いやぁつい見つけてしまったので買わずにはいられなかった(後悔はしていない)
今回は最終決戦の前日会です。
では本編どうぞー!
「はぁ、はぁ.......!」
海斗は丸亀城の敷地内で体力を付けるためにランニングを行っていた。
実際に走ってから三十分は経過している。
丸亀城は敷地が広いので走るのには持ってこいだ。
体幹二十周を走り終え、海斗は本丸城郭で一息ついた。
その近くに置いておいた自家製のスポーツドリンクを手に取り飲む。
「んくっ、んく........ぷはぁ!」
走った後に汗だくの状態で水分を取るのは中々に美味しく感じる。
体が水分を求めておりその適度に配分された甘みと酸味は癖がなく丁度いい飲み心地だ。
「........」
城郭から見える周囲の景色を一瞥した。
千景の事件から既に一ヶ月が経った。
大社に強行手段で乗り込んで彼女の記録抹消は無くなり、変わりに海斗の記録抹消で決まり、千景の身柄や親権は黒結家が取得して事を収めた。
大社からしても腑に落ちない所があるのか神官達の表情を見ればよくわかった。
これから海斗と大社の関係は険悪になるだろう。
だが後悔はしていなかった。
それから海斗はその事を海斗の父、柊に伝えるが彼は何も言わなかった。
逆に笑って賞賛してくれたのだ。
「さすが俺の息子だ」と言って頭を撫でられたのは気恥ずかしかった。
しかし会社的にも『ブラック・コネクト』は大社と良好か関係維持しているはずなのにその息子である海斗が大社と敵対したというのにどうしてそんな平然としていられるのかと聞いた。
柊は鼻で笑って「俺の息子が大事な人を守るために己を賭ける選択をしたんだ、超カッコイイじゃん。それに自分の選んだ道だろ?それに、息子を信じない親は親とは呼べないからな」と言った。
その後に後処理は柊が全部やってくれて海斗は思ってしまう。
あぁ。本当にこの人には敵わないなと思った。
だって茨の道を踏んだ息子を最後まで信じ切ると言ったのだ。
それだけで海斗は嬉しかった。
いつか父がしてくれた事に報えるように海斗は心に誓った。
すると背後から少女の声が聞こえた。
「はぁ、はぁ、はぁ......あ!うみくんここにいた!」
振り向けば友奈が手を振りながら歩いてきておりそして友奈に続いて視界から四人の少女達がこちらにやってきていた。
だが海斗は目を背けた。何故なら全員体操着を着ていて汗だくなのでその透けた服から見える育ち盛りのものが見えてしまったので少々目に毒だった。
「はぁ、ふぅ......うみくん、速すぎるよ!私達着いて来れなかったよ!」
「いや、勝手に着いて来てるのはお前らだろ?」
「そこは、皆に合わせるのがチームワークってやつだよ!」
「えぇ......」
友奈は息を整えて再び言うと海斗について文句を述べた。
これに関しては困惑してしまう。別に悪いとは思っていない。ただ普通に走っているだけだし、それに着いて行こうとしている奴が悪いと思っている。
取り敢えず、皆の分のスポーツドリンクを渡して飲ませた。
「友奈。こういう時の海斗は好きにさせた方がいいぞ」
「若葉の言う通りだなぁ......タマも走るのは得意だったんが、これは流石のタマでもきついゾー.....」
「わ......わた......ぜぇ、ぜぇ、私もそう......思います」
「.......体力を付けたいのは分かるけど、そんなに突出すると体が持たないわよ?」
友奈に便乗して若葉、球子、杏、千景が言う。
「いやいや、俺は――はぁ.......悪かったよ、次は気を付ける」
後々面倒になることは目に見えていたので、ここは素直に謝ることにした。
海斗が謝れば全員笑った。それすら可笑しく見えてしまう。
ちょっと腑に落ちないところはあるが、これはこれで良いと納得した。
すると友奈がスポーツドリンクを飲み終えると口を開いた。
「そういえば皆、結界の強化の話って聞いた?」
「今、大社が進めている計画だな。勿論聞いたさ」
友奈の話に若葉は頷く。
七月下旬、間もなくバーテックスの襲来が起こるという神託が下った。
だが、未だに壁の外で融合を続けている超巨大バーテックスへの対処法は見つかっていない。
今も尚壁の外でゆっくりと機会を待つかのように成長を続けている。
それに壁の外には、その超巨大バーテックスの他にも、大型のバーテックスの存在が確認されていた。
以前のサソリ型と同系サイズの者が数体、出現している。
あれから一ヶ月以上間、バーテックスは四国内へ侵攻していない。
それは壁の外で大型のバーテックスたちの成長を待っているためなのだろう。
神樹の神託によれば、敵は間もなく完全に戦闘準備を終えて、四国へ一斉に侵攻を仕掛けてくるという。
だが、次の総攻撃さえ乗り切れば敵の侵攻を食い止める対策を二つ用意出来ると大社は言っていた。
その一つが以前から計画されていた結界の強化である。
そしてもう一つは頑なに大社は勇者達に説明はしてくれなかった。
少し不安感があるが今は信じるしかないだろう。
勇者達全員は城郭の石垣から海の方を見つめた。
遠くに海と空と神樹が作った壁が広がっている。
神樹の力で内側から見えないが、実際その向こう側に超巨大バーテックスが今も存在している。
今は神樹の結界に施された遮断の力で見えないようなっている。
「あと数ヶ月で完了するそうだが......結界の強化が終わればら今までのようにバーテックスの侵入を許すことはなくなる」
「うん。でも......『もう一つの対策』ってなんだろ?」
「俺らが考えても仕方ないだろ。今は俺たちが出来ることをやるのが得策だ」
「そうだね........次の戦いに勝てば、対策は全部整うんだよね!そしたら、バーテックスはもう来なくなる。平和になる!よしっ!」
不安そうに言う友奈に海斗は自身の手を彼女の頭に乗せて撫でる。
友奈は元気が出たのか明るさを取り戻し、前向きに言葉を発す。
それに応じて球子が口を開いた。
「なー若葉、そろそろ昼になるから食堂行かないか?もうタマは腹がペコペコで倒れそうだ.......」
「もう、タマっち先輩は大袈裟すぎだよ?」
「腹が減っては訓練は出来ぬ!ってどっかのエライ奴は言ってたんだからいいんだよっ!」
杏のツッコミを受けて球子は声を荒げて場を和ませる。
先程あった悪い空気はいつの間にか消えていた。
「あぁ。もうじき昼時だしな、行くとしよう」
「よっしゃあっ!じゃ、行くぞあんず!」
「待ってよタマっち先輩!」
「ぐんちゃん!うみくん!私達も行こう!」
「.......えぇ。分かったわ」
「ん........」
若葉も球子に首を縦に振って従った。
その後は全員で食堂で楽しくうどんを食べたのは言うまでもない。
海斗はうどんを食べながら窓から遠くの空を見る。
今日の天気は少しドンヨリとしたものになっていた。
昼が食べ終わり今日は授業が何も無かったので寄宿舎にある自室にもどった。
するとスマホの方から一通のメールが届いた。
差出人を確認すると友奈だった。
内容を読むとこう書かれていた。
『明日皆でお出かけしよ?』
そんな文章が書かれていた。
◇
翌日、海斗は待ち合わせ場所である丸亀城の大手一の門前で友奈達を待っていた。
だが、数分待っても一向に現れず持ち合わせの時間も過ぎていた。
「全く......一体何してんだか」
時間厳守は大切だと身に刻んだ早くは来たのだが、これでは無駄な時間を浪費してしまう。
そんな事を思っていると、友奈達が姿を現した。
「ごめん!おまたせ〜!」
「遅い、何やってたんだ?」
「実は......」
「正直に言え」
「は、はいぃっ!」
友奈が口ごもって話さないでいると海斗は圧を掛けて友奈に攻め寄った。
友奈は素直に遅れた理由を説明した。
実は勇者として民衆の前で姿を晒すことは目立ってしまうため、全員(千景を除く)は変装をする事になったのだがここに来る前、ひなたに見つかり彼女の堪忍袋の緒に触れてしまい私服に着替えさせられて遅れたと言う。
これにはもうため息しか出ない。
「.......本当にそこだけアホだよなお前」
「よく言われるから否定しようがない.......本当にごめんなさい」
友奈は謝罪をしつつこちらの顔を伺っている。全く彼女はこの時のやつは敏感だなと呆れてしまう。
「取り敢えず、時間が無くなるから行こうか」
海斗が言うと全員頷いて丸亀城の敷地内から出て、一通りがある場所を歩いた。
暫く歩いても通行人は勇者たちを見ても気には留めるものの、気にせず通り過ぎていく。
それを見て自分たちが気にし過ぎた事が可笑しくなって笑ってしまう。
少々敏感になり過ぎていただけなのだ。
その後は商店街、観光スポット、デートスポットを色々巡った。
それからは昼を食べ、珍しいものに触れて時間を過ごす。
そんな中で海斗は皆が楽しく話している時にふと思ってしまう。
勇者ではなかったらこんな日常を気楽に過ごして、青春もして、色んなことをしたのだろうかと。
けど、勇者にならなかったら彼女らに出会わなかったのもある。
運命とは常に分からないものだ。
だからこそ恐ろしい。
海斗は思ってしまう。次の侵攻で誰かが死ぬのではないだろうかと。敵も更に強化されて攻めてくるのだ、これで誰かの死人が出ないと言われても不思議とは思わない。
「.......」
「海斗......?」
「うぉ!?」
そのまま友奈に着いていけばいつの間にか海の所に来ていた事に気付く。
どうやら考え耽っていたようで認識していなかった。
海斗は慌てて千景の方に振り向いた。
「ど、どしたんだちーちゃん?」
「......どうしたじゃないわ。上の空になってたから声を掛けただけ」
「あ、あぁ。ありがと」
「.......何か考え事?」
「まぁ、そんなとこ」
「......話して」
海斗の異変に気付いた千景は彼の顔を見つめながら言う。
全く、彼女には敵わないなと思ってしまう。
海斗は素直に話した。
これから起こることがどうなるか分からない事が堪らなく恐いことを。
それを聞いた千景は海斗の手を握って口を開いた。
「......大丈夫よ、私たちは死なないわ。だって.......海斗や皆と一緒なら、バーテックスに負けないわ.......絶対」
千景は優しく微笑んだ。
彼女の瞳には決意が宿っていた。
大切なものを守るために皆で絶対に勝てると信じているのだ。
海斗はまた自分で背負おうとしていた。
こんなにも信頼出来る仲間がいるのに心の底では守るべき対象としか見ていなかった。
だが、今はもう違う。
今なら一緒に戦うと言える。
「そうだな.......ありがと。ちーちゃん」
「......彼氏を支えるのは彼女の役目よ」
「ははっ、なんだそれ」
千景が普段しない発言に吹いてしまった。
だが、それだけで気が楽になった。
隣で支えてくれる人がいるのはどれだけ心強いのか良く分かる。
すると歩きながら千景は海斗に聞いた。
「.......海斗はもし、バーテックスとの戦闘が終わったらどうするの?」
「その後か......うーん」
正直考えてはいなかった。
前はバーテックスさえ滅ぼさえすればそれ以外はどうでも良かった。
それ以外は決めていなかった。
だがもし、もしもバーテックスを倒したとして海斗はその後にどうしているのか考える。
そしてある事を思い浮かべた。
「将来はあの会社を継ごうかな」
「.......以外ね、あなたがお義父さんの仕事を継ごうと言い出すなんて」
「出来るだけ退屈はしたくはないからな」
本当は継ぐつもりはなかった。だが、千景の事や自身の事を考えればそれが安牌なのだ。
『ブラック・コネクト』社を継げば大社側としてはコネが手に入るし、何かとやりやすいのもあった。
「じゃあ、私も......貴方に着いて行くわ」
「大変だけどいいの?」
「.......勿論。承知の上で申し出てるんだけど?.......貴方の傍にいられるのならどんな事でもするわ」
「頼もしいな、それは」
千景の言葉に苦笑してしまう。
愛というものはここまで豹変させてしまうのかと恐ろしく思ってしまう。
でも悪い気はしないし、寧ろ心強かった。
千景が傍で支えてそのまたもしかりだ。
互いに支え合ってどんな壁も超えれば何も問題ないのだから。
その後は全員が夢や自分の話をした。
それは充実していてこれからの事を思ってかのように楽しく感じた。
そんな話をすればやる気なんてどこかしら溢れてくるとそう錯覚してしまう。
夕暮れの中、太陽が海の中に沈んでいく。
海斗はその奥にある壁の外を見つめつつ願った。
バーテックスに勝ち、誰一人欠けずに絶対に生きて帰れますようにと。
そして間もなく――バーテックスが四国へ侵攻を開始した。
夢は夢だから儚いから良いですよね。
因みに自分の夢は平和に人生を謳歌出来ればそれでいいんですよね〜まぁ、その他は自分の好きな作品に転生したい.......まぁ、無理なんですがw
次回は最終決戦です。
前編、後編で、分けます。タイトルは違いますが。
ではまた次回にお会いしましょう!さらば!
次回。第28話:絶対的勝利は運命に抗う