華結を繋ぐは勇者である『凍結』   作:バルクス

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どうもバルクスです。
区切ったと言ったな、あれは嘘だ。

少しは少なくしたんですけど、深夜テンションでちゃっかりオリ展開入れてしまったw

てなわけで本編どうぞ。


第5話:自分の価値と存在

 

快晴の朝。

季節は十月。

田園に囲まれた細い道を一台のバスが走りながら車内を車輪から伝わる振動で揺らす。

中にはあまり人はおらず、後方の席では二人の男女が両手にゲーム機を持ちながらやっていた。

襲い掛かってくるゾンビや怪物を倒していくFPSゲーム。

それを黒結海斗と郡千景は2人で協力プレイをしていた。

二人の連携はとても良く次々と敵を倒したり、時にはやり過ごしたりして息を合わせながら銃を構えて敵に撃ち込んでいた。

 

「......海斗、そこの敵を抑えられる?」

 

「任せろ。こいつを......これでよしっ......と」

 

互いに背中を任せて目の前にいる敵の体力を削っていく。

そして、千景が相手にしているボスに弾を当てて続けるとボスの体力バーを減らしてその場に倒れた。

 

「ナイスカバーよ、海斗」

 

「ちーちゃんもな」

 

ゲーム機器から視線を外し互いに片手を拳をぶつけた。

その後はボスを倒し終わり、ゲームを終了した。

海斗は借りていたゲーム機を千景に返した。

二人はバスから見える景色を眺める。

秋を感じ、山々も紅葉して色づき始めている。

 

「そういえば、久々に帰ってくるのか.....」

 

景色を見ていた海斗が口を開いた。

その言葉に千景は表情が曇る。

千景と海斗は特別休暇を利用して、地元の高知へ帰ってきていた。

海斗は千景が1人で帰省するのはいやと海斗に言い、その付き添いとして行った。彼もついでに自身の家族に会おうと思ったので都合が良かった。

 

「.....そうね」

 

「村のクソ野郎達もちーちゃんが勇者になった事も知ってるんだろ?」

 

その場にいない村人達に向けて海斗は罵倒を零す。

過去に千景はその村人達に疎まれ虐げられた。

原因は千景の両親だと言うのに村の人達はその娘である彼女もその標的にされた。

学校では虐めと同時に罵倒も浴びせられ、酷ければ身体に傷を残された事もあった。

街中を歩けば罵られ、人間として扱いもしなかった。

 

「.......」

 

自身の耳の傷跡を触れながら千景は下を俯く。

実家に帰省するのが不安なのだ。また、あの頃みたいに何かされるのではないかと。

千景はあまり恵まれない環境だった。無価値で何も出来ないと周りには言われ続け。ただ、唯一彼女が出来る事があったとしても何もせずにそれ(虐め)を受け入れていたこと。

だって彼女は無価値な存在なのだからと、周りにそう言われたのだから。

だが、海斗と出会ったおかげで千景は救われた。

彼が千景の虐めで怪我を負っても何も罵らず、笑って彼女を許してくれる。

何時も傍にいて寄り添ってくれた。

ご飯を食べる時も、誕生日やパーティーをする時も、寝る時も一緒にいた。

それだけで心が暖かくなった。

ふと、手に感触がある事に気付いた。

顔をあげると海斗が窓を見ながら片手だけ千景の手に触れていた。

 

 

「.....俺はちーちゃんを絶対に守るよ。あの村人(クソ野郎)達から絶対に」

 

千景を見ず頬を赤く染めながら海斗は言う。

それに千景はさっきまであった不安感が無くなった気がした。

これなのだ。

彼だけが千景を愛してくれている。幸福を与えてくれている。

でも、何も差し出せなかった千景は自分が嫌いだった。

彼は一方的に千景に対して何かを与えてくれる。

時にはゲーム。時には可愛いお洋服。

その他色々をくれた。

しかし、千景は何も出来なかった。

だが、千景が勇者としての力に目覚めた時彼女は嬉しかった。

これで彼に恩返しができると、役に立てると。

価値を認めてくれると。

そして、今はその海斗と勇者としてバーテックスと戦っている。

まだ海斗とは遠く及ばないが何れ、彼の隣に立てるようにする。

 

「.....ありがとう」

 

海斗の言葉に頬を緩ませながら言葉を発する。

そして、数分の後にバスが目的地に停着した。

 

「......降りるか」

 

「えぇ.....」

 

二人はバスに降りると地元の風が身体に感じる。

そのまま道なりに数分進んで行くと、一階建ての小さな借家に着く。

ここが千景の実家だ。

 

「んじゃ、俺はここで」

 

千景が実家の扉を開けようとした瞬間に海斗は郡家の前で歩みを止め声を発する。

千景が海斗の方に振り向くと不安そうな表情をしながらこちらを見つめてくる。

 

「......」

 

無言なまま茶色の瞳を揺らしこちらに視線を促してくる。

一人にしないで――と。

彼女の家庭環境は海斗も良く知っている。

暫く帰ってきてない千景が両親に何をされるかと思うとたまったもんじゃない。

だが――

 

「大丈夫だろ、今回は君の母親の病状(・・)が悪化しただけだ」

 

「......そうね」

 

海斗の言葉に千景は軽く頷いた。

そう、何故高知に帰ってきたのかは千景の母が天空恐怖症候群を患っていてその病状が悪化したのだ。

『天空恐怖症候群』

通称天恐は、今から三年前の7月30日に上空から襲来したバーテックスへの恐怖により起こった精神的な病だ。

天恐にはステージが四段階に分けられていて、最も軽いステージ1は空を見上げるのを恐れて外出を嫌う。

ステージ2はバーテックス襲来時のフラッシュバックなどが起こり精神不安定なり、日常生活に支障を来す。

ステージ3はフラッシュバックと幻覚が頻繁に起こって薬を手放せなくなる。

もちろん、働く事も外出する事も出来ない。

そして、最後のステージ4は自我の崩壊、記憶の混濁、発狂に至る。

千景の母は天恐のステージ2からステージ3にまで悪化した。

しかも、ステージ3になったら者はステージ4になるまでそう時間が掛からないという。

だが、天恐になったとしても千景の母は彼女の事を娘とは思わないし、それを看病しているロクでなしの父親も変わらない。

ただ、千景が勇者になってからも表面上だけで愛してくれもしないだろう。

顔を俯いている千景に海斗は彼女の方へ向かって両手で千景の手を包み込んだ。

それに反応した千景は俯いていた顔を海斗に目を向ける。

 

「......君が何をされそうになっても、俺は何処にだって駆け付ける」

 

「......」

 

「ちーちゃんが望む限り、手を差し伸べるよ絶対に」

 

紅い瞳に決意を表しながら海斗は千景を見る。

その眼には彼女に対しての優しさがあった。

何時もそうだ。

彼は彼女がして欲しいことを直ぐに察して実行してくれる。

その優しさのお陰で千景は救われた。

どんなことをされても耐える事が出来たしそれさえあれば千景は前に向けていけた。

 

「......ありがとう海斗。もう、大丈夫よ」

 

「あぁ」

 

海斗は握っていた手を離して千景と距離を取る。

さっきよりも表情が明るくなった千景は笑みを浮かべた。

再び郡家の扉前に立つ。

 

「......行ってくるわね」

 

後ろ振り向かずに言葉を発する。

 

「おう。またな」

 

海斗も千景に手を振った。

千景は扉を開けて郡家の中に入って行った。

 

「.......」

 

中は悪臭が鼻に刺さる。

廊下は端に埃が溜まり、空き缶や瓶が転がっている。

隅に置かれたゴミ袋は、何週間も放置されていた。

 

「.......ただいま」

 

返事は返って来ない。

仕方なくそのまま廊下に上がり、空き缶を避けながら歩く。

段々奥に進めば行くほど、胸が締め付けられる。

本能がここにいたくないと促している。

 

『......君が何をされそうになっても、俺は何処にだって駆け付ける』

 

海斗の言葉が千景の脳裏に響く。

彼から貰った励ましは彼女に力をくれる。

本当は行きたくない。でも向き合わなくちゃ前には進めない。

 

「(海斗がいなくても......私自身で進んでみせる!)」

 

千景は勇気を振り絞って居間がある所へゆっくり歩むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千景と別れて数分後。海斗はとある場所にやってきていた。

それはこの高知の村の家より人周りでかい家がポツンと建っており、端には噴水や庭が設置されていた。

この家の表札には『黒結』と書かれている。

海斗の実家だ。

 

「.....ここに帰ってくるのは三年ぶりに、なるのか」

 

3年前海斗は実家から名古屋にいる親戚に会いに行くため、実家を離れていた。

本当は早く帰ってきたかったのだが、大社が勇者として目覚めた海斗を保護していたため、帰省する事が叶わなかった。

それに訓練やその他色々があるのだが――

 

「.......?」

 

インターフォンを押してもいないのに勝手に扉が開いた。

そこから使用人が一人現れた。

 

「やはり海斗様でしたか!お久しぶりですね」

 

明るい声で海斗に言葉を発した。

 

「あ......久しぶりです、蟻峯さん」

 

海斗が言うと使用人――蟻峯が丁寧にお辞儀をした。

蟻峯大雅。

黒結家の使用人兼幼少期の海斗のお世話係をしていた人だ。

その他は海斗の父親と親友との事。

 

「そんなよそよそしく敬語なんてお使いにならないでいいですよ海斗様。私の事は昔と同じで蟻峯、または大雅とお呼びください」

 

「それじゃあ......蟻峯」

 

大雅はにこりと笑みを絶やさず海斗に話す。

それを海斗は使用人の名前を呼ぶ。

 

「はい!お帰りなさいませ、海斗様」

 

挨拶を済ませた海斗は玄関を上がり大雅の案内で父親がいる部屋まで着いて行った。

歩いて数分、目的地に到着した。

 

「ここに、黒結様がいらっしゃいます」

 

大雅がそう言うとドアを3回ノックすると奥から『どうぞ』と声が聞こえた。

中にいることを確認した大雅は海斗の方に向いて頷いた。

それに察した海斗はドアノブを回して開けた。

そこはとても高そうな置物や壁画が飾ってあり、隅には貴重な本が本棚に綺麗に入っていた。

そして、その真ん中にはデスクを使い、PCと資料を睨みながら作業している男がいた。

海斗が近づくと男は音がした方に顔を向かせた。

 

「おっ、海斗!帰ってきたのか、久しぶりだなぁ!」

 

海斗を見た瞬間に手に持っていた資料を放り投げて立ち上がりこちらの方に向かい肩を掴んできた。

 

「......ひ、久しぶり。父さん」

 

海斗は引きつった表情をしながら自身の父親に言葉を発した。

 

「全く、三年ぶりに会ったのになんだその言い方〜!」

 

「いや......普通なんだが.....」

 

「絶対にそうは思わん!」

 

海斗の父親は手を腰に回してふんすと息を吐きながら胸を突き上げた。

 

「それにしても、こうして息子を見れるのは本当にうれしいよ」

 

眉が垂れて喜びと悲しみが混ざった表情で微笑んでいた。

黒結柊。黒結家現当主。

海斗の父親であり、こう見えて黒結家が経営している『ブラック・コネクト』の社長。

使用人や家族の前では軽い口調で接してくる反面、仕事になると凛としてカリスマ性が現れる。

 

「そういや、母さんは?」

 

辺りを見回す海斗に自身の母の姿が見当たらなかった。

 

「暁はうちの会社の方へ出張中だ」

 

黒結暁。柊の秘書兼海斗の母親だ。

デスクにある写真を見ると28歳ぐらいに見えるが、実際は38歳。

そんな年齢詐欺みたいな彼女だが、黒結家の中で柊より厳しく中途半端な事はせず、徹底的に仕事をこなす。

だが、時にみせる優しさは周囲を魅了する。

因みにだが、柊と暁は幼馴染で互いに背中を支え合っていたらしい。

なんとも良い夫婦仲だ。

 

「すまないな、海斗。母さんに会わせてあげられなくて」

 

柊は申し訳ないと頭を搔いた。

海斗は首を振り、言葉を発する。

 

「大丈夫だよ、別に会えない訳じゃないしな」

 

「.......」

 

海斗は言葉では大丈夫そうに見えるが、どうも瞳だけは誤魔化せなかった。

柊はそれを見抜いていたが、何を言えばいいのか分からなかった。

 

「海斗.....お前、変わったな」

 

そんな事を言われた海斗は目を細めふっと鼻で笑った。

 

「親戚を目の前で奴ら(バーテックス)に殺されればそりゃ変わるもんだろ」

 

柊の表情は曇っていた。ある程度は察してくれたらしい。

自分の性格が変わったことは自分でも思う。

けど、それを家族の前でも変える気は毛頭ない。

自分の手の平を握り締めながら見つめていると、柊がパンと手を叩き暗い空気を和ませようとした。

 

「そうだ、今日は千景ちゃんと来てるんだって?」

 

「何故それを?」

 

「何故って......うちの会社は何処でも情報が回ってくるんだよ」

 

いきなり言われてびっくりしたが確かに黒結家は大社と繋がりがあって、半分の資源は大社に納めているため、その見返りに情報を貰っている。

それのお陰で海斗と千景が実家に帰省してくることなんて想定済みだった。

先程の海斗がこぼした言葉も大社からの情報で知り得て何も言わなかったのだ。

そう考えていると柊の携帯が鳴り出し、通話を開いた。

 

「もしもし?――あぁ分かった」

 

短い言葉で通話を切った柊は海斗に向けてと口を動かした。

 

「海斗、千景ちゃんの所へ行った方がいい」

 

「ちーちゃんに何かあったのか?」

 

「その何かがあったんだよ。今、村の人達が郡家に集まっているらしいぞ」

 

「!!」

 

やはり、時間の問題だったらしい。村の情報の伝達はパンデミックのように広がりやすい。

千景が帰ってきた話を聞いた村人達はすぐさま郡家に集まりつつある。

だが、これが質が悪い。

村人達は『郡千景』という一人の女の子として無く、『勇者の郡千景』として価値を見出したのだろう。

そうやって崇めるようにすればかつて彼らが千景に犯した罪を軽くすると思ったのだろう。

しかし、それは海斗の逆鱗に触れた。

 

「父さん。直ぐに行く、今日はありがとう」

 

「おうよ!また来いよ。今度は暁もいるからな!楽しみにしとけ!」

 

海斗はドアを開けながら玄関まで早歩きで向かった。

玄関から外に出ると前に黒い車が後部座席のドアを開けたまま停車していた。

 

「海斗様。こちらに!」

 

「助かる、蟻峯!」

 

急いで後部座席に乗り、扉を閉めると大雅は車を目的地まで発進させた。

発進してから数分経つと目の前に人盛りが見えた。

その奥には郡家があった。

人盛りの隙間から微かに千景がいるのが分かる。

彼女は顔を下に俯きながら震えていた。

それを見た海斗は自分でも何かがプツンと切れた感覚を自覚しながら強引に扉を開けて車から降りて息を強く吐いて声を発する。

 

「テメェら!邪魔なんだよ!」

 

大声で叫びながら言うと村人の人達がこちらに向いた。

そして、海斗の顔を見ると途端に震えだし声からも怯えるような言葉が聞こえる。

海斗が千景の方に向かうと村人達が道を開けた。

千景は海斗が来たことに気付き顔を上げ、彼の名前を呼ぼうとした瞬間に手を掴んで抱き寄せた。

 

「帰るぞ......ちーちゃん」

 

そう言うと海斗は千景を支えながら歩みを始めた。

 

 

 

 

海斗と別れ千景は家の中で天恐を患って寝込んだ母とそれを看病している父がいた。

父は帰ってきた千景に対してあたも自然に帰ってきたのを喜びながら言葉を返してきた。

今まで何もしてこなかったくせに勇者になった千景を知ってから父親面をするロクでなしは吐き気がした。

夫と同じならその妻も含まれる。

何時も千景の母は彼女の事を忌み嫌っていた。

あの父親と同じ血が入っているからと言って育児放棄にも近い事をした。

そして、今の勇者になった千景を母に問いたらこんな言葉が帰ってきた。

 

 

『あなたを産んでよかった........愛しているわ』――と

 

 

その後千景は郡家の玄関前にいた。

用はもう済んであとは海斗と丸亀城に帰るだけと思っていた。

靴を履いて扉を開けようとしたら黒い影が沢山あったことに気付いた。

扉を開けて周囲を見回せば玄関を囲んでずらっとあふれ込んでいる人混みが作られていた。

これら全てこの村の住人達だ。

かつて千景が蔑まれ虐げれる事をしてきた化物共だ。

それを何故かこの家に大勢で来ているのだ意味が分からない。

でも、一つ分かる。

その村人達が眼差すものは千景自身を見ているのではなく、勇者としての力を持った彼女しか映っていなかった。

だってあの時学校で千景を虐めていたクラスメイトや先生が大きく賞賛していたのだ。

それにこの村で経営している店の店長と思わしき人もスーパーの店員も疫病神から神聖視に変わったかのように彼女の対応が変わっていた。

『お前はこの村の誇りだ!』と全員同じ事を口で述べた。

しかし千景は聞きたかった。

どんな小さい希望で大きな絶望だとしても、聞かなくてはいけないと思った。

カンッ!と布袋に収めて肩にかけていた大葉刈の柄で、地面を叩いた。

乾いた音は辺りに響き、一瞬で彼女を大勢で取り囲んだ人々は静まり返る。

 

「.......皆さんに......訊きたい事があります」

 

その場にいる全員が彼女に注目する中、千景は小さな声で呟いた。

 

「私は......価値のある存在ですか.......?」

 

村人達は怪訝そうな顔をして、やがて誰かが嘘で作られた笑みで答えた。

 

「もちろんよ。だって貴方は『勇者(・・)』様だもの」

 

それに続いて同じような言葉が、すぐに他の人々からも投げらかけられた。

でも、彼女は顔を俯いてしまう。

気付いてしまったのだ。

やはりこの人達(化物)は一人としての(千景)ではなく、勇者(千景)としての彼女を見ていた。

もし勇者としての力が無くなればまた同じことが始まる。

 

「(.......やっぱり、私という人間には何も無いのかしらね)」

 

千景は絶望した。

予想はしていたがやはりどうにもならない事は変えられないのだ。

例え嫁に出たとして郡の苗字を消えてもその経歴は残り続けるということ。

まるで呪いだ。

自虐的に千景は心の中で呟く。

そして、大勢の住民に押し潰されそうになった瞬間、声が聞こえた。

 

「テメェら!邪魔なんだよ!」

 

奥から響く声は千景の耳にも届く。

この声を知っている。

いつも自分を救ってくれる彼。

その優しい声が今千景のために使ってくれている。

声が響いた途端に村人達は一斉に左右に道を開け始めた。

その道からやってきたのは黒結海斗だった。

海斗は千景の手を掴んで抱き寄せて支えながら彼女が背負っていた大葉刈を空いている肩に背負って歩き始めた。

ゆっくりと千景は彼の顔を見るとこちらに反応したのか海斗と目が合ってしまう。

その眼は紅く何もかもを染めてしまう程に綺麗な瞳。

この眼を見れば彼女の心は楽になる。

心臓がドクドクと煩く鳴っているのが伝わる。

そして海斗は優しく千景に言葉を掛けた。

 

「帰るぞ......ちーちゃん」

 

「.......うん」

 

頷いて返答した千景は海斗と一緒に丸亀城に戻るため黒い車に乗って発進した。

その道中で千景は海斗に問いかける。

 

「――ねぇ.....海斗」

 

「なに、ちーちゃん」

 

震えながらも千景は言葉を続ける。

 

「私は.....勇者としてしか存在を認められないのかしら.....」

 

ある意味これは縋るしかなかった。

過去の自分は両親のせいで周りに疎まれ、蔑まれ、虐げられた。

それを村人達は勇者になった千景には向けてこなかった。

何かになれないとまた捨てられる。

役に立てばもっと褒められる。

そんな子供じみたことでも彼女は嬉しかった。

認めて欲しいからこそ、何かに縋るしか自分を保てない。

だがそれは永遠に続くとは限らない。

怖いのだ。

また、あの時みたいに海斗と出会ってない頃の自分に戻るのが、また地獄を味わう。

そんなの嫌だ。

どうして何だろうか?

その思考が頭を苛まれる。

目元が熱くなるのを感じながら身体を震わせもう何をどうすればいいのか分からなくなってきた。

すると、横から頭に暖かい感触が伝わる。

それに気付いた時にはもう千景は海斗の胸の中だった。

 

「......海......斗......?」

 

震えた声で千景は海斗の名前を呼ぶ。

彼は何も言わずただ千景を優しく包み込んだ。

その中は温もりや彼女に向ける親愛が含まれていた。

 

「......言葉では言い表せないけど」

 

海斗が千景を抱きしめながら口を開いた。

 

「ちーちゃんはちーちゃんだよ。昔も今も君は俺の幼馴染でゲーム好きで、とても優しい女の子で――」

 

息を吸いながら再び口を動かす。

 

 

「一人しか存在しない人間。郡千景だ」

 

「――!」

 

「周りが何を言おうと、君が自身のことを嫌ったとしても」

 

海斗は抱きしめる力を強くする。

密着しているからか千景の温もりを感じる。

 

「俺は君がここにいるって、言い続ける!」

 

 

海斗はそう言うと千景は海斗の胸で身体を震わせ自身の手を彼の背中に回して顔を胸に押し当てた。

そして、彼女のたまりにたまった涙腺は崩壊する。

あの時を彼女は思い出していた。

小学生の時、海斗に言われた言葉を。

 

 

「......うぅ......海斗.......かい......とぉ.......」

 

強く抱きしめて彼女の頭を優しく撫でる。

暫くはこう続ければいいだろう。

 

「......ぐすっ.......うわぁぁぁぁぁん!」

 

車内の中でその涙は枯れることは知らなかった。

それでも、千景の心はまた救われた。

 

 

 

 

 

 

 

「ここまで送ってくれてありがとう。蟻峯」

 

「いえいえ、海斗様の為ならば何処にだって駆け付けてみせますよ」

 

 

あの後。丸亀城に帰ろうと思ったが、このまま丸亀城の寄宿舎に帰ってたとしても高嶋――友奈や若葉(初陣の時に海斗も下も呼ぶ事になった)達に何か言われそうと思い、1日だけ黒結家に泊まった。

流石に千景はゲームをすることはしなかったが、寝る時は海斗と一緒にして彼を抱き枕代わりにしてぎゅっと抱きしめながら寝ていた。

世の中にこんな甘々な幼馴染は見たことは無いが、何かと心配だしこれが将来好きな人が出来たとしても大丈夫なのだろうか?

そんなのはさておき。翌日に蟻峯が運転する車で香川に戻り、寄宿舎の方まで送ってもらった。

千景は今も尚海斗の片腕を抱きしめながら蟻峯を見ていた。

そんな仲むずましい二人を見た蟻峯は先程よりにこりと笑みを浮かべていた。

 

「では、私はこれにて失礼致します」

 

「あぁまたな」

 

そう言うと蟻峯は車を発進させ消えていった。

 

「さて、俺達も行こうかちーちゃん」

 

「......」

 

海斗は千景の方を見ながら言うと彼女は声も発せず海斗の腕を抱いたまま頷いた。

それを肯定した海斗は寄宿舎がある道へと歩き出した。

 

「――海斗」

 

「ん?」

 

歩きながら千景が海斗を呼んだ。

そのまま道なりに進んで行きながら千景は口を開く。

 

「私、決めたわ」

 

そう言うと千景は海斗の腕から離れて前に数歩進み、手を後ろに組んで口を動かす。

 

「私の命は.......貴方の為に使うわ」

 

言葉を区切って再び続ける。

 

「貴方が私を必要しない限り、守るし支えたいと思う。だって私は貴方に返せない程の恩を貰ったのだから」

 

「だって、それは――「でもね!」!!」

 

海斗の言葉と重ねて無理やり黙らせた。

 

「.....私一人では多くの事は出来ない。けど、貴方と入ればなんだって出来る気がするの.......」

 

段々頬が赤くなるのを感じながら千景は言葉を続けるのを止めない。

それを静かに海斗は聞く。

 

「だから、私とこれからも一緒にいてくれますか?」

その表情は縋って気持ちを吐露しているのか、または自分の気持ちを発しているのか、分からない。でも、その笑顔だけは偽りじゃないことは分かる。

なら、答えを出そう。

海斗は笑みを浮かべ千景に向かって言葉を伝える。

 

「そんなこと......言われたら断れきれねぇじゃねぇかよ」

 

「......狡いかしら?」

 

千景は首を傾げながら海斗に向かって言う。

ふっと鼻で笑い彼女の近くに行って耳元で呟く。

 

「――狡いよ。だって俺は何もかもを捨てたんだぞ」

 

「それは、貴方は悪くないはずよ.....」

 

「確かに、あの時の俺は幼かったさ。誰も悪くないと言われもした。だがな――」

 

千景の耳を優しく触るとピクっと軽く震え、それと同時に海斗は口を動かす。

 

「俺は.....あの時救えなかった人々の(想い)を背負ってる」

 

「.......」

 

「でもまぁ、俺はちーちゃんを支えるさ」

 

例え自分が傷付いて死んだとしても、これだけは後悔はしない。

誰かの想いを背負いながらあのバーテックスを殺す。

これでは若葉と同じだが、海斗は違う。

周りを見て、誰かを死なせないように立ち回る。

だからこそ、海斗は誰かと干渉するのを拒んだ。

それでも海斗は自分が出来ることは出し惜しみなく精一杯力を使用するつもりだ。

彼は優しい表情で微笑み、千景に伝えた。

 

「これからも俺の背中(戻るべき居場所)を護ってくれ」

 

これも千景は断る事はしなかった。

だってその場所を死守するのは彼女なのだから。

 

「えぇ.....任せて頂戴」

 

互いに手を取り合う。

その決意は果たして叶うのかは分からない。

物語には何れ終わりが来る。

それでも、彼は足掻き続けるだろう。

自分の価値は自身で決めるものだ。

この世に後悔があるように。それを忘れないように、自分が自分でいられるように、これからも進んで行こう。

独りになってもそれでも(ミーム)は後世に種を残すのだ。

なら、何時か枯れるまでのその日まで美しく咲き乱れよう。

夕日に包まれながら海斗はそう誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





はい、今回はとある分岐点になります。
まぁお分かりですね?

自分では頑張って書いてみたんですけど、やっぱり言葉を文章で伝えるのはムズいですね......ま、頑張りますけどw
因みに補足。西暦の黒結家は大社の資材を提供するスポンサーの位置にあたる立ち位置なので実質、神世紀の上里家と乃木家ぐらいの発言力はあります。
まぁそしたらなんで、神世紀からはそこまで無いのかはこれから話が進めば分かっていきますので。

さて、次回は千景ちゃんが七人御先を使用するシーンまで書こうと思います。
お楽しみに!

次回。第6話: 冒涜者と再生者
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