 

また、頭の中で声が響き渡る。

 

「その報いが.......これなの......?」

 

海斗は千景や勇者達のためにその身を犠牲にしてバーテックスを倒してくれた。

そして、その結果が罵詈雑言の嵐。

幾ら地位が高い人の出身だからってこんなのはあんまりすぎる。

何故認めてくれない?

どうして彼に賞賛を与えてくれない?

あんなに戦ってくれてるのに、私達を支えてくれているのに。

それを知らないお前らが彼の事を語るな。

 

『ふざけてる』

 

「無価値なのは――」

 

「『お前達だ』」

 

千景は大葉刈を握りしめ、家を飛び出した。

家を出た千景は布袋から出しつつ、道を歩いていく。

数分歩いていると道の向こうから四人の少女達が楽しく雑談をしながら歩いていた。

それは千景にとって見覚えのある顔だ。

小学生時代、千景をいじめていた少女たちだった。

そして彼女達は千景の姿に気づき、目を見開いて立ち止まった。

人の背丈ほどもある大鎌、そしてその人を害虫のように見るような冷たい千景の目は、目の前にいる少女達に恐怖を与えるのには充分だった。

 

「え、千景?」

 

「何で帰って来てんの?」

 

「あぁ.....あの男のせいで負けたからでしょ」

 

千景をゴミのようにみるそう呟く少女達。

すると千景の右手に持っていた鎌に気付く。

それは本来閉まっていなければいけない物のはず。

だがそれは彼女達に刃を向いていた。

 

「え、な、郡さん......?」

 

「鎌......?何、それ......?」

 

混乱して立ち尽くす少女たち。

しかし少女たちの一人が、自分の怯えを誤魔化すように声を荒らげた。

 

「な、何、考えてんのよ......!こんなところで、そんな刃物持ち歩いて!勇者だから、何でも許されると思ってんの!?バカじゃないの!?」

 

その罵声を千景は無言で聞き続ける。

別にどうも思わない。

ただ弱い奴らがきゃんきゃんと吠えているだけに過ぎないのだから。

けど、流石にうるさいと思い千景は一切の表情を動かさずゆっくりと大葉刈を振り上げ虫を払うかのように振り下ろした。

その刃は目の前にいた少女の頬に小さな切り傷を付け、皮膚に薄っすらと血の線が浮かび始める。

 

「......ひっ、いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

大した傷では無い。けど、彼女は血に怯え逃げようと踵を返そうとしたが、直後に千景の鎌で足首を切られた。

少し切り裂かれたが少女が倒れ込むには充分だった。

先に逃げようとした獲物は真っ先に狙われる。

 

「.......痛みを、知れ」

 

千景は無表情に倒れている少女に言う。

まるで哀れだ。

散々千景を虐めてきた彼女達が恐れ戦き弱々しくなる。

何でコイツらに今までやられてきたんのだろうか?

本当に可哀想だ。

 

「たっ、助け、お、お願っ、お願い、助けて......!」

 

「一体、私達が何をしたってんのよ!!」

 

「何やってんのよ、このクズっ!」

 

何かしら言っているが、コイツらには罪悪感なぞ全然ない。

海斗の事を好き放題言った奴らに慈悲なんて与えるなんておこがましい。

だが、この国に住んでいる寄生虫共にそれを与えるほど千景は優しくは無い。

早く害虫は駆除しなければならない。

そうしなければ海斗が笑ってくれないのだから。

千景は冷たく少女を一瞥した後、スマホを取り出して勇者アプリを起動させた。

彼女の服装が、戦闘用の装束に変わる。

そして再び、千景は少女へ目を向けた。

 

「......面白い?.......ねぇ、面白い?」

 

千景は少女の目の前で言う。それは怒りと憎悪で満ち溢れていて今にも少女を狩りたいと思ってしまう程にその瞳は見開いていた。

 

「何故海斗を認めてくれないの........?海斗は私達を守りながら命懸けで化け物と戦っているの。.......ねぇ、何故?」

 

戦う勇気もないくせに、ただ罵倒して罵って、虐げさせてそんな日常を謳歌しているクズ共はこの世にいなければいい。

そうすれば彼も幸せになってくれるだろう。

そして、千景は大葉刈を上に上げ少女に致命的な一撃を与えようとした。

しかし、それは地面に倒れた少女の肉を切り裂いた音ではなく――金属同士がぶつかった音だった。

 

「――え.......?」

 

千景は目を見開かせた。

少女を切り裂いたのではなく、今ここにいるはずがない勇者装束を着て大葉刈を村正で受け止めている黒結海斗がそこにいた。

 

「ッ......もうやめよう、ちーちゃん」

 

「海.......斗.......?」

 

どうしてここにいるの?

何故止めるの?

千景の中でいくつかの疑問は湧いたが、今は冷静に物事を考える程の気にはなれなかった。

だって彼女は想い人に刃を向けたから。

千景はこの時、取り返しのつかないことをしてしまった。

 

 

 

 

 

 

「あぁ......私、わた.....し、なんて事を.......」

 

千景は戦意喪失して大葉刈を地面に下ろして顔を俯き座り込んでしまう。

いつの間にか勇者装束も解除される。

 

「ちーちゃん......気にしないで。これは俺の罪なんだ」

 

海斗は首を振り、千景に言う。

もう少し早く来ればこんな事にならなかったのだろうかと。

辺りを見れば学生服を着た四人の少女達が服に血を滲ませながら涙を流してこちらを見つめていた。

まるでその顔は化け物を見て恐怖している目だ。

そして騒ぎを聞き付けたのか、いつの間にか周囲に村人たちが何十人も、千景と海斗のいる場所に集まっていた。

その住民の人々の目は千景に恐怖と嫌悪と怒りの視線を向けている。

無数の瞳が千景を苛む。

それは視線の檻。

 

「やめて.......やめて......やめてください......!」

 

「ちーちゃん?」

 

ふと、千景が頭を抱えて震え始める。そして後ろに少しずつだが後ずさる。

 

「.......いや、いや.......虐めないで......お願いです........!」

 

「ちーちゃん!しっかりしろ!」

 

この尋常じゃない怯え方はどうも不自然だ。

やはり精霊の精神汚染は体を蝕むものだとはっきり理解してまう。

海斗は必死に千景に声を掛けるが彼女の耳には聞こえてなかった。

 

「.......いじめないで......!いじめないで........いじめないで、いじめないで、いじめないで.......!」

 

「気を強く持つんだ!ちーちゃん!」

 

千景は人形のように同じ事を繰り返す。彼女には一体何が見えているのかは分からない。けど、過去に辛いことがあるのは海斗だって分かっている。

 

 

「嫌わないで........お願い.......お願いします......私を......好きでいてください.......!」

 

千景の言葉に海斗は咄嗟に彼女を胸元に引き寄せて強く抱き締めた。

もう彼女がこんな姿になるのを見たくない。

最悪、彼女に嫌われてもいい。

けど幸せにはなって欲しい。

だって一人じゃないのだから。

 

「すぅ.......千景!!」

 

「......ッ!?かい......と.....?」

 

「大丈夫。大丈夫だから」

 

普段のあだ名で呼ばずに下の名前で海斗は千景を呼ぶ。

子供をあやす様に背中に手を回して摩る。

せめて安心出来るように。

そう、願いながら。

 

「俺は、君を決して嫌いにはならないよ」

 

「本当......?」

 

「本当さ」

 

「.......あんなことしたのに?」

 

千景は虚ろな目で海斗に問いかける。

海斗はそれを笑みで返して言う。

 

「ちーちゃんは悪くない。だから今は誰かの声を聞かないように耳は塞いじゃおうか.......ね?」

 

「一人は嫌だ.......嫌だよぉ......私を一人にしないでぇ......」

 

千景は涙を流しながら海斗の胸に顔を埋める。

ずっと一人で、孤独で、味方も誰もいなかった。

だからこそ繋がりが消えるのを恐れている。

千景は海斗に刃を向けてしまった。彼女の中では大切な存在の筈なのに自ら繋がりを断ち切ってしまったと思った。

けどそれは大きな間違いで、海斗は千景を優しく抱きしめてくれた。

その温もりが暖かい。

そして彼の心臓の鼓動を聞けば今までの憎悪と怒りがいつの間にか消えていた。

千景はその温もりに身を任せ目を閉じ、気を失った。

 

「あぁ......。君を一人には絶対させない、俺が絶対に守るから」

 

海斗は眠るように意識を失った千景を抱き寄せ立ち上がる。

そして丁度若葉達やってきて合流を果たした。

球子と杏は周囲を見て驚くが、そのまま警戒を怠らなかった。

 

「すまない海斗。遅れてしまった」

 

「いや、大丈夫だ。丁度こっちも何とかなったからな」

 

千景を回収して後はここを去ろうとした時に、千景に向かって何かが飛んできた。

それを海斗は掴んで見てみるとそれは石だった。

 

「........おい、なんの真似だ?」

 

海斗は村人達の方に視線を向けて問いただす。

するとその一人が声を荒らげた。

 

「ソイツのせいで俺らの税金が上がったんだ!そもそも、何であのクソ両親のために俺らが金払わないといけねぇんだよ!」

 

「そうよ!あんな家にロクなことがないじゃない!」

 

「あんな奴が勇者じゃなきゃ良かったんだ!」

 

その後も次々と千景と勇者達の不満や不評を垂れ流す。

そして海斗の何かがブチっとちぎれた音がした。

 

「.......若葉。ちーちゃんを、頼む」

 

「.......どうする気だ?」

 

若葉も海斗の異変に気付いて、彼がやることを聞く。

 

「穏便にはすませるつもりだから。けど、まぁ、少し荒くなるけどな」

 

「わかった。その時は私が止める、それまで好きに言ってくれ」

 

若葉は今回の海斗に目を瞑り、住民さえ怪我を負わせなければ良いと思い好きにさせた。

彼女も少しはこの村人達に怒りを覚えていたのも事実だが。

 

「か、カイト......大丈夫だよな?」

 

「タマっち先輩、ここは海斗さんに任せて私達は千景さんの方に優先しよ?」

 

「お、おう。そうだな.......」

 

球子が海斗に心配そうな声を掛けると杏がそれを静止して二人は千景の方に向かった。

どうやら杏は気を遣わせてくれたらしい。

それに感謝して海斗は住民がいる所まで歩き出す。

 

「一つ.....お前らに聞きたい事がある」

 

海斗は村人の全員が見える位置に立ち止まって問いた。

 

「両親がロクでなしで、その勇者になった娘さえも忌み者扱いってか?」

 

「そんな事当たり前だろ!あんなやつに生まれた時点でクソに決まってるだろ!」

 

一人の村人が大きな声で答える。

やはり、聞いても返ってくるのは同じ回答だけだった。

少しでもマシになってくれれば良かったのにと淡い希望を望んだが、それは儚く散る。

そして村正を呼び出して地面に突き刺した海斗は大きく息を吸って、口を開いた。

 

「――巫山戯るんじゃねぇぞぉっ!!」

 

海斗がそう言うと村人は怯えさっきのような声は出さなくなった。

 

「自分だけのうのうと生きていて、都合が悪くなったらすぐ勇者のせいにする......ふざけんなよ!勇者だって痛いんだ、苦しいんだ、辛いんだ!........だけど、それを必死に堪えて命を懸けて戦ってるんだよ!それをお前らが否定する権利がどこにある!!」

 

自身の胸に手を当てながら海斗は言う。

本当は勇者になった彼女達も戦いたくないはず。

けど、守りたいものがあるからこそ戦っている。

それを何も知らない人達にとやかく言われる理由は無い。

海斗の怒声で周囲は静まり返るが彼は止めない。

 

「ちーちゃん――千景はこんなしょうもないお前らの為に命を張ってあの化け物と戦ってるんだ!それなのにお前らは........あの両親の娘だからって忌み嫌い罵倒し続けた。お前らは本当の千景を見た事はあるのかよ!彼女だって人間だ!血が通った一人の人間なんだ!!」

 

海斗は叫ぶ。自分の思いを吐露するように。

 

「あんなに優しい子が........お前らのために頑張ってるんだぞ......?それを否定するのだけは.......俺が絶対に許さない!」

 

海斗は地面に突き刺した村正を取って村人達に向ける。

それを向けられた村人は体を震わせる。

だが海斗はその村正で自身の左腕の皮膚を切った。

それを見た村人達は驚愕してしまう。

若葉達も目を見開かせこちらを見る。

彼の手には血の線が流れ続ける。

 

「――ッ.......俺も彼女も同じ人間だ!人間で沢山だっ!!」

 

拳を握りながらその左腕から出ている血を村人に見せる。

認めてもらわなくてもいい。ただ、知ってて欲しい。

外見からではなく、内面で判断すること。

そして、同じ人間であることを。

 

「.....次、千景に同じようなこと言ってみろよ。それを破ったら、俺はお前ら全員を皆殺しにしてやる!分かったら......とっとと失せろぉ!」

 

海斗がそう言うと村人達は一気に解散して一目散に逃げていった。

流石に怪我を負った学生達逃げれないので救急車で運ばれるまでその場で震えながら待つことになるのだが。

 

「.......ふぅ」

 

自分の気持ちをさらけ出したからか随分とスッキリした。

これで暫くは勇者達には罵詈雑言を送ることは無いだろう。

 

「褒められたことではないが........すまない海斗」

 

背後から溜息を吐いた若葉が声を発すれば海斗は振り向いて首を振った。

 

「気にすんなよ。俺も流石に馬鹿だとは思ったけどあんな奴らよりは遥かにマシだと思ってる。まぁ、あれは確かに勇者っぽくないが別に俺はそんな肩書きなんてどうでもいい」

 

「ふっ.....相変わらずだな」

 

「じゃ、そろそろ俺達もちーちゃん連れて丸亀城に帰るぞ」

 

「海斗、丸亀城に帰ったら説教だ」

 

「.......見逃すのは――」

 

「あると思っているのか?自分の腕を切って、見せつける事はないだろ。この馬鹿者」

 

海斗はそう言うと後から来た大社に任せて勇者達は丸亀城に帰還した。

だが、先程の左腕の件を若葉に指摘され海斗は病院で手当を受けてその後に若葉とついでにひなたから説教をもらった。

もうあの二人に説教を食らうのは勘弁と海斗は心の中で思った。

そして翌日――千景は住民を襲って怪我を負わせたため、大社は一時的に彼女の勇者システムを剥奪し彼女は丸亀市に移住した両親と住む家での謹慎が決まった。

 

 





ちょっと強引過ぎたかな。
でも、楽しく書けたからヨシ!千景、救われるといいね。

次回は千景が誰かを襲う!?を書こうかなと思います。
ではまたお会いしましょう!

次回。第24話:私だけの想い
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