華結を繋ぐは勇者である   作:バルクス

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どうもバルクスです。
やっと本編を少し書けましたぁ!
そのせいで1万文字は軽く超えたんですけどねw
でもまぁ、ここから本番なので頑張ります!
後、友奈の海斗呼びが「うみ君」から『うみくん』に変更しました。
御理解お願いします。


では本編どうぞ〜(∩´。•ω•)⊃


第3話:海は結びを解いて武器を取る

 

 

「.......」

 

西暦2018年、八月末日。

まだ日差しが強い中、丸亀城内部の改装された放送室で海斗は太陽が当たらない位置で座っていた。

かれこれ10分前に着いて、放送室にいたが、ただやる事もないので、前に四国の勇者の一人に貸してもらった本を読んでいた。

前に『なにかおすすめな小説はないか』と気まぐれに聞いてみたら目を輝かせてこちらに迫ってきた時は驚いた。

海斗が小説を貸してもらった時。少々彼女の鼻息が荒かったが、恋愛小説やその他のジャンル系の小説に興味持つ仲間が増えたのだから興奮もするし仕方ないだろうと納得した。

なんでもその小説は偶然にも男が無数の羽を持つ天使と自身の寿命と引き換えに契約し大切な人を守り抜くというダークファンタジーのライトノベルだ。上下巻構成で今はその上巻を読んでいる。

率直で言わせてみれば分かりやすい。

主人公の使命や生い立ち、その他のヒロインとの関わり方。若干ハーレム寄りだが、結局はヒロイン一筋という王道系の流れは組んでいる。

 

「選択肢が残酷だよな.....」

 

海斗は読み終わったページをペラペラと次々捲り、ボソッと言葉をこぼす。

この小説は主人公の精神を片っ端から折っていくのだ。

例をあげるなら、ヒロインと幼馴染のどっちを助けるのかを迫られる。片方助けたらもう片方は死ぬし、両方助けられなかったら主人公の心も死ぬ。

結果、主人公はそのヒロインを救うため幼馴染を犠牲にした。

でも、それでもヒロインは泣きながら主人公を責めてしまった。

『何で私じゃなくてあの子を助けなかったの!!』

と主人公の胸を泣きながら何回も叩いた。

誰も悪くは無いこの状況なのだが主人公は結局自分と長く過ごした大切な人を見殺しにした。

それからして主人公は何も言わずにヒロインと距離を置いて陰ながら見守った。

主人公は精神的にはもう限界の筈なのにどんな行動力で立ち上がっているのか、どうして何もかも失ったというのに敵と戦うのか、どうして責められても好きな人に何も言わなかったのか。

 

それは――彼女を愛していたからだ。

どんな時でもどんな状況でも、天使(悪魔)と契約した男は諦めず、自身が死ぬまでヒロインと自分の大切な人達を守り続ける為に。

 

「.......」

 

パタンと音を鳴らし、上巻を読み終えた海斗は本を制服のブレザーの内ポケットに閉まった。

それと同時に放送室から廊下に続く階段から誰かが上がってくる音が聞こえ、そこから金色の髪を後ろで纏めて揺らしながら刀を片手に持った制服姿の乃木若葉が現れた。

若葉も海斗に気付いて口を動かす。

 

「――やはり先に来ていたか」

 

「お前が来る10分前から着いてたよ」

 

海斗は嫌味ぽく手をヒラヒラと若葉に振りながらそう言った。

若葉は海斗の軽口を逆にふっと笑って流し放送室にある通信機の元に向かい座った。

 

「諏訪との通信を始めるぞ」

 

「うぃー」

 

若葉は真剣な目に変わり、海斗は軽い返事をして通信機の方に向いた。

無線機のスイッチを入れて通信を繋ぐ。

しばらくの雑音後、落ち着いた少女の声がスピーカーから発せられる。

 

『......諏訪より、白鳥です。勇者通信を始めます』

 

「香川より、乃木だ。よろしくお願いする」

 

「同じく香川より、黒結だ」

 

通信機から発せられた声は長野県諏訪湖東南で勇者をやっている白鳥歌野。

彼女は一人で諏訪を守り続けている。

 

「白鳥さん、そちらの状況はどうだ?」

 

若葉は諏訪の状態を歌野に聞く。 白鳥は若葉の返事に落ち着いた様子で応えた。

 

『芳しくはありませんね。もっとも、そんなことをいえば三年前のあの日から状況が芳しかったことなど一度もありません』

 

「......違いない」

 

「......」

 

若葉は口調が暗くならないように努めた。

海斗は何も言わずにただ黙って話を聞いていた。

元々長野は、諏訪湖を中心にもっと広い地域があった。

しかしバーテックス出現から3年の間に、次第に地域は侵攻され、今保たれているのは諏訪湖南東の一部のみなのだ。

 

『今は現状維持ができるだけ........でしょう』

 

通信の途中でノイズが入り、白鳥の声が乱れた。

 

「すまない、通信にノイズが入ったようだ」

 

『ああ、現状維持ができるだけでも御の字だと言ったのです。通信ノイズ、最近多くなっていますね』

 

「そうだな......」

 

『この通信も何時まで続けられるか......』

 

「......」

 

考えると少しだけ気分が沈む。若葉自身も分かる。今彼女達は何も出来ないことに。

何とかしてあげたい、助けてあげたい。

それを考え続ければ続く程、さらに気分が沈んでいく。

すると、今まで黙っていた海斗が目を開け、勝手に若葉から無線機を取り上げ口を開いた。

 

「こちら、黒結です。なぁ白鳥、そろそろ乃木との決着をつけたらいいんじゃないか?」

 

海斗は冗談めいた口調で沈んだ空気を変えた。

若葉の方を見て無線機を投げ返す。

投げ返した時に若葉は驚いて両手でキャッチをした。

その時海斗を睨んできたので視線を外しておく。

 

『黒結さん?え、ええ......そうですね。私もそう思っていたところです。今日こそは雌雄を決しましょう........』

 

「......そうだな。私も同じだ」

突然の事で歌野の方も通信機のスピーカーから聞こえてくる若葉の声から海斗に変わったので驚いた。

そして歌野も若葉も不敵に答える―――

 

『「うどんと蕎麦、どちらが優れているか、を!」』

 

同時に若葉の声と歌野の声が重なった。

それからどちらの食が勝っているかを熱弁したり、うどんと蕎麦に含まれている栄養素も語っていく。

それをひっそりと若葉から距離を取り、遠くの柱から海斗はこれから起こる接戦に備えて、制服のポケットからスマホとイヤホンを出してイヤホンを両耳に付けてスマホに挿して曲を聴き始めた。

決して面倒事に巻き込まれるとか思っている訳では無い.....多分。

両耳から音楽が聞こえると目を閉じて意識を集中する。

優しい歌だが、歌詞は現実を突き付ける言葉ばかりだった。だが、海斗はこの曲が好きなのだ。

夢物語よりやはり自分の手で真実を掴みたい。

実体があれば自分が生きていると実感が湧いてくるのだ。

先程読んだ小説も現実的ではないが、心情を書けば人の心は揺れ動くというのを勝手に説明してくれる。

例えどんな状況だろうと、どんな事があろうとその先は誰にも分からない。

この3年間、鍛錬を絶え間なくやってきた。

辛い事は何回もあったし、逃げ出したい時もあった。

でも、三年前。海斗が初めてバーテックスと対峙した時の光景は忘れられない。

あの時、偶然でも勇者としての力に目覚め、その力を使いこなしていれば多くの人をこの手で救えた。

誰一人も殺されずにすんだ――

人と人の醜い争いを止めることが出来た――

バーテックスの攻撃から庇って、致命傷を負ったにもかかわらず、死ぬ最期までずっと海斗の心配をしてくれた巫女を殺されずにすんだ―――

経験も肉体も精神も出来上がってない子供が何を言っても周囲の人は誰も悪くないと言うだろう。

責めようとは思わないだろう。

虐げることはしないだろう。

でも――それは自分にとっては慰めにもならない。

否定しても背けても、現実(弱かった自分)は変わらない。起こった結果は二度と戻らないし戻せないことも知っている。

だから俺は(海斗は)今までの自分を殺すことにした。

弱いままじゃダメだと、今の自分じゃ誰も守れないと。

他人の繋がりも血の繋がりも自分から断ち切った。何もかもを――

例え――大切な人と過ごせなくても。

例え――自分が傷付いたとしても、倒れそうになっても――

今度こそは護り抜くと。

 

 

「......」

 

5曲目が終わったぐらいで目を開けるとやっと歌野と若葉の戦争(うどんと蕎麦の魅力)が一旦幕を下ろした。

若葉の方を見ると笑っていた。

どうやら引き分けになったらしい。

音楽であまり聞こえなかったが、丸亀城の校内からチャイムが鳴る音が小さく聞こえていたのでそれで分かった。

丁度イヤホンを耳から外すと若葉の声が聞こえてきた。

 

「時間切れか。蕎麦は命拾いしたようだな」

 

『それはこちらの台詞です。うどんこそ命拾いをしましたよ。明日からは新学期が始まりますから、通信は放課後の時間にした方がいいですね』

 

「うむ、そうしよう。では、また明日も。諏訪の無事と健闘を祈る」

 

『四国の無事と健闘を祈ります』

 

若葉と歌野はお互いの地域の無事を祈った。

すると、通信を切ろうと思った歌野だったが、唐突に声を発する。

 

『すいません、もう1つ言うのを忘れていました』

 

「む?どうしたんだ一体。もしや、うどんの魅力に気づき始めたのか?」

 

若葉はニヤリと冗談混じりに歌野に言うが歌野は違いますよとスピーカーで伝える。

 

『黒結さんに聞きたい事がありまして......』

 

「俺に?」

 

若葉から渡された無線機を取り、海斗は言う。歌野は少し間を開けると再び声を発した。

 

『黒結さんはうどんと蕎麦、どっちが好きなんですか?』

 

「――!?」

 

「は?」

 

突然なんだろうと身構えたが、まさかさっき話していたうどんと蕎麦の話に戻るとは......確かに両方栄養はあると海斗は思う。

でも、片方を選べと言われてもどっちも嫌いじゃないから選べない。寧ろ両方好きな食べ物に入るので発言しずらい。

 

「(.....というか、さっきから乃木からの強い視線があって、言い難いんだが......)」

 

意を決して言おうとするが、隣には強い目付きで睨んでくるうどんを愛す剣士兼勇者リーダーの乃木若葉さんがいるのだ。

その視線で人を殺せるんじゃないだろうか?

正直に言うとか死刑に当たるんじゃないだろうか?

そして、どうして歌野は自分にそれを振ったのだろうか?

ただの興味本位なのだろうか。だとしたらタイミングというものがあるだろう。

そう心の中でぼやくが、そろそろ言わないと若葉に殺されかねないので、海斗は腹を括って口を動かした。

「正直に言うが、どっちも好きだからあまり、考えた事がない」

 

「『........』」

 

平然を装ってこの場を切り抜ける事を目指した海斗だったが何故だろうか、若葉と通信機から聞こえてくる歌野の声が無言に変わる。

 

『.....やはり黒結さんはオールラウンダーなんですね』

 

 

「まぁ、黒結は私が食事中にうどんも食べろと言ってもその日の気分で色々料理を変えてくるからな」

 

「別にそんなの人の勝手なんだからいいだろ」

 

2人の言葉に突っ込みせざるをえない海斗だった。

はぁとため息をこぼすと無線機を持つと歌野と交信をする。

 

「他になにか聞きたいことはないか?」

 

『はい、もう大丈夫ですよ。質問に応えてくれてありがとうございます』

 

「別に。俺も蕎麦とうどんの魅力は知ってるからな」

 

そう言う海斗は無意識に微笑んでいた。

 

 

「と、いうことだ白鳥さん。決着はまた、放課後に」

 

今まで海斗を鬼の形相で睨んでいた若葉がいつの間にか笑みを浮かべ歌野に向かって口を動かす。

 

『はい、乃木さん。また放課後に』

 

そう言った歌野の言葉を最後に若葉は通信機のスイッチを切った。

 

「さて、この後はどうするんだ黒結?」

 

若葉は刀を取り立ち上がった。 海斗も後に続いて立ち上がり制服のスボンに付いていた埃を払った。

 

「あー俺は、いつも通り部屋で引きこもってるよ」

 

「......相変わらずだな」

 

「まぁ今日は鍛錬もないしな俺的にはこんな暑い中外に出るとか正気じゃねぇよ」

 

「そうか。相変わらずお前らしいな」

 

若葉が苦笑いを浮かべ言うと海斗は若葉の顔を見ずに後ろを向いて手を振りながら階段を降りていった。

それから廊下を歩いていた海斗は数歩で止まった。

丸亀城に付いている窓から見える四国の海を見つめた。

しかし、その目線は海ではなく、海の奥にある白い壁を強い眼差しで見つめていた。

 

 

「.......」

 

海斗は静かに海の奥にある壁を見ながら手を伸ばし思いっきり掴む。

 

「俺は......絶対にお前らを殺す」

 

その目は憎悪にも近い赤く燃え上がる瞳で壁のずっと奥を見通していた。

この復讐心は絶対に消えないだろう。だがそのお陰で今の海斗がいるのだ。

それがあるだけで海斗は前に進める。

その道が屍の道でも、茨でも、泥でも、どんな道だろうとも喜んで前に進もう。

 

「待ってろよ頂点(バーテックス)様。必ず人間がお前ら化け物を殺せる瞬間を見せてやる」

 

この場にいない化け物達に海斗は呪いを振り撒く。

 

「.......首洗って待ってろ」

 

海斗は伸ばしていた手を下げて廊下に身体を向けて歩みを始めた。

自分の人生は化け物に変わらされた。だから今度はこっちがあの化け物に対して報復させてやろう。

絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

九月になり、今日から勇者達は新学期になる。

もっとも、海斗とその勇者達は訓練の為に夏休み中でも毎日学校に通って休みを満喫というのが出来なかった。

勇者と巫女も入れて、人類をバーテックスから守る最後の矛であり、希望なのだ。

日々の訓練は欠かしたら駄目なのだ。

その新学期初日に海斗は呑気に歩いていた。

もう登校時間は過ぎているのに気にせずゆっくりと自分が住んでいる寄宿舎の部屋から出た。

しかもスマホから曲を流して聴きながら。

数分で教室に着いた。扉越しだからか少しだけ大きな声が聞こえるが海斗は気にせず、扉を開けた。

すると教室がいる勇者達と巫女1人が海斗の方に全員振り向いた。

 

『.......』

 

「.......」

 

ちらっと視線だけ勇者達と巫女を見た海斗は何も言わずに肩にかけていた鞄を机に置いて勉強道具を取り出した。

その後に教科書も出して机の中に入れた。

すると机に荷物を入れ終わったのと同時に明るい声が聞こえた。

 

「うみくん!おはよー!」

 

赤い髪に桜の髪飾りをしている少女、高嶋友奈が海斗に話しかけてきた。

その声を聞いた海斗は心底うざったそうに眉を顰めながら口を動かす。

 

「高嶋。何回も言うが、俺の方に来るな。目障りなんだよ」

 

「えぇ!そんな事いわないでよー!私、うみくんと仲良くなりたいだけなんだよ?」

 

強い口調で友奈に言う海斗だが、友奈は臆すること無く笑いながら口を開く。

 

「そもそも、俺はお前に興味が無い。仲良くなりたいとも思わないしな」

 

「そんなぁ......」

 

海斗は友奈に辛辣な事を言うが友奈はなんとも思ってないようだ。

それもそのはず、これが何回も続いているのだ。

友奈はこの中でムードメーカー的な存在で周りを大切に思っている。

その中、唯一海斗だけは周りと距離を置くのが気になる。

それも事情があるのは分かるが、勇者として友達として一人が輪に入ってないと悲しいし、そんな暗い空気が嫌な友奈は何としても皆と仲良くして欲しいが為にまず、自分から海斗に声を掛けている。

まぁ、何回もやってもこうやって強い口調で突き放されるのが多いのだが。

しかし、何回も同じ事をやってると変わるものもあるらしい。

 

「......ほらよ」

 

「え?」

 

海斗がいきなりポケットから一個の飴玉を友奈に投げつけてきた。

友奈はそれを両手でキャッチをするが、目を点になってこっちを見る。

 

「これって.....飴?」

 

「......勘違いすんな。丁度ポケットにあったから渡しただけだ」

 

海斗はそう言うと友奈から顔をプイと逸らした。

友奈は海斗の言葉に笑みを浮かべながら口を動かす。

 

「(前に聞いたぐんちゃんの話、根元にある優しさは消えたわけじゃないんだ....)」

 

ただ海斗はそれを隠しているだけで多分だが、彼も友奈と同じで誰かが悲しい顔をしてるのは見たくないのだろう。

言葉と行動が矛盾しているがそれが黒結 海斗の優しさなのだ。

千景が言った海斗の優しさ。

海斗自身も気付いてはいないが、本来は優しい人物なのだろう。

でもバーテックスが襲来してから彼の性格は変わった。

それは千景から見ても一発で分かるらしい。

海斗を見ている千景は何時も悲しい表情をしながら彼を見ていた。

それをどうにかしてあげたい友奈は学校や訓練がある時、放課後の時も千景と一緒に海斗に声をかけ続けていた。

それでも彼は変わらなかったが、何も無駄ではなかった。

友奈がわざと悲しい表情をしたら、ポケットから飴玉を渡してくれたのだ。しかも、桜味で嬉しかった。

少しずつだが、彼も友奈との関わり方を変えてくれるらしい。

まぁ、対応は変わらないが。

 

「ほら、それでも食ってあっちでもいってろ。そもそも邪魔」

 

海斗は強く言うが友奈は気にせず笑顔を見せる。

 

「ありがとう、うみくん!いただきます!」

 

瞬間に友奈は海斗に貰った飴を口に入れた。

ほんのり桜の味がして飽きない。

 

「うわぁ!これ、すごく美味しいよ!」

 

「.......そっか。用はすんだろはよ自分の席かちーちゃんの方に戻れよ」

 

「はーい!また後で来るね!」

 

手でシッシッと振る海斗。友奈は気にせず手を振って、千景がいる机の方に向かい、話し始めた。

 

「.......はぁ」

 

それをため息を吐いて遠くで友奈達を見る。

やっと離れてくれて助かったが、正直やめて欲しい。

なのに毎回教室とかに絡んでくるし、一体何が目的でこっちに来るのか分からない。

それで、口調が強くなり言葉を発して、友奈を傷付けてしまったと思った海斗は丁度手元に桜味の飴があった。

それを友奈に渡すと彼女は喜んでくれた。

自然と恥ずかしくなったのを自覚して反射でそっぽ向いてしまった。

でも、それでいいと思った。

今の表情を見られたら絶対弄られるのだ、それは何としても阻止しなければならない。

ある程度鞄に入っている荷物を机にしまい終わり椅子に座ろうと腰を掛けるが、視界に小柄の少女とその少女を追いかけてきた物静かな少女が目に映り海斗の方にやってきた。

 

「よ、カイト!また友奈を泣かしたのかぁ〜?」

 

「おはようございます、海斗さん」

 

「.......」

 

先に声を発したのは小柄の少女だった。

土居球子。勇者の1人で勇者武器は盾の旋刃盤。

盾にも出来て敵にも投げ付けられるという。

弱点としては盾を投げている時は球子自身が無防備になり、逃げ回るしかない。

勇者の中では友奈と同じく元気でお調子者。

明るいのだが、たまにうるさい。

後はアウトドア用品とかを買うのが趣味らしい。

そして球子の後に続いて来たのは物静かな少女。

伊予島杏。球子とは違って物静かな娘だと海斗は思う。

でも彼女は本がとても大好きで、一番好きなのは恋愛小説のジャンル。それ以外の小説は好きらしいが基本的によく見るのは恋愛ものばっかだ。

それぐらい彼女は愛が付くほど小説を愛している。

以前に海斗も彼女に本を貸してもらったのが本人であり、杏よりではないが海斗も本を読むことがあるので偶にだが話す事はある。

彼女が使う勇者武器はクロスボウの金弓箭。

普通のクロスボウは一発装填式だが、勇者の武器は神器で出来ているため連射も造作もない。

 

「全く。人の気遣いも無下に出来るのはお前だけだよもう少しタマ達と話す事はしないのか?」

 

「タマっち先輩、そんな事いわないの。海斗さんだってなにか事情があると思うし......」

 

「別にいいだろ、あんず!」

 

海斗に嫌味を言うかのように話す球子。

それを見て止める杏。

それに海斗は疑問的に声を発した。

 

「何でお前らと話さないといけないんだよ」

 

「何でって、それは......タマ達だって勇者だろ?連携とか相性とかで話し合うためとか、後は......タマはお前と話したいんだ」

 

「それになんの意味がある?俺と話し合ったとしても、連携とかつくものなのか?」

 

ため息を吐きながら海斗は話を続ける。

 

「確かに俺は勇者だ。だがな、俺は一度も仲間や戦友とは思ったことは一度もない」

 

海斗の言葉に球子と杏は肩を震わせ目を見開いた。

すると球子が口を動かす。

 

「どうしてそんな事いえるんだよ」

 

「俺には必要ないからな」

 

「お前はタマ達の事をなんだと思ってるんだよ!」

 

海斗は突き放すように球子に言うが、それに球子は声を高くして海斗に反論する。

 

「何故だろうな?お前が俺より弱いからなんじゃないか?」

 

「ッ!?」

 

「そもそもお前の武器は盾なんだろ?それをバーテックスに投げたらお前はしばらく無防備だ。それに対して一人を守るのに何故他の人材を回さないといけない?俺はそんな重荷背負いたくないね」

 

「......タマは......」

 

球子が何かを言おうとしたが海斗は続けて言い続けた。

 

「それをするんだったら俺や乃木達じゃなく、もっとマシな動きでやってみせ――」

 

「やめてください!」

 

突如杏が声を発した。それに気付いた海斗は黙る。

 

「海斗さん、もういいですよ。そんなキツイ言葉を使わなくてもタマっち先輩には聞こえてますから!」

 

「あんず......」

 

 

「ちっ......」

 

海斗は舌打ちした後にこれ以上は無駄と判断したのか自分の席に座りそれ以降口を開かなかった。

球子と杏は大人しく自分の席の方に戻り授業が始まるまで話し合った。

でも杏は海斗の本心には気づいていた。

あれは確かに嫌悪感を出していただろう。

だが、海斗は本来は優しい人なのだ。

あれも球子を自分から遠ざけるようにして、『周りに守ってもらって今度はそいつらを代わりにお前が守れ、俺の事は気にするな』と言ってるような気がした。

視線だけ海斗の方を見るといつの間にか机に突っ伏して寝ていた。

なんともまぁ、マイペースで不器用な男だ。

だが、そこのところが優しい一部なのだろう。

海斗の過去に何があったのかは杏は知らない。でも、バーテックスが襲来したあの日、相当辛い思いをしたのは分かる。

あの目だけは小説でも読んだ杏でも分かる。

あれは、復讐に燃える人の目だ。

とても危険なはずなのに何故か危険とは思わない。

これから先に何があるかは分からないが、少しだけ杏は海斗の様子を見ることにした。

それからして午前の授業が始まった。

 

 

 

 

 

午前の授業と勇者の訓練が終わり、昼休み。海斗は勇者達と巫女を入れて八人で食堂で昼食を食べていた。

最初海斗は一人で食べようとしていたが、教室から食堂に向かおうとした瞬間に若葉と球子に捕まって一緒に食べることになった。

海斗達は各自セルフサービス形式の食事をトレーに取っていく。勇者と巫女達の食事は全て無料で支給されるのでお金は払わなくてもいいという親切心がある。

海斗的にはありがたいが、どうも大社は表向きではサポートに徹するとは言っているが裏では勇者達を信仰の対象として見ている事が多々ある。

それも仕方ないのだろうか。バーテックスと戦えるのは現代の兵器ではなく、勇者達が持っている神器だけなのだから。

人類最後の希望なのだろう。

頼んだ食事をトレーに取った海斗はその後、勇者達と巫女がいる一つのテーブルの方に向かい空いている席に座った。

因みに皆うどんを頼んでいてそれぞれ違うトッピングをしていた。

流石四国民だ。うどん因子を植え付けられた者はうどんしか食べれない身体になっている。

ただ海斗だけは2つトレーに食事を置いていた。

 

「訓練の後のご飯は美味しい!」

 

すると友奈が屈託のない笑顔でそう言ってうどんをすすっていた。

周りはそれを微笑ましげに見ている。

 

「こら、あんずっ。行儀が悪いぞ」

 

「あぁ!今、いいところだったのにぃ......」

 

今度は読書をしながら食べている杏が球子から本を取り上げて注意をする。

杏は本が読めなくなった事によって悲しげな声をあげた。

彼女が読んでいたのは中高生向けの少女小説だった。

杏は本が好きで、いつも文庫本をポケットの中に忍ばせている。

 

「ダメだ、食べ終わってからな」

 

「はーい......」

 

杏は諦めてうどんを食べ始めた。

 

「......にしてもさー、毎日毎日訓練訓練って、なんでタマたちがこんなことしないといけないんだろーな」

 

ボヤくように球子がそう言った。

それに対してひなたが言葉を返す。

 

「バーテックスに対抗できるのは勇者だけですからね......」

 

「 そりゃ分かってるよ、ひなた。でもさ、普通の女子中学生や男子中学生って言ったら、友達と遊びに行ったり、それこそ恋......とかしちゃったりさ。そういう生活をしてるもんじゃん」

 

球子はため息をつく。

 

「今は有事だ、自由が制限されるのは仕方あるまい」

 

若葉の答えに、球子は納得していないように腕を組んだ。

 

「う〜ん......」

 

「我々が努力しなければ、人類はバーテックスに滅ぼされてしまうんだ。私たちが人類の矛とならなければ――」

 

「分かってるよっ!分かってるけどさぁっ!」

 

球子が声を荒げた。そしてすぐに顔を俯けてぽつりとつぶやく。

 

「あ......ごめん......」

 

「タマっち先輩......」

 

杏は球子の服の裾をそっと握り、彼女を見つめた。

その瞳は不安そうに揺れている。

場が一気に沈黙する。

若葉も球子の気持ちが理解できた。球子はわがままで不平を言っているのではなく、不安なのだ。

バーテックスとの戦いには危険が伴う。もし実際にバーテックスとの交戦になれば、生き抜けるかどうかは分からない。寧ろ、命を落とす確率の方が飛躍的に高い。

若葉は三年前の事を思い出す。

あの時バーテックスが襲来した日、勇者として力が目覚め戦った時もひなたがいなければ殺されていたかもしれない。

そして球子は自分以上に杏が傷つくのを恐れているのだろう。

俯いた球子を見ながら若葉はそう思った。

一方、杏の方を見ると、彼女も球子を見ていた。

杏は運動が得意ではなく、格闘技の訓練でも一番成績が悪い。

いざ、戦いとなった場合、命を落とす可能性が最も高いだろう。

そして、重い沈黙を破ったのは今まで黙っていた海斗と友奈だった。

 

「ごちそうさま!今日も美味しかった!」

 

「ごちそうさん」

 

汁まで飲み終わった丼をテーブルに置いて、友奈は満足そうに、海斗はトレーに2つあったうどん特盛と(トッピング付き)と笊蕎麦を平らげ2人は手を合わせる。

 

「うわぁ!うみくんめっちゃ食べるね!」

 

「るっせ、訓練後だとこんぐらい食べないと動けないんだよ」

 

「いいなぁ......私も男になりたかったぁ〜」

 

「お前が男になったとしても胃袋の大きさは変わらないだろ」

 

「あ!それもそっか」

 

えへへ、と笑いながら友奈は隣に座っていた海斗と話し合っていた。

海斗は友奈にいつもと同じく冷たい態度をとっていた。

そして友奈がキョトンとした顔で、周りを見回した。

 

「あれ、どうしたの、みんな?深刻な顔して」

 

「.......友奈......さっきまでの話、聞いていなかったのか?」

 

「え、えっと......ごめん、若葉ちゃん!うどんが美味しすぎて、周りのことが意識から飛んじゃって.....」

 

その場にいるみんなが、一斉にため息をついた。

 

「ええ!?なんでみんなため息つくの!?」

 

「お前がバカだからだろ」

 

「うみくん酷いよ〜!」

 

友奈は心外だと言うように周りを見回して――

 

「大丈夫だよ。私たちはみんな強いし、みんなで一生懸命頑張ればなんとかなるよ!」

 

笑顔で、そう言いきった。

 

 

 

 

 

 

昼食を終え、午後の授業も終えた海斗は廊下の窓から見える四国の景色を眺めていた。

 

「......海斗」

 

ふと、後ろから声が聞こえ振り向くとそこには制服に赤いセーターを着た千景がいた。

 

「ちーちゃん......」

 

海斗は少し驚いた。普段千景は友奈と一緒に行動してるからだ。内気な彼女はあまり自分の事を話さないし自ら他人に話し掛けようともしない。

だが、一度心を開いた相手には積極的に話すそうだ。

海斗もその一人に入ってるのだが、彼自身から千景と距離をおいている。

 

「......隣、いいかしら?」

 

「ん......」

 

千景の言葉に海斗は短く返事をして頷いた。

彼女が隣に来ると海斗は少し距離を離れてしまう。

不満そうだったが、それをみた千景は苦笑してしまった。

 

「何しにきたんだ」

 

「......ただ貴方と話したかった、と言えば納得する?」

 

「......」

 

純粋な言葉に海斗は警戒を解くしかなかった。

彼女も唯一の幼馴染でもあり、大切な人と会話が出来ないと悲しいのだろう。

 

「お昼の時、高嶋さんと周りを明るくしてくれたでしょ?」

 

「何の事だ?」

 

千景の発言に海斗は首を傾げた。

 

「誤魔化してもダメよ。私でもわかるわ」

 

千景は自信満々に笑みをみせた。どうやらバレていたらしい。

海斗はふっ、と鼻で笑い口元が緩めた。

 

「やっぱ......ちーちゃんには敵わないな」

 

「そうかしら?あまりそういうのは分からないわ」

 

千景は自信なさそうに言うが、彼女は人の感情に敏感だ。

そして、誰よりも優しい。

小学校5、6年までずっと一緒にいた海斗にとってはそれが分かる。

小学の頃。彼が転校してくる前からずっと千景は虐められていた。

その原因は千景の両親だというのに.......そのせいで千景は地域では疎まれ学校では虐げられ、身体には消えない傷が残ってしまった。

そして海斗が転校してきた初日。偶然千景が生徒から虐められている所を目撃してしまった。

ここから彼と彼女の出会った瞬間だ。

千景の虐めを止めた海斗はそれから色々あったが、彼女と一緒にいることが多くなった。

よく千景は海斗の家に来てたり泊まることも多かった。

大抵やるのはゲーム機で対戦か協力プレイ。

人生で初めて親友というものができた海斗と千景。

互いに信用も信頼をしていてこのまま大人になるまでずっと一緒にいたかった。

だが、あの日(7月30日)がなければ――

 

「.....海斗?」

 

「ん、どうした?」

 

「いえ、私を見て貴方がぼぅとしていたから」

 

どうやら昔の事を思い出していたらしい。

あの時は自分らしくいられた(・・・・・・・・・)日だった。でも今はもう戻れない、戻りたくない。

もし、戻れるとしたらバーテックスが全て根絶したらだろう。

再び千景の方を見てみると頬を赤くしていた。

 

「どうしたちーちゃん?顔が赤いが?」

 

「ふぇ?あ、あぁいえ、大丈夫、大丈夫よ!」

 

声が高くなっているが、何かあったのだろうか?

海斗は身体を千景の方に向き、千景の額に左手を添えた。

 

「か、海斗!?」

 

額に手が触れたその瞬間に肩をビクッと震わせた千景は頬と一緒に耳まで赤くなった。

 

「熱は......ないか」

 

「な、なにをしてるのかしら?」

 

「何って、顔が赤くなってるし、熱でもあるんじゃねぇかなと?」

 

千景が海斗の行動に対して問いたが彼は疑問形で返した。

熱がないと確認し終わった海斗は千景から離れた。

離れようとした瞬間に何故か千景が残念そうな表情をしたのは気のせいだろう。

 

「まぁ、熱がないならいい」

 

「え、えぇ......ありがとう......」

 

お互い沈黙が続く。

なんか気まずい雰囲気が流れているが、何かしたのだろうか?

どうにかしなくてはいけないと思った海斗はこの沈黙を打破する為甲高く声を発する。

 

「そ、そろそろ俺は放送室行ってくる」

 

「え?えぇ。分かった」

 

そう言うと海斗は放送室がある方に早歩きで向かった。

その後ろ姿を見ていた千景は自身の額を右手で触れた。

そこには自分の体温かまたは海斗の温もりか。だが後者の方が彼女は嬉しいと思った。

まだ彼の優しさは残っていた。

ただ密かに影を潜めていただけだったのだ。

今はそれだけ確認出来れば良い。

後は千景自身(・・・・)が彼の凍った(優しさ)を溶かせばいい。

これだけは譲れない。

 

 

「例え、高嶋さんでも彼を取るだけは許さない」

 

自分でも気付かぬ間に笑みが漏れていた。しかし、この笑みは喜びと言うのだろうか。

海斗以外に唯一心を許せる友奈でも渡したくなかった。

彼女は千景が海斗と話す為に積極的に話し掛けるのだ。

とてもありがたいのだが、それを見ていると海斗が友奈に千景とは違う優しさを向けているのが嫌だった、胸がキュッとして苦しかった。

自分でも分かる。

私は彼に救われた。彼が一番の居場所であり、拠り所なのだ。

既に何かが壊れていた気がする。

 

「(海斗、私が絶対に貴方を救ってみせる。守ってみせるわ絶対に!)」

 

歪んだ口元で微笑みながら千景は海斗が見えなくなるまでその後ろ姿を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、乃木と白鳥は今頃楽しく通信をやってるんだろうなぁ.......」

 

放送室に続く階段を見ながら海斗はそう呟く。

正直その間だけは入りたくないと思ってしまう。

そう思いながら海斗は恐る恐る階段をゆっくり上がった。

すると声が聞こえてきた。

一人は若葉だが、もう一人はひなたの声だった。

 

「長野地域は......終わってしまったんですね」

 

「.......は?」

 

今、なんと言った? 長野が終わった?バーテックスの被害にあって壊滅したのだろう。

その事実を海斗は冷静に受け止めた。

長野が終わったのならもう、白鳥との通信は出来ないということ。

まただ。また、見ているだけで何も出来なかった。

拳を強く握りながら奥歯をギリッと噛む。

もし、結界の外に出れて諏訪の方に行ければ白鳥や長野の住民達を救えたのだろうか?

だが、現実はそう甘くない。

何時だって残酷なのだ。

結果という名の終焉(バットエンド)を見せてくる。

 

「.......?」

 

意識を戻すと突如――海斗のスマホから耳障りな警報音が鳴り響いた。

それを取り出して見ると『樹海化警報』という文字が真ん中にでかく表示されていた。

樹海化――それは四国を囲む結界にバーテックスが侵入してきた際に起こる現象だ。

その現象を海斗は授業で聞かされていた。

四国の海に壁が発生して以来、神樹がバーテックスから人々を守るために起こすようになったと。

急いで階段を上って若葉の方に向かうと彼女のスマホも海斗と同じく警報音が鳴っていた。

そして、気付いた。

遠くから見える海の波、海上を行く船、蝉の鳴き声、宙を舞う木の葉が.......全て静止している。

若葉の隣を見ると既にひなたも動きを止めていた。

 

「乃木」

 

「あぁ......わかっている」

 

諏訪を潰し、次の標的は人類の砦である四国へも、遂に奴らは侵攻してきたのだ。

 

「来たか......バーテックス......!」

 

若葉が言うと周囲の光景が、急激に作り変えられていった。

大地、建物、車、人々が、海の向こうから伸びてくる巨大な植物の蔦や根に覆われていく。

 

「.......なぁ、乃木」

 

「なんだ?」

 

樹海化していく中、海斗は若葉に声を掛けた。

 

「白鳥は最後に何か言っていたか?」

 

「.......『後はよろしくお願いします』だそうだ」

 

若葉は海斗に歌野の言葉を伝えた。

それを聞いた海斗は口を三日月状に変えて、笑った。

 

「そっか........」

 

歌野は諏訪が壊滅する、最後の最後まで抗い続けたんだ。

そしたら次はこっちが抗う(受け継ぐ)番だろう。

その勇気のバトンはこちら(四国)に託された。

 

「行くぞ、黒結」

 

「......あぁ」

 

若葉は生大刀を持ち海斗は片手にスマホを構える。

 

「人類を守る御役目、諏訪より確かに受け継いだ。我ら四国勇者が、この丸亀城にて迎え撃つ!!」

 

若葉が言うと完全に景色は光に覆われ、その光景はあっという間に樹海に取り囲まれた。

即座に若葉と海斗はスマホに入っている勇者アプリを起動させた。

体が光に包まれ、纏う衣服が変化していくのを感じる――それは勇者の戦装束。

神樹の力を宿し、纏う者の身体能力を格段に上昇させる。さらに全身が神の力に包まれることで、専用武器以外でのバーテックスへの攻撃が可能だ。

要するに拳が鈍器と化すような感じだ。

これを作ったバーテックス対策組織『大社』は、神樹の力を研究し、それを科学的・呪術的に利用する方法を見出した。

その結果生み出されたのがこの装束である。

まさに神の恵みと人類叡智の結晶だ。

勇者装束は各人で異なるが、若葉は桔梗を思わせる清楚な青と白の混交が特徴的だった。

一方海斗の勇者装束はオダマキを思わせ、若葉と同じ色に似ているが、青と白に赤のラインが追加されている。

そして海斗は右手を上に高く上げて武器を召喚する。

その武器は若葉達勇者の神器とは違い、まるでSFのように化学で生み出された機械の武器。

しかしそれは刃がなく、鈍器といえるぐらいな武器だった。

しかし、海斗がそれを握ると大剣が淡い光を放ち、14個空いた穴から霊力が漏れだした。

それを豪快に片手や両手で振り回して精度を確認する。

 

「やっぱり、折れた(・・・)刀がこんな感じに進化するとは思わないな......」

 

大剣を見ながら海斗は呟いた。

 

三年前、海斗が勇者として目覚めた時に手に入れた折れた刀。

それは古来、呪いの武器として扱われていた妖刀村正。その失敗作を海斗は使っていた。

それを大社がなんとか村正の呪いだけでも武器にしようとした結果、刀とは呼べない物となった。

原因は突如神樹が村正を欲したらしく、それを取り込んで生まれたらしい。

この武器だけは他の神器よりイレギュラーなのだ。

だがその性能は理論上、星屑や進化体を容易く一刀両断もできる。

変身を終えた若葉と海斗は互いに刀と大剣を地に突き立て、瀬戸内海の向こうを睨む。

 

「さてと......」

 

海斗は息を整えながら声を発する。

既にバトンは受け取った。

後はそれを何処まで落とさないかだ。

もう答えは決まっている。やっと――やっとだ。

この3年間、必死に訓練をして基礎や力を付けてきた。

それがやっとバーテックスにぶつけられるのだ。

海斗の目が奥の壁を睨んだ。

もう、誰も奪わせない。

 

「俺は、この時を.......この瞬間(復讐)を待っていたんだ!」

 

そして勇者の抗う戦いが今、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





うん?千景ちゃんのヤンデレ?良いに決まってるだろ!!
というかハーレムになりそうで怖いの俺だけ?
そんな事は置いといて、次回は初戦闘会です!

あまりその描写を書くのが苦手ですが、頑張ります!
(そしたら何でお前デアラとかの奴書いてんだよ)

果たして、海斗君は勇者達と連携出来るのでしょうか?
ではまた次回にお会いしましょう!

PS:1万文字超えたから誤字や脱字が沢山あると思うのであり次第即報告お願いします!


次回。第4話: 妖刀と彼の力

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