誰がために骨は歌う   作:じんの字

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2 years それと何日だっけ…

 

 最も平和と言われる東の海、日差しの眩しい南の海、寒さがしみる北の海、そして…まぁ西の海。そしてこの4つの海を分割するかのように、偉大なる航路が走っている。この世界は、人間が引いたものではない、他でもない自然が引いた境界線によって4つの海に分けられている。

 では、この自然が作った境界線とは一体何なのか?一つは他でもない赤い大陸、レッドラインの存在である。春島、夏島、秋島に冬島。気候や温度により4つに区分される世界の島々だは、赤い大陸は何とそれらの島々が一つに連なってできたいわば巨大な島なのだ。仮にこの紅い大陸を宇宙から見たとしたら、まさに大陸の中央を区切るようになっているのが確認できるだろう。他の島と比べても遥かな巨大さを誇るこの“島”は世界で唯一の“大陸”と呼ばれル由縁であり偉大なる航路の前半と後半の中央に位置する場所には、世界政府の本拠地害を構えている事でも知られている。

 さて、そうするともう一つの境界線についても説明しなければいけないだろう。

 

 もう一つの海の名前は“凪の海”と呼ばれている。

 

 この海はその名前で分かる通り風が吹かない事は理解していただけるだろう。未だ帆に張った風の力で歩みを進めるこの時代の造船技術では、この凪の海は厄災以外の何ものでもないが…。その海が孕む真の恐怖はそこではなかった。

 

「お、おい急に風が吹かないぞ」

 

「どうなってんだ?さっききまで、普通だったのに…」

 

 今もまた、一隻の船が凪の海に迷い込んだ。その船は造船業の街、ウォーターセブンで創られたもので、その大きさは巨大な軍艦ほどの大きさを誇る。とある企業家が、自分の地位と権力を現すために作らせたものだ。並の海賊や、巨大海生物ならば返り討ちにしてしまう程の武力を誇るが…如何せん、今回は相手が悪すぎた。

 

「急に風が吹かなくなったって事は、…ッ!!マ、マズイぞ、俺達もしかしたら凪の海にはいちまったのかもしれねぇ!!」

 

「ゲエ、まじか!!」

 

「ど、どうしよう…。そうだ、慌てるな。ゆっくりとゆっくりとしていればいいんだ…いいんd」

 

 その船乗りは、目の前の光景を見て言葉を失った。凪の海がおそれられる本当の理由、それは凪の海が、帆船を軽く眉間に乗せてしまう程の大きさを誇る海王類達の住処だという事だ。

 

『ピゲァァァァァァァ!!』

 

『グガァァァァァァァ!!』

 

 自分達の住家へと入り込んだ招かれざる客の存在に気付いた彼等は、地鳴りのような叫び声をあげ、大きな“輪”を作って包囲網を築きながらゆったりと近付いていく。

 

「ヒぃぃぃ、もう駄目だ!!」

 

「たすけて母ちゃん!!」

 

「おい、落ち着け!!落ち着くんだお前等!!」

 

 パニックに陥った大衆ほど愚かなものは無い。船長の命令も聞かずに、甲板の上を走り回るだけで何もしない。それはそうだろう。彼らからしたら、この光景は自分達の首に迫る断頭台の刃の様二も見えるだろう。

 それを忌々しげに睨んでサーベルを引き抜いた船長は、刃先で海王類を指して大声で叫び始めた。

 

「こい、海王類共!!俺は、偉大なる航路にて賞金稼ぎとして名を挙げた程の男だ。修羅場を何度もくぐってきた俺にとって、貴様等程度遅るるに足らんわ!!」

 

 それが、本心からの言葉だったのか、それともただの見えだったのかは分からない。しかし、彼は海王類たちの巨大な目で睨まれただけで、その場に崩れ落ちる。

 心をボッキリと折られた彼に出来たことは、ただただ許しを請う事だけだった。

 

「スイマセン!!スイマセンスイマセンスイマセン!!もう二度としません!!!生意気な口ききません!!だから、やめて、やめて下さい!!」

 

 目玉から大粒の涙を流し、ガクガクと生まれたての小鹿のように震える彼の下半身は、余りの恐怖のせいからか、濡れている。身体を地面に押し付け、手をまるで神に祈るかのように掲げる彼の言葉は、

 

 

「あ、ァァァァァァァァァァァァあああああああああああ!!」

 

 通じる、筈がなかった。鳥のような頭を持つ海王類が巨大な尻尾を振り下ろす、その一撃で巨大な船は短い生涯を終え、船員たちもその後を追った。海王類達はその様を見届けた後ゆっくりと住処へと海中へと戻っていった。

 

 その時、一匹が動きを止め、とある方向へと振り返った。

 

(…)

 

 まるで、急に呼びかけられたかのような反応。その一匹はその方角をしばらく見つめた後、彼は再び広大な海へと戻っていった。

 

彼らは人の言葉を聞かない。しかし、“資格”を持つ者たちならば、彼らと会話をし、あまつさえ彼らの力を我が物とすることも可能だという。しかし、それはあくまでおとぎ話の中のものだ。

 

 

 このように凪の海は、一般の航海者たちにとってA級の危険地帯なのは確かだ。同時に、中にはその厳しい環境にどうにかして適応し、暮らしていくことができた人々もいる。女人国、アマゾン・リリーの人々がその最たる例だろう。現在の彼女達は、生まれながら凪の海の中で育ち、その環境に適応していった者たちばかりだが、中には外部からやってきてこの海で適応を始める物好きな者もいる。

 

 アマゾン・リリーから離れてとある“名もなき島”。

 

 その島には、巨大な建造物がいくつも残されている。しかし、その作り主たちはすでに島にはいない。彼等は環境に負け、故郷を捨てたのだ。故に、今ではその痕跡のみ残されている。奇しくもこの島は、海王類が見つめた方向と一致していた。

 

「武装色の作りが甘いっ!!」

 

「はたーっ!!」

 

 そして、その島では2人の人影がお互いの拳をぶつけ合っていた。

 

「チッ、くそがー。俺もまだまだだなー」

 

「グンジョーお主は覇気の操作にセンスは持っている。しかし、生まれた頃より覇気を使う術を持つ九蛇の戦士たちには今の力で敵うハズがなかろうぞっ!!この程度では、まだまだ妾(の旦那様)には程遠い!!」

 

「くーっ!!言うてくれるねぇ!じゃあこういうのはどうだ?覇気手合い“旋風スクランブル”」

 

 男がクロスさせた両腕を振り下ろすと真空の衝撃波が女性に向けてとんだ。その刃が通過した後は石造りの建造物や立派な木々でさえ切り刻むほどの威力だが、女性はそれを一瞥し、モデル顔負けの長い脚を振り回した。

 

華蛇鉄脚(スネーキアアイアンウィップ)!!」

 

 一直線に飛ぶ衝撃波が女性の足が形作る大輪の華に阻まれて四散した。

 

「まだまだここからじゃ、行くぞ九蛇九閃(ナインテイルナインヘッド)!!」

 

 今度は女性が地面を蹴って跳躍し、男に蹴りを叩き込む。男が腕を交差させて攻撃を防ぐが、攻撃がヒットした瞬間、脚が一瞬にして9つに分裂し、男身体を何度も打ち据えた。

 

「グゴベッ!!」

 

 女性の足でけられたとは思えぬほどの衝撃で吹き飛ばされ大木に叩き付けられてしまった。飛びそうになる意識を気合いで押しとどめて女性のいる方向を睨むが、そこにはすでに彼女はおらず、代わりにハイヒールをはいた長い脚が首に押し付けられていた。首にハイヒールのかかとがふれると、音を立てずに血が一滴流れ落ちる。

 一拍置いて、男はため息を漏らす。

 

「…また俺の負けか」

 

「お主は元剣士であろう?それなのに、僅かな期間でここまで戦えるようになるとは驚きじゃ」

 

「へぇ、そう言ってもらえるとうれしいねぇ。ま、二年以上徒手空拳の練習してたら誰しもここまでになりますって」

 

「そんな事はない!!才能のないと考える者はすぐにあきらめるが、お主は修行を続けておる。妾が思うに、そちの腕はすぐに護国の戦士達にも負けぬものになるであろうぞ。この成果は、他でもないお主自身の頑張りによるものじゃ」

 

「ハハハ…ソレ言い過ぎ!!でも、ま、これからも続けるとしますかねぇ。少なくとも蛇姫さんと対等にやり合えるくらいにはなりたいよね」

 

 そう言って女性の肩を叩きながらタオルで汗を拭う姿を、何故か女性はウットリのつぃた表情のまま見つめていた。

 

 男の名は“グンジョー”。名のみで姓はない。女ヶ島の面々が中枢と呼ぶ、偉大なる航路にて世界政府から“辻斬り”という二ツ名として恐れられ、その首には奥を越える賞金がかけられた犯罪者である。彼は数年前、一度逮捕されたのだが、隙を見て軍艦からまんまと逃げだした。しかし、彼が逃げた先は何と悪名打開凪の海だったため、案の定海王類に襲われてしまった。あわや、辻斬りももはやこれまでかと思われたが、彼は何とか女ヶ島に辿り着き紆余曲折を経て覇気の練習を仕込まれている。

 

 そして、 片方は女ヶ島の現皇帝ボア・ローズマリー。本来はアマゾン・リリー皇帝としての仕事が待っているはずだが、隙を見てグンジョーの修行を見に来ている。まぁ、その理由は、察しのいい読者諸君なら言わずもがなだろう。

 

 

 

「よし、結構ガンバたつぃ暫く修業はいいかな。なぁ、ローズマリー」

 

「ひゃえい!?」

 

 背後から聞こえた素っ頓狂な声に驚いてグンジョーが振り返ると、そこには何故かグンジョーの汗を拭いたタオルを手に取って胸に抱いているローズマリーがいた。

 

「…何やってるん?」

 

「えっ!?あ、これは、これはその、何じゃ!!」

 

 何故かタオルを背後に隠してしどろもどろになるローズマリー。その姿にグンジョーはハッとして問いかけた。

 

「もしかして…洗濯とかしてくれちゃったり?」

 

「へ?」

 

「いや、流石にそれは悪いよ。くっさい男の汗で汚れたものなんかうら若き乙女が触れるもんじゃないって…」

 

そう言って手を差し伸べ、タオルを渡してくれるよう、暗に諭すが、ローズマリーはまるで逃げるかのようにグンジョーから距離を取る。もしかして今の俺って臭い?と少し悲しい気分にあるが、頑張って押し殺す。日本人は本音を隠せる民族なのだ。

 

「い、いや大丈夫じゃ!!グンジョーは今疲れているじゃろう?ここは妾に任せてゆっくりと休むがいいと思うぞ!!」

 

「別に、いいよ。疲れたと言っても少しだから」

 

「いかん!!けが人はいつも“大丈夫”とか“問題ない”とか同じことを言うんじゃ!!無理は身体に毒なのじゃぞ!!」

 

 何故そんなにも頑なに拒むのだろうか。

 

「OK、そこまで言うなら俺も何も言うことないよ。じゃあ、嫌だと思うけど…」

 

「まかせておけぃ!!」

 

 どうしてそこまで気合いに溢れているのか、疑問が浮かぶがスルーすることにする。

 

「でさ、ローズマリー。キミ、この島に来るのに九蛇の船に乗って来たんでしょ?それに乗せて行ってくれない?」

 

「い、いいぞ。お主の頼みなら断る理由もない。子供達もお主に会いたがっておるぞ」

 

「ハハハ…。元気すぎるのも少し困りものだけどね…」

 

 前回は、女ヶ島の港に寄港して降り立った瞬間、顔面ハグ(全身)、ボディーブロー、金的、体勢を崩してからのマウントポジション。10秒足らずで意識を消し飛ばされた。

 

「ま、そろそろ頃合いだし新世界の海への準備をするとしますかね…お」

 

すると、どこからか木々の合間から、何匹もの獣たちがやって来た。獣と言っても、小型の船ほどの大きさの怪物達だ。

 

「…」

 

 グンジョーは徐々に剣呑な雰囲気を纏い始めているが、それに構わず獣たちはグンジョーの前で扇状に広がり、目の前に佇む人間を見つめた。一瞬でも隙を見せたら間違いなく彼等はグンジョーに襲い掛かるだろう。

 しかし、グンジョーは構わず左手を掲げて人差し指を立てると、その指でゆっくりと地面を指し、顔に何の感情を浮かべぬまま、一言だけポツリとこう呟いた。

 

『伏せ』

 

『ッ!!』

 

聞き取れるか、聞き取れるかくらいの小さな声。しかし、その声が鼓膜をふるわせた瞬間、膝を折って地面に伏して、頭を垂れる。傍目から見れば、王に対して恭しく振る舞う臣下達のようにも見える。

 

「こういうのを人外って言うのかねぇ。ヤレヤレ、俺も人間捨てちまったなあ…」

 

ローズマリーがウットリしながら見つめていることに気付かず、やや悲しげに呟きながら凪の海の空を見上げる。そこではいつもどおりの美しい青空が広がっていた。

 

 

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