雑魚スライムに転生した俺が、魔王軍どころか人類からも矢印を向けられる訳 作:すりーな
俺は、ぷにぷに力を鍛えた。
壁に自分を打ち付けることで、うどんの生地のように弾力をつけるようにしたり。うろ覚えの柔軟体操を入念に行ったり。
正直、それで果たしてぷにぷに力が上がるのか、自分でも疑問になるような内容がほとんどだ。
しかし、俺のぷに才能(ぷにぷに力を鍛える才能)は天賦のものがあった。
凄まじい勢いで上がっていくステータス。俺はそこに魅了されてしまった。気がつけばそのステータスは三桁を越え、四桁を越え……ついには五桁に到達してしまった。
なお、これは余談だがどうやらステータスは上昇させることだけでなく、その上限にも才能が関わってくるらしい。少なくとも、俺が知っている限りステータスが一つでも五桁を超えるのは、魔王様だけだ。
ともあれ、そうしてぷに力を極めた俺は、今度はそれを外の世界で活かしたいと考えた。
四桁を越えた辺りから、俺は周囲のモンスターをぷに力で制圧することができるようになっていたから、これを活かせば異世界でチートも夢ではないと思ったからだ。
ちょうどその時に、俺の目の前に現れたのが魔王様――リアスティラ様、通称スティラだった。
まさにそれは渡りに船、魔王といえばモンスター――すなわち魔物の頂点に立つ存在。俺のようなスライムを受け入れてくれる魔王軍の主である。
そこでなら俺のぷに力を活かせると考え、俺は魔王様についていくことにしたのだが――
「ススススススライムくん!!!!! あたらしいスライムくんがほしいよおおおおおお!!!!!」
俺は、魔王軍の人にすごい目ですり寄られていた。
……どうしてこんなことになってしまたんだ?
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「すぅ……はぁ!!! ああ、落ち着いた……」
現在、俺は見た目幼女に抱きつかれている。
紫髪の幼女だ。だぼだぼの袖――いわゆる萌え袖の白衣に、明らかにサイズの間違っているメガネ。一見、どこから見ても人間にしか見えないが、これでも立派な魔物の一種である。
種族は――“ネクロマンサー”。それ、種族でいいんだろうか。
「本当に大丈夫なのか……? “クロナ”、明らかにキャラ壊れてたぞ」
「ん……バッチリ」
親指ぐっ。
少女――クロナはそう言って無事をアピールしてみせた。
「私……クロナ。誇り高きネクロマンサー一族の天才児。魔王様の覚えめでたき幹部の一人」
「……」
「貴方はスライムくん。私と同じ、魔王軍幹部の一人」
淡々と、一つ一つ言葉を重ねていくクロナ。
最初のアレを見ていると意外だが、クロナは感情が乏しい系のモンスターだ。一見人間にしか見えないモンスターだが、実は表情筋が一切動かないという特徴があるらしい。
おかげで、すり寄られると凄まじく怖いが。
無表情で、目だけこう、イっちゃった感じになるのだ。
コワイ。
そして、俺はこの魔王軍で“スライム”という個体名で呼ばれている。固有の名前をつけることもできると言われたが、やめておいた。
理由は……
「それで、もう離れてもいいか? クロナ」
「ん、まだ」
「……もう大丈夫なんだよな?」
「より安全性を確かめるために、必要」
つまりまだ大丈夫じゃないみたいだな。
ともあれ、クロナは俺にだきついたまま話を進める。というかやめてくれ、無表情で顔を擦り付けるのはやめてくれ。こわいこわい。
「スライムくん、またぷにぷに力を上げた?」
「ああ、ちょっと新しい修行法を見つけてな」
「……具体的には?」
「ドラゴリス様が力を貸してくれてな、空間の上と下をつなげて、無限落下できるようになった。落下の風圧に揉まれることで、俺のぷに力は更に上昇したぞ」
「ええ……」
ドラゴリス様というのは魔王軍の重鎮で、ドラゴン系モンスターの頂点に立つ方だ。威厳のあるTHE・ドラゴンって感じのドラゴン様である。
「ドラゴリス様は、貴方に否定的な立場だったと思うけど」
「それなんだけど、急にスライム枕を対価に協力してくれることになったんだ」
「……堕ちたか」
「なんてこというの」
実を言うと、魔王軍における俺の立場は結構微妙なものだ。
魔王軍にやってきて、そろそろ一年になろうかというところだが、魔王軍の中には俺に猜疑的なモノもいる。というのも、俺がやってきて一年という若輩であるのにすでに魔王軍幹部という役職を得ていることが大きい。
考えても見てほしいのだが、俺はスライムである。それも特徴のない雑魚スライムだ。ステータスを見れば、誰もが俺が雑魚スライムであることはすぐに読み取れる。
“ぷにぷに力”のステータスだけ五桁を越えているが、魔王軍において、ぷにぷに力は評価項目には含まれない。
というかスライム以外に所有しているモンスターがいないのだから当然だが。
ともかく、そんなやつを魔王様が突然連れてきて、今日からこいつを魔王軍幹部として迎え入れると言ったらどうなるか。
反発は必至だ。とはいえ、魔王様の絶対的なカリスマに逆らえるものはおらず、こうして魔王軍幹部として俺は魔王軍に所属したわけだが。
だが、逆に言えばそれはチャンスだった。
確かに俺は弱い。しかし、俺には鍛え上げられたぷにぷに力がある。これを使えば、俺に対して猜疑的な魔物も“懐柔”することが可能だ。
思うに、俺と彼らは同じ魔物。現在、人類と魔王軍は長い長い戦いの歴史の中にある。だっていうのに、魔王軍内部でゴタゴタをしても不毛だと思うのだ。
戦いにならないならそれにこしたことはない。
「それにこれはスティラ……魔王様の命でもあるからな」
「……“また”、魔王様を呼び捨てにした」
「わ、わかってるよ。クロナと魔王様の前以外で、魔王様を呼び捨てにはしてないって」
「いいけど……気をつけて」
ともかく、魔王様も魔王軍幹部となった俺に、そう命令をした。
俺のぷにぷに力で、魔王軍を一つにまとめろ――と。これが結構な大仕事だ。一年かかって、まだ全体の半分を超えたくらいのところだ。
「とはいえ、ドラゴリス様がこちらに協力してくれたんだ。状況はだいぶ変わるだろ」
「まぁ……そうだね」
ドラゴリス様といえば、魔王軍最大の派閥と言ってもいい、龍族を従える長老だ。その協力を得られたということはそれだけ俺たちの魔王軍懐柔作戦は進んだということでもある。
何より……
「何よりドラゴリス様はすごい、さっきの無限落下以外にも、ぷに力を上げる方法をいくつも知っているんだ!」
「………………そっか」
そう、ドラゴリス様は知恵深き龍の賢者。龍魔法と呼ばれる魔法もそうだが、それはもう素晴らしい知恵を有する存在だ。彼の協力があれば、俺のぷに力はさらに向上することだろう。
「これは素晴らしいことだぞクロナ! これでスティラやみんなを、よりぷにぷにさせることができる!!」
ああ、なんて素晴らしいのだろう。俺のぷに力は、まだまだ上げることができる! 俺のぷに力は、もっと上を目指すことができるのだ!
「…………が、がんばれ」
「ん? どうしたんだクロナ? さぁ、この後はさらに向上したぷに力でスライム枕を作らないとな。協力してくれるだろ?」
「…………うん」
俺とクロナは、一言で言えば“協力者”だ。スティラが紹介してくれた優秀な研究者で、意思を持つスライムという特殊な存在である俺の“できること”を研究してくれる人材である。
他には、俺のぷに力をより活かすための研究も、彼女は受け持ってくれている。
しかし、時折思うのだ。
なんというか、俺がぷにぷに力を向上させる方法を考えるたびに、クロナから引かれているようなきがするんだよな。
俺にとってぷに力向上は人生の命題だ。生きる意味と言っても過言ではない。正直どれだけそうしていたかは解らないが、長い時間ぷに力向上だけを考えて生きてきたことが、今の俺を作っていると言っても過言ではないのだから。
でもまぁ、うん。
普通に考えてそれは、どう考えてもドン引き案件ですよねぇ。
そう思いながら、クロナとともに俺はクロナの研究室へ向かおうとして――
クロナから離れたところで、クロナが禁断症状を起こしたことで慌ててクロナの手の中にもどった。
やっぱり大丈夫じゃないじゃないか!
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“ネクロマンサー”は、主に死した者を統括する“死神”と並ぶ死の管理者だ。死神が幽霊などの“魂”を統括するとすれば、ネクロマンサーは死体などの“体”を統括する。
中でも、ネクロマンサー“クロナ”は天才と呼ばれる魔物の一人である。若くして魔王リアスティラの側近として覚えめでたい彼女は今、禁断症状に苦しんでいた。
すべての始まりは、一体のスライム。
個体名を持たない、特別でもなんでもないただのスライムだが――ある時、魔王リアスティラが連れてきて突如として“幹部とする”と宣言したスライムであった。
当然、魔王軍は紛糾した。
いくらなんでも、ステータスが軒並み一桁の言ってしまえば“雑魚モンスター”であるスライムを幹部にするなど、あり得ない。
しかし、側近であるクロナには、そのスライムの異常性がすぐにわかった。
スライムが意思を持つなどあり得ないのだ。モンスターにも様々な種族が存在するが、意思を持ち、言葉を交わす魔物は極少数である。
であればこそ、意思を持つスライムという特殊個体を魔王軍に加えることはおかしなことではない。
しかし、いきなり幹部にするというのはおかしな話。
これにはクロナも困惑したが――そのスライムに触れた時、彼女は理解した。してしまった。
このスライムは、危険だ。
ぷにぷに力。
時折、人間やモンスターの中には、他の存在が所有しないステータスを有することがある。このスライムはその一種だった。しかし、そんなスライムが有していたぷにぷに力というステータス。最初、クロナは意味がわからなかった。
しかもそれが、すでに五桁を“超越”しているとは。
この世界に置いて、ステータスの桁というのは絶対の指数だ。三桁を越えれば“到達”。四桁を越えれば“突破”、五桁を越えれば“超越”と呼ばれる。
“超越”を果たした存在は、歴史において伝説と呼ばれることになる存在である。少なくとも、今の魔王軍にステータスを超越している存在は、魔王様以外には存在しない。
魔王様と並び立つ存在。それはとんでもない存在だ。しかし、だからといってぷにぷに力とは? そんなものが超越したからといって何だというのだ?
答えは、触れた瞬間に理解できた。
――やわらかすぎた。包み込むような柔らかさ。ひんやりとしたあまりにも心地よい触り心地。後にわかったが、このスライムは周囲の環境によって自身の体温を変え、最善の形でさわり心地を調節する。
それはまさしく神の如きぷにぷに力。人を、魔物を狂わせる、超越者のぷにぷにだった。
その時、クロナは思った。
思ってしまった。
クロナは研究者だ。探求者だ。故に、
このぷにぷにのすべてを知りたい。
そう、思ってしまった。
――結果、クロナは今、そのことを後悔している。
深淵を覗こうと、彼女はぷにぷにに触れ続けた。そして、今ではぷにぷにがなければ生きていけない体になってしまった。
何より、魅入られてしまった。
惹かれてしまったのだ。
ぷにぷにに?
何故か?
あのスライムには、探究心があるからだ。
スライムは、ぷに力を超越させている。しかし、彼はまだその“上”を目指しているのだ。
恐るべきことに。
もしも彼のぷに力が六桁を超えたら……否、六桁にまで“神化”してしまったとしたら。
――研究者として、その好奇心は絶対に捨てられるものではなかったのだ。
だから――
(ごめんなさい、スティラ様。ごめんなさい、ヘル。私は……この人と、スライムくんと、深淵を目指します)
そのことが、この恋心にも似たナニカが、いずれ大きな問題に発展してしまうとしても。
クロナに――それを止めることは、できなかったのだ。