雑魚スライムに転生した俺が、魔王軍どころか人類からも矢印を向けられる訳 作:すりーな
よろしくおねがいします。
異世界に転生した時、最初に発する言葉はなんだろう。
色々と候補はあると思うが、俺の場合転生した場所は森の中で、直前に信号を無視して突っ込んできた車に轢かれた意識があった。
転生モノも嗜むオタクである俺は、これが異世界転生だと瞬時に理解できたわけだ。
死んだことから現実逃避したかった……とも言うが。
ともあれ、そんな状況で口に出す言葉は、まぁ色々あるけれど俺の場合はこうだった。
「ステータス、オープン」
だって異世界だし。もしもこれでステータスが開けたら、この世界はゲーム風異世界であることが確定だ。そうでなかった場合、最悪これが異世界転生ではなく中世へのタイムスリップな可能性もあるわけで。
そうなった場合、何の専門的知識もない一般オタクの俺が生き残れる可能性は著しく低い。
だから祈りを込めてそう口にした。
結果――現れたのは、俺が思い描いた通りのステータス画面だった。
ただし、名前がスライムになっていたが。
スライム、そうスライムである。
“雑魚モンスター”という単語でイメージするモンスターの筆頭だ。個人的に他に雑魚モンスターとして思い浮かべるのはゴブリンだ。ゲームにおける雑魚モンスター筆頭がスライムで、異世界モノにおける雑魚モンスターの筆頭がゴブリン……というと、なんとなく納得してもらえると思うのだがどうだろう。
話を戻すと、俺はスライムになっていた。手を動かそうとして、視界に写ったのは透き通るような半透明の青だった。
いやぁびっくりしたね、まずスライムって全然人型じゃないけど、人だったころと同じ感覚で動けるんだから。しばらくはスライム姿であちこちを歩き回ってみたりして楽しかったよ。
少しすると、現実を認識してどうしたもんかと考えることになったが。
正直、転生事態は別にどうでもいい。現実じゃクソみたいな社畜人生で、いいことなんてオタ活くらいしかなかったし、それも最近は仕事疲れで全然打ち込めてなかったし。
何より、転生先がスライムってのは、最善じゃないが悪くない選択肢だ。
如何にも雑魚モンスター、実際ステータス画面のステータスも軒並み一桁で、これがもっと凄いチート種族や、普通に人間だったらよかったろうなと思わなくもないが、異世界転生の醍醐味は最弱からの下剋上なわけで。
幸い、周囲に人の気配もないし、モンスターも見た感じ俺とさほど変わらない雑魚っぽい連中ばかり。ここからだんだんと最強へステップアップしていくのだ。
いずれは魔王にすらなっちゃたりして――なんて思ったが、
残念ながら俺は本当に最弱のスライムだった。
まず、全然強くならない。レベルが上がってもステータスが一つも上がらないなんてザラ。そもそもレベルを上げるために周りのモンスターを倒すのすら一苦労。なんなら倒して生き残れたのも奇跡とすら言えるくらいの激戦が幾度となく繰り広げられた。
だったらなんかチートみたいなスキルが生えてくるんじゃないかと思って色々試した。スライムであることを利用して長時間水に潜ってみたり、時間をかけて倒したモンスターを解体してみたり。
が、これも不発。俺は完全に手詰まりを起こしてしまった。
これは行けない。ゲーム風異世界に転生して、スライムになってレベル上げをして。それなのに強くならないってそんなことあるかよ?
普通、スライムとしてはありえないくらいモリモリ強くなって、チートスライムになるか、スライムであることを活かした特殊スキルを手に入れるのが普通じゃないのか。
しかし、諦めるわけには行かない。転生したのにチートが全然役に立たないとか、チートなんて全然ないじゃないかなんていうのは決して珍しいことではないのだ。
そして、そういう奴はたいてい何かしらの見落としをしていたり、チートの有効活用方法に気づいていなかったりするだけ。
そもそもチートが存在しない場合は、ゲーム風異世界になんて転生しないだろう。
だから、俺はそこで普通の方法ではなく、自分のスペックを再チェックすることにした。
俺は今スライムであり、ステータスを表示することができる。それが俺の今のスペックである。スライムとしての特性を確かめながら、ステータス画面をいじれないか試し続けた。
そして、見つけたのだ。
実はステータス画面は1ページ目だけじゃなかったのだ。2ページ目にも情報が記載されていた。その中に、見つけたのである。
俺がなにか行動を起こすたびに、ぐんぐん上昇していくステータスが。
後にわかったことだが、この世界のステータスはレベルだけでなく“行動”によっても上昇する。筋力を上げるには筋トレが必要だし、魔力を上げるには瞑想などの手段が有効だ。
そして同時に、行動によるステータス上昇には“才能”が非常に大きく関わってくる。スライムである俺に、普通のステータスを上げる才能は皆無であった。これは雑魚モンスターであることが原因らしい。
しかし、俺はスライムである。
スライムであるが故に、“あるステータス”を上昇させる才能だけは存在していた。
それをようやく発見した俺は――行動を起こした。スライムであるが故に、老いの概念がない俺にとって、時間は無限に等しいほど存在する。
その間に、成長が何一つないのであれば精神は持たないだろうが――一つでも成長するステータスがあれば、俺はそれを生きがいに生きて行ける。
結果、長い長い時間をかけて、俺はそのステータスを成長させた。
では、そのステータスとはなにか?
そんなの、決まっている。スライムならば、それを所有しているのは必然だ。
そう、それは――
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今から数千年ほど前のこと。人類は魔物によって生活圏を脅かされ、滅亡の危機にひんしていた。そんな時、人類の中から現れた“ステータス”を所有する特別な存在、“勇者”によって人々は救われた。
対して、追い詰められたのは魔物だ。
それまで狩猟の対象でしかなかった人類に、魔物へ対抗する存在が現れた。
結果、魔物たちは力を合わせるということを覚えるに至る。そして、魔物の中で最も強大な存在を“魔王”と呼称して一つの軍隊を作り上げた。
これが“魔王軍”のそもそもの始まりである。
それ以来、人類の中から現れた勇者――後に、すべての人間がステータスを表示できるようになったことで、“冒険者”と名を変えた者たち――と、魔王軍は数千年ものあいだ勢力争いを続けていた。
そして現在。
魔王軍が拠点としている“魔族領アビス”の中央。魔王城アビスティアの内部にて、二体の魔物が激論を交わしていた。
一体は“龍”だ。全長数十メートルは存在する龍が、部屋の中を覆うように鎮座していた。黒色の、禍々しさと老齢さを感じさせる落ち着いた様子の龍だ。
もう一体は、人型の少女である。白色のフードをかぶったローブ姿。手には“鎌”を有していた。肩の辺りまで伸びた金髪の、あどけない顔立ちの見た目15前後の少女である。ゆったりとしたローブの上からでもわかる豊満なボディが特徴だ。
「――ドラゴリス様! やはり“奴”は危険すぎます」
食って掛かるように、少女が龍――ドラゴリスへと呼びかける。
『しかしな……』
対するドラゴンは、重厚な威圧感を感じさせる声を、けれども苦々しげにこぼしていた。
――どうやら、少女がドラゴリスに対して何かを陳情しているという状況のようだ。それに対しドラゴリスは少女の陳情を渋っているといったところだろう。
『“ヘル”。お前の言うことはたしかに一利ある。しかし、それを実行することは難しいだろう』
「ですが……」
少女――へルはドラゴリスのその言葉に、なおも不満を見せる。
「奴は危険すぎます! すでに魔王軍の半数は奴の手に落ちたといっても過言ではないのですよ!?」
『……そうだ。奴が魔王軍にやってきて以来、魔王軍の勢力図は急速に奴に塗り替えられていると言っても過言ではないだろう』
そう、魔王軍は“侵攻”を受けていた。それも、ただ攻撃を受けているというだけでなく、もはや“浸透”としか言いようのない速度で内部から影響を受けていたのである。
それも、“奴”は単独だ。数千年ものあいだ、人類と覇を競い合ってきた精強な魔王軍が、単一の“個”によって制圧されようとしているとしたら。
ヘルの危惧も最もである。
であれば、なぜこの長老然とした龍――ドラゴリスはそれに難色をしめすのか。答えはとても単純だった。
『
「だ、だとしても……まだ奴の手に落ちていない者もいます! 私のように!」
もはや、魔王軍に打てる手は存在していなかった。たしかにヘルは“奴”の影響を受けていない。だが、ヘルははっきり言って魔王軍ではまだまだ若輩。ドラゴリスのように重鎮といえる存在ではない。
故に、
『魔王様が、やつの手の内に落ちていても、か?』
「――――ッ!」
その言葉に、反論する言葉を失ってしまうのだ。
魔王。すなわち魔王軍のトップが、すでにそれを受け入れてしまっているとしたら。ただの魔物であるヘルに何ができる――?
そもそも、
『第一、奴を魔王軍に引き入れたのは魔王様だ。その時点で、魔王軍の未来は決定していたのだ』
今の現状の原因が、その魔王だとすれば。
――詰んでいる。ヘルは、すでにわかりきっていたそれを突きつけられるほかなかったのだ。
「く……」
歯噛みする。自分がもっとしっかりしていれば、もっと力を得て、“彼女”の側近になれていたら。こうはならなかったかもしれないのに――
ヘルは、力不足の自分を呪わずにはいられなかった。
そして、
『それに――』
「そ、それに……?」
ふと、ドラゴリスの声音が変わる。――ヘルは、即座に異変を察知した。眼の前の厳格を形にしたような龍が、どこか柔らかい雰囲気に変わったのだ。
この変化を、ヘルは知っている。
『我は、もう疲れた。この
そう言って、ドラゴリスが吐息を溢すと、そこに“それ”は出現した。竜族――それも長い年月の研鑽を重ねたドラゴンだけが使える“龍魔法”による空間転移で、そこに“それ”が呼び出されたのである。
それは――
蒼い、半透明の
「あ、ああ……ど、ドラゴリス様――!」
ヘルが、慌てて止めようとする。
しかし、遅かった。スライム枕を出現させたドラゴリスは、そこに頭を乗せると――
――まるで、産まれたばかりの子龍がごとき安らかな寝息を立てながら、眠りについたのである。
<><><>
――転生した元人間。
“スライム”とだけ名付けられた名無しの雑魚モンスター。
そんなスライムに与えられた唯一にして、最大の才能。
それこそが、無限に上昇していく
スライムは、それはもうぷにぷにしている。
触った感触が心地よいのは、現実のスライムもそうだ。しかし、この世界のスライムには“ぷにぷに力”という独自のステータスが存在する。
だが、普通スライムはそれに気がつくことはない。
転生したことにより、他のスライムには存在しない“意思”を有することになった転生者だけが気付くことのできた隠しステータス。
それがぷにぷに力である。
結果、転生者はそれを鍛えに鍛えた。他にできることがなかったというのもあるが、面白いくらいに上昇していくステータスに、やがてそれが彼の生きる目的になってしまったのである。
そうしてぷにぷにを極めることにしたスライム。
それがやがて、とある事情で彼の元へ行き着いた魔王軍の長。
つまり、“魔王様”本人によってそのぷにぷに力が見出されることになる。
これは、世界を変えるほどの“ぷにぷに力”を身に着けたチートスライムと、それを巡る魔王軍、そして人類の記録――