華結を繋ぐは勇者である『凍結』   作:バルクス

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どうもバルクスです。
今回でくかゆは最終回となります......では、本編どうぞ!


第30話:忘れない想いを胸にバトンを託す

 

「ここは.......」

 

白い光の空間の中に海斗はただ一人ぽつんと立っていた。

ここがどこで得体の知れない場所だというのに不思議と不快感はなかった。

その空間は無であり認知するものさえありはしなかった。

そうか、自分は死んだんだと海斗は納得してしまう。

そしたらここはあの世の入口なのだと思った。

だが初めてだからか現世で想像したあの世とは随分と殺風景で中心にでかい樹(・・・)があるはずもなく......

 

「――は?」

 

違和感が頭を過ぎった。

状況を整理しよう。

今海斗は白い空間にいる。視界に広がるは無ばかりだったはずだ。

それなのに目を逸らした瞬間、目の前に樹があった。

その樹はまるで生きているかのように光輝いており、存在感を醸し出していた。

その樹がある方へ歩いていくと段々とその大きさが顕になる。

密かに優しくその樹木に触れてみると暖かい。

間違いない、これは神樹だ。

あの世でも神樹を触りながら体温を感じるとは思わなかったが、よく分からないものだ。

すると急に海斗の視界が真っ暗になる。

その後に後ろから誰かの声が聞こえた気がした。

 

「だーれだっ!」

 

明るく、優しく、暖かい声。

悪戯っぽく海斗に問いかけるその声は海斗の身を震わせるのには充分すぎた。

 

「.......ゆう.....な......?」

 

まだ思考が追いついていないのか、か細い声で海斗は答えた。

そう言うと視界が暗闇から光が指すかのように広がり眩しく感じた。

段々と慣れていって後ろをゆっくりと振り向けば高嶋友奈がそこにはいた。

 

「当ったり!いやぁー流石うみくん!やっぱ分かっちゃうか〜」

 

友奈は面白そうに言うとあははっと笑う。

そして海斗は友奈の存在を認識して口を動かした。

 

「やっぱり俺は死んだのか......?それにお前もここにいるってことは.......」

 

状況はまだ理解していないが、友奈が何故ここにいるのかを問いた。

本当は分かっているが、彼女の言葉ではっきりさせたかった。

海斗の言葉に対して友奈は首を傾げながら口を開いた。

 

「うーん.......どう説明すればいいのかなぁ......うむむ.....」

 

唸って必死に考えている素振りを見せると友奈はよしっ!といい口を動かした。

 

「先に言うね。うみくんは死んではないよ」

 

「......どういう事だ?」

 

「簡単に言うと、ここは神樹様が作ってくれた精神世界.....って言う場所なのかな?」

 

友奈の言葉に困惑する海斗だが、嘘ではないと思った。

目の前にある樹は知っているものなのだ。

非現実的だとしても実際起きている事は目を背けることなど出来ないのだから。

それに一つ疑問が残った。あれが神樹なのは明白だ。

だが、なぜ海斗と友奈がこの空間にいるのかは分からないのだ。

 

「なるほどな......大体理解はしたんだが、一つ聞きたい事があるんだがいいか?」

 

「なにかな?」

 

海斗は友奈の言葉に違和感を覚えた。それは友奈自身が入っていないと思ってしまったのだ。

思わず海斗聞いてみることにした。

 

「今お前は......俺と同じで生きてるのか......?」

 

「.......」

 

その瞬間に友奈の表情は曇りに変わってしまう。

無神経だが、出来れば否定してほしかった。

そんな間があってから友奈から話を持ちかけてきた。

作り笑いをしながらだが。

 

「あ......あはは。私、神樹様の『一部』になっちゃったからさ......もう皆の所には帰れないんだ」

 

乾いた笑いを出しながら友奈は謝罪する。

それがむしろ腹ただしかった。

 

「なんで、そんな平然として受け入れられるんだよっ!」

 

思わず海斗は友奈の肩を掴みながら言う。

違う。彼女が浮かべるのはこんな強ばったものでもましてや、乾いたものでも無い。

純粋で自然に出せる笑みのはずなのにそれさえも出来ない程に友奈の心は絶望に染まってしまっているのが許せなかった。

 

「俺に出来る事はないのか!?今すぐにお前がここを出たいって言うなら力尽でも神樹から引き出してでも――」

 

今の自分が出来る事なんてたかが知れてる。

だけど、諦めたくはなかった。

ひょっとしたら何か方法があると思ったのだから。

すると友奈が海斗の手を優しく触れながら首を振る。

それで海斗は察してまう。

もう遅いのだと、自身は何も出来ないのだと。

無意識に表情を強ばってしまう。

それに気付いた友奈は微笑みながら口を開く。

 

「......そんな顔しないで?もういいんだ。私はうみくんや皆に充分救われたよ」

 

「けど、俺はお前に何も......」

 

「じゃあうみくん、約束してくれるかな?」

 

「約束......?」

 

自身の無力差を痛感する海斗に友奈はある提案を申し出た。

 

(高嶋友奈)という人間がこの時代にいたことを、忘れないで欲しいんだ」

 

「.......」

 

せめてへの願いとして彼女がいたことを後世までに語り継ぐ事を託した。

そしたらいなくても人の魂は死なないのだから。

海斗は強く頷き友奈を真っ直ぐと見つめながら言う。

 

「分かった......絶対に忘れない。約束する」

 

「ありがとう。あと、もう一つ聞いてくれないかな?」

 

「いいぞ――ッ!?」

 

すると途端に意識が朦朧としてきて体が重くなってきた。

一体何が起こっているのか海斗は理解出来なかった。

 

「体が.......一体何、が......?」

 

「そろそろかな.......ごめんね、もう時間が無いみたい。だから正直に言うね」

 

倒れそうになる海斗を友奈が支えながら言う。

意識が落ちそうになりながらも海斗はなんとか聞き続ける。

 

「私の()まで ........生きて(・・・)。それが、私の最後の願いだから」

 

それを最後に海斗の瞳は閉じ、意識を失った。

 

 

 

 

「――ここは......?」

 

ゆっくりと目を開けるとそこはさっきいた白い空間ではなく、建物の天井だった。

ふと、機械音が聞こえその音がなった方に顔を向ければそれは心電図だった。

それで自分が何処にいるのか分かった。

ここは病院だと。

まだ病院や施設があるという事は世界は守れたということ。

ならそれから何時まで寝ていたか分からない。

少しでも情報を確保しておきたいので周囲を見渡してみればそこには船を漕いでいる千景がいた。

よく見れば眠れなかったのか隈があるのが分かった。

すると千景は自身が寝ていた事に気付き目を軽く擦ると今度は海斗の方へ顔を向けると目が合った。

気まずくなるが勇気を出して海斗はぎこちない笑みをしながら千景に言う。

 

「.......お、おはよう、ちーちゃん......い、良い天気だな!」

 

言葉を詰らせて言う海斗だが、その後に千景が涙を流しながら海斗を抱きしめてきた。

 

「ちーちゃん?あの、離してくれ――」

 

「......少し黙ってて」

 

「あ、はいすいません.......(だいぶ怒ってる.......どうすれば......)」

 

何も言わずに抱きついてきた千景に海斗は声を掛けるが彼女の声からでる厚で潰されなすがまま受け入れた。

少しだが背中を震わせすすり泣いているのが分かる。

果たしてどれだけ寝ていたのか考えてみると怖いものだ。

しばらくして落ち着いた千景はこほんと咳払いをして口を開いた。

 

「海斗.......本当に良かった.......生きていてくれて......本当に」

 

「俺ってそんなにやばかったのか?」

 

「油断を許さない程だったわ.......」

 

真剣に言う千景に海斗は冷や汗をかいた。

それは彼が想像するよりも千景の表情見ればその時の出来事を察してしまう。

それぐらい海斗の状態は非常に良くなかったということだ。

 

「その時の状況を聞いてもいいか?」

 

バーテックスの戦闘が終わってから海斗は瀕死の重傷を負い病院で治療を受け一ヶ月間昏睡状態に陥っていた。

奇跡的に命は取り留めたが身体機能の一部に障害が残ってしまい、自力で歩くことすらままならなくなってしまう。

そして臓器の方は元から(・・・)損傷はしたが、勇者の力のお陰か機能自体は正常までに回復していたという。

なら体の一部で済んで良かったと心底思った。

 

「一ヶ月......か.......」

 

随分と長く眠っていたと呆れてしまう。

それに話的に聞くと本来は死にそうな状態になっていたのに何故海斗はまだ生きているのか分からなかった。

医療技術が進歩しているのかそれとも自身の生命力が強いのか、ましてや両方なのかは不明だ。

ふと海斗は友奈の言葉を思い出した。

 

『私の分まで生きて』

 

と、その言葉を残しながら。

 

「あ.........」

 

そして理解してしまう。

海斗は実際には一回死んだのだ。

それによって(精神)だけが神樹の元へに行き、そこで友奈に出会った。

そこで友奈は海斗に神樹の一部と彼女の魂の一部を海斗に分け与えたのだ。

そして海斗は目が覚めた。

これが奇跡的に命を取りとめたという真実なのだろう。

すると頬から一滴の雫が零れるのに気付く。

拭うとそれは涙だった。

それを自覚してしまうともう止められなかった。

 

「うぅ......っ、うあぁぁぁぁぁ.......っ!!」

 

やっと友奈の言葉に気付いた。

どうして彼女は肉体を失っても尚、他人のことを思い合えるのだろうか、どうしてそこまで命を......自身の生命(寿命)すらも分け与える事が出来たのかと。

すると千景が何も言わずに優しい笑みを浮かばせながら自身のハンカチを差し出してきた。

それを素直に受け取り涙を拭き取る。

拭き終えた海斗は俯きながら千景に言う。

 

「夢の中でさ.......友奈に会ったんだ。あいつに言われたんだ.......『生きろ』って」

 

懺悔をするように海斗は話続ける。

 

「俺が、生きててもいいのかな.......?人に与えられた命で何をすればいいのかな.......」

 

今の命はかつて高嶋友奈のものだった。

それを海斗は受け入れていいだろうか?

どうやって生きればいい、どうすれば報いれるのだろうか、頭の中で考えても答えは見つからなかった。

すると千景が海斗の手を優しく包みながらぽつりと話始めた。

 

「――ちーちゃん.......?」

 

「......私はこう思うわ。高嶋さんは貴方に幸せになって欲しいからこそ.......助けたんだと思う」

 

「――!」

 

千景の言葉に目を開かせる。

大切な誰かの幸せを願うのは人の性なのだろうか。

友奈は大勢を助けるぐらいには自己犠牲的だ。

だが彼女は一人の人間を救うことを決めた。

それが例え状態になろうとも躊躇わずに。

だからこそ『生きろ』と言ったのだ。

幸せを掴んで、生きて、生きて、生きた意味を見出すために。

彼女はそれを海斗に託したんだ。

想いも夢も。

それに気付いた海斗は千景の方に顔を向けて言う。

 

「.......ありがとうちーちゃん。もう、大丈夫」

 

「そう......良かった、もういつもの顔になったわね」

 

「いつもってどんな顔だよ......」

 

「ふふっ、秘密よ」

 

それが可笑しくて二人はいつの間にか笑っていた。

少し気が楽になった気がした。

 

「海斗、貴方に......伝えなければいけない事があるわ」

 

千景の言葉に空気はまた締まる。

海斗はそれを聞くために頷く。

 

「私達人類は.......バーテックスに敗北したわ」

 

「.......そっか.......」

 

大体の予想はついていた。

人間が神に挑むことはそう簡単にはいかない。

幾ら力が強くても幾ら知識や技術を上げても結局はその神は人間より遥かに強いのだから。

その後に千景から一ヶ月間の事を話してもらった。

神樹の結界以外は全て天の神に世界を変えられたこと、神に赦しを乞うために六人の巫女を生贄に捧げた『奉火際』を実行したこと。

その後の神託で勇者の力の放棄をする事を条件に天の神は攻めることをしなくなった。

その事で大社は大赦として名前を変え、年号も西暦から神世紀に変わった。

それを聞いた海斗は不敵にも笑ってしまう。

全く愚かなものだと呆れてしまう。

神に赦しを乞えたとしてもその何百年後にはまた攻めて来るというのに、それを先延ばしたに過ぎない。

何も解決などしていない。

だが、猶予は充分に出来た。

海斗はある事を決意した。

 

「ちーちゃん......俺は決めたよ。どんな事をしてもこの世界を守るよ。大赦だけには任せて置くわけにはいかない」

 

どうせ都合が悪くなったら直ぐに情報など隠蔽か改変なぞする神樹様を信教するインテリ集団だ。

なら戦いが終わり、勇者の経歴を抹消された海斗にとってそれは都合が良かった。

ならばその世界の統制さえ握れば大赦すらも下手に口を出して来ないだろと考えた。

千景によると既に若葉とひなたは大赦の改革を開始しており、杏と球子はその情報収集に回っている。

なら、こちらもやるしかあるまい。

最強の武器には最凶の武器で立ち向かえばいい。

 

「分かったわ......私も、貴方に着いていく」

 

「茨の道だぞ?」

 

「それでいいわ.......寧ろ、貴方を決して一人にはさせないわ。......ずっと傍にいて支える――それが私に出来る事だから」

 

幾ら引き離しても着いてくる。危険に晒したくないのに関わってくる。

こんな事を彼女に言わせるなんてどれだけ自分は屑なのだろうか。

だが、それがなんとも頼もしくて自然にやる気が湧いてくる。

千景が隣にいるならどんな事でも出来る気がした。

二人なら不可能なんてない、重荷を二手に分けて補う。

それが理想ならもうとっくに用意は出来ている。

海斗は息を吐くと笑みを浮かばせて千景の手を握った。

 

「なら、俺の背中を護って(支えて)くれ。俺も君を守るから」

 

「えぇ。私も貴方のためなら........妥協なんてしないから」

 

千景の目に決意が灯る。これで互いに目的は一致した。

ならあとはその下準備だ。

先ずは若葉達と協力して大赦のトップに立つことだ。

しかし、トップに立てたとしても海斗のした罪は消えないので三位ぐらいで丁度いいだろう。

そうすれば陰なりに探れる事もあるし、事を公にすることもない。

その後海斗は病院で三週間リハビリをしてある程度体力が付いた事で退院した。

そしてすぐさまこれからの事をノートに纏めて実家に帰省し黒結家当主の柊に見せた。

最初は断れるかと思ったが、素直に協力してくれる事になった。

何が何でも甘すぎるのではないかと指摘するが、「息子を信じなくて何が父親だ。好きにやればいいだろ?これはお前が始めたんだからな」と息子の海斗を信じたのだ。

母の暁も柊と同じで好きにやりなさいと優しく微笑んでくれた。

これでパイプも繋がったわけだ。

後は行動を起こすのみ。

海斗は丸亀城にある自室で手記(・・)を書いていた。

何時かこれが時代を超えて何かの役に立つと思い、海斗の時代の事や自身が勇者になった事、その後の事も全部記した。

その原文を二冊作りそれを若葉の方へ預け、もう一つは黒結家が貴重に管理する形になった。

これでいい。

後はバトンを誰かが繋いでくれるかを信じるだけだ。

その世界で何が起ころうが、決して人間は神すら負けないと信じているから。

だから自分がその道を作る糧になればいい。

それが託す者の務めなのだから。

手記を書き終え自室から丸亀城の城郭に向かう。

そこに辿り着けば綺麗な景色と四国全体を覆っている結界が見える。

 

「.......友奈、皆見ててくれよ。生まれ変わっても俺は勇者になって世界を取り戻すまで諦めないから」

 

すると近くにある桜の木が葉を揺らしてその葉が海斗が乗る車椅子(・・・)の膝元に降ってきた。

それを手で拾うと何故か新鮮味を感じた。

まるで誰かの存在があるかのように、幻覚かもしれないが確かな温もりがそこにあった。

散った花と葉は新たな生命の養分となる。

使い捨てにはならず、決して後世に新たな意味を託すのだ。

その託すものの名前は『勇気』である。

別名――『希望』と言うし『願い』とも言う。

例え今は小さな一歩でも前へと進めば――その歩みこそが未来へのバトンとなる。

これは――大切なものを失っても守り、抗い続けた一人の勇者の物語。

その名も―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒結海斗は勇者である

 

 

 

 

 

 





これで乃木若葉の章(くかゆ)は完結になります!
自分が勇者シリーズを書いてから約半年.......本当に読んで下さりありがとうございました!

次回はようやくわすゆ編を本格的に書きます。
楽しみにお待ちくださいな!
これからも『華結を繋ぐは勇者である』を宜しくお願いします!

ではわすゆでまたお会いしましょう!
さらば!
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