十数年ほど前へFEif世界に拉致られたナニカサレタ男が自分一人の問題からくる戦争に挑むまでの過程とその結末を綴るだけの物語   作:エーブリス

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今回から本編!って、やる前に…まあ、パラレル扱いにした他のナニカサレタ男シリーズの続編作品とか、あと完結してないくせに作品展開的に繋がってる事にしちゃった限定公開でやったネタの回収をやってきますわ。

つまり回想に次ぐ回想の回想回です。



…あ、今回視点変更がちょいと有るのでご注意を。


第四節
扉の音



    ~数年前、とある日本にて~

 

 

「司令官、派遣の憲兵さんが到着しました」

 

「分かった。

そのまま直行で通してくれ、此処に」

 

ソフトウェアのサポートに任せるまま、惰性で書類を片付けていた所に一つの報告が入った。ぼーっとしていた生身の頭もそのおかげで再起動し、とりあえず身だしなみをどうにかしようという気持ちが働いた。

 

丁度ボタンが締め終わった所で、執務室の扉をコンコンとノックする音が響く。

 

「どうぞー」

 

返事を返すと、ドアノブがガチャリと捻られ蝶番がぎぃーっと擦れて扉が開き「失礼します」と、一人の俺より若い男が入って来た。腕章からして確かに憲兵だ…だが、何かがおかしい。

 

 

…ああ、いや、そういう事か。

 

「…海軍本部から派遣されました、憲兵の――――」

 

「んなカタい言い方ねぇだろグレイ、俺らの間柄は兎も角としてお前のガラでもあるめぇし。

…それと日本海軍は大本営って言うぞ、調べが甘い。先代にどやされるぜ」

 

「…クソ。

――――まだサイゾウの名を受け継いだわけじゃない」

 

「だろうな、そんな甘い潜入する忍者失格野郎をあの爆炎ニンジャが認める訳ねぇしな。ハハッ」

 

どういう訳か、目の前にいるサイゾウの倅は俺の行き先を掴んだらしい。

グレイが何の風の吹き回しかスミカの職場を頻繁に訪れていたのは知っているが…そこから情報を仕入れたとも、またそれだけで此処にたどり着けたとも考え難い。

 

…また財団が余計な事をした、と考えるのが普通だろう。

 

「うるせーよ。

――――それじゃあ、忍失格のついでに俺の目的でも教えようか?」

 

「どうせ連れ戻しに来たんだろ?

国王3人組か親父に伝えとけ、もうマーシレスなんて男は居ない…鴉頭の伝説ごと、死んだと」

 

「そうは行かないな…あんたはこうして、俺の目の前で生きたまま存在する。

上に伝えるにはそれだけでいい。

都市伝説も、結局似た話にすり替わっただけだからな…ラーズグリーズがどうとかいう」

 

「…。

まあ、それとよく考えてみたんだが、ぶっちゃけ俺を連れ戻すメリット国に無ぇだろ。今…となると、お前の目的が実は別の事か…或いはかなり個人的な理由で俺を連れ戻しに来たとか。それだと理由がかなり絞られる、正直お前の潜入調査(デバガメ)ねぇ、めっちゃ筒抜けだったしな」

 

「………」

 

ここまで言及した時、彼の目つきはとても鋭くなり、食いしばった歯を僅かに見せていた。

図星か…本当に忍者かこいつ。

 

「ともあれ、だ…お前の連れ戻す事にあるとはいえ、それに応じる事はしねぇよ。

――――見ての通り、今はもういきなり消える事の出来ん身分だ」

 

「へぇ…奥さんや一人娘からは勝手に消えたのにか?」

 

「言うじゃねえか、クソガキ。

…それに相談はしたさ。ともあれ、今はそのショボい変装に磨きでもかけとけ…うちで養ってやるよ」

 

「っ…」

 

「ほらどうした、憲兵ならさっさと見回りにつかんかいボケ。

あ、因みにここパワハラ大前提の組織だからな。労基にも駆け込ませんぞ…覚悟しろ」

 

「………了解しました。

それでは、失礼致します」

 

全く…敬礼のし方だけはいっちょ前だ。

 

スカしたスイーツ忍者を追い出した後、残りの書類を片付けに入った。

…同時に、今まで考えない様にしていた事を思い出す。本当に、忘れようとしてたのにな…今は。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


    ~更に2年前、暗夜王国のとある郊外にて~

 

 

暗くて、じめっとした、あまり健康的でない空間…そういう所で落ち着くのは俺達の共通項だった。

そういう意味ではこの滅多に日の刺さない国土は丁度良かった。人の喧騒から外れて住むのも、半自給自足の生活であれば意外と苦でもなかったわけだし。

 

けれども、これでお別れだ…もしかすると、永遠に。

 

 

ふと、軽い既視感を覚えながらも、俺は我が家のドアをノックした。

 

「はい――――!

マーシィ…!何処に行っていたのッ…!?」

 

家にひとりで待っていたベルカは、俺の胸元にぐいっと近寄るや否や、あまりにも深刻そうな表情で俺の顔を覗き込んだ。

 

「…ちょっと、出掛けに」

 

「だから…ッ!

…あの時の事は忘れて。もういいの…きっと、あれは何かの偶然。

もう帰って来て。夕飯も丁度出来て――――」

 

俺は家に引き込もうとする彼女の手を、出来る限り優しく振り払い、そのまま一歩引いた。

 

「俺は…雨。俺は、厄災だ。

居るだけで…そこに禍だけを招く」

 

「またそんな事ッ…もう、本当に戻ってきて。お願い」

 

彼女が伸ばした手から逃げる様に、また一歩遠ざかる。

 

 

「――――俺は、ずっとマイナスだった。今までも、そしてこれからも。

漸く“零”に、いいや…プラスなれたと思い上がったばっかりに」

 

ベルカの視線から目をそらし、自分の足元を見つめる。

…溢れ出した感情を抑えきれず、目元が熱くなってくる。

 

「ごめん…ごめん、お前まで…俺をプラスにしようと、してくれたばっかりに。

………許して。もう…きっと、何も無ぇから」

 

「ッ…!」

 

みっともない声を晒して、せめて泣き顔を隠すため顔面を右手で覆った。

 

 

そして…暫くの後、漸く顔を上げて、また彼女を見据える。

 

「今まで、ありがとう…」

 

誰かに、何かに止められる前に、俺は踵を返して遠ざかろうとした。

逃げる様に…いいや、逃げて、逃げて。只々逃げ続けて…後悔が足を引っ張って来る前にずっと遠くへと。

 

――――それすら出来ず、途中で振り返ってしまった。

 

「多分、戻れるから」

 

今度こそ、俺は彼女の前から消えた。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


    ~また更に前、戦時中にて~

 

 

「おい!まて、待てよテメェ、何勝手に死のうとしてんだボケ!

あん時の事話してから死ね!おい!おい!!聞こえてんのか!()()()()()()()!!!おい!

――――クソ、クソ、クッソ!!何で、こんな…クソがッ!!!」

 

 

 

…俺は、マイナスなんだ。

縋るべき思い出はおろか、本当の自分自身すら見えていない…心臓すら奪われて生きている存在だ。

 

だから俺は、何としてでも“(さいしょ)”へと戻りたかった…元の自分へ。

例えその為ならば何が正しいとか悪とか…それこそ、その零が良いものか悪いものかもどうでも良かった。

 

けれど…俺は再び手がかりを見失った。もう少し、だったかもしれないのに。

 

 

苦痛と絶望の中、泣き叫びながら引きずられて“取り敢えずの場所”へ帰らされ…頭を冷やしたのは丸一日経った後だ。

 

それからだったな…人とマトモに交流する機会が増えたのは。

特にあの時の仕事を共同で行ったアイツ…ベルカと話す機会は妙に増えた。

 

お互い(主に俺の)肩書が肩書なので「何処かで犯罪組織同士の戦争が起きる」だとか「どこかの貴族が一族郎党殺されるかも」だとか、失礼な噂をする一般兵もそこはかとなくいたが、まあそれはそれで見てるのは面白かった半面、少しイラついた。

 

 

…正直、イラついた理由をちゃんと理解するのには1週間かかった。

空けていた穴がいつの間にか埋められていた気分だ。きっと実際そうなのだろうが…どうにもほじくり返して穴を開け直す気分にもなれない。しかしそこに本来嵌める筈だった記憶の欠片への執着も手放せず、買ったばかりのこれも使わず終いに終わろうかと…それでは大枚はたいた分だけ損するだろうが、もともと金にはそこまでの執着がない。

 

と、まぁ…他にも言葉に出来ないような腹の内がざっと50はあるし、今挙げたのも大体理由としては4番か5番目といった所か。

 

 

――――到着した、してしまった。

今もまた別件でベルカが潜んでいる隠れ家、情報が確かならここで合っている筈だし、その情報筋は恐らく一番信頼できる。つまり内蔵レーダーでずっとストーカーしてたって事。

 

今一度レーダーで周囲を確認しつつ、もう眩暈がする程のデジャヴを感じながら扉をノックした。

 

「ッ…!」

 

人の感覚なら全く感じれない程の気配がする…間違いないようだ。

 

「俺だ。

他には誰もいない…入るぞ」

 

「…何で此処を?」

 

「王女サマから聞いた。

…伝言を預かっていてな」

 

ふぅー…っと、一旦深呼吸しながら情報を整理し、それが終わった後再び口を開いた。

 

「いいか、あぁ…あー、結論言うとな?今回の任務は既に筒抜けだ。

どうやら仲介を使い過ぎたっぽいぜ…ゲロったバカが出たらしい。もうすぐオスカー公の魔導大隊が此処にやって来る……まあ、さっさと逃げた方が良い」

 

「そんなっ…でも、恐らくあの辺りが…。

――――分かったわ。ありがとう…所でその袋は?」

 

「ん、んん?あ、あぁ…差し入れ、コレ。

ホレ」

 

指摘された袋の、中身の正方形の箱だけ手渡した。

すると何の躊躇も無く箱を開けようとしたため、思わず気が動転して「ファッ!?」と変な声が出てしまった。

 

「?。

何か…?」

 

「い、いや…兎も角、俺、もう合流すっから…迎撃隊。

まあ…あぁ………ねぇ?」

 

「――――マーシレス、今日だいぶ可笑しいわよ?」

 

「え?えぇ…え、い、いつもの…事では?」

 

「自覚あるなら…まあ、いいわ。

それと魔導士を相手にするなら気を付けなさい、貴方かなり魔法に弱いから」

 

「んなだったか?言うほどって奴だろ。

んと、まぁ、ぁぁ…そ、のぉ……うん。

―――多分、戻れるから」

 

それじゃ…と、また俺は逃げる様にその場を後にした。

 

 

 ~暫く後…~

 

 

目覚めて先ず感じたのが、かなりの激痛だった。

流石に魔力系の攻撃を喰らい過ぎた…切断以外なら秒で治る筈の傷が全く癒えてない。

 

「ッ。

てーなバーロー…

 

「!…良かった。

生きてたのね」

 

「んえ、べ…ルカ…?

逃げなかったん?…あーあ、命令違反…」

 

あぁ、どうやら嘘で逃がすのは失敗したらしい…いや、もう敵は居ないし、時間稼ぎとしては成功か。

 

 

「全く問題ないわ。

だって…命令は嘘だもの」

 

「んな。

言いがかりを…」

 

「…そうね。

確かに作戦は筒抜けだった。魔導大隊も本当にここまで迫っていた…それに迎撃隊もとっくに編成されていた、間に合いそうになかったけれど」

 

「あ、それは偶然…。

っと、何でもない。アブネアブネ」

 

「…一つの間違いはマーシレス、貴方だけよ。

カミラ様も、貴方には一切伝言は伝えて無いしそもそも作戦に微塵も関わって無かった」

 

…参ったな。思いのほか全部バレている。

怒られるだろうな…。

 

 

「…でもいいわ、それは。

結果は、いい方向に転がったし…寧ろ問題はこっちの方」

 

彼女はややイラついた様な表情で「何でこんなタイミングに…」とつぶやいた。

ダメだったらしい…いっそ死んでしまいたいくらいだが、最早己の首を吊る事も掻っ切る事も出来そうにない。

 

 

けれども、特に深い絶望も無かった。

ただ単に…そう、当たるとは9割方思っても無かった投球が、目標に掠りもせず明後日の方向に飛んで転がったようなものだ。

 

こんなもんだ、そんなもんだ…それ位でしか無かった。

いいよ、俺は俺なりのやり方で、いつも通りやらせてもらうから…と。

 

「あぁ、差し入れ、ね。

…気に入らなかったら、ほらそこ…ドブ川あるだろ?

掴んで投げりゃ、よく飛ぶ形よねソレ」

 

「…。

一つ、話をいいかしら?」

 

彼女の目つきが一層鋭くなった…かと思えば、急にそこに哀しみが溢れて来たように見える。

 

 

「あ、あぁ…何?」

 

話を続けようと「あまり上手く言えないけど…」と、自身無さげにするベルカを…俺はただ次に来る言葉だけを待ち続ける。

 

「何時かの、コップの液体の話よ。

注がれていた液体は、ひっくり返しても完全に無くなった訳じゃない……水滴だけは残ってるから、良し悪しは分かる筈。

そうよね?」

 

「ああ…まあ、うん。

そうだな――――分からなくは、意外と、無い」

 

「…元あった液体と全く同じものを注ぎ直すのはとても難しいわ。

…よね」

 

けれども…と、彼女は遂に、箱の中身を開いた。

その…中身は、まあ、指輪だ。

 

 

つまりそう言う事!

何でかなァ、何で…好きになる女なんか、出来ちまったかな!

 

なんだか俺だけ、お熱になっている様でバカみたいだ。

自分の中で台風や竜巻みたいに荒れ狂う…この、独占欲かな?いや、なんか普通に恋心とか言っちゃうのは、心の中でも恥ずかしい。

 

そうだよ、目の前の彼女には…俺だけしか、見えなくなって欲しい。

仮に今ここで、この重症が元で死んだとしても…20年は引きずって欲しいって、思ってしまっている自分を…見られたくない。

 

だから、平気なフリをしながら話を聞く。

 

「例え違うものが入ったのだとしても、それが前の液体よりずっと良いモノだったとしたら…。

今がマイナスだとしても、そこから零に向かうよりもっと先の…プラスに向かう方が…良いと思わない?」

 

…まさかな?

何か、彼女の真意を…感付こうとしている俺自身がいる。

 

恐る恐る、身長に感付こうとしている。

勘違いになって…余計に傷つかないように。

 

 

「…見つかってりゃ苦労しなかったろ。

お互い…そんなものが」

 

「そうね…でももう見つけた、じゃない。

いいえ、掴んでないだけで…既に手の中にあるわ。お互いの」

 

だから見つけられなかった…と、彼女は俺にそっと近づき、ズタボロの頬にそっと手を触れた。

 

「貴方が――――あなたが手を伸ばしてくれた。

だから私も手を伸ばす…勇気が持てた」

 

「ッ…!」

 

…嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ!

そんなハズは無い、そんなのある訳がない。

 

「…ありがとう」

 

互いの顔を覗き込む。

その瞬間に見た、ベルカの顔は微笑んで…そして少し、赤かった。

 

幻だ、都合のいい幻覚だ。

俺に“そんな奴”は居る筈がないんだ…俺は、一生独りなのに。

 

「っ………ッ!!!

く、来ンなっ…!来るなよ!。

真実だ、真実だけが…俺を…」

 

やや強引に、添えられた手を振り払う。

 

 

これを求めていたのだろうって?さっさと掴めばいいって?

 

…面倒くさい事している事は分かっている。

十年近く抱え込んで来た自分の怨嗟に、見切りが付けられてないだけだなんて重々承知だ。

 

でも……いきなり来たら、不安だろうが。

結局また壊れるんじゃないかって。

 

 

身体がどえらく痛むせいか、心の内まで引っ搔き回されている。

そして何処かに去ろうとも脚に力が入らない。

 

そんな俺を見かねてか、ベルカがそっと肩を貸して起き上がらせてくれた。

 

「…まだ、あなたの…壊れた真実で、痛み続けるのなら」

 

「え…」

 

「その……。

私と…一緒に、作り直して――――いいえ。

また新しく、作って欲しい」

 

何もかもを破壊してしまいそうな激情が、固結びを解くように消えていく…それが、かなり鮮明に感じられた。

 

それでもまだ…まだ、だめだ。

 

「…人を、殺した」

 

「私もよ」

 

後で、彼女を裏切るような真似になるなら…此処で捨てて欲しかった。

だからこんな言葉が、ずるずると吐き出ていく。

 

「大勢、殺した」

 

「それも一緒」

 

「女子供も…」

 

「それもだし、きっと誰を殺しても…手の汚れは変わらない」

 

何処までも、何処までも自分が赦されていく。

これが…どうしようもなく、嬉しくて――――怖い。

 

嬉しいのが、怖い。

 

「――――気まぐれだよ!全部気まぐれで殺した!

街も焼いた!人も跡形も無く!和平の機会だって、1度や2度じゃ済まされないくらい!

ただ殺しただけじゃない…戦火を、塗り広げた

 

激情のままに、罪を告白する理由が…最早見えない。

俺はベルカにどうしてほしい、どうされたい、どう言って欲しい。

 

「俺を蔑ろにして、足蹴にして、蔑んだ世界なんてさ。

腐ればいい、自分達の闇でって――――そう思って」

 

これだけやって「それでも好き」って言って欲しいのか?

 

ああそうだ、その通り。

こんな俺を彼女だけは認めて欲しい。

こんな俺を彼女は許さず軽蔑しててほしい。

 

「…もう、人間じゃない。

化け物、いやもう畜生以下じゃねえかよ…ッ。

戻れない…戻れないよ」

 

俺の本性を知らないまま…愛されたくない。

…こっちだ、これだ。俺の心

 

「マーシ、レス…」

 

「――――戻りたかった、だけなんだ…。

でも…!誰もが皆、冷たくして、牙をむいて来るから…!」

 

記憶も無かったのに

 

「記憶も無かったのに」

 

身体も滅茶苦茶だったのに

 

「身体も滅茶苦茶だったのに」

 

怖かった

 

「怖かった」

 

かなしかった

 

「かなしかった」

 

 

ゆるして…

 

「ゆるして…」

 

 

…ようやく、吐き切れた。

それだけが…それだけで幸福だったのかもしれない。

 

証拠に、少しずつ…生きている実感が薄れていた。

もう敵わないと知った願いを…彼女に託したかったのかもしれない。

 

 

それでも…今も生きているのは。

 

「…ええ。

勿論」

 

暖かく、現実が…現実に居るベルカが、繋ぎ止めてくれたんだろう。

 

「どうして、そこまで…」

 

「………いつの間にか、だと思う。

今まで何度か一緒に居たから…きっと」

 

衣服どころか、鎧を通しても…互いの体温が分かる程に密着しながら。

痛み続ける身体を、彼女は労わってくれる。

 

「あなたの戦い方を理解する度に、あなたの好き嫌いを知る度に。

何度も助けられて、そして助けて…。

お互いを知って、心に触れて――――味方し続けたくなった、死んでほしく無いって……!」

 

俺が足を滑らせ、前のめりに斃れそうになった時…ベルカは先んじて、その小さな身体で支えてくれた。

 

「もう、耐えられないの。

あなたの自暴自棄も、捨て身も、そして孤独なままでいるのも…」

 

そして、ここにきて初めて、彼女の弱みを見た。

一層強くなる、抱きしめる力が…まるでその願いを風に乗せ、俺の運命へと届けようとしているかのように。

 

…そうだといい、という妄想だ。

でも、不思議と真実だとも言い切れる。

 

「――――初めて知った。

お前にも、耐えられない事があったなんて」

 

「ええ…これが二度目の、限界」

 

「…出来れば、初めてが欲しかったな」

 

 

マトモに歩く事も出来ない足を、身体ごと支えてもらいながら…ふとした瞬間にこの時間が何よりも心地の良いように感じた。零に向かうよりもプラスへと向かうのが正しかったらしい。

 

…隣を向いても、自分の萎え切った白髪しか目に入らないのがこれ程もどかしいのは初めてだよ。

正直今は、先ほどとは全く正反対の理由で心がぐっちゃぐちゃにかき乱されている。こう…何なんだ、幸福慣れしてないと言うのか?今の今まで、こんな出来事が無かったばっかりに。

 

 

…でも言わなきゃいけない事は、分かっているつもりだ。

ありがとう、明日を――――って。

 

「ごめん…今日はもう、足に力が入らなそう。

どこでもいいから、運んで行って」

 

「ええ…どこまでも。

帰りましょ、()()()()

 

「んだよ、その呼び方。意味が正反対だっつの。

…ま、いっか。

ありがとう、愛してる

 

「私も。

今度は、逃げないでね」

 

「お、おぉ…ぅ……逃げれるかよ」

 

 

やり方は多分、かなり最低なプロポーズだった。

でも今はどうでもいい…全ての苦難が、このためにあったって、今はそう思いたい。

 

せめて今だけは…そしてこれからも。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ~そして今、旧透魔王国領土にて~

 

 

どうにか巨大ゲートを開く事には成功して、今丁度無事に墜落した所だ。

機能の停止したカイザーの、やたら硬いハッチを古い機械宜しく叩いて、それでも反応が無いので蹴破って外に出た。

 

 

…景色は戦時中に来た時とあまり変わらない。

違いがあるとすれば、案の定飛行型のデーモンがウヨウヨしているという所だ。

 

「飛び過ぎだろ…あの蝶々擬き」

 

空中を瑠璃色というか、蒼色というか、そういう色彩の蝶が、群れを成し飛んでいる風景というのは流石に絵にはなる…が、その蝶が全長5mほどあり、尚且つ鱗粉替わりに液体のようなモノが漂っており、更にそれを変幻自在に操って斬撃を与えたりして、オマケに当然の如く凶暴とあっては話が別になる。

 

全く、きれいなチョウチョそのものに最初に凶器と攻撃性を与えたのは何処のモンスターデザイナーだ?知る限りじゃSEGAの密室型シューティングゲームのラスボスだが、出来るならばソイツにこの惨状を瞼焼き切って見せつけた後にこの崖の下へと蹴り落としてやりたい。

 

もう少し辺りを見渡すと、地上でもゾンビゲーの特殊ゾンビくらいの頻度で出てくる犀のようなヤツ…それの親玉みたいに一際デカいのが地上を闊歩していた。いくら俺でもアレを生身で倒そうとは到底思えない。

 

「クッソ。

どうしたもんかな…」

 

この際正直に話すと、かなり計画が狂ってる…狂うと予見したところ以外もだ。

確かに、俺が練った計画なんて狂ってなんぼな所はあるが、こればっかりは修正不可能だ。入って来たゲートの維持を何時までも出来るとは思えない。

 

もう仕方がないのでプランBを発動する事にした。

触媒となる一定以上の門を一つ一つ開けて、どうにか兵隊(無人兵器)を呼び込む算段だ…あまりにも地道になるのでやりたくなかったが、他に妙案が見当たらなかった。

 

…やっぱり、罪悪感と後ろめたさと後悔に駆られて、大陸のあちこちで無駄な事をしていた間にここまでの進化を許したのが痛かったか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



       ~ほんの数十分前、暗夜王国旧貧民街にて~

 

「まさか、影武者まで用意していたなんて…」

 

炎の壁が鎮まった頃、カミラが放った肩を落としながらの発言に、ベルカが「えぇ…」と頷いた。

 

「私が、もっと早く気が付くべきだった…!」

 

「過ぎた事は仕方ないわ、ベルカ。

…寧ろ何なのよあの2人。やたら素早かったけれど、動きは単調だし…まるで屍兵みたい」

 

「…あの二人、いいや二体か。

首関節に機械的なパーツが見えた…もしかすると、アンドロイドの可能性がある」

 

「あんどろいど?

何だよソレ」

 

「うーん、その…人型のロボットの中でも、特に人間に似せて作った部類の総称…の一つだな。

要はこの世界の忍者が使う写し身人形の亜種みたいなものさ」

 

「成程ねー。

機械だから、人以上の能力も付け放題…って所かなー?」

 

ツバキの発言に、マーシレスの身体に付いて知るベルカは思う所があったのか、ふと目つきがやや哀愁を孕んだものに変わる。

 

 

「だな。その中でもアレは相当高級な部類に位置するんだろう。

人工知能がお粗末なのか、ルーナの言う通り動きがカクカクしてたがな」

 

「えぇ。

…でも、私が戦ったアイツは急に動きが良くなったのよ。それでもノロマだったけど、パワーだけは一人前だったわ」

 

「恐らく、誰かが遠隔操作に切り替えたんだろう。

状況から考えて、恐らく裏に居たトウヤなんだろうがな」

「そういえばパパ、トウヤって誰ですか?」

「マーシレスの昔の名前って言ってただろうが」

 

この時、突然にカミラが持参していた無線機に通信が入る。

 

「失礼。

私よ………いいえ、失敗だったわ。残念ながら……ええ、影武者がいたの………そう、影武者………分からないわ。少なくとも、裏でも顔が知れている訳では無いみたい。

………ええ…そう、分かったわ。また後でね、カムイ。

カムイ達は何か見つけたそうよ」

 

「そうでしたか…やっぱりカ・ルーテは…。

――――というより此処、無線が繋がるんですね」

 

ジンは自らの無線機を取り出し、弄り始めた。

 

 

「此処は確か…ゼロの情報戦部隊のホームグラウンドだったわよね?

恐らく監視カメラもそこら中にあるハズよ」

 

「んだよ…マーシレス。

態々そんな所使うなんて、追っかけてくれって言ってるようなもんだったじゃねーか!」

 

「いいえ、本人もここを使う可能性はあった。

彼…時折変な近道をしようとするから」

 

実際近道として使っていた事は、まだまだ広く伝わっていないようである。

 

 

――――その時、急にジンの無線が騒がしくなってきた。

 

「…?

なんだ、また大規模なレイドでも来たのか?」

 

「んー…にしては騒ぎすぎな気もするなー。

ジンさん、少し聞いてみたら?」

 

「だな。

…あー、こちら(一応)透魔国客将のジンだ。何があった?」

 

 『こちら透魔機甲警備隊!

 領土上空にて、謎の高速飛翔生物を2種確認!新たなデーモンと思われる!』

 

この報告を聞いて、ジン及び話を聞いていた人物は「とうとう来たか…」と頭を抱えた。

ただでさえ地上でもやたらに猛威を振るっているというのに、空中を…それもやたら速いスピードで飛ばれたら厄介この上ない。

 

「ウソでしょ…。

まだ対空設備は少数が配備されたばかりよ?」

 

「そりゃ不味いな…俺らのACじゃ、あんまり上空を飛ばれると、撃ち落とすのも一苦労だ。

――――機甲警備隊、新種の特徴を報告せよ」

 

 『こちら機甲警備隊隊長、一方は…深い青色の、蝶に似ており、羽が波打っているように見える。此方は複数確認。

 もう一方は矢じりのような形で、緑色の光を常時発している…こっちは1体だけだ。それと2種は交戦している様にも見える』

 

「交戦…仲間割れ?」

 

「まあ、血の気が多すぎると、仲間内で争ったりするからなぁ」

 

皆が二種のデーモンによる交戦について議論する中、ジンはまた別の事に着目していた。

 

 

「(緑の、光…?まさか)こちらジン、蝶型については後に調査を行う。

今はもう一方の矢じり型?に注視してくれ」

 

 『了解。それともう一方は本部より貸し出された資料に該当する形状を見つけた。

 異界の…戦闘機と呼ばれる空中兵器に酷似している。以上』

 

「戦闘機?

…すまん、詳しい機種を言ってもらえると助かるんだが…」

 

 『確認する――――ッ!?待て!戦闘機型が変形した!

 繰り返す!戦闘機型が変形した!人型だ!アレはデーモンではない…恐らくアーマードコアの一種だ!!』

 

「何ッ!?変形って…可変機!?

この世界もうゼータガンダム作っちまったのか!?」

 

ジンの問いに、ツバキとルーナは首を横に振った。

 

「まさか…まだ量産すら出来ていないのよ!?

変形なんて、そんな高度な事する訳ないじゃない!」

 

ルーナの言う通り、今現在高度な形状変更機構を持った兵器は、精々暗夜の一部研究施設において、V系ACの武器内蔵型腕部―――つまり武器腕の実現性が証明されたばかりであり実用化など遠い先の話である。

 

 

以上の要素から、ジンはある一つの機体を割り出していた。

そして“それ”が引っ張り出されているのも、今のこの状況と辻褄が合う。

 

 

 『こちら機甲警備隊!上空での戦闘が激化した!

 このままではこちらも巻き添えを――――うかの…――――…いひ――――』

 

「!?、お、おい…警備隊応答しろ!おい!

一体何が…」

 

いきなりノイズの酷くなってきた無線は、しかしどうにも混線しているようにも感じる。

やがて後から割り込んで来た通信が、完全に乗っ取りを完了すると…今度はガチャガチャという生活音にも似た音声を発し始めた。

 

 

 

そして、暫くの沈黙が流れた後…出てきた音声は、驚くべきものだった。

 

 『――――…まえら、まだ居たのか。

 手を引けと伝えたハズなんだが…』

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

トウヤっ!?おい、お前なのか!?」

 

マーシィ…!

 

突然の、それも渦中の人物であるマーシレスからの無線に、誰もがどよめく。

よくよく聞けば、やはりというか何かしらの音楽をスピーカーで流しているようである。

 

 

「トウヤ、聞いてるか!?

いいか、今すぐ戻ってこい…お前もういい歳になって、しかもッ――――クソ、こいつこっちからの通信を受け付けてないな!?」

 

 『この際だからもう一度警告してやるよ。

 全員、もう何にも関わるな――――俺は、足を…――止め………―――…――』

 

再び強烈なノイズが響く。

今度は混線ではない、明らかな電波妨害によるものだ。

 

 

「おい!どうしたんだ!

大丈夫なのか!?」

 

ジンは通じなくなった無線から、息子の安否を心配する傍ら…遠くの曇天が青く光ったのを見逃さなかった。

それを機に、厚く暗い雲海は青く発光――――否、帯電している…!

 

 

「…誰か、今日の天気予報、雷雨つってたか?」

 

この次の瞬間、遥か遠くの山奥に、落雷が落ちた!

 

 

それも1度ではない。2度、3度、そして4度目…明らかに自然現象ではない。確かに雷は自然に基づく発電である青雷だが、こうも連続しては明らかに人為的、人工的な意思を感じる。

 

「何したんだ…アイツ!」

 

 

――――そして、当たりが眩いエメラルドグリーンに輝いた。

今、ついに封印された地下深くの扉は開かれたのだ…!

 

空が不自然な深緑色に染まった光景は、最早世界の終わりとも始まりとも言えない…全く知らない、別の何かの訪れである様にも見えた。

 

 

「あの方角は…無限渓谷だったよね…?」

 

「無限渓谷ッ…!

まさか」

 

彼らはまだ知らない。

嘗て封じた伏魔殿が、また大口を開けている事を。



 

 

 

 

     ~同時刻、カ・ルーテ公国跡地にて~

 

「まさか…この国にこんなものが隠されていたなんて」

 

「案の定、といった所です。

出所のイマイチ分からない異界製品の流通ルートを辿ると、どうしてもこの公国にたどり着くので」

 

「そういえばスミカ…君が戦時中に合流したのもここだったね」

 

「あの話はあまり掘り返さないでいただけると助かります…ばっちり黒歴史なので。

――――電子ロックを解除しました」

 

スミカが引っこ抜いた基盤を弄り回して数秒後、自動ドアがするりと開いた。

其の先をカムイ一行らと共に進むと、ただ一つだけ明りを灯しているモニターを見つける。

 

「ねえ、スミカ。あの画面だけ…えっと、その「電源?」そう、電源。電源がついてる」

 

「ちょっと確かめてみるわ」

 

他の皆と違い、電子機器に慣れている彼女は臆することなくモニターの前に向かい、キーボードの操作を躊躇いなく始めた。その後ろでゾーフィが恐る恐るモニターを覗く。

 

 

「…何表示されてるの?」

 

「えっと…うん?あぁ、多分これ研究記録ね。

ゾフィー、フォレオ…カムイ様かレオン様呼んで来て、なるはやで――――」

 

「僕でいいかな?」

 

「あ、レオン様。

これを見てください…間違いなく重要な奴です」

 

今、スミカが示したモニターには、ズラリと【研究結果報告書】という文字が、それぞれ番号を割り振られて並んでいた。

 

「何だこれは…目が痛い。

どんな研究をしていたか分かるか?」

 

「ええ。おそらく研究対象は一つではなく、番号ごとにそれぞれの研究が行われているようです。

その中でも…これ、11番と、13番。15番に…少し飛んで24番、そして32番に、最後は42番ですね。これらが太字でピックアップされています」

 

意味は分かりかねますが…と、一言付け加えながらスクロールを上下する。

 

「あまり動かさないでくれ、酔いそうだ。

…一先ず、中身を確認しよう」

 

「はい、全部は見れないので、後でこのHDDに吸い出すとして…先ずはピックアップされてる11番…あ、13番の方押しちゃった…13番を見て見ましょう」

 

ちょっとした操作ミスはあったが、一先ず彼女らは【研究結果報告書第13番】を開いた。

 

 

PDF形式で保存された文書には、何故かタイトルに“special”の赤字が刻まれていたが…まあ後でこの理由も判明するだろうと、一旦スルーした。

 

「…うっわ、初手から非人道的実験?さいって。

――――失礼」

 

「問題ないよ、僕も読んでいるが…気持ちは分かる。

悍ましい…人体の改造なんて。

それも“既存の”とある辺り、かなり昔っからやってたみたいだね…」

 

ページに記されている内容は、文も添付画像もスプラッタのそれであった。

明らかに切り取られた…あるいは異物を接合されたグロテスクな人体の写真に、ゾフィーとフォレオは参ってしまい、途中で席を外す。

 

スミカは己の経歴と、父親の所業から慣れているようであった。

 

「だとして、この世界ではやっていなかったのでしょうね。

ホラ、ここ…暦の数字がおかしい――――アレ?途中からまともな数字になってる」

 

研究記録の日付…その紀年を表す数字が、途中からこの世界でも正常な桁数になっている事に、二人は疑問を覚える。

 

 

「これ…暦だとして、僕らの世界でいったら15、6年前だね。

その年は何も大きな事件は無かったとは思うけれど…」

 

「――――何か見つけたのかい?」

 

「カムイ兄さん。

おそらく異界由来と思われる研究記録を見つけたんだ…」

 

レオンは、後から来たカムイに情報を伝え始めた。

その間にもスミカは情報を精査している。

 

 

「これ、途中から野外での実験になっていない?

暦が変わったのって、まさか…」

 

「どうかしたのかい?」

 

「…この実験によって生まれた科学的な改造を施した人間――――長いので以後改造人間と略しますが――――それが異界よりこの世界に放たれたらしくて。

正直、その実験体…とも言うべき人物に心当たりがありすぎて、怖いくらいです」

 

彼女はカーソルを【被検体のデータ】の部分に合わせた。やや、手を震わせながら。

 

カムイとレオンの二人もまた、確かに思い当たる人物は居た…寧ろその人物を追いかけてここまで来ている。

同時にここから明かされるであろう事実の精神的な残酷さも理解していた。

 

 

「…スミカ、此処からは僕たちで確認する。

席を外すと良い…十分働いたよ」

 

「――――いいえ、私も追い求めてた真実です。

逃げる訳にはいかないのよ…こっちまで」

 

そういって、項目をクリックして――――表れたページには、半ば分かっていたとは言え…誰もが驚きを隠せなかった。

 

 

「やっぱり…。

――――ッ!」

 

突然目下のスピーカーがザザザ…と不快な音を響かせ始める。

その砂嵐のような音は、みるみる強くなり…やがて鮮明な音声へと変わった。

 

機械化された記憶が発する、恐れ/怖れに慄く声へと。

 

 

 

 

 

 

『やあ。王族の方々に…あの男の一人娘、そして“黒い鳥”の孫娘だね。

この場所に、この世界の人間を招き入れたのは君らは初めてだ。歓迎しよう…盛大に』

 

 

 

 

 

 




そう言えば読んでる皆さん、この作品のオリキャラの声って(イメージしているとして)どんな声をイメージしているんですかね?



あとね、自分最近気が付いたんですけれど…自分の思考が半ばマーシレスに支配されているって。
俺がアイツに考え方を寄せて行ったんだと思います。最初は元々、俺杖系オリ主ストーリーだったのを、表に出す際にこっぱずかしくなってきて、かなり自分の嫌いな人物像に設定してみたら…そのハズだったのに、コイツにだんだん愛着を持っちゃって、コイツを書く時は自分もコイツの考え方をしようって。

…マーシレスは、自分の中では一種の認識災害ですよ。
ほら、例のねこみたいな。



















































  只その罪はあの海の様に深く。
   しかし彼の者だけの罪にあらず。




































































   ~21年前、或いは11年前…日本、■■県リゾート地にて~


今日の始まりは、やたら煩いノック音だった。
父が「入るぞ」と珍しく俺の部屋に入って来たと思ったら、いきなり真っ赤なダサい水着を手渡して来た。

何をする気と聞けば、父はいきなり「海に行くぞ」と言い出して、さっさと着替えて荷物をまとめる様に催促された。


今日は学校もないから、家でずっとメトロイドでもしていたかったのに…でも、昨日の2分の1成人式とかいう訳の分からない催しで、碌に何も出来なかったどころかクラスの嫌な奴らに散々言われ放題だったので、その気晴らしにはいいかなと思っていた。

それに父と二人っきりではなく、母やセナ姉もいるから…気まずくはならないと思ってた。


…本当に、俺とセナ姉だけで1日の大半を遊んでいたので何の心配もなく、楽しいだけで時間が過ぎて行った。
でも今は違う。何故か父と一緒に遊覧船に乗る事になってしまった。

これが嫌だったのに…だって、俺と父とでは業務連絡みたいな会話しかしない。

…お父さん?

自分でも分かるくらい、小さい声で父を呼んでみたが、やっぱり聞こえなかったみたいだ。
どうしてこんな事になっているのだろう…俺は母やセナ姉にも、父の自分に対する扱いを相談したのに。


俺は遠い海を見ながら、早くエレーナとでも話がしたいと思っていた。
一応、今年の夏休みには会えることにはなっているし、それまでに宿題がどれほど終わるかであいつの滞在期間も決まるという事になっている。

…でもあいつの事だ、きっと家に来るや否や「ゲームは後ダっツの!」とかカタコトで言いながら、宿題をやらせようとしてくるに違いない。それとロシア語も教えて来るだろうな…あいつは全然日本語できるから、ロシア語なんて攻殻機動隊のオープニング歌う時にしか役に立たないだろうに…いいや、あいつが頑張って日本語を覚えたんだから、俺もロシア語を頑張った方がいいのかもしれない。


そんな遠い先の事を考えていると、父が「トウヤ…」と声をかけて来た。

「…はい」

「いいか、ここで待っていろよ。
すぐ戻る」

「え、あ…うん」

俺の返事を聞かぬまま、父は船内へと入ってってしまった。
でもこれでよかった…気まずいくらいなら、一人で海を見ているほうがいい。


…海を見ると、波に逆らって突き進む背びれが見えた。
最初はイルカだと思ったのだが、よく見るとサメだという事に気が付いた。

正直、サメは好きじゃ無い…ずっと前に見たサメ映画で、人の腕が千切れるシーンを見てからそういう映画は全部苦手だ。夢にまで見て、トイレの中からもサメが出て来るんじゃないかと思って、怖くて仕方がない。


でも、見る分にはその姿に魅入ってしまう。
これが怖いもの見たさ、ってやつなのだろうか?

それに、自然のサメを見る機会なんてめったにないから…周りの誰もが気が付いて無い内に、ずっとこの風景を独占していようと思っていた。



「うわっ。
…え?」

――――突然、身体がふわっと浮く。
いや、直前誰かに抱きかかえ挙げられるような感じはした、そして自分が落ちている事に気が付くのは、そのすぐ後だった。

海には、頭から落ちた。
そのせいで海水が口や耳そして目に入り込み、しょっぱいし痛いしで慌ててしまった。

…そして直ぐに思い至る。
直ぐ近くに、サメがいるという事に。

「ッ…あ、ああああ、あああああ!あああああ!あああッ!あああああ!!!!!」

サメとかどうとかと言う以前に、とにかく叫んだ。
何せ船は自分を置いてどんどんと突き進んでおり、やがて自分は大海原の中に取り残されてしまった。

どうにか開けた眼で、周囲を見ると…すぐ近くにあの背びれがあった。
俺の記憶が正しければ、あれはホオジロザメもしくはイタチザメという、人を食べるという報告のある種類のサメだったハズだ。


一心不乱に、ただただ泳いで逃げた。
泳ぎ方が変だとか、そんな事気にも止めず、ただただ必死に手足を動かしてサメから遠ざかろうと…そして船に近づこうと、それだけしか頭になくて…やがて自分の叫び声と一緒に何もかもが真っ白になっていく感じだった。




――――気が付いたら、俺は引き上げられていた。
別に気を失ったとかではなく、ただ単にパニック状態からある程度回復したというだけだったと思う。

よく覚えているとも…身体を見れば包帯まみれで、その包帯も赤黒い血が滲んでいて、体のあちこちが痛む。あまり思い出したくも無いが、ふと瞬間に今でもあの恐ろしい輪郭の顎門がフラッシュバックする事があるくらいには、深くトラウマに刻み込まれている。


もう一つ、鮮明に覚えているのが…暫くして戻って来た、親父の冷たい対応だった。
此方に心配の声をかけるわけでもなく、それどころかこちらを見つめるばかりで、俺と目があえば顔を逸らし、何処かへとまた行ってしまった。

…あの時、ようやく分かったって思った。
俺がどういう子供だったのか。一体どれだけの人間に祝福されていたのか…そんなの人よりずっと少なかったって。




 …お前もそうなのか?
 スミカ、セレン…。



ナニカサレタ男のマーシレス周りの人間関係表とか、そういう過去の振り返り的なの欲しい

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