【完結】マヤさんは諦めた(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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逃げるのは諦めた

 

第5使徒ラミエル襲来。

 

 

移動中のそれを発見はできたものの、偵察機には反応せず、その攻撃能力を確認『してもらう』事はできなかった。

 

 

私は『知ってる』んだけど、難しいところよね……

 

 

とはいえ既に準備は整えてあるし、私が何か言う前に葛城さんも「まずはダミーで情報収集を」と碇司令に進言してくれたし、許可も下りた。

 

 

……進言した時さりげなく葛城さんが私にウィンクしてきて「この前の事だな」と直感し、恐縮して小さく礼をした。

 

 

 

 

と、この時はまだ『いつも通り』だと思っていた。

 

 

お気楽に考えていたわけではない。

 

 

戦いだもの、何が起きるかわからない。

 

 

 

 

だけど、

 

 

 

 

「使徒に高エネルギー反応!」……え」

 

 

 

 

私は、恐怖する事になった。

 

 

 

 

「……形が、変わった?」

 

 

 

 

私は、こんなの『 知らない 』!!

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

「……つまり攻守ともほぼパーペキ。けど、確か『想定』の中にあったわよね」

 

 

「えぇ、問題は肝心の攻撃手段が完成してない事だけど」

 

 

「……確か戦自研の極秘資料、諜報部にあったわよね?」

 

 

「戦自研のプロトタイプ、ね」

 

 

「ウチに無いんじゃ借りてくるしかないじゃない」

 

 

「徴発となると嫌な顔されるでしょうね」

 

 

作戦会議は進んでいた。

 

 

だけど、私の不安が晴れる事はなかった。

 

 

当然だ。

 

 

今までは『いつも通りに』こなしていれば問題はなかった。

 

 

ないとわかっていた。

 

 

危険ではあるけどミスさえなければ大丈夫だと、『楽だった』から。

 

 

敵を『知って』いたんだから。

 

 

それが突然、目に見える形で『違い』を突き付けられたのだ。

 

 

 

思えば、それは逃避だったのかも知れない。

 

 

 

『結末』には絶望しかないけれど、そこへ至るまで『せめて幸福を得る分には不可能はない』と思えていたから、避けられない絶望から目を逸らす事ができていた。

 

 

でも、そうではなかったという現実を見せつけられた。

 

 

 

 

どうせ未来なんて見えているのに、

 

 

 

 

せめて幸せな時間がほしいだけなのに、

 

 

 

 

せめて穏やかな日々を過ごしてほしいだけなのに、

 

 

 

 

それさえ許してくれないっていうの!!!

 

 

 

 

 

……だから、私は、

 

 

 

 

 

「葛城さん」

 

 

「何? マヤちゃん」

 

 

「確かに『想定』は立てました。ですが、実際の戦闘には不測の事態が付きものです。だから、まだ足りません」

 

 

「マヤ、都市の迎撃設備と盾と陽電子砲のみであれば8.7%だった成功率も、射撃ポイントにコロイド噴霧器を設置し敵攻撃を減衰させる事で13.8%まで向上したわ。他に使えるものなんてなかったと思うけど」

 

 

「初撃が外れた場合を考え、目眩(めくら)ましの為の支援砲火を追加するべきです」

 

 

「マヤちゃん、言いたい事はわかるけど初撃時の支援砲火をケチるわけにもいかないし、迎撃設備はアッという間に消滅させられるわ? どこから撃つっていうのよ」

 

 

「洋上です」

 

 

「洋上?」

 

 

「相模湾からなら艦砲射撃もミサイルも届く距離です。そして敵の攻撃は直線のみ。山も水平線もあり、反撃を受ける危険性は格段に下がります」

 

 

「なるほどね」

 

 

「ただ、現在付近を航行中の国連軍の艦だけでは数が揃いません。戦自にも支援砲火を要請しましょう」

 

 

「戦自にも? さすがにそれは……陽電子砲を徴発したら無理よ」

 

 

「陽電子砲なんて他に試す宛てもないトンデモ兵器なんだから、実戦データの提供と引き換えなら嫌な顔はしないはずです。

 

 

 

全人類の為に、何もかも蒸発させるような攻撃をしてくる敵と、14歳の子供たちが戦う時にメンツの問題ですか……

 

 

 

話してみる前から諦めるんですか。

 

 

 

……私たち大人は、何の為にいるんですか!!」

 

 

 

 

 

もう、何だって、やってやる。

 

 

 

 

 

「……マヤ、ちゃん」

 

 

「戦自研には私が頭を下げに行きます。葛城さんは海上戦力をお願いします」

 

 

例え、何を、どれだけ諦めても、

 

 

「 私は、あの子たちの『明日』だけは諦めたくないんです!」

 

 

 

 

 

 

 

「……そうね」

 

 

フッと僅(わず)かに笑い、葛城さんが答える。

 

 

「確かに、この期(ご)に及んで政治だのメンツだのクソ食らえだわ。やりましょ♪」

 

 

「葛城さん……」

 

 

「……マヤ、戦自研には私が行くわ」

 

 

「リツコ……」

 

 

「私なら名も売れてるし、政治なんて正直なところ興味ないもの。……あと、格好いい啖呵を後輩にだけ切らせる訳にいかない先輩のメンツっていうのも、あると思うの」

 

 

「先輩!」

 

 

未来が形を変えて襲ってくるなら、運命を変えてやる!

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

二子山を中心に、準備は整いつつあった。

 

 

木の根の如く張り巡らせたケーブルと機材、陽電子砲、耐熱パテを追加で貼り付けたシールド、姿勢低く待機する2機のエヴァ、左右2台のコロイド噴霧器。

 

 

ビーム兵器というものは極論、懐中電灯の光と同じく距離が離れるほど拡散して薄くなる。

 

 

こちらの発射ポイントにコロイド噴霧器を設置すれば、我々の陽電子砲に影響は少なく敵の加粒子砲の威力を減衰できる。

 

 

とはいえ噴霧を濃くしすぎれば、さすがに陽電子砲も影響を受けてしまう。

 

 

だから完全に加粒子砲を殺す事はできない。

 

 

その為のシールドだ。

 

 

こちらも『史実』とは違い耐熱パテで補強してある。

 

 

本来より6秒は耐えられるはず。

 

 

塵(ちり)も積もれば山となる。

 

 

「……というように、できる限りの準備は整えたわ。レイちゃん、シンジ君をよろしくね」

 

 

「……大丈夫。碇君は、私が守るわ」

 

 

「……シンジ君も、怖いだろうけど、お願いね」

 

 

「大丈夫だよマヤ姉さん。僕の帰る場所、守りたいんだ」

 

 

私はそっと、二人を抱きしめた。祈りを込めて。

 

 

……発着スペースにヘリが着いた。

 

 

今回はネルフ、国連軍、戦自の合同作戦だから、両軍からもミーティングに参加する。

 

 

「……行こうか」

 

 

「うん」「……はい」

 

 

 

 

 

指揮所でミーティングの開始を待っていると、

 

 

「……本当に子供がパイロットなのか」

 

 

国連側の提督が、こちらを見て呟いた。

 

 

……微妙に私も「子供」に含んでいそうだったけど、いや、それは別にいい。

 

 

それより、この子たちの事を『小さく』見積もられている気がして……

 

 

「提督、伊吹二尉です。この子たちは全人類の為に戦ってくれているのです。その覚悟が我々や皆さんに劣っているとは思いません。私も作戦中は本部になど篭(こも)らず、この前線指揮所にて管制を行います。子供たちにばかり危険を押し付ける大人になどなりたくありませんので」

 

 

横で葛城さんが驚いたような顔をしてるけど関係ない。

 

 

階級が何だっていうの。

 

 

すると提督は、ややバツが悪そうに制帽を直しながら言った。

 

 

「……どうも最近は老眼がキツイらしい。船乗りとして恥ずべき事だな。……伊吹二尉、私も君と同じ思いだ。諸君らと共に戦える事を光栄に思うよ」

 

 

立場の事や、他の組織の人間もいる場であるからか直接的な表現は避けたが、私は彼の敬礼に快く答礼した。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

ミーティングを終え、私と先輩はエヴァの最終確認に外へ出ていた。

 

 

「マヤ、あなた意外と熱血なのね」

 

 

ミーティング後、先輩が私をからかうように言った。屋外だからと早速タバコに火を付けている。

 

 

……先輩? わかってるとは思いますけど、重要な作戦の前なんだから火気厳禁な場所では吸わないで下さいね?

 

 

「からかわないで下さいよ、先輩……」

 

 

「ふふっ、いいんじゃない? ここに来てる連中は意地とロマンで動いてるようなものなんだから。かえって好感持たれるんじゃないかしら。……ところで」

 

 

「何ですか?」

 

 

「アレ、なぁに?」

 

 

先輩は零号機を見ながら聞いてきた。

 

 

「アレ、とは?」

 

 

「零号機の腕よ。なんで企業のロゴなんて貼っているの? 日京製粉、住吉化学工業……」

 

 

「……耐熱パテの材料に大量の重曹とデンプンが必要だったので……交換条件です」

 

 

「……テレビ局が来るわけじゃあるまいし」

 

 

「……それこそ半分は意地とロマンなんじゃないですか? なんでも、私たちネルフや国連軍、戦自の人たちに見てもらえばいいんだとか」

 

 

「宣伝効果……一応、意味はあるという事なのかしら」

 

 

「……たぶん」

 

 

呆れた様子の先輩に、私も曖昧に苦笑いで返した。

 

 

ヤシマ作戦はご覧のスポンサーの提供でお送りします、なんて、作戦開始のアナウンスで言うはめになるよりはマシよね……

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「撃鉄起こせ!!」

 

 

ついにヤシマ作戦が開始された。

 

 

重要箇所(かしょ)は液化窒素で冷やしているものの全てはカバーできないし、いつまで持つかわからない。

 

 

既に所々から煙は立ち上っている。

 

 

攻撃完了まで耐えてくれたらいいけど。

 

 

『史実』通りなら一発目は外れる。

 

 

その時は直ちに合同艦隊から攻撃してもらう手筈になっている。

 

 

この間にも次々と迎撃設備が火を噴いては沈黙させられ残り僅かだ。

 

 

できれば一発で……

 

 

「発射!!」

「目標に高エネルギー反応!」

 

 

陽電子砲から一発目が放たれ、敵の攻撃は阻害された。

 

 

あまりの閃光にホワイトアウトするモニター。

 

 

「映像、回復します!」

 

 

……そこには、やはり健在な使徒の姿が。

 

 

「総員怯(ひる)むな! 第二射用意!」

 

 

「合同艦隊へ砲撃要請完了! 座標送信よし!」

 

 

「再び目標に高エネルギー反応!」

 

 

先程の仕返しと云(い)わんばかりに、今度こそ敵の攻撃が襲い来る。

 

 

幸い狙いは僅かに逸れ、山を削るに留(とど)まるもエヴァは転倒。

 

 

コロイド噴霧器も2つあった内の片方が吹き飛んだ。

 

 

狙撃体勢の立て直しを急ぐ。

 

 

その間に合同艦隊からの砲撃やミサイルが雨霰(あめあられ)と着弾。

 

 

再充填の時間を稼ぐ。

 

 

 

 

 

……と、その時。

 

 

 

 

 

「目標、再び高エネルギー反応!」

「……え、収束点は上部?」

 

 

今までの側面収束ではない。

 

 

私は状況から、その意味を読み解く。

 

 

「……まさか、電離層!?

 

ネルフ前線指揮所より合同艦隊、直上より艦隊中心部へ敵の攻撃が予想されます!

 

範囲不明!

 

全力で散開……逃げて!!」

 

 

艦隊から返答が来るかどうかのタイミングで、空に使徒から一条の光が放たれる。

 

 

各マーカーは散開の動きを示していたものの、電離層への照射が妨害電波を発生させたらしく、艦隊のいた場所がマップ上から消え去った。

 

 

その隠された範囲の下へ『雷の天使(ラミエル)』の名を示すが如き、天空からの一撃が降り注いだのだ。

 

 

大気に跳ね返された結果、それは通常攻撃のような直線的破壊ではなくなっていた。

 

 

沸騰する海面、誘爆する火器、砲弾、核の熱を浴びたように焼け死ぬ乗組員…

 

 

洋上の半径約10キロが巨大な電子レンジと化した。

 

 

〈戦……キアサージ……沈〉

 

〈……洋艦……レンジャー……破……答なし〉

 

〈な……て威力だ……ソ、化け物め……〉

 

 

被害の全容を確認する暇さえなく、敵は再びチャージを開始。

 

 

早すぎる!

 

 

「敵から攻撃来ます! 零号機は防御体勢!!」

 

 

片方だけになった噴霧器が靄(もや)を吹き上げた。

 

 

僅かに拡散し、それでも尚強く狙撃地点に叩きつけられる光の暴流。

 

 

それを押さえつけるように盾で耐える零号機……表面のパテが焼け飛び、盾それ自体が赤熱し始めた、その時、

 

 

 

「充填完了!!」

 

 

 

「号令なし! シンジ君、あなたに託します! 撃って!!」

 

 

 

〈……当たれ!!〉

 

 

 

再び放たれる陽電子砲。

 

二つの光が干渉し合い交差する。

 

 

 

 

 

直撃!!

 

 

 

 

 

……盾が融け落ちるとほぼ同時に、金切り声を上げて使徒は崩れた。

 

 

「パターン青、消失!!」

 

 

周囲から、通信機から、歓声が上がった。

 

 

……勝った。

 

 

「医療班、直ちに零号機パイロットへ!」

 

 

私はすぐに指示を飛ばした。

 

 

間に合ったとは思うものの、熱に曝された事は間違いない。 

 

 

初号機からもシンジ君が飛び出し、レイちゃんの元へ駆けて行った。

 

 

 

 

……よかった。

 

 

 

私も、

 

 

駆けつけたいけど、

 

 

さすがに、

 

 

疲れ……

 

 

……

 





勝ち取った未来。
しかし自らの生み出した多大な犠牲に、マヤは心を重くしながらも、来日するアスカと弐号機を迎え入れる。
アスカと心通わせ、祈る時、小さな奇跡が生まれ落ちる。

次回 第拾六話「ピチピチなのは諦めた」

さぁ! この次もサービス、サービスぅ♪
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